10月29日木曜、ニューヨーク。午前9時30分の寄り付きで、サービスナウ(NOW)の最初の値は120.91ドルだった。前日の終値150.13ドルから2割近く下である。その30分後の10時01分、株価は114.20ドル、前日比23.93%安まで沈んでいた。同じ時刻、サイバーセキュリティ大手のフォーティネット(FTNT)も137.47ドル、21.03%安。2社とも前日夕方に発表した決算は、売上高で会社計画の上限を上回っていた。
市場は「好決算」を買わなかった。売られた理由は、2社とも今四半期の数字ではなく、その先にある成長の傾きにある。サービスナウでは受注残の伸び、フォーティネットではサービス収入の伸びが、それぞれ市場の想定より緩やかになった。本稿は、前夜の夕方から翌朝の寄り付き後30分までに起きたことを時系列で追う。
28日夕方から29日朝までの時系列(米東部時間)
読み方:2社とも発表から寄り付きまでの間に2割前後の値下がりが決まり、寄り付き後はサービスナウが下値を広げ、フォーティネットは戻した。出所:両社の発表資料、stockanalysis.com、時間外の株価はYahoo FinanceとTipRanksの報道。29日の値は取引時間中。
午後4時5分、フォーティネットの「3度目の上方修正」
話は前日、28日水曜の夕方に戻る。この日の通常取引で、フォーティネットはすでに5.90%安の174.08ドルで引けていた。同じ日の取引時間中には、ネットワーク機器とセキュリティを手がけるF5が決算後に18%安となっており、同業の決算を前に警戒が先に立っていた。
米東部時間午後4時5分、フォーティネットは7〜9月期決算を発表した。請求額(ビリングス、契約時に顧客へ請求した金額で、先行指標とされる)は前年同期比29%増の23億4,000万ドル。売上高は20%増の20億8,000万ドル、機器を中心とする製品売上高は37%増の7億6,500万ドルだった。非GAAPベースの営業利益率は38.2%で、7〜9月期としては過去最高である。創業者でCEOのケン・ジーは発表文で、2026年の請求額見通しを「今年3度目」に引き上げたと強調した。新しい通期の請求額見通しは95億6,800万〜97億1,800万ドル。自社株買いの枠も12億ドル積み増した。
ただし、発表文の表には別の数字も並んでいた。サービス収入は13億1,340万ドル。前年同期の11億6,560万ドルからの伸びは約12.7%(本誌計算)で、製品売上高の37%増とは大きな開きがある。そして通期のサービス収入見通しは51億5,000万〜51億7,000万ドルと、7月に示した51億8,000万〜52億2,000万ドルから下方修正された。売上高全体の伸びも、4〜6月期の26%から20%へ鈍っている。
サービス収入は、機器に付く保守やセキュリティ更新の契約から毎期積み上がる収入である。製品が一度きりの売上なのに対し、こちらは会社の「家賃収入」にあたる。投資家がフォーティネットに高い評価を与えてきた根拠の一つがここにあった。その見通しが削られたことで、時間外取引では129.68ドル、25.51%安まで売られたと報じられている。決算説明会で財務責任者は、サービス収入の弱さは「タイミングの問題」だと説明したと伝えられている。
同じ夕方、サービスナウの「18.5%」
同じ28日の引け後、企業向けの業務管理ソフトを手がけるサービスナウも7〜9月期決算を発表した。サブスクリプション売上高は39億8,800万ドルで前年同期比21%増、総売上高は41億600万ドルで20.5%増。非GAAPの営業利益率は32.5%と、会社計画を1.5ポイント上回った。AI関連の年間契約額の2026年目標は、年初の10億ドルから17億ドルへ引き上げた。数字だけを並べれば、これも上方修正の決算である。
市場が目を留めたのは、10〜12月期見通しの一行だった。cRPO(今後12カ月以内に売上として計上される見込みの契約残高)の伸びを18.5%と示したのである。7〜9月期のcRPOは136億5,000万ドル、伸びは20.5%だった。アナリスト予想は19.8%前後だったと報じられており、伸びの鈍化が予想より大きいことになる。非GAAPの1株利益も1.00ドルと、市場予想の1.02ドルに届かなかった。
決算説明会では、7〜9月期の上振れの約半分は、本来10〜12月期に予定されていた契約更新が前倒しで入ったためだと説明されたと伝えられている。前倒しされた分だけ、次の四半期の数字は薄くなる。会計上の「タイミング」の話だというのが会社側の立場であり、多くのアナリストもおおむねこの説明を受け入れていると報じられている。それでも株価は、時間外取引で124.45ドル、17.11%安まで下げた。
なぜ「タイミング」の説明が効かなかったのか
2社の経営陣はいずれも、弱く見える数字を「時期のずれ」で説明した。その説明が正しかったとしても、株価がここまで下がったのには別の理由がある。上がり方である。
フォーティネットの株価は、1月2日の終値77.88ドルから10月9日の194.75ドルまで、9カ月余りで2.5倍になっていた。サービスナウも、4月10日に年初来安値83.00ドルを付けたあと、4月28日の90.49ドルから10月28日の150.13ドルまで、半年で約66%上げていた。どちらも「AIの時代にも勝ち残るソフトウェア」として買い直されてきた銘柄である。株価がそこまで上がった後では、「計画を上回った」だけでは足りない。次の四半期の伸びが加速しなければ、高い株価の根拠が崩れる。
もう一つの背景は、AIがソフトウェア企業の稼ぎ方を変えるのではないかという疑念である。AIの業務代行が広がれば、人の数に応じて課金するソフトの契約数は減るかもしれない。この見方はこの1年、ソフトウェア株を何度も揺らしてきた。サービスナウ自身も4月23日に1日で17.7%下げており、これが過去1年で最大の下落率だった。この日の下げはそれを上回る。今回の見通しは、その疑念を再び呼び起こしたと報じられている。
ソフトウェア・セキュリティ株の騰落率(10月29日 米東部10時01分時点、前日終値比)
読み方:決算を出した2社が2割安、業種全体のETFは3%前後の下げにとどまる。セキュリティの同業は寄り付き後に戻し、売りはフォーティネット固有の材料として切り分けられつつある。出所:stockanalysis.com(取引時間中の値、終値ではない)。
午前10時、売りは業種全体に広がった
29日の寄り付きでは、売りは2社にとどまらなかった。10時01分時点で、ソフトウェア株のETF(上場投資信託)であるiシェアーズ・拡張テック・ソフトウェア・セクターETF(IGV)は2.86%安、サイバーセキュリティ株のETF(CIBR)は2.38%安。アトラシアン(TEAM)は6.52%安、ワークデイ(WDAY)は4.55%安、セールスフォース(CRM)は3.74%安だった。
サイバーセキュリティの同業は、寄り付き直後に売られた後で戻している。パロアルトネットワークス(PANW)は始値368.83ドルから386.17ドルへ戻し、下落率は2.11%に縮小した。クラウドストライク(CRWD)も始値254.34ドルから265.68ドルまで戻し、0.37%安にとどまる。業種全体を売る動きと、フォーティネット固有の問題を切り分ける動きが、最初の30分のうちに並んで起きた。
フォーティネットにも同じ動きが見える。始値127.96ドルは時間外の安値圏とほぼ同じで、そこから10時01分には137.47ドルまで戻した。一方のサービスナウは、始値120.91ドルから112.37ドルまで下値を広げ、10時01分も114.20ドルと、寄り付き後に売りが続いた側に属する。同じ「好決算売り」でも、30分の値動きは逆向きだった。
鈍化した「先の伸び」(前年同期比、%)
読み方:今期の数字は計画を上回ったが、売られたのは次の伸びの数字である。サービスナウはcRPOの伸びが2ポイント下がる計画、フォーティネットは売上高全体とサービス収入の伸びが鈍っている。出所:両社の決算発表資料(米証券取引委員会への提出書類)、市場予想は報道、サービス収入の伸びは本誌計算。
強気派と慎重派、それぞれの言い分
強気派の言い分は、数字の中身にある。サービスナウの受注残全体(RPO)は297億ドルで22%増と、cRPOより速く伸びている。会社は通期のフリーキャッシュフロー利益率の見通しを36%に引き上げた。フォーティネットも請求額は29%増で、通期見通しを3回引き上げている。両社とも、事業が崩れたことを示す数字は出ていない。アナリストの反応も目標株価の引き下げが中心で、投資判断の引き下げは目立っていないと報じられている。トゥルーイストはフォーティネットの目標株価を200ドルから175ドルへ下げつつ「買い」を維持し、ジェフリーズは190ドルから145ドルへ下げて「中立」を維持したと伝えられている。
慎重派の言い分は、伸び率の向きにある。フォーティネットの売上高の伸びは26%から20%へ、製品売上高は52%増から37%増へ、四半期ごとに鈍っている。サービス収入の見通しは下方修正された。サービスナウのcRPOの伸びは20.5%から18.5%へ下がる計画だ。株価が9カ月で2.5倍になった銘柄、半年で66%上げた銘柄にとって、成長の減速は「タイミング」では済まない、という見方である。
株価の位置も2社で違う。前日までの200営業日の終値平均は、サービスナウが115.28ドル、フォーティネットが127.78ドル(本誌計算)。サービスナウは10時01分時点でこの平均線をわずかに下回り、フォーティネットはまだ1割近く上にいる。半年かけて積み上げた上げ幅を、サービスナウは1日でほぼ吐き出した計算になる。
日本の投資家にとっての意味
日本から米国のソフトウェア株を持つ投資家にとって、この日の教訓は二つある。一つは、決算の見出しの「上回った」と、株価が反応する数字は別物だということだ。サブスクリプション型の企業では、今期の売上高よりも、受注残(cRPO)や継続収入(サービス収入)の伸びの方向が株価を動かす。決算の速報を読むときは、この二つの数字を先に探す必要がある。
もう一つは、決算をまたいで持つことの重さである。この日、2社の株価は寄り付きの時点ですでに2割前後下にあった。日本時間では29日の朝5時すぎに発表があり、日本の投資家の多くが寝ている間に値段が付け直された。米国株の個別銘柄で決算をまたぐなら、2割の窓開けが起こり得ることを前提に持ち高を決める必要がある。ソフトウェア株の投資信託やETFで持っている場合、1銘柄の急落の影響は薄まるが、この日のIGVのように業種全体が数%売られる日はある。
残された問いと、次の日付
残された問いは、経営陣の言う「タイミング」が本当にタイミングなのか、という一点に尽きる。サービスナウについては、1〜3月期に前倒し分の反動が消え、cRPOの伸びが20%台へ戻るかどうか。フォーティネットについては、サービス収入の伸びが12%台から上向くかどうか。その答えが出るのは、どちらも来年の決算である。
それまでの間、ソフトウェア株の空気を決めるのは同業の決算である。同じ夜には、アマゾンとアップルが決算を発表する。前日にアルファベットが時間外で売られた流れとあわせ、「上回っても売られる」相場がどこまで続くかは、この週の残りの決算が答えることになる。
主な参照
- サービスナウの2026年7〜9月期決算(サブスクリプション売上高、cRPO、RPO、利益率、10〜12月期と通期の見通し)/米証券取引委員会への提出書類(2026年10月28日)
- フォーティネットの2026年7〜9月期決算(請求額、売上高、サービス収入、見通し、自社株買い)/フォーティネット投資家向け発表(2026年10月28日午後4時5分)
- フォーティネットの7月時点の通期見通し(サービス収入51億8,000万〜52億2,000万ドル、4〜6月期の売上高26%増)/米証券取引委員会への提出書類(2026年7月)
- サービスナウのcRPOの市場予想、決算説明会での前倒し更新の説明、時間外の株価/Yahoo Finance、Investing.com
- フォーティネットの時間外の株価、目標株価の変更/TipRanks、Investing.com
- 株価(10月29日の始値・高値・安値・10時01分の値、過去1年の日足終値)/stockanalysis.com
データ基準日:2026年10月29日 米東部時間10時01分(日本時間23時01分)。10月29日の株価はすべて取引時間中の値であり、終値ではない。比較に使った前日の値と過去の値は終値である。時間外取引の株価、アナリスト予想、決算説明会での発言、目標株価の変更は報道にもとづくもので、本誌は一次資料で確認できていない。サービス収入の伸び率と200営業日の終値平均は本誌の計算による。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















