寄り付きの窓を見て、売りから入った向きは青くなっただろう。10月29日、イーライリリー(LLY)は前日終値1,288.30ドルから1,332.73ドルで寄り、寄り値をほとんど割らずに買われた。米東部時間10時29分時点で1,380.95ドル、前日比7.19%高。日中高値は1,408.38ドルで、10月22日に付けた過去1年の高値1,321.21ドルを上抜いている。終値ベースの最高値は同じ22日の1,306.69ドルで、これも取引時間中の値ではすでに大きく超えた。
材料は寄り付き前に出た7〜9月期決算だ。売上高は前年同期比39%増の244億ドル、通期の売上高見通しは850億〜870億ドルから910億〜920億ドルへ引き上げた。今年3度目の上方修正である。筆者の見立てを先に書く。強気だ。ただし今日の値段を追いかけて買う場面ではない。窓の下端、1,300ドル前後まで押す日を待つ。以下、その根拠と、逆になったときの撤退線を置く。
テープ:窓を開けて、寄り値を割らない
値動きの形がいい。前日の高値は1,299.43ドル、今日の安値は1,330.00ドル。約30ドルの窓(ギャップ)を開けたまま、寄り付き直後の押しも寄り値のわずか下で止まった。決算で窓を開けた銘柄は、寄り付き後に利食いで窓を埋めにいくことが多い。それが起きていない。出来高も10時29分時点で175万株と、前日1日分の約206万株に迫っている。買っているのは短期の踏み上げだけではない、と筆者はみている。
日柄も見ておく。10月13日の終値1,166.51ドルから、今日の1,380.95ドルまで12営業日で約18.4%上げた。50日移動平均(前日までの50営業日の終値平均、本誌計算)は1,191.80ドル、200日移動平均は1,088.00ドル。株価は50日線の15.9%上にいる。短期で上げすぎの水準に入りつつあるのは確かで、これが「追いかけない」理由の一つ目である。
中身:数量53%増、値段15%下げ
相場師が決算書で見るのは一点だけ、この上げに続きがあるかどうかだ。その意味で一番効いた数字は、売上高39%増の内訳である。数量が53%増え、実際の販売価格は15%下がった。米国では数量41%増に対して価格7%下げ、米国外では数量76%増に対して価格29%下げ。値段を下げて、それ以上に数を売っている。肥満症・糖尿病薬で競争が激しくなっても、数量で押し切れているということだ。
主力の糖尿病薬マンジャロは65%増の107億ドル、肥満症薬ゼップバウンドは49%増の53億5,000万ドル。飲み薬の肥満症・糖尿病薬ファウンデイヨ(一般名オルフォルグリプロン)は1億8,400万ドルだった。CNBCの集計による市場予想は約2億2,900万ドルと報じられており、ここは届いていない。飲み薬の立ち上がりの遅さは、上値を追う側が気にしておくべき点だ。
イーライリリーの水準の地図(ドル)
読み方:オレンジが筆者の置いた水準。押し目買いは1,299〜1,307ドルの帯、撤退は終値で1,288ドル割れ。青は10時29分時点の値(取引時間中)。出所:stockanalysis.com、移動平均は本誌計算。
水準の地図
上の地図で見る水準は四つある。まず1,332.73ドル(今日の寄り値)。日中の安値1,330.00ドルは寄り値の2.73ドル下で止まった。これをはっきり割り込めば、寄り付きで買った向きの損切りが出て、窓埋めに向かう。次に1,299〜1,307ドルの帯。前日の高値1,299.43ドルと、10月22日の終値ベースの高値1,306.69ドルが重なる。窓の下端で、かつ前の天井だ。前の天井は抜けた後に下値の支えになりやすい。筆者が押し目買いを考えるのはこの帯である。
その下は1,191.80ドル(50日移動平均)。ここまで下げるなら、今回の決算の上げはほぼ帳消しになる。上は、今日の高値1,408.38ドルが当面の天井になる。決算で窓を開けた日の高値は、数日間の上値の目安として意識されやすい。
筆者の見立て:強気、根拠は三つ
一つ目は、上方修正の幅だ。通期売上高見通しの中央値は860億ドルから915億ドルへ、55億ドル上がった。7〜9月期の売上高のおよそ4分の1に当たる額を、残り3カ月の見通しに上乗せした格好になる。二つ目は、上で見た数量の伸びである。価格を下げても数量が補っている限り、売上は伸び続ける。三つ目は、値動きそのものだ。窓を開けて寄り値を割らず、過去1年の高値を初日で抜いた。需給が締まっている。
ただし、弱気の材料も正直に並べておく。7〜9月期の売上高には約9億ドルの一時的な押し上げが含まれていた。糖尿病薬ジャディアンスの提携に伴うマイルストーン収入4億1,000万ドル(これで終了)と、割戻しの見積もりの修正である。これを除くと伸びはやや小さくなる。また、通期の1株利益(非GAAP)の見通しは35.50〜36.50ドルから35.00〜36.00ドルへむしろ下がった。買収に伴う研究開発費の一括計上(1株4.57ドル)が、事業の上振れ分(中央値で1株4.07ドル)を上回ったためだ。見出しの「上方修正」と1株利益の数字が逆を向いている点は、決算をまたいだ買い方を慎重にさせる。
円相場の前提は157円。リリーは通期見通しの前提に、1ドル=157円、1ユーロ=1.13ドルを置いている。米国外の売上高は47%増の93億ドルと全体の4割近くを占める。円やユーロがこの前提より強くなれば、ドル換算の売上高を押し下げる方向に働く。日本の投資家が円建てで持つ場合は、株価とは別にドル円の動きが損益に乗る点も忘れないでおきたい。
逆になったら:撤退線は1,288ドル
見立てが外れる形ははっきりしている。窓を埋めて、前日の終値1,288.30ドルを終値で割り込むことだ。決算で開けた窓を数日のうちに全部埋めるなら、今日の買いは決算への反射にすぎず、続きはないと判断する。押し目買いは1,299〜1,307ドルの帯で考え、撤退線は終値で1,288ドル割れに置く。値幅にして2%前後で、決算の上げを取りにいく賭けとしては釣り合いが取れていると筆者は考える。
逆に、強気が当たりすぎる形もある。押しを入れずに今日の高値1,408.38ドルを数日で抜いていく場合だ。その場合、筆者は無理に追わない。窓の下を待つと決めた以上、置いていかれるのも相場のうちである。
明日以降の監視リスト
| 見るもの | 水準・日時 | 意味 |
|---|---|---|
| 今日の終値 | 1,332.73ドル(寄り値)の上で引けるか | 上で引ければ窓は開いたまま。強気継続 |
| 押し目の帯 | 1,299〜1,307ドル | 前日高値と前回の終値高値。押し目買いを考える帯 |
| 撤退線 | 終値で1,288ドル割れ | 窓を全部埋めた形。見立ての撤回 |
| 上値の目安 | 今日の高値1,408.38ドル | 抜ければ上昇継続、ただし追わない |
| ドル円 | 10月30日の日銀会合後 | リリーの前提は157円。円建ての損益にも効く |
| 同業の決算 | ノボノルディスクの次の決算 | 肥満症薬の価格競争の温度 |
同じ日の米国株全体の動きは米GDPと物価の記事とソフトウェア株の記事で扱った。ドル円の前提を考えるうえでは、ドル円の見通しも参考になる。
主な参照
- イーライリリーの2026年7〜9月期決算(売上高、数量と価格、製品別売上高、一時的要因、通期見通しと為替の前提)/米証券取引委員会への提出書類(2026年10月29日)
- ファウンデイヨの市場予想(CNBCの集計)、今年3度目の上方修正/Quartz
- 株価(10月29日の始値・高値・安値・出来高、過去1年の日足)/stockanalysis.com
データ基準日:2026年10月29日 米東部時間10時29分(日本時間23時29分)。10月29日の株価と出来高は取引時間中の値であり、終値ではない。前日以前の値は終値(高値は日中高値)である。移動平均と上昇率は本誌の計算。ファウンデイヨの市場予想は報道にもとづく。水準、見立て、撤退線は筆者の整理であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















