なぜ10月1日の日経平均は3.30%も上がったのに、TOPIXは0.57%しか上がらなかったのか。答えは「誰のマイクの音量が大きいか」にある。日経平均は前日比2,203円00銭高の6万8,956円72銭で取引を終えたが、東証プライムで値上がりした銘柄は748、値下がりは744と、ほぼ半々だった。上げ幅の32.8%はアドバンテスト1銘柄が作っている。
この記事では、同じ「日本株」を映すはずの2つの指数がなぜここまで違う数字を出すのかを、1本の比喩で順に見ていく。日経平均に連動する投資信託を持っている人と、TOPIXに連動する投資信託を持っている人とでは、この日の成績はおよそ6倍違った。その差がどこから来るのかを知っておけば、明日のニュースの読み方が変わるはずだ。
225人の合唱団と、音量つまみ
日経平均を、225人の合唱団の録音だと考えてみてほしい。客席に届く歌声の大きさが「指数の動き」である。ここが肝心だが、この合唱団ではメンバー全員に同じマイクが配られているわけではない。一人ひとりのマイクの音量つまみは、その銘柄の株価の高さで決まる。株価が数万円の銘柄は大音量、数百円の銘柄はささやき声だ。
一方のTOPIXは、東証プライムを中心とする銘柄で構成される、もっと大きな合唱団である。こちらの音量つまみは株価ではなく、会社の大きさ(市場で売買可能な株式の時価総額)で決まる。トヨタ自動車や三菱UFJフィナンシャル・グループのような大企業ほど声が大きい。
つまり、同じ日に同じ歌を歌っていても、どのマイクを聞くかで客席に届く音はまったく違う。10月1日は、日経平均の合唱団で大音量のマイクを持つ数人が声を張り上げ、TOPIXの合唱団で声の大きい銀行や保険がむしろ黙り込んだ日だった。
原理を3つに分けて見る
1. 日経平均は「株価」で重みが決まる
日経平均は、225銘柄の株価を足し合わせて「除数」で割る、株価平均型の指数である。株式分割などで株価の水準が変わった銘柄には「株価換算係数」という調整がかかるが、基本の考え方は変わらない。株価が高く、換算係数の大きい銘柄ほど、1%の値動きが指数に与える影響が大きい。
2. TOPIXは「会社の大きさ」で重みが決まる
TOPIXは時価総額加重型の指数である。株価がいくらかではなく、会社全体が市場でいくらと評価されているかで重みが決まる。だから株価が数千円の銀行株でも、会社が大きければ大きな声を持つ。日経平均ではささやき声の銘柄が、TOPIXでは主役級になる。
3. 2つの比率が、どちらの合唱団が勝ったかを示す
日経平均をTOPIXで割った値を「NT倍率」と呼ぶ。大音量のマイクを持つ値がさ株が強い日には上がり、大企業が広く買われる日には下がる。9月30日の終値ベースでは16.25倍だった。10月1日は6万8,956円72銭を4,131.98ポイントで割って16.69倍。1日で0.44ポイント上がった計算になる。7〜9月期のNT倍率の推移では、6月末の17.54倍から9月末の16.25倍まで下がってきた流れを整理した。その巻き戻しが、1日でおよそ3分の1戻ったことになる。
用語メモ。寄与度:ある銘柄の値動きが、指数の上げ下げのうち何円分を作ったかを示す数字。値がさ株:株価の水準が高い銘柄。日経平均では大音量のマイクを持つ。NT倍率:日経平均÷TOPIX。値がさ株が強いと上がり、大型株全体が強いと下がる。
10月1日の数字に当てはめる
では、この日に大音量で歌ったのは誰か。株探の集計によると、日経平均の上げ幅2,203円のうち、アドバンテスト(6857)が722円75銭、東京エレクトロン(8035)が386円83銭、ソフトバンクグループ(9984)が219円25銭、ファーストリテイリング(9983)が152円91銭、イビデン(4062)が130円12銭を押し上げた。
日経平均への寄与度:上位5銘柄と下位5銘柄(10月1日、円)
読み方:上位5銘柄で1,611円86銭、上げ幅2,203円の73.2%を占めた。押し下げ側は最大でも東京海上HDの12円52銭で、下位5銘柄の合計は32円73銭にとどまる。出所:株探(2026年10月1日大引けの集計)。
上位5銘柄の合計は1,611円86銭で、上げ幅の73.2%にあたる。マイナス側を見ると、押し下げ1位の東京海上ホールディングスでも12円52銭にとどまり、下位5銘柄を合計しても32円73銭にすぎない。225人のうち5人が声を張り上げ、残りの大半は小声で歌うか口をつぐんでいた、という構図である。
| 銘柄 | 終値 | 前日比 | 日経平均への寄与 | 上げ幅に占める割合 |
|---|---|---|---|---|
| アドバンテスト(6857) | 37,610円 | +9.78% | +722.75円 | 32.8% |
| 東京エレクトロン(8035) | 12,585円 | +6.52% | +386.83円 | 17.6% |
| ソフトバンクグループ(9984) | 6,701円 | +4.21% | +219.25円 | 10.0% |
| ファーストリテイリング(9983) | 72,750円 | +2.67% | +152.91円 | 6.9% |
| イビデン(4062) | 11,995円 | +8.75% | +130.12円 | 5.9% |
| 上位5銘柄の合計 | — | — | +1,611.86円 | 73.2% |
試しに、この5銘柄のマイクを切ってみる。上げ幅2,203円00銭から1,611円86銭を引くと591円14銭。前日の終値6万6,753円72銭に対しては約0.89%の上昇になる。TOPIXの0.57%とかなり近い。大音量の5人を除けば、2つの合唱団はほぼ同じ歌を歌っていたことになる。ただしこれは各銘柄の寄与度を単純に差し引いた本誌の試算であり、正式な指数の計算ではない。
10月1日の上昇率:日経平均、上位5銘柄を除いた試算、TOPIX(%)
読み方:寄与度上位5銘柄の分(1,611円86銭)を差し引くと、日経平均の上昇率は約0.89%となり、TOPIXの0.57%に近づく。試算は本誌計算で、公式の指数値ではない。出所:株探。
大音量の5人は、なぜ歌ったのか
5銘柄のうち3銘柄は半導体関連である。株探とフィスコの市況は、米マイクロン・テクノロジーの決算を手がかりに半導体関連株に買いが入ったと伝えている。マイクロンは9月30日の米国市場の引け後に6〜8月期決算を発表し、売上高は542億ドルと市場予想を上回った。決算の中身はマイクロン決算の記事で詳しく分解している。
ここで一つ、数字を並べておきたい。マイクロン自身の株価は、9月30日の通常取引の終値が1,065.11ドル、時間外取引の最後の気配が米東部時間19時59分時点で1,069.00ドルだった。上昇率にすれば約0.4%である。決算を出した本人がほとんど動かなかったのに、東京ではアドバンテストが9.78%、レーザーテックが11.14%、イビデンが8.75%上げた。東京の半導体株は、決算の数字そのものよりも、決算をきっかけに戻ってきた「AI需要はまだ続く」という空気に反応したと考えるのが自然だろう。
反対に、TOPIXで大きな声を持つ銀行株は下げた。三菱UFJフィナンシャル・グループは3.08%安、みずほフィナンシャルグループは2.76%安、三井住友フィナンシャルグループは2.54%安だった。東証33業種でも、値下がり上位に石油・石炭、銀行業、保険業が並んでいる。この日の朝8時50分に日銀が公表した9月会合の「主な意見」について、市場では「利上げを急がなければならない内容ではなかった」との見方が広がったとMINKABU PRESSは伝えている。利上げ観測が後退すれば、預金と貸出の利ざやが広がる期待で買われてきた銀行株には逆風になる。同じ朝に出た日銀短観も、大企業製造業の業況判断がプラス24と市場予想を下回った。
まとめると、日経平均の合唱団では大音量の半導体が歌い、TOPIXの合唱団では大音量の銀行が黙った。2つの指数の差2.73ポイントは、おおむねこの組み合わせで説明できる。
よくある誤解:「日経平均が3%上がった日は、自分の日本株も上がっているはず」。この日、東証プライムで値上がりしたのは748銘柄で、値下がりの744銘柄とほぼ同数だった。半導体や値がさ株を持っていなければ、日経平均が2,000円以上上がった日でも、手元の口座は横ばいかマイナスだった可能性が十分にある。指数の上昇率と、自分のポートフォリオの成績を混同しないことが大切だ。逆も同じで、日経平均が大きく下げた日に、銀行株や内需株を持つ口座がプラスということも起こりうる。
投資信託を持つ人にとっての意味
日経平均連動のインデックスファンドは、上で見た大音量のマイクをそのまま買っている商品である。アドバンテストや東京エレクトロンが10%近く動けば、ファンドの基準価額もそれに引っ張られる。TOPIX連動のファンドは、銀行や自動車、商社なども含めた大きな合唱団の平均を買っている。どちらが良い悪いではない。しかし、同じ「日本株インデックス」でも中身の偏りがまったく違うことは知っておきたい。
新NISAで日経平均連動の商品を積み立てている人は、自分が半導体株に大きく賭けているという自覚を持っておいた方がいい。9月11日にはアドバンテスト1銘柄で日経平均を531円押し下げた日もあった。大音量のマイクは、下げる日にも同じ音量で響く。
次にどこを見るか
筆者は、この日の上げをそのまま「日本株の本格反発」と読むのは早いとみている。理由は単純で、値上がり銘柄が半分しかないからだ。反発が本物なら、大音量の5人以外も歌い始めるはずである。見るところは3つある。
| 見るところ | 10月1日の値 | こうなれば見方を変える |
|---|---|---|
| 東証プライムの値上がり銘柄数 | 748(値下がり744) | 日経平均の上昇日に値上がりが1,000銘柄を超えれば、上げが広がったと判断できる |
| NT倍率 | 16.69倍(9月30日は16.25倍) | NT倍率が上がり続けるなら、上げは引き続き値がさ半導体頼みである |
| 米国の半導体株 | マイクロンは時間外で約0.4%高 | 10月1日の米国市場で半導体株が売られれば、東京の先回り買いは巻き戻される可能性がある |
このほか、10月2日には米国の9月雇用統計が発表される。米10年債利回りは9月30日に5.29%まで上がっており、金利の動き次第では、半導体のような高い成長期待で買われている銘柄ほど揺さぶられやすい。過去にも、9月18日の日経平均とTOPIXの乖離のように、指数だけが上がる日は何度もあった。そのたびに確かめるべきなのは、上げの幅ではなく、上げの広がりである。
まとめ:合唱団の比喩を回収する
10月1日の日経平均は、225人の合唱団のうち5人が大音量で歌った録音だった。TOPIXという大きな合唱団では、声の大きい銀行が口をつぐみ、全体の音はわずかに上がっただけだった。覚えて帰ってほしいのは次の3点である。
- 日経平均は株価の高い銘柄ほど声が大きい。10月1日は上位5銘柄で上げ幅の73.2%を作った。
- TOPIXは会社の大きい銘柄ほど声が大きい。銀行株が下げた日は、日経平均ほど上がらない。
- 指数の上昇率より、値上がり銘柄の数を見る。この日は748対744で、ほぼ引き分けだった。
主な参照
- 日経平均とTOPIXの終値、東証プライムの騰落銘柄数、寄与度上位・下位、業種別の騰落/株探、株探(フィスコ)
- 個別銘柄の終値と前日比/株探(アドバンテスト)ほか各銘柄ページ
- 9月30日の日経平均・TOPIXの終値(NT倍率の比較基準)/本誌の7〜9月期まとめ
- 日銀「主な意見」を受けた市場の見方、ドル円の動き/株探(MINKABU PRESS)
- 日銀「金融政策決定会合における主な意見(2026年9月17、18日開催分)」/日本銀行
- マイクロンの通常取引終値と時間外気配/Yahoo Finance
- 米10年債利回り(9月30日)/Yahoo Finance
データ基準日:2026年10月1日の東京市場の終値(15時30分)。マイクロンの株価は米東部時間9月30日の通常取引の終値と、同日19時59分時点の時間外の気配値であり、10月1日の米国市場の値動きは反映していない。米10年債利回りは9月30日の値である。寄与度の集計は情報ベンダーにより差がある。上位5銘柄を除いた上昇率とNT倍率は本誌の試算であり、日本経済新聞社やJPX総研の公表値ではない。半導体株の上昇がマイクロン決算を手がかりにしたものであること、銀行株の下落が日銀の利上げ観測の後退によるものであることは、市況報道にもとづく説明である。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
アイキャッチ写真:Semiconductor Wafer of Microelectronics(DrHughManning、CC BY-SA 4.0、Wikimedia Commons)。サイズを変更して使用。









