FOMCの声明が出た直後に158円30銭で買った向きは、ウォーシュ議長の会見が終わる頃には含み損を抱えていただろう。10月28日のニューヨーク市場で、ドル円は高値158円35銭から安値157円65銭まで70銭を往復し、157円84銭で引けた(みんかぶ集計)。利上げ反対票が2票出た「タカ派の据え置き」でも、ドルは上で売られた。
筆者の結論を先に書く。日銀が結果を公表する30日までのドル円は157円〜158円50銭の上値の重いもみ合いで、1週間の目線は156円台への下振れの方が大きいとみている。撤退線は159円10銭だ。以下、テープ、需給、水準の順に根拠を並べる。
28日のテープ:声明で買われ、会見で売られた
米東部時間14時(日本時間29日3時)、FRBは政策金利を3.75〜4.00%に据え置いた。採決は10対2。クック理事とハマック・クリーブランド連銀総裁が0.25%の利上げを主張して反対した。声明は景気判断を「堅調(solid)」から「力強い(strong)」に引き上げ、「インフレは高止まりしている」と書いた。字面だけなら完全にタカ派である。
ドル円は158円30銭まで買われたが、反応は限定的だった。流れを変えたのは30分後の会見である。ウォーシュ議長は12月について「個人的な思いは共有しない」「会合の結果を予断しない」と述べ、危機時を除いてフォワードガイダンス(先々の政策の予告)は信じないと言い切った。経済が過熱しているかとの問いには「それは同僚の大半の判断ではない」と答えた。ここでドルは売られ、米2年債利回りが低下した。終盤の安値は157円77銭近辺である。
正直、声明と会見でこれほど温度が違う回は珍しい。反対票2票は「次は上げる」という合図にも読めるが、議長本人はその合図を出さなかった。市場は議長の方を信じた。東京朝方の29日7時15分時点で157円89銭と、ニューヨークの引け値からほとんど動いていない。
ドル円の水準の地図(2026年10月29日朝)
読み方:28日の高値158円35銭は200日線の手前で止まった。上に200日線と10月高値の二重の壁、下は10月安値156円08銭が目安。終値で159円10銭を上回れば見立てを撤回する。出所:みんかぶFX(4本値、10月の高値・安値)、外為どっとコム(200日線)。
需給:金利差は開いたが、ドル買いは続かなかった
米財務省の公表値で、28日の米2年債利回りは4.67%、前日の4.70%から0.03ポイント低下した。10年債は4.99%から5.05%へ上昇している。短期金利が下がり長期金利が上がる、いわゆるスティープ化だ。2年債の低下は「12月の利上げを議長が確約しなかった」ことへの反応、10年債の上昇は「インフレが高止まり、景気も強い」という声明への反応と読める。
日本の新発10年国債利回りは28日に2.825%(共同通信)。日米の10年金利差はおよそ2.2ポイントで、ドル円を押し下げる材料にはなっていない。それでも上値が重いのは、為替を動かす短い金利の方が下がったからだ。ロイターによれば、CME FedWatchが示す12月利上げの確率は約85%で、前日の78.3%から上がった。利上げはもう相当程度、値段に入っている。追加で買う理由が乏しい。
もう一つの重しは当局だ。片山財務相は27日の参院で、為替について「高い緊張感を持って注視し、必要ならば断固とした措置」を取ると述べた。日米首脳会談で円が過小評価されているとの認識を共有したとも語っている。7月末には164円近辺から単独介入と日米協調介入が入り、155円台まで押し戻された経緯がある。財務省は7月30日〜8月26日の介入額を15兆3,993億円と公表し、月間で過去最大だった。159円に近づくほど、この記憶が上値を抑える。介入を巡る論点はドル円見通し:158円目前、介入ラインを尋問で詳しく扱った。
水準の地図:158円54銭と158円95銭が二重の壁
上の地図の通り、上には壁が2枚ある。1枚目は200日移動平均線の158円54銭(外為どっとコム算出)。28日の高値158円35銭はこの手前で止まった。2枚目は10月の高値158円95銭(10月14日)。ここを終値で抜けると、7月の介入前の水準を視野に入れる値動きになる。
下は10月の安値156円08銭(10月23日)が最初の目安だ。28日の安値157円65銭を割り込むと、日柄としては1週間前の安値をもう一度試す形になる。値幅で言えば、10月の高値と安値の差は2円87銭。今は下から6割ほどの位置にいる。
| 水準 | 意味 | 種別・時点 | 出所 |
|---|---|---|---|
| 159.10円 | 筆者の撤退線(10月高値の少し上) | 本誌の設定 | — |
| 158.95円 | 10月の高値(10月14日) | 日中の高値 | みんかぶ |
| 158.54円 | 200日移動平均線 | 10月29日時点の算出値 | 外為どっとコム |
| 158.35円 | 28日の高値(FOMC前) | 日中の高値 | みんかぶ |
| 157.84円 | 28日の終値 | 終値(ニューヨーク) | みんかぶ |
| 157.65円 | 28日の安値 | 日中の安値 | みんかぶ |
| 156.08円 | 10月の安値(10月23日) | 日中の安値 | みんかぶ |
筆者の見立て:上値の重いもみ合い、目線はやや円高
短期(30日の日銀会合まで)は157円〜158円50銭、1週間では156円〜159円のレンジとみる。目線はやや円高寄りで、根拠は3つある。
1つ目、FOMCの材料が出尽くした。12月利上げの確率は約85%まで上がっており、ドル買いの燃料はもう使われている。2つ目、200日線と10月高値の二重の壁が、28日の高値をきっちり止めた。3つ目、159円に近づくほど介入の警戒が強まる。財務省は30日19時に9月29日〜10月28日の介入実績を公表する予定で、その数字自体が材料になる。
日銀については、据え置きが市場の大勢の見方だ。政策金利は9月18日に1.25%へ引き上げられたばかりで、その時は浅田委員と佐藤委員が据え置きを主張して反対した。ロイターは関係筋の話として、日銀が基調的な物価上昇率が2%程度に達したと判断する公算が大きいと報じている。据え置きでも、基調物価2%到達の認定は次の利上げへの地ならしになる。会合の焦点は日銀10月会合、据え置き濃厚|焦点は利上げ到達点2%で整理した。
中期(1〜3カ月)の目線は155円〜160円。12月のFOMCで本当に利上げが来て、日銀が動かなければ上限側、日銀が12月か1月に追加利上げへ踏み込めば下限側を試す。どちらも、今日の時点で確率を大きく傾けるだけの材料はまだない。
逆になったら:159円10銭で撤退
終値で159円10銭を上回ったら、この見立ては捨てる。10月の高値を抜けたことになり、介入警戒より金利差が勝っている証拠だからだ。その場合の次の目安は160円台で、ECBの参照レートでは9月1日に160円16銭があった。逆に157円65銭を終値で割れば、156円08銭までの下げを想定する。
今日と明日の監視リスト
| 日時(日本時間) | イベント | 筆者が見るポイント |
|---|---|---|
| 29日 日中 | 日銀会合1日目 | 観測報道で157円台を割るか |
| 29日 21:30 | 米7〜9月期GDP速報値、9月の個人所得・個人消費支出(PCE) | ウォーシュ議長は「3%を上回る公算」と発言。上振れで158円54銭を試すか |
| 29日 22:15 | ECBの政策金利発表 | ユーロ円経由での円の動き |
| 30日 昼頃 | 日銀の決定と展望リポート | 据え置き時の反対票の数、基調物価2%の認定 |
| 30日 19:00 | 財務省の外国為替平衡操作の実施状況 | 9月29日〜10月28日に介入があったか |
主な参照
- FOMC声明(据え置き、10対2、反対票)/米連邦準備制度理事会(FRB)
- ドル円の28日の4本値と10月の高値・安値/みんかぶFX、同(10月14日分)、同(10月23日分)
- ニューヨーク市場サマリー、ウォーシュ議長の会見、FedWatch/ロイター(ニューズウィーク日本版)、同
- 200日移動平均線と会見中のドル売り/外為どっとコム
- 米国債利回り(10月27日・28日)/米財務省
- 9月18日の利上げと反対票/日本銀行、会合日程/日本銀行
- 片山財務相の発言(10月27日)/ロイター(ニューズウィーク日本版)
- 7〜8月の介入額/共同通信(秋田魁新報)、介入実績の公表日程/財務省
- 米GDP・PCEの公表日程/米経済分析局(BEA)
データ基準日:2026年10月28日のニューヨーク市場の終値(ドル円は29日7時15分時点の気配値も併記)。米国債利回りは米財務省の公表値(終値ベース)、日本の10年国債利回りは28日の共同通信の報道による。200日移動平均線は外為どっとコムの算出値で、算出元により差がある。12月利上げの確率はロイターが伝えたCME FedWatchの値で、時々刻々変わる。日銀の見通しは報道と市場の見方にもとづく。レンジ、目線、撤退線は筆者の分析であり、将来の相場を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の通貨の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















