10月28日水曜、午後2時、ワシントン。米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を3.75〜4.00%に据え置いた。採決は10対2。反対した2人はいずれも利上げを求めていた。その13時間後、日本時間29日15時56分(米東部時間2時56分)、金のスポット価格は1オンス4,033ドル30セント(Kitco、売値ベース)と、前日比0.82%安で取引されていた。
1月に付けた最高値5,595ドルから、約28%下である。それでも、ロイターが10月27日に公表したアナリスト調査では、2027年の予想中央値は4,650ドルと3カ月前より上がっていた。足元は売られ、来年は上がる。金をめぐる物語は、いま二つの時間軸に引き裂かれている。
金をめぐる10カ月と、これからの24時間
読み方:時刻は日本時間。最高値からの下げは約28%だが、アナリストの2027年予想はむしろ引き上げられた。今夜の米物価統計とECB、明日の日銀が次の章になる。出所:ロイター、investingLive、Kitco、米商務省経済分析局。
シーン1——2つの反対票
市場が驚いたのは、据え置きそのものではなかった。反対票の主である。investingLiveによれば、リサ・クック理事が利上げを主張して反対に回った。4年以上にわたって多数派と歩調を合わせてきた理事の、予想外の離反だった。もう1人はクリーブランド連銀のベス・ハマック総裁で、4月と7月に続いて引き締めを求めた。
議長席のケビン・ウォーシュは、会見で「インフレ率を2%に戻すことが最優先だ」と語った。物価の安定にはまだ届いていない、とも述べた。市場が12月の利上げを織り込んでいることについて、ウォーシュはその見方を打ち消そうとはしなかった。
利息を生まない金にとって、これは向かい風の言葉である。金利が上がれば、金を持ち続けることの機会費用、つまり代わりに債券を持っていれば得られたはずの利息が大きくなる。同じ29日15時28分、米10年国債の利回りは5.007%(日経電子版)にあった。
巻き戻し——5,595ドルからの10カ月
時計を1月に戻す。ロイターによれば、金はこの月に5,595ドルの最高値を付け、銀も121ドル60セントの最高値を付けた。そこからの下げは、ほぼ一本道だった。
転機を作ったのは、イランをめぐる戦争である。原油高が物価を押し上げ、物価高が金利を押し上げ、金利高がドルを押し上げた。investingLiveは、この連鎖によって金が年間で11年ぶりの大きな下げに向かっていると伝えている。9月にはFRBが利上げに踏み切った。10月の金は、Kitcoの29日の売値で見て4,000ドル台の前半まで沈んだ。銀は53ドル前後で、最高値の半分にも届かない。
同じ頃、東京の個人投資家にとって、金の値段はドルほどには下がっていない。29日15時43分のドル円は157円80〜82銭(日経電子版)で、国際価格を円に直すと1グラムおよそ2万460円になる。税や手数料を含まない本誌の換算だが、円安がドル建ての下げの一部を吸収していることは確かだ。
対立軸——「回復する」と「床は4,000ドル」
それでも、金を見放した専門家は少ない。ロイターが10月27日に公表した調査には、30人のアナリストとトレーダーが答えた。2026年の予想中央値は4,495ドルで、3カ月前の4,509ドルから2期連続の下方修正となった。だが2027年は4,650ドルと、前回の4,610ドルから引き上げられている。
ここで一つ注意がいる。2026年の4,495ドルは年間の平均値の予想であり、1月の高値圏を含んでいる。残り2カ月で4,495ドルまで戻るという意味ではない。先を見た数字として意味があるのは2027年の4,650ドルのほうで、29日のKitcoの売値より15%高い。
強気の側に立つのは、スタンダードチャータードのスキ・クーパーだ。「今後数カ月で価格は値固めを経て回復するとみている」。根拠に挙げたのは、ドル離れと通貨価値の目減りへの備えである。StoneXのロナ・オコンネルは、中央銀行の買いについてこう語った。「リスク管理についての市場へのメッセージを送っている。それは現物の数量よりも重要だ」。
UBSはもう少し慎重に、しかし同じ方向を見ている。investingLiveによれば、UBSは中央銀行の買い、中国の需要、政府債務への懸念という3本の柱が、4,000ドル近辺に床を作るとみる。ただし、その4,000ドルを持続的に割り込めば、押し目買いの床という前提そのものが試される、とも付け加えた。29日の安値は4,021ドル50セント(Kitco)。床までの距離は、わずか21ドル50セントだった。
対立の構図は明快である。金利とドルという「いまの重力」と、中央銀行と通貨不安という「来年の浮力」。調査の数字は浮力の側に傾いているが、値札は重力に従って動いている。
クライマックス——4,069ドルから4,021ドルへ
FRBの声明から一夜明けた29日の取引で、金は一度4,069ドル90セントまで買われた。そこから売りが勝り、安値は4,021ドル50セント。Kitcoが示したこの日の値幅は48ドル40セントだった。米東部時間の未明、ロンドンが開く前に、金は4,033ドル台に落ち着いた。
日経電子版は29日、2027年3月までの米利上げの予想回数が1.8回に下がったと伝えている。FOMCで「利上げの長期化」観測がやや後退した、という読みである。金にとっては悪くない材料のはずだった。それでも買いは続かなかった。2人の反対票が残した余韻のほうが、市場には重く響いたのかもしれない。
エピローグ——今夜21時30分
物語の次の章は、今夜に始まる。日本時間21時30分、米商務省経済分析局(BEA)が9月の個人所得・支出を公表する。FRBが物価の物差しとして重視する個人消費支出(PCE)物価指数が含まれる。その45分後の22時15分には、欧州中央銀行(ECB)が政策金利を発表する。翌30日には日銀の決定が続く。
残された問いは一つだ。UBSの言う4,000ドルの床は、本当に床なのか。29日の安値はその21ドル50セント上で止まった。ロイターの調査に答えた30人の多くは、来年の金をいまより高く見ている。だがウォーシュの「最優先」という言葉が12月の利上げに変われば、その来年にたどり着く前に、床はもう一度試されることになる。金価格の水準と撤退線はFOMC前の見通し記事で、ドル安でも金が下がる仕組みはこちらで解説している。
主な参照
- 金スポット価格(10月29日米東部時間2時56分の売値・買値、日中の高値・安値)/Kitco
- FOMCの決定(3.75〜4.00%で据え置き、10対2、クック理事とハマック総裁の反対、ウォーシュ議長の発言)/investingLive
- FOMCの声明(2026年10月28日)/米連邦準備制度理事会
- ロイターのアナリスト調査(30人、2026年・2027年の予想中央値、最高値、スタンダードチャータードとStoneXの発言)/ロイター(Yahoo Finance掲載)
- 金が年間で11年ぶりの下げに向かう、UBSの4,000ドルの床/investingLive、investingLive(UBS)
- 米10年国債利回り、ドル円、米利上げ予想回数(10月29日)/日本経済新聞
- 9月の個人所得・支出の公表日時/米商務省経済分析局
データ基準日:2026年10月29日15時56分(日本時間)。金のスポット価格はKitcoの売値で、取引時間中の数値であり終値ではない。日中の高値・安値も同時点までのものである。ドル円と米10年債利回りは日経電子版の同日15時台の気配値。円換算の1グラム価格は本誌の計算で、消費税や販売手数料を含まず、国内の店頭価格とは一致しない。ロイターの調査の2026年予想は年間平均値の予想である。発言の訳は本誌による。米9月PCEとECBの決定は本稿公開時点で未発表であり、その内容は反映していない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














