なぜ豪ドル米ドルは、28日の豪州物価統計を前に0.70ドルの上で足踏みしているのか。答えは、この統計が「体温計」だからである。豪州準備銀行(RBA)という医師は、11月3日に利上げという処方を出すかどうかを、この体温計の数字で決める。そして市場はすでに、処方が出る方に6〜7割を賭けている、と伝えられている。体温計が平熱を示せば、その賭けが崩れる。
豪ドル米ドルはGoogleファイナンスの日本時間27日7時58分時点の気配で0.7012ドル。26日夕方に付けた約0.7042ドルの戻り高値から押し戻された。本稿では、体温計の読み方を一段ずつ確かめ、そのうえで発表後の値動きの見通しを示す。結論を先に言えば、本誌は0.70ドルを挟んだもみ合いを本線とし、上振れなら0.708ドル台、下振れなら0.695ドルを次の目安とみる。
体温計と医師——順に見ていく
まず体温計そのものから考えてみてほしい。豪州統計局(ABS)は28日11時30分(豪東部夏時間)、日本時間では9時30分に、9月の消費者物価指数を発表する。豪州は2025年後半に、毎月すべての品目を調べる新しい月次CPIへ移行した。この日はその9月分と、7〜9月期の四半期の数字が同時に出る。
医師が最も重視するのは、四半期の「トリム平均」である。品目ごとの値上がり率を並べ、上下の極端な値を切り落として平均した数字だ。ガソリンや旅行のように一時的に跳ねる品目に振り回されないように作られている。つまり、熱が一時的なものか、体の芯からのものかを見分けるための体温計である。
用語を三つだけ。①トリム平均:上下の極端な品目を除いた物価の伸び。RBAが基調的な物価と位置づける。②前期比(q/q):直前の四半期から何%上がったか。③前年比(y/y):1年前の同じ四半期から何%上がったか。RBAの目標は前年比で2〜3%である。
医師の現在の処方も確認しておく。RBAの政策金利は4.60%である。2026年に入って2月、3月、5月、9月の4回、それぞれ0.25%ずつ引き上げた。最後の利上げは9月29日に決まり、30日から適用された。次の会合は11月2〜3日で、結果は3日の日本時間12時30分に出る。同じ日に新しい経済見通し(金融政策報告)も公表される。
体温計から為替まで:物価統計が豪ドルに届く道筋
読み方:統計そのものではなく、統計を受けた「利上げの織り込み」の変化が為替を動かす。出所:豪州統計局、豪州準備銀行の公表日程をもとに本誌作成。
医師はすでに「熱が高い」と言っている
今回の発表がこれほど注目されるのは、医師の側が先に診立てを口にしたからだ。RBAのハウザー副総裁は10月21日、シドニーで開かれたシティ主催の投資会議で「インフレの見通しは、8月の報告で予測したよりも大幅に悪化しているようだ」と述べた。同時に「金融政策は効いている」とも語り、次の判断は「難しい選択だ」とした。
報道によれば、ハウザー氏は7〜9月期のトリム平均がRBAの想定を上回りそうだとの見方も示した。理由の一つは原油である。RBAが8月の見通しで置いたブレント原油の前提は1バレル81.2ドルだった。ブレントの12月限は26日、115.81ドルで清算値を付けている。前提より4割以上高い。
この発言を受けて、11月の利上げを見込む市場の織り込みは急に高まった。住宅ローン仲介大手モーゲージ・チョイスが引いたASXの金利予想ツールでは、発言前の利上げ確率は27%前後だった。FXStreetによれば26日には約6割、米銀BBHは7割と伝えている。ASXの数値を本誌は直接確認できていないため、ここでは報道された値として扱う。経緯は21日の記事で追った。
ここが肝心だ——1年前の体温が抜ける
体温計の読み方で、最も見落とされやすい点がある。前年比の数字は、直近4四半期の前期比を掛け合わせたものだ。新しい四半期が加わると、1年前の四半期が抜ける。今回抜けるのは2025年7〜9月期で、そのときのトリム平均は前期比1.0%と高かった。
つまり、7〜9月期が前期比1.0%でも、前年比は4〜6月期と同じ3.6%にとどまる。熱が上がっていないように見えても、それは1年前も同じくらい熱かったからにすぎない。FXStreetが伝える市場予想は前期比1.0%、前年比3.6%で、まさにこの形である。だから市場は前年比ではなく、前期比が直近の0.8%からどれだけ上がるかで判定するだろう。
| 7〜9月期のトリム平均(前期比) | 前年比の計算値 | 市場の受け止め(本誌の想定) | 豪ドル米ドルの目安 |
|---|---|---|---|
| 0.8%以下 | 約3.3% | 11月利上げの織り込みが大きく後退 | 0.6950ドル、次いで0.6900ドル |
| 0.9〜1.0%(予想並み) | 約3.5〜3.6% | 6〜7割の織り込みがおおむね維持 | 0.6990〜0.7040ドルのもみ合い |
| 1.1%以上 | 約3.7%以上 | 利上げがほぼ確実との見方に | 0.7078〜0.7091ドル、次いで0.714ドル |
もう一つ確かめておく数字がある。RBAは8月の見通しで、トリム平均の前年比が2026年12月に3.3%まで下がると見込んでいた。前期比0.8%なら、この見通しに沿った「平熱への回復」と言える。前期比1.0%なら、見通しより0.3ポイントほど高い道を歩んでいることになる。ハウザー氏の「大幅に悪化」という言葉は、後者を示唆している。
よくある誤解:「前年比が予想どおりなら材料出尽くし」。今回は前年比が予想どおりでも、前期比の中身で相場が動きうる。また、月次の9月分の前年比(8月は4.0%)はガソリンなど変動の大きい品目を含む。見出しの数字が高くても、トリム平均が落ち着いていれば、医師の処方は変わらない可能性がある。最初の数分の値動きを、見出しの数字だけで追いかけないことだ。
体温計の外にある三つの冷え
体温だけで診断が決まるわけではない。豪ドルの上値を抑える材料もある。第一に雇用である。9月の失業率は季節調整値で4.7%と、前月から0.1ポイント上がった。第二に投資家の構えだ。ブルームバーグは26日、資産運用会社による豪ドルの売り越しが過去最大になったと報じている。第三に、米国の側の事情である。米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果は29日午前3時(日本時間)に出る。27日朝の時点ではドル円が157円50銭前後とドル高に振れており、豪ドル米ドルが0.70ドルを上で保てるかは、豪州だけでは決まらない。
売り越しが過去最大という構えは、二つの方向に読める。弱気の見方が多いという意味では逆風だが、物価が上振れれば、売り方の買い戻しが上げを加速させる燃料にもなる。表で上振れ時の目安をやや遠めに置いたのは、このためである。
豪ドル米ドルの水準の地図(ドル)
読み方:現在値は戻り高値の0.7042ドルと下振れ目安の0.6950ドルの間にある。上振れ時の目安は0.7078〜0.7091ドルの帯の中央を示した。出所:Googleファイナンス、Yahooファイナンスの時間足、欧州中央銀行の参照レート(Frankfurter経由)、本誌の見立て。
本誌の見通し——短期と中期
短期(28日〜11月3日のRBA会合まで)。本線は予想並みの結果で、0.6990〜0.7040ドルのもみ合いとみる。確率の目安は本線45%、上振れ(0.7078〜0.7091ドルへ)30%、下振れ(0.6950ドルへ)25%と置く。上振れを下振れより厚くしたのは、ハウザー氏の発言が上振れを示唆していることと、原油が前提を大きく上回っていることによる。
中期(11月末まで)。RBAが11月に利上げしても、豪ドル米ドルの上値は5月7日の欧州中央銀行(ECB)参照レート0.7257ドルが目安になり、それを超えるには米金利の低下が要る。本誌は0.69〜0.715ドルのレンジを想定する。見立てを撤回するのは、終値で0.6900ドルを割り込んだときである。10月の安値0.6895ドル近辺を下回れば、レンジの下限が崩れたと判断する。
豪ドル円で取引する人へ
日本の個人投資家が多く取引する豪ドル円は、27日7時58分時点で110円46銭。10月の値幅は108円65銭〜111円29銭で、その中ほどにいる。8月27日の高値114円96銭からは4円以上下だ。RBAの4.60%と日銀の1.25%の差は3.35ポイントあり、これが豪ドル円を買い持ちしたときのスワップポイントの源になる。RBAが利上げすれば差は広がり、日銀が利上げすれば縮む。発表は東京の取引時間中の9時30分で、値が飛びやすい時間帯である。指値や逆指値の置き方はFX解説ページも参考にしてほしい。週の前半の見通しはこちらの記事にまとめた。
まとめ——体温計の読み方、覚えて帰る3点
医師はすでに熱が高いと言い、市場は処方が出る方に賭けている。28日の体温計は、その賭けを確かめる場面である。覚えて帰ってほしいのは三つだ。一つ目、見るべきは四半期のトリム平均で、見出しの月次CPIではない。二つ目、1年前の高い体温が抜けるので、前年比は動きにくく、前期比の0.8%からの変化が勝負を分ける。三つ目、豪ドル米ドルは豪州の体温だけでなく、29日未明のFOMCという米国の天候にも左右される。
| 日時(日本時間) | イベント | 見るところ |
|---|---|---|
| 10月28日 9:30 | 豪9月CPI(月次)と7〜9月期の四半期CPI | トリム平均の前期比が0.8%からどれだけ上がるか |
| 10月29日 3:00 | FOMCの声明発表 | 米金利とドルの方向 |
| 10月29〜30日 | 日銀の金融政策決定会合(30日に展望レポート) | 豪ドル円の金利差 |
| 11月3日 12:30 | RBAの政策金利発表と金融政策報告 | 4.85%への利上げの有無と新しい物価見通し |
主な参照
- CPIの発表日時、8月の月次CPI(前年比4.0%、トリム平均3.6%)/豪州統計局
- 四半期トリム平均の推移/豪州統計局
- 政策金利の推移/豪州準備銀行、会合日程/豪州準備銀行
- 8月の金融政策報告(トリム平均とブレント原油の前提)/豪州準備銀行
- ハウザー副総裁の発言(10月21日)/Australian Broker News
- 9月の雇用統計/豪州統計局
- 豪ドル米ドルの欧州中央銀行参照レート(52週の高値・安値)/Frankfurter
- 日銀の政策金利/日本銀行、FOMCの日程/米連邦準備制度理事会
データ基準日:為替は2026年10月27日7時58分(日本時間)の気配で、取引時間中の値であり終値ではない。0.7042ドルの戻り高値、10月の安値、各水準は時間足データから本誌が整理したもので、情報ベンダーにより差がある。ブレント原油は12月限の26日の清算値。市場予想(トリム平均の前期比1.0%、前年比3.6%)と利上げ確率は報道された値で、本誌は調査元や取引所のデータを直接確認していない。資産運用会社の売り越しが過去最大との内容は報道にもとづく。前年比の計算値、確率の目安、水準の見通しは本誌の見立てであり、将来の相場を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の通貨の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















