10月29日15時20分、イビデン(4062)が中間決算と通期予想の上方修正を出した。1分後の15時21分に株価はこの日の安値9,236円を付け、そこから引けまでの9分で9,859円まで戻した。終値は前日比2.03%高である。発表直後に投げた向きは、引けの板を見て歯噛みしただろう。
筆者の見立ては強気寄りだ。上方修正の幅は8月の41%に比べればわずか4.7%で、最初の売りはそこを嫌ったものだろう。だが修正後の計画をほどくと、下期の営業利益は上期より2割多い前提になっている。しかもその前提の為替は1ドル154円で、足元の157円台より円高側だ。撤退線は今日付けた9,236円。終値で割ったら見立てを引っ込める。
イビデンの水準の地図(10月29日終値時点、分割調整後)
読み方:終値9,859円から撤退線9,236円までは6.3%、窓の上端1万405円までは5.5%。上下の距離はほぼ同じで、30日の寄り付きがどちらに傾くかが最初の分かれ目になる。出所:Yahoo!ファイナンス(29日の高値・安値・終値)、stockanalysis.com(過去の日足)。25日線(約1万501円)は窓の上端の少し上にある。
テープ——高値は朝、安値は発表の1分後
この日の値動きを時刻で並べると、需給の癖がよく見える。寄り付きは前日終値と同じ9,663円。9時48分に1万280円の高値を付け、前日比で6.4%高まで買われた。決算を前にした先回りの買いである。そこから値を消し、発表を待つあいだは前日終値の近辺でもみ合った。
15時20分の開示を受けて、最初に出たのは売りだった。15時21分の9,236円は、朝の高値から10.2%下である。前日に付けた安値9,236円と同じ値で止まったのは、偶然にしてはできすぎている。前日の安値に買いが並んでいたとみるのが自然だろう。そこから引けまでに623円、率にして6.7%戻した。出来高は3,187万株、売買代金は約3,168億円に膨らんだ。
東証は2024年11月から取引終了を15時30分に延ばし、最後の5分は引け値を決める板寄せになっている。つまり15時20分の開示を株価に織り込む時間は、ザラ場の5分と引けの板寄せしかなかった。本格的な値付けは30日の寄り付きになる。今日の終値は答えの半分にすぎない。
需給の解剖——3日で2割上げたあとの決算
投げが出た理由は単純だ。決算の前に買われすぎていた。10月26日の終値8,248円から、27日に8.54%高、28日に7.94%高、そして今日の2.03%高。3営業日で19.5%上げている。その前の10月22日には9.49%安、23日には一時7,883円まで売られていた。往復ビンタのような値幅で、日柄の短い資金が出入りしているのは明らかだ。
もう一つは前回の記憶である。8月4日の第1四半期決算では、通期の経常利益予想を900億円から1,270億円へ41.1%引き上げた。翌8月5日の株価はストップ高の24.49%高。あの再現を狙って決算をまたいだ買い方にとって、今回の修正幅は物足りなかった。修正後の数字は次の表のとおりである。
| 2027年3月期の通期予想 | 8月4日時点 | 10月29日修正後 | 修正率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 5,500億円 | 5,650億円 | +2.7% |
| 営業利益 | 1,270億円 | 1,330億円 | +4.7% |
| 経常利益 | 1,270億円 | 1,345億円 | +5.9% |
| 純利益 | 840億円 | 890億円 | +6.0% |
| 中間配当(分割後) | 7.50円 | 10.00円 | +2.50円 |
上期の実績そのものは強い。売上高は2,625億円で前年同期比34.3%増、営業利益は601億円で84.6%増だった。主力の電子事業は売上高1,725億円で52.0%増、営業利益は500億円で96.7%増と、ほぼ倍になっている。会社は生成AI用サーバー向けを中心とした高付加価値品の受注増と製品構成の改善、それに円安を理由に挙げた。
数字をほどく——下期は上期より2割多い計画
修正率だけ見ていると見落とすのがここだ。通期の営業利益1,330億円から上期の601億円を引くと、下期は729億円になる。上期より21.2%多い。電子事業に絞ると、通期計画1,140億円から上期の500億円を引いた下期は640億円で、上期比27.9%増だ。計画は加速を前提に組まれている。
イビデンの営業利益:上期の実績と下期の計画(億円)
読み方:修正後の通期予想から上期の実績を引くと、下期の営業利益は上期より21.2%多く、電子事業に限れば27.9%多い計画になる。出所:イビデンの中間期決算短信と補足資料(2026年10月29日)、下期は本誌の差し引き計算。
四半期で見ても勢いは落ちていない。第1四半期の営業利益は269億円だった。上期の601億円から引くと、第2四半期は332億円で、前の四半期より23.6%増える計算だ。売上高も第1四半期の1,232億円から第2四半期は1,393億円へ13.1%増えている。
そして為替だ。決算短信の補足資料によれば、上期の想定レートは1ドル159円で、通期予想の前提は154円に置かれている。日経電子版によると、29日15時43分のドル円は157円80〜82銭だった。前提より3円以上円安にある。上期も会社は円安を増益の理由に挙げており、ここは素直に上振れの余地とみてよい。ただし30日の日銀会合で円高に振れれば、この余地は小さくなる。
同じ日に、会社は河間事業場(岐阜県大垣市)の新工場棟「Cell6」を中心に約1,510億円の設備投資も決めた。稼働は2029年度からで、狙いはCPU向けの高機能ICパッケージ基板だ。開示資料には、AIが学習型から推論型、さらにエージェントAIへ進むなかでCPU向けの需要が増えるとある。当期の業績への影響は軽微とされる。3年先の需要に1,500億円を張れるだけの受注の手応えがある、と筆者は読む。
水準の地図
冒頭の地図に並べた水準を、上から順に確認しておく。値はすべて東証の株価で、10月1日の株式分割(1株→2株)を調整した後のものだ。
- 1万500円前後:25日移動平均線(本誌計算、29日終値ベースで1万501円)。株価はまだこの下にいる。
- 1万405円:10月14日の安値。15日の12.22%安で空けた窓(9,884円〜1万405円)の上端で、戻り売りが待つ水準。
- 1万280円:29日朝の高値。決算前の買いの天井。
- 9,859円:29日の終値。75日移動平均線(同9,832円)のわずか上で引けた。
- 9,236円:発表1分後の安値で、前日安値と同じ値。筆者の撤退線。
- 7,883円:10月23日の安値。ここを割るとチャートは崩れる。
筆者の見立て——押し目は買い、根拠は3つ
はっきり言う。30日に寄り付きで売られる場面があっても、9,236円を割らない限り押し目は買いだとみている。根拠は3つある。
一つ目は、発表直後の売りがすでに試し済みだということだ。最初の投げは前日安値で止まり、引けまでに6.7%戻した。失望の売りが一巡したところで買いが勝った形で、テープとしては悪くない。二つ目は、下期に上期比2割増を見込む計画そのものだ。会社は修正幅を控えめにしつつ、加速を前提にした数字を出した。三つ目は為替の前提が154円と保守的なことで、円安が続けば年明けの第3四半期決算で再び上方修正の材料になる。
上値の目標は、まず窓の上端の1万405円、次に25日線の1万500円だ。前回のようなストップ高は期待しない。修正幅4.7%は、あの再現を正当化する数字ではない。
逆になったら。終値で9,236円を割れば、発表直後の安値を買い方が守れなかったことになる。そのときは見立てを撤回し、10月23日の安値7,883円までの下落を想定する。この銘柄は1日に10%前後動くことが珍しくない。10月だけでも12.22%安と9.49%安が一度ずつある。玉の大きさは、撤退線までの距離ではなく、1日10%動いても耐えられる量で決めてほしい。
前日に本誌が決算前の記事で書いたとおり、過去12回の決算のうち10回で翌営業日に5%を超えて動いている。30日も値幅は大きくなると構えておくべきだ。半導体関連の値がさ株がこの日の東京市場をどう動かしたかは前場の番付にまとめた。
明日の監視リスト
| 時刻(日本時間) | 見るもの | 筆者の着眼点 |
|---|---|---|
| 30日 8時00分〜9時00分 | イビデンの気配値 | 9,859円に対して上か下か。9,236円より下の気配なら撤退線が寄りで試される |
| 30日 昼ごろ | 日銀金融政策決定会合の結果 | ドル円が154円の会社前提に近づくか |
| 30日 前場 | 決算説明会資料の公表後の反応 | スイッチIC向けとCPU向けの受注の手応え |
| 30日 引け | 終値と75日線(9,832円) | 終値で75日線を守れるか |
為替の見通しはドル円の記事に、日銀会合の論点はこちらにまとめている。
主な参照
- 2027年3月期第2四半期(中間期)決算短信、決算短信補足資料(想定為替レート、設備投資計画)/イビデン、補足資料
- 通期連結業績予想の修正及び中間配当/イビデン
- 高機能ICパッケージ基板向け設備投資(約1,510億円)/イビデン
- 第1四半期決算短信(第1四半期の売上高・営業利益)/イビデン
- 8月4日の上方修正(経常利益900億円→1,270億円)と8月5日のストップ高/株探、みんかぶ
- 10月29日の株価(高値・安値の時刻、出来高、売買代金)/Yahoo!ファイナンス
- 日足の終値と移動平均線の計算元/stockanalysis.com
- ドル円(10月29日15時43分)/日本経済新聞
- 東証の取引時間延長(15時30分まで、終了前の板寄せ)/日本取引所グループ
データ基準日:2026年10月29日の東京市場の終値。株価は10月1日付の株式分割(1株→2株)を調整した値で、8月以前の株価もこの基準に換算している。ドル円は同日15時43分の取引時間中の気配値で、終値ではない。第2四半期単独の数値と下期の計画値は、会社が公表した中間期・第1四半期・通期予想から本誌が差し引きで計算した。移動平均線は本誌の計算で、情報ベンダーの数値とは差が出ることがある。安値の時刻はYahoo!ファイナンスの表示にもとづく。上値の目標と撤退線は筆者の見立てであり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















