市場はこう信じている——光通信部品のコヒレント(COHR)は、AIデータセンターの「構造的な勝者」であり、株価は350ドルに向かう。10月1日、この見立てを掲げた米バーンスタインの新規カバレッジを手がかりに、株価は米東部時間12時38分時点で319.19ドルと前日比10.9%上げた。今日はこの通説を証言台に立たせる。
先に結論の形だけ示しておく。通説の「方向」は会社の数字で裏付けられる。だが「350ドル」という値札は、まだ誰も見ていない2028年の利益に乗っている。そして今日の上げで、目標株価までの残りの距離は大きく縮んだ。
通説の陳述——バーンスタインは何を言ったのか
公平のために、通説を最も強い形で要約する。Investing.comによると、バーンスタインは9月30日付で米国のネットワーク・光通信関連株の調査を開始し、コヒレントを「アウトパフォーム」、目標株価350ドルとした。根拠は、データセンターのスイッチが高速化するにつれて光モジュールの需要が増える流れで、2028年の1株利益(EPS)を16ドルと見積もり、その22倍を目標株価とした。発表時点の株価からの上昇余地は24%だった。同じ日にルメンタム(LITE)、シエナ(CIEN)、アリスタ・ネットワークスもアウトパフォームで調査を開始し、同社はこれらを「AIインフラの構造的な勝者になりうる」と位置づけた。
もう一つの材料は会社自身の発表である。コヒレントは9月21日、AIデータセンター向けの統合光学プラットフォーム「PhotonLink」を発表した。CPO(光電融合パッケージ)で10件超、NPO(ニアパッケージ光学)で10件超、チップ間の光接続で5件超の顧客との案件を抱え、CPOとNPOではアンカー顧客と長期契約を確保したとしている。10月1日の上げについて、24/7ウォール・ストリートはこのPhotonLinkとバーンスタインの調査開始を理由に挙げた。
尋問1:需要は本物か——ここは通説の勝ち
証拠を見よう。8月12日に発表された2026年6月期第4四半期(4〜6月)の決算で、売上高は20億4,600万ドルと前年同期比33.8%増えた。非GAAPベースの売上総利益率は40.2%で前年から2.15ポイント改善し、非GAAPのEPSは1.74ドルと前年同期の1.00ドルから74%伸びた。通期の非GAAP EPSは5.61ドルで、前期の3.53ドルから59%増である。
会社の見通しも強い。7〜9月期の売上高は22億〜24億ドル、非GAAP EPSは1.85〜2.05ドルを見込む。中央値の23億ドルは、直前の四半期から12.4%の増収になる。ジム・アンダーソンCEOは決算発表で、AIデータセンターの構成が銅線から光接続へ移るほど、同社の幅広い光技術と生産規模が生きるという趣旨を述べている。需要の強さという一点では、この説明に穴は見当たらない。通説の第一の柱は立っている。
尋問2:EPS16ドルはどこから来るのか——ここに穴がある
非GAAPのEPS:実績・会社見通し・バーンスタインの見積もり(ドル)
読み方:350ドルの目標株価は16ドル×22倍で、16ドルは直近実績の2.85倍、会社見通しの年換算の2倍強にあたる。年換算は本誌の単純計算で、会社の通期見通しではない。出所:コヒレント決算発表(2026年8月12日)、Investing.com。
だが、本当か。目標株価350ドルの土台は「2028年のEPS16ドル」である。会社が示した数字と並べてみる。直近の通期実績は5.61ドル。7〜9月期の見通しの中央値1.95ドルを単純に4倍しても、年換算で7.80ドルにしかならない。16ドルはその2倍強であり、2026年6月期の実績の2.85倍にあたる。
この差を埋めるには、売上高が伸び続けるだけでは足りず、利益率も上がり続ける必要がある。ところが会社の7〜9月期の売上総利益率の見通しは39.5〜41.5%で、中央値の40.5%は4〜6月期の40.2%とほぼ同じだ。少なくとも次の四半期について、会社自身は利益率の大きな上振れを約束していない。PhotonLinkの売上高が立ち上がり始めるのは2026年10〜12月期からというのが会社の説明で、まだ1ドルも計上されていない。
通説側の再反論も書いておく。24/7ウォール・ストリートによれば、同業のルメンタムは直近の四半期で売上高が前年同期比109%増えた。コヒレント自身も4〜6月期のEPSが前年同期比74%伸びている。この伸びが2年続けば、5.61ドルの2.85倍は手の届かない数字ではない。だから「16ドルはありえない」とは言えない。言えるのは、16ドルは会社の見通しではなく、バーンスタインの見積もりだということだ。なお、報道からは「2028年」が暦年か会社の決算年度かは読み取れなかった。
尋問3:材料は新しいのか——2度目に買われたPhotonLink
コヒレントの株価(2026年6月1日〜10月1日、ドル)
読み方:10月1日の上げで株価はPhotonLinkを発表した9月21日の水準に戻ったが、6月2日の終値からはなお約25%低い。7月29日には222.05ドルまで下げていた。10月1日の値は米東部時間12時38分時点の取引時間中の値で、それ以外は日足終値。出所:Yahoo Finance。
株価の足取りを確かめる。PhotonLinkを発表した9月21日、終値は321.52ドルだった。そこから株価は下がり、9月28日には282.45ドルと12.2%安くなっている。発表そのものは、その時点で市場に知られていた。10月1日の上げは、PhotonLinkという同じ材料が、バーンスタインの調査開始をきっかけに2度目の評価を受けた形である。
さらに長い目で見ると、株価は6月2日の終値426.89ドルから、いまも約25%低い。この3か月で何が評価を下げたのか、今日の上げはその問題を解いたわけではない。公平のために言えば、光関連株は10月1日に業種ぐるみで買われた。ルメンタムは8.4%高、シエナは6.8%高、コーニングは3.3%高(いずれも同じ時刻の取引時間中の値)で、資金が個別の材料ではなくテーマ全体に戻った面もある。
生き残った主張と、死んだ主張
| 主張 | 証拠 | 判定 |
|---|---|---|
| AI向け光部品の需要は強い | 4〜6月期の売上高33.8%増、EPS74%増、7〜9月期も前四半期比12%の増収見通し | 生存 |
| PhotonLinkが次の成長源になる | CPO・NPOで各10件超の案件と長期契約。売上高は10〜12月期から | 保留(売上高の実績待ち) |
| 2028年のEPSは16ドルに届く | 実績5.61ドル、見通しの年換算7.80ドル。利益率の見通しは横ばい | 未立証 |
| いま買えば24%上がる | 24%は発表時点の株価が起点。10月1日の株価からは約10% | 死亡(起点が変わった) |
評決——方向は買い、値札はまだ疑わしい
評決を出す。12か月の方向については、通説側に60対40で傾く。需要の証拠は会社の数字そのものであり、反対尋問で崩れなかった。だが、今日の上げを追いかける理由としては弱い。350ドルまでの残りは約10%で、それを正当化する16ドルのEPSは、まだ見積もりの段階にある。株価は1日で11%動く銘柄であり、残り10%は1日分の値幅でしかない。
個人投資家にとっての実務的な読み方はこうなる。目標株価は「到達点」ではなく、ある前提の下での計算結果である。その前提(EPS16ドル×22倍)のどちらかが崩れれば、値札は簡単に書き換わる。6月2日の終値426.89ドルから7月29日の222.05ドルまで、2か月足らずで48%下げた銘柄であることも忘れないほうがいい。新NISAの成長投資枠などで長期に持つなら、1回で買い切らず、決算ごとに前提を確かめながら分けて買うほうが、この銘柄の値動きには合っている。
再審条件——どんなデータが出たら評決を覆すか
| 次に出るデータ | 通説側に傾く(強気) | 懐疑側に傾く(弱気) |
|---|---|---|
| 7〜9月期の決算(日程は会社が今後発表) | 売上高が見通し上限の24億ドルを超え、EPSが2.05ドルを上回る | 売上高が中央値23億ドルに届かない |
| 10〜12月期の見通し | 非GAAPの売上総利益率の見通しが41.5%を超える | 利益率の見通しが40%を割る |
| PhotonLinkの売上高 | 10〜12月期に計上が始まり、会社が金額を示す | 立ち上がりの時期が2027年以降にずれる |
| 株価 | 終値で9月21日の321.52ドルを上回って定着する | PhotonLink発表後の安値である9月28日の282.45ドルを終値で割る |
評決を覆す条件ははっきりしている。7〜9月期決算で売上高と利益率がそろって見通しの上限を超え、10〜12月期の利益率見通しが41.5%を上回れば、16ドルへの道筋が見えてくる。そのときは評決を70対30まで通説側に寄せる。逆に、利益率の見通しが40%を割れば、成長が利益に結びついていないことになり、350ドルの前提の半分が崩れる。
コヒレントの過去の分析はコヒレントのバリュエーションを扱った記事と8月12日の決算プレビューにある。光通信・半導体の関連銘柄の比較はCOHR・AVGO・MRVLを並べた記事を参照してほしい。
主な参照
- コヒレント「2026年6月期第4四半期・通期決算」(2026年8月12日)/Coherent
- コヒレント「PhotonLink統合光学プラットフォームを発表」(2026年9月21日)/Coherent
- バーンスタインのネットワーク・光通信株の調査開始(目標株価、EPS見積もり、倍率)/Investing.com
- 10月1日の光関連株の上昇と、その理由とされた材料/24/7 Wall St.
- 株価の日足終値と10月1日の取引時間中の値/Yahoo Finance
データ基準日:2026年10月1日。10月1日の株価はすべて米東部時間12時38分時点の取引時間中の値で、終値ではない。それ以前の株価はYahoo Financeの日足終値である。年換算EPS7.80ドルは、会社の7〜9月期見通しの中央値を4倍した本誌の単純計算で、会社の通期見通しではない。バーンスタインのEPS見積もりと目標株価は報道にもとづくもので、本誌はレポートの原本を確認していない。評決の比率と再審条件のしきい値は本誌の見立てであり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。










