東芝デバイス&ストレージは2026年10月2日、HDDの製造子会社である東芝情報機器フィリピン(TIP)が、2027年度に記憶容量ベースの年間生産能力を2025年度比で約2倍に引き上げる目標を掲げていると発表した。同日の米国市場で、競合のシーゲイト・テクノロジー(STX)は終値で前日比10.21%安、ウエスタンデジタル(WDC)は10.22%安だった。HDDを作る世界の主要3社のうち、2社の株価が1日で1割下げた。
増産の規模は、日本経済新聞が10月2日早朝(日本時間)に約600億円の投資と報じた。東芝の発表資料には投資額の記載はない。東京市場は報道の翌日にあたる10月2日に取引したが、HDD部品を手がける日本企業の株価は小幅な動きにとどまった。
10月2日の値動き(米国市場の終値)
| 銘柄 | 10月2日終値 | 前日比 | 日中安値と前日終値比 | 2025年末比(10月1日→10月2日) |
|---|---|---|---|---|
| シーゲイト(STX) | 848.99ドル | −10.21% | 791.75ドル(−16.27%) | +243.4%→+208.3% |
| ウエスタンデジタル(WDC) | 415.29ドル | −10.22% | 396.57ドル(−14.27%) | +168.5%→+141.1% |
| サンディスク(SNDK) | 1,719.99ドル | −3.79% | 1,713.47ドル(−4.15%) | +653.1%→+624.6% |
10月2日の騰落率(米国株は米国市場、日本株は東証の終値)
読み方:米国のHDD大手2社はそろって10%強下げた。日経報道の翌日に取引した東京では、HDD部品株の動きは1%未満にとどまった。レゾナックの上昇は株探が大株主の買い増しを材料に挙げており、東芝の材料とは別とみられる。出所:stockanalysis.com、Yahoo!ファイナンス。
シーゲイトの10.21%安は、過去1年の日足で3番目に大きい下げだった。上回るのは6月26日の12.24%安と7月2日の10.38%安である。ウエスタンデジタルの10.22%安は同じ期間で4番目にあたる。終値ベースの高値からの距離は、シーゲイトが6月22日の1,094.04ドルから22.4%、ウエスタンデジタルが6月18日の746.23ドルから44.3%となった。
東芝が発表したことと、報道されたこと
東芝の発表は、TIPの操業30周年の記念式典を伝える資料である。TIPは1996年10月1日、PC向け2.5型HDDの製造拠点として操業を始めた。近年は主にPC向けを作ってきたラグナ・テクノパーク工場で、データセンター向け大容量品であるニアラインHDDの生産ラインを増設してきた。10月2日、その増設ラインから初出荷を行ったと発表した。
数値目標は1つだけである。2027年度に、TIP全体の年間生産能力を記憶容量ベースで2025年度の約2倍にする。台数ではなく、出荷するHDDの記憶容量の合計で測った能力である。1台あたりの容量が大きい製品に移るほど、同じ台数でも能力は増える。
| 項目 | 内容 | 情報源の種類 |
|---|---|---|
| 生産能力の目標 | 2027年度に2025年度比で約2倍(記憶容量ベース、TIP全体) | 東芝の発表(10月2日) |
| 増設ラインの初出荷 | ラグナ・テクノパーク工場で10月2日までに実施 | 東芝の発表(10月2日) |
| 投資額 | 約600億円 | 日本経済新聞の報道(10月2日)。東芝の資料に記載なし |
| 東芝のシェア | 容量ベースで10%強、中期的に30%を目指す | 日本経済新聞の報道を引用したインベスティング・ドットコムの記事。東芝の資料に記載なし |
| 別の推計によるシェア | 東芝は約17%、シーゲイトとウエスタンデジタルは各40%超(基準の明示なし) | トレンドフォース(7月22日) |
シェアの数字は2つある。容量ベースの10%強と、基準を示さない推計の約17%だ。2つの差は、東芝の製品が1台あたりの容量で競合2社より小さいことを示唆する。東芝の増産目標が記憶容量ベースで示されている以上、効いてくるのは10%強の側の数字である。
倍増でシェアはどこまで動くか(本誌試算)
市場が売ったのは、3社の寡占が保ってきた供給の規律である。東芝のシェアを容量ベースで10%、競合を合わせて90%と置き、東芝だけが能力を2倍にした場合を計算した。競合の能力の伸びによって、東芝のシェアは次のように変わる。
| 競合2社の能力の伸び | 東芝のシェア(試算) | 30%目標との差 |
|---|---|---|
| 0%(据え置き) | 18.2% | −11.8ポイント |
| +25% | 15.1% | −14.9ポイント |
| +50% | 12.9% | −17.1ポイント |
競合が能力を据え置いても、倍増だけで東芝のシェアは2割に届かない。30%の中期目標には、2027年度以降もさらに積み増す必要がある。一方、需要の伸びが鈍れば、増えた能力は価格の競争に向かう。株式市場が気にしたのは、シェアの数字そのものより、この価格への波及である。
競合2社の収益は高い水準にある。シーゲイトの4〜6月期(2026年度第4四半期)の売上高は36億ドル、非GAAPベースの粗利率は52.7%だった。会社は7〜9月期の売上高を41億ドル前後(±1億ドル)、非GAAPの1株利益を7.30ドル前後(±0.20ドル)と見込む。ウエスタンデジタルの4〜6月期の売上高は37億5,000万ドルで前年同期比44%増、非GAAPの粗利率は54.4%。7〜9月期は売上高41億ドル前後(±1億ドル)、粗利率55〜56%、1株利益4.00ドル前後(±0.15ドル)を見込む。粗利率が5割を超える状態は、供給が需要に追いつかないことを前提にしている。
アナリストの見方
シティのアナリスト、アシヤ・マーチャント氏は、市場は東芝の増産の影響を過大に見ている可能性があると指摘した。理由として、シーゲイトやウエスタンデジタルと違い、東芝は記録媒体(メディア)や磁気ヘッドなどの主要部品を外部の供給元に頼っている点を挙げた(インベスティング・ドットコム)。
この指摘は、東芝の増産の上限を部品の供給が決めることを意味する。そして、その部品の主な作り手は日本企業である。
日本の部品株は動かなかった
トレンドフォースによると、レゾナック・ホールディングス(4004)はHDD用の記録媒体で世界最大の供給元である。シンガポール拠点の年間能力を1億6,000万枚から2億1,000万枚へ約31%引き上げる。HOYA(7741)はHDD用ガラス基板で唯一の供給元とされ、約500億円でベトナムに新工場を建て、2028年の稼働を予定する。TDK(6762)は5月に、HDD用ヘッドとサスペンションの能力増強を表明した。各社の増強は東芝の発表より前に決まったものである。
| 銘柄 | 10月2日終値 | 前日比 | 夜間PTS(10月2日) | HDDとの関わり |
|---|---|---|---|---|
| レゾナックHD(4004) | 17,280円 | +8.71% | 17,700円(23時58分) | 記録媒体(メディア) |
| TDK(6762) | 3,198円 | −0.06% | 3,293円(23時57分) | ヘッド、サスペンション |
| HOYA(7741) | 24,180円 | −0.86% | 取引なし | ガラス基板 |
| ニッパツ(5991) | 3,461円 | −0.97% | 3,519.8円(23時37分) | HDD用サスペンション |
東京の取引は日経報道の翌日だった。TDK、HOYA、ニッパツの終値は前日比1%未満の動きにとどまった。レゾナックは8.71%高で、Moomooの集計では日経平均の構成銘柄で上昇率首位だった。ただし株探は米キャピタル・リサーチ・アンド・マネージメントらによる買い増しを材料に挙げており、東芝の増産との関係は確認できない。夜間PTSでは米国の取引時間中にTDKとニッパツが東証終値を上回ったが、同じ夜は米国株が全面高で、ナスダック総合指数も上昇しており、東芝の材料だけで説明はできない。
本誌は9月にも、ウエスタンデジタルとサンディスクが利益率の減速懸念で売られた局面を取り上げた。記憶装置の銘柄は、需要の強さよりも供給と利益率の変化で値が動く。メモリー全体の需給はマイクロンの決算と合わせて読むとよい。
今後の確認点
- シーゲイトとウエスタンデジタルの7〜9月期決算(10月下旬の見込み、日程は会社発表待ち)。売上高41億ドル前後の会社見通しに対する実績と、10〜12月期の見通しで粗利率が下がるかどうか。
- 競合2社が能力増強や価格について東芝の動きにどう言及するか。
- 東芝が投資額や2028年度以降の計画を正式に示すかどうか。現時点で約600億円は報道ベースである。
- レゾナック、TDK、HOYAの次回決算で、HDD部品の受注や能力増強の前倒しへの言及があるか。
- シーゲイトの日中安値791.75ドル、ウエスタンデジタルの396.57ドルを終値で割り込むかどうか。
参照・免責
- 東芝情報機器フィリピンの操業30周年と増設ラインからの初出荷(2026年10月2日)/東芝デバイス&ストレージ
- 東芝、HDD供給倍増へ600億円投資(2026年10月2日)/日本経済新聞
- シーゲイトの2026年度第4四半期決算(8-K)/米証券取引委員会
- ウエスタンデジタルの2026年度第4四半期決算(8-K、8月5日)/米証券取引委員会
- シティのコメントと東芝のシェア目標の報道/インベスティング・ドットコム
- 日本のHDD部品各社の能力増強(2026年7月22日)/トレンドフォース
- 米国株の日足/stockanalysis.com、日本株の終値と夜間PTS/Yahoo!ファイナンス
データ基準日:米国株は2026年10月2日(米東部時間)の終値、日本株は同日の東証終値。夜間PTSの値は同日夜の最終約定で、東証の終値ではない。投資額約600億円と容量ベースのシェア(10%強、中期目標30%)は報じられている数値で、東芝の発表資料には記載がない。シティの見解はインベスティング・ドットコムの記事にもとづく。レゾナックの上昇理由は株探の報道によるもので、会社の発表ではない。シェアの試算は本誌の単純計算であり、実際の出荷や価格を予測するものではない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














