10月28日水曜、ワシントン。米東部時間午後2時ちょうどに、連邦公開市場委員会(FOMC)の声明が公表された。政策金利は3.75〜4.00%で据え置き。だが採決の欄には、クック理事とハマック・クリーブランド連銀総裁の2人が「0.25%の利上げを求めて反対」と記されていた。その瞬間、ビットコインは8万1,700ドル付近まで跳ね、すぐに8万500ドルを割り込んだ。
30分後、ウォーシュ議長が会見の壇上に立つ。12月について問われると、議長は「個人的な思いは共有しない」とだけ答えた。ビットコインは8万1,000ドル台へ戻った。米コインベースの取引所データで、日本時間29日7時45分ごろの価格は8万1,222ドル、24時間の値幅は8万271〜8万1,715ドルだった。上にも下にも走らない。だが、この夜の値動きの小ささには理由がある。8万1,800ドル台に、見えない壁が1枚立っているのである。
壁の正体:2本の平均線が同じ場所に重なった
コインベースの日足終値(協定世界時の日付)から計算すると、10月27日までの20日移動平均は8万1,854ドル、50日移動平均は8万1,830ドルである。わずか24ドルしか離れていない。短い平均と長い平均が同じ高さで横たわるのは、この1カ月半、相場がどちらにも決着をつけなかった証拠だ。
今の価格は、その両方を約0.8%下回っている。FOMCの夜の高値8万1,715ドルは、壁の約140ドル手前で止まった。ブロックチェーン専門メディアのビットコイン・マガジンも、8万ドルを下値の節目として挙げている。上に8万1,800ドル台、下に8万ドル。この夜のビットコインは、2つの数字に挟まれた狭い廊下にいた。
巻き戻し:8万7,000ドルから廊下まで
話を4週間前に戻す。10月2日、ビットコインは取引時間中に8万7,249ドルをつけた。これが直近30日の高値である。10月4日には終値でも8万6,507ドルと、この月の最高値で引けた。強気派は9万ドルを口にし始めていた。
ビットコインの10月:高値から廊下まで
読み方:20日と50日の移動平均はともに8万1,800ドル台に重なり、FOMCの夜の高値はその手前で止まった。下では8万ドルの終値を9月17日以来守っている。出所:コインベースの取引所データ(日足はUTC区切り)、FRB、ETFフローは報道。日時は日本時間。
潮目が変わったのは10月21日から22日にかけてだ。21日の終値8万4,025ドルから、22日は8万1,307ドルへ。1日で3.2%の下げだった。その2日後の24日、取引時間中に7万9,107ドルまで沈む。直近30日の安値である。それでも終値は8万770ドルで、8万ドルを守った。26日の終値8万9ドルは、10月で最も低い終値だが、やはり8万ドルの上にある。日足の終値で8万ドルを下回ったのは、9月17日が最後だ。
なぜ割れないのか。その事情は前日のビットコイン8万ドル、終値では一度も割れずで掘り下げた。この夜、新しく加わったのはFOMCという材料である。
対立軸:反対票の2人と、口を閉ざした議長
この夜の主役は3人いる。利上げを求めたクック理事とハマック総裁、そしてそれを確約しなかったウォーシュ議長だ。声明は景気について「力強いペースで拡大」と書き、「インフレは高止まりしている」と認めた。反対票の2人は、その文言の先にある行動を求めた。
一方の議長は、経済が過熱しているかとの問いに「それは同僚の大半の判断ではない」と答え、危機時を除いてフォワードガイダンスは信じないと述べた。ロイターによると、CME FedWatchが示す12月利上げの確率は約85%に上がった。市場は利上げに傾き、議長はその確認を拒んだ。金利に敏感な資産であるビットコインが上にも下にも走らなかったのは、この2つの力がちょうど打ち消し合ったからだと読める。
同じ頃、資金の流れは静かに戻りつつあった。データ集計サイトのファーサイド・インベスターズによると、米国の現物ビットコインETF(上場投資信託)は26日に1億1,030万ドルの純流入だった。27日はソーソーバリューの集計で1億7,599万ドルの純流入と報じられている。22日と23日の2日間で合計約7億7,350万ドルの純流出があったから、まだ半分も取り戻していない。米ギャラクシー・リサーチは、ヘッジファンドが現物ETFを通じたビットコインの保有を6万8,000BTC減らしたと分析したと報じられている。
| 日付 | 出来事 | ビットコイン(コインベース) | 種別 |
|---|---|---|---|
| 10月2日 | 直近30日の高値 | 8万7,249ドル | 取引時間中の高値 |
| 10月21日 | 下落前日 | 8万4,025ドル | 終値(UTC) |
| 10月22日 | 1日で3.2%安、ETFは2日で約7.7億ドル流出 | 8万1,307ドル | 終値(UTC) |
| 10月24日 | 直近30日の安値 | 7万9,107ドル | 取引時間中の安値 |
| 10月26日 | 10月の最安終値 | 8万9ドル | 終値(UTC) |
| 10月28日 | FOMC据え置き、反対2票 | 8万1,222ドル | 日本時間29日7時45分ごろの取引値 |
クライマックスは、まだ来ていない
この物語の次の場面は、29日の夜に用意されている。日本時間21時30分、米7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値と9月の個人消費支出(PCE)が公表される。ウォーシュ議長は会見で、7〜9月期の成長率が3%を上回る公算が大きいと述べた。数字が強ければ、12月利上げの見方はさらに固まる。
そして米東部時間29日の取引終了後、暗号資産取引所の米コインベース・グローバルが7〜9月期決算を発表する。説明会は東部時間午後5時、日本時間では30日の朝6時だ。今週には同業のロビンフッドが暗号資産収入の大幅な減少を報告している。その経緯はロビンフッド、暗号資産収入55%減|個人離れを尋問に詳しい。コインベースの数字は、個人投資家が相場から離れているのか、戻りつつあるのかを映す鏡になる。
30日には日銀が金融政策決定会合の結果を公表する。円相場が動けば、日本の投資家にとっての円建て価格も動く。コインゲッコーの集計では、29日朝の円建て価格は約1,282万円だった。
エピローグ:廊下の出口はどちらか
FOMCの夜、ビットコインは何も決めなかった。2本の平均線が重なる8万1,800ドル台の壁と、9月17日以来一度も終値で割れていない8万ドルの床。その間の約2%の廊下に、相場はとどまっている。反対票を投じた2人と、口を閉ざした議長。どちらの声が12月に通るのかを、市場はまだ決めかねている。
残された問いは2つある。29日夜の米国の数字が、12月利上げをどこまで固めるのか。そしてコインベースの決算が、ETFに戻り始めた資金の流れを後押しするのか。廊下の出口が開くのは、早ければ日本時間30日の朝である。
主な参照
- FOMC声明(据え置き、10対2、反対票)/米連邦準備制度理事会(FRB)
- ビットコインの日足と24時間統計/コインベース取引所API
- FOMC後の値動きと8万ドルの節目/ビットコイン・マガジン
- ウォーシュ議長の会見、CME FedWatch/ロイター(ニューズウィーク日本版)
- 現物ビットコインETFのフロー(10月26日)/KuCoinニュース(ファーサイドの集計)、(10月27日)/Altcoin Buzz(ソーソーバリューの集計)
- コインベースの決算発表日/Investing News Network(会社発表)
- 円建て価格/コインゲッコー
- 米GDP・PCEの公表日程/米経済分析局(BEA)
データ基準日:ビットコインの価格は2026年10月29日7時45分ごろ(日本時間)のコインベースの取引値で、取引時間中の値であり終値ではない。日足の終値は協定世界時0時区切りで、取引所により差がある。移動平均は10月27日までの確定した日足から本誌が計算した。ETFフローとギャラクシー・リサーチの分析は報道にもとづくもので、10月28日分のフローは本稿執筆時点で未公表。12月利上げの確率は時々刻々変わる。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産の売買を推奨するものではない。暗号資産は価格変動が大きく、元本を失うおそれがある。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













