8月13日(現地時間)9時30分、米国株式市場はS&P500が前日比+0.32%の7,773と、前日に付けた史上最高値終値(7,748.50)を上回る水準で取引を開始した。寄り付き1時間前に発表された7月のPPI(生産者物価指数)は前月比0.0%と市場予想(+0.2%)を下回り、新規失業保険申請は20万9,000件と予想(20万2,000件)を上回った。物価は冷え、雇用はゆるむ。前日のCPIに続いて「9月利上げ」の論拠を削る組み合わせであり、10年債利回りは4.64%台へ低下した。一方でWTI原油はホルムズ海峡を巡る交渉進展観測で2.7%安の81ドル台。午後1時には30年債入札が控える。
マクロ:物価は冷え、雇用はゆるみ、原油は「合意」を織り込み始めた
PPIの内訳は、ヘッドライン前月比0.0%(6月は−0.3%から−0.1%へ上方改定)、前年比+4.7%と6月の+5.5%から減速、コア(食品・エネルギー除く)は前月比+0.2%だった。財が−0.7%と全体を押し下げ、サービスは+0.2%。前日のCPI(前年比+3.4%、コア+2.5%)と合わせ、企業段階でも消費者段階でも物価の勢いは落ちている。同時刻発表の新規失業保険申請20万9,000件は前週から9,000件増え、継続受給は177万7,000人と2万2,000人減。金曜の雇用者数マイナス2.3万人ほどの衝撃はないが、労働市場の温度が下がり続けていることと矛盾しない数字だ。
この組み合わせを受け、金利先物市場は9月FOMCの「据え置き」をおおむね6割前後で織り込む。1週間前は利上げが優勢だったことを踏まえれば、雇用統計・CPI・PPIの3連打で政策見通しは反転した。前日の記事で指摘した通り、残る関門は長期金利だ。前日の10年債入札は落札利回り4.683%と2007年以来の高さで決まり(応札状況自体は堅調)、本日午後1時には30年債入札が控える。7月の30年債入札は5.058%と、これも2007年以来の高い水準だった。利上げ観測が消えても、国債の大量供給が長期金利を高止まりさせる構図が続くかどうか。今日の入札が次の判定材料になる。
原油の急落は別の物語だ。WTIは2.65%安の81.06ドル。イランとオマーンの交渉が最終段階にあると伝えられ、パキスタン国防相が米・イランは「何らかの取り決めに近い」と発言。ホルムズ海峡の通航再開を市場が先回りして織り込み始め、週間の下げは約10%に達した。加えてEIA週間統計で米原油在庫が1,740万バレル増と2023年初め以来の大幅な積み上がりとなり、需給面でも上値は重い。4月にブレントが126ドルを超えた中東プレミアムの巻き戻しは、インフレ低下の追い風として株式市場には好材料になる。ただし交渉決裂なら同じ速度で巻き戻る類いの下げである。
個別市場:東京は2日連続のTOPIX最高値、ソウルは4連騰
| 市場・指標 | 水準 | 前日比 | 備考 |
|---|---|---|---|
| S&P500 | 7,773.28 | +0.32% | 最高値圏で寄り付き(9:30時点) |
| ダウ工業株30種 | 53,912.39 | +0.26% | 同上 |
| VIX(恐怖指数) | 14.43 | −0.82% | 年初来低水準圏 |
| 米10年債利回り | 4.643% | 低下 | PPI受け ブル・スティープ化(短期金利主導の低下) |
| 米30年債利回り | 5.213% | 低下 | 13時に入札 |
| 日経平均 | 68,308.59 | +1.16% | 6月の最高値72,353円からは約5.6%下 |
| TOPIX | 4,176.04 | +0.89% | 2日連続の史上最高値 |
| 韓国KOSPI | 6,813.34 | +3.56% | 4連騰。6月高値からは依然約27%下 |
| 香港ハンセン | 25,396.51 | −0.17% | アジアで独歩安 |
| 独DAX | 26,404.67 | +0.28% | 朝方の上げ幅は縮小 |
| ドル円 | 159.27円 | ほぼ横ばい | 介入後も159円台で推移 |
| WTI原油 | 81.06ドル | −2.65% | 週間で約10%安 |
| 金先物(12月限) | 4,449.10ドル | −0.41% | 高値圏で一服 |
東京市場はTOPIXが4,176.04と2日連続で史上最高値を更新した。前日の米半導体高を受けてアドバンテストやキオクシアなど半導体関連が買われ、決算シーズンの業績上方修正がAI関連以外にも広がっていることが下支えとなっている。日経平均は+1.16%の68,308円だが、こちらは6月22日に付けた最高値72,353円から約5.6%下の「回復途上」であり、両指数の位置の違いは押さえておきたい。ソウルはKOSPIが+3.56%の6,813と4連騰。外国人が1日で2.09兆ウォンを買い越し、サムスン電子+4.89%、SKハイニックス+5.91%とメモリー2枚看板が牽引した。ただしKOSPIも6月の高値からは約27%下であり、今週の急伸はコアウィーブの受注残が示した「AI投資は続く」という判定を受けた、暴落からの復元運動という性格が強い。円は日米共同介入後も159円台で膠着し、日銀の追加利上げ観測がくすぶる。
セクター:金利低下の受益組が上位、エネルギーだけが沈む
寄り付きのセクター板は、この日のマクロをそのまま写している。上位はヘルスケア(+0.74%)、通信サービス(+0.61%)、生活必需品(+0.58%)、不動産(+0.52%)——配当利回りや安定収益を武器にする「金利低下の受益組」だ。情報技術は+0.11%と指数を下回る。シスコの急落(後述)が重石で、AI半導体の上げと相殺し合っている。明確に沈んでいるのはエネルギー(−1.06%)だけで、原油急落の直撃を受けた。リスクオフの売りはどこにも見当たらず、「金利が下がる世界」への静かな置き直しが進んでいる板である。
主な値動き:シスコは記録的決算でも−8%
シスコ:AI受注4.5倍と「利益率」の綱引き
前日引け後に決算を発表したシスコは寄り付きで−8.2%の113.75ドル。数字自体は文句のつけようがない。売上高172.5億ドル(前年比+18%)は四半期として過去最高で予想(168.3億ドル)を超え、調整後EPS1.22ドルも予想超え。ハイパースケーラー向けAIインフラ受注は通期93億ドルと前年の約4.5倍に達し、会社は「ネットワーキングのスーパーサイクル」と表現した。来期売上ガイダンス722〜734億ドルも悪くない。売られた理由は利益率の見通しだ。AI受注が売上に変わる過程でハードウェア比率が高まり、粗利率に圧力がかかると会社側が認めた。年初来約6割上げた株価に対し、「成長は買える、ただし利益率の薄い成長にこの値段は払えない」という判定が下った。AMD、SKハイニックスに続き、「良い決算でも売られる」列にシスコも並んだ形である。
コヒレント:時間外+13%が寄り付き−3%に化けた
もう一つの「期待値の税金」はコヒレントだ。前日引け後の決算は売上高20.46億ドル(前年比+33.8%)、調整後EPS1.74ドルと予想を超え、来期ガイダンスも中央値でコンセンサスを約8〜10%上回った。アンダーソンCEOは需要を「例外的」と呼び、受注は2028年分まで積み上がっていると述べた。発表直後の時間外では+13%前後まで買われたが、一夜明けた寄り付きは−3.3%。粗利率ガイダンス(39.5〜41.5%)の拡大幅が物足りないという見方に加え、前日にルメンタムの好決算を受けて+8%上げていた分、好材料が事前に消化されていた。時間外の初動を追いかける危うさを示す教科書的な反転である。
その他の主な動き
| 銘柄 | 寄り付き前後の動き | 材料 |
|---|---|---|
| スタブハブ(STUB) | −20%前後 | 四半期決算が予想未達 |
| セレブラス(CBRS) | −18%前後 | 売上1.80億ドル(+74%)が予想未達。調整後損益は予想より浅い赤字だが、GAAPの大幅赤字が嫌気された |
| タペストリー(TPR) | −8.8% | 決算は予想超えもガイダンスが失望 |
| JDドットコム(JD) | −4%前後 | 売上・利益とも予想超えだが売られる |
| ビルケンシュトック(BIRK) | +11.3% | 四半期決算が予想超え |
| エナシス(ENS) | +13%前後 | 利益・売上とも大幅な予想超え |
| イエティ(YETI) | 上昇 | 予想超えに加え通期ガイダンスを引き上げ |
| コアウィーブ(CRWV) | +1.3% | 前日+19%後も買い継続 |
| パランティア(PLTR) | +1.9% | 3日ぶり反発 |
本日引け後には半導体製造装置のアプライド・マテリアルズが決算を発表する。コンセンサスはEPS3.39ドル・売上高約90億ドル(前年比+23%)。焦点は売上の約27%を占める中国向けの持続性と、AI・最先端向けの受注がそれをどこまで相殺できるかだ。シスコとコヒレントが示した通り、いま市場が課金するのは「ビートの有無」ではなく「利益率とガイダンスの質」である。
今後の日程
- 8月13日 13:00(米東部時間、日本時間14日2:00):30年債入札——長期金利の高止まりが続くかの判定材料
- 8月13日 引け後:アプライド・マテリアルズ決算
- 8月下旬:PCE(個人消費支出物価指数)——9月FOMC前最後の主要物価指標
- 8月26日:エヌビディア決算
主な参照(データ基準時点:米国株・セクター・商品・為替は2026年8月13日9:30・米東部時間の寄り付き値、アジアは同日終値):PPI:CNBC・米労働統計局 / 失業保険申請:Yahoo Finance(Reuters) / 原油とホルムズ交渉:OilPrice.com / シスコ決算:Investing.com / コヒレント決算:StockTitan / 東京・ソウル市場:AP / 株価データ:CNBC Markets
免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。記載の株価・指数・商品価格は2026年8月13日9時30分(米東部時間)時点の寄り付き直後の値またはアジア当日終値であり、その後大きく変動している可能性がある。投資判断は自己責任で行っていただきたい。













