10月29日木曜、午前9時。東京証券取引所の売買が始まったその瞬間に、ルネサスエレクトロニクス(6723)は7〜9月期の決算を開示した。前日終値は3,100円。寄り付きは3,056円で、この日の高値3,112円は最初の1分で付いた。そこから株価は、ほぼ一方向に下っていく。11時18分に2,837円50銭。前引けは2,851円、249円安(−8.03%)だった。
開示された数字そのものは、悪くなかった。むしろ多くの項目で会社の計画を上回っていた。それでも売られた理由は、7〜9月期の数字ではなく、その先の10〜12月期に隠れていた。この日の朝に起きたことを、時間を巻き戻しながら追っていく。
ルネサス株、最高値から決算の朝まで
読み方:株価は7月の最高値から崩れ、決算前日に一度跳ねたあと、決算の朝に売り直された。出所:ルネサスエレクトロニクスの決算短信、Yahoo Financeの日足終値、株探(10月29日前引け)。
シーン1——「129.7%」という見出しの正体
決算短信の1ページ目には、目を疑う数字が載っていた。国際会計基準(IFRS)で見た7〜9月期の営業利益は5,653億円。売上収益4,359億円に対する営業利益率は129.7%である。売上より利益の方が大きい。
種明かしは短信の注記にある。ルネサスは2026年2月5日の取締役会で、タイミング事業を米SiTime(サイタイム)に譲渡することを決めた。譲渡は7月1日に完了し、その譲渡益4,503億円がこの四半期の利益に乗った。一度きりの利益である。株価を動かすのはこの見出しではなく、会社が本業の物差しとして使う「Non-GAAP」の数字のほうだ。
そのNon-GAAPで見た7〜9月期は、売上収益4,352億円、売上総利益率59.4%、営業利益率34.6%だった。7月31日に会社が示した1〜9月期累計の予想から逆算すると、7〜9月期の計画は売上収益4,225億〜4,375億円、営業利益率は約32.5%だった。売上は計画の中央値4,300億円を1.2%上回り、利益率は2.1ポイント上振れた。成績表の上では、きれいな勝ちである。
巻き戻し——7月1日の5,123円から
時計を4カ月戻す。2026年7月1日、ルネサスの株価は終値5,123円を付けた。過去1年の最高値である。データセンター向けの電源や制御の半導体が伸び、自動車向けの在庫調整も終わりが見えていた。市場はこの会社に、自動車の会社からAIの会社への脱皮を見ていた。
そこから7月末にかけて、株価は崩れた。7月29日の終値は3,170円。1カ月足らずで38%下げている。7月31日に4〜6月期の決算を出すと、その日に7.70%、週明けの8月3日に13.45%上げ、3,905円まで戻した。だが戻りはそこまでだった。10月26日には2,783円50銭まで下げ、28日には米国と韓国の半導体株高に乗って7.47%高の3,100円で引けた。決算の前日に、株価は一度大きく跳ねていたのである。
対立軸——「データセンター」と「利益率の下り坂」
この朝、市場には二つの読み方があった。一つは強気の読みである。1〜9月期の産業・インフラ・IoT向け事業の売上収益は6,560億円で、前年同期比41.1%増えた。会社は主因を「データセンター向け市場の需要の増加」と書いている。自動車向けも5,482億円、15.4%増だった。Investing.comが伝えた決算説明会の要旨によれば、最高財務責任者(CFO)は「データセンターはリードタイムが長期化しており、すでに上半期分のカバレッジを確保している」と述べた。2027年前半の受注はもう埋まっている、という意味だ。
もう一つは慎重な読みである。手がかりは、短信の3ページ目にある通期予想の表だった。ルネサスは通期のNon-GAAP売上収益を1兆6,593億〜1兆6,743億円、売上総利益率を58.6%、営業利益率を33.2%と示した。ここから1〜9月期の実績を引くと、10〜12月期の姿が浮かぶ。本誌の試算では、売上収益は中央値で約4,540億円と7〜9月期から4.3%増える。一方で売上総利益率は約58%、営業利益率は約32%に下がる。
| Non-GAAP | 7〜9月期の計画(本誌試算) | 7〜9月期の実績 | 10〜12月期(本誌試算) |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 4,225億〜4,375億円 | 4,352億円 | 約4,465億〜4,615億円(中央値約4,540億円) |
| 売上総利益率 | — | 59.4% | 約58% |
| 営業利益率 | 約32.5% | 34.6% | 約32% |
売上は伸びるのに、利益率は7〜9月期の34.6%から約32%へ2ポイント以上下がる。Investing.comの要旨によれば、CFOは営業費用について「一時的なものとは考えていない」とも述べた。強気派が見ていたのは売上の坂道で、慎重派が見ていたのは利益率の下り坂だった。この朝の値動きは、後者が勝ったことを示している。
クライマックス——同じ頃、ソウルでは
ルネサスにとって不運だったのは、この朝の舞台が東京だけではなかったことだ。同じ午前、ソウルではサムスン電子が7〜9月期決算を発表した。半導体部門の営業利益は106.5兆ウォンと過去最高だったが、MINKABU PRESSによれば市場予想の108.5兆ウォンに届かなかった。サムスン株は5%超下げ、韓国総合株価指数は11時9分時点で2.34%安。米ナスダック100先物も11時15分時点で1.42%安まで売られた。
ルネサスの株価が安値2,837円50銭を付けたのは11時18分。ナスダック先物が下げを広げた時間帯と重なる。東京では電気機器が33業種で最下位圏に沈み、東証プライムの値下がりは1,022銘柄に達した。同じ朝、日立製作所は8.68%安、NECは7.58%安と、業績予想を引き上げた大型株がそろって売られている。日立の値動きはこちらの記事で、前場全体の勝敗は前場の番付で扱った。
決算の受け止めと、市場全体の売りと。どちらがどれだけ株価を押し下げたのかを切り分ける手段はない。確かなのは、7〜9月期の上振れという追い風が、10〜12月期の利益率の低下と、ソウル発の半導体売りという二つの向かい風に負けたことである。
エピローグ——残された問いと、次の日付
前引けの2,851円は、7月1日の最高値5,123円から44%下にある。昨年11月25日に付けた過去1年の安値1,778円からは、まだ6割高い。ルネサスは、AIの会社として評価されるのか、それとも自動車の会社に戻るのか。この問いに答えが出るのは、利益率が下げ止まるのを確認できたときだろう。
次の日付はすぐに来る。10月30日には日銀が金融政策決定会合の結果を公表し、キオクシアHDと東京エレクトロンが決算を発表する予定だ。米国では29日(米国時間)の引け後にアマゾン・ドット・コムが決算を出す。データセンター投資の総額がどう語られるかは、ルネサスのデータセンター事業の先行きにも関わる。その論点はこちらにまとめた。半導体株の決算をめぐる構図は、SKハイニックスの記事でも描いている。
主な参照
- 2026年12月期 第3四半期決算短信(Non-GAAP・IFRSの業績、通期予想、タイミング事業の譲渡)/ルネサスエレクトロニクス
- 2026年12月期 第2四半期決算短信(1〜9月期累計の会社予想)/ルネサスエレクトロニクス
- 決算説明会の要旨とCFOの発言/Investing.com
- 株価(始値・高値・安値・前引け)/株探
- サムスン電子の決算/Samsung Newsroom、市場予想と韓国株・米株価指数先物の反応(MINKABU PRESS)/株探
- 株価の日足終値(過去の値動き)/Yahoo Finance
データ基準日:2026年10月29日の東京市場の前引け(11時30分)。前引けの株価は取引時間中の数値であり終値ではない。過去の株価はYahoo Financeの日足終値。10〜12月期の数値は、会社が開示した通期予想(Non-GAAP、レンジの中央値)から1〜9月期の実績を差し引いた本誌の試算で、会社の公表値ではない。CFOの発言はInvesting.comの説明会要旨による引用で、会社の公式な書き起こしではない。株価下落の理由について会社からの説明はなく、本稿の整理は本誌の見方である。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















