10月26日月曜、テヘラン。サウジアラビアのハリド・ビン・サルマン国防相、パキスタン陸軍のアシム・ムニール元帥、トルコの情報機関トップ、イブラヒム・カルン氏の3人が、イランのペゼシュキアン大統領の前に並んだ。8月に相互防衛協定を結んだ3カ国が、そろってイランの高官と会うのはこれが初めてだった。同じ日の夕方、ロンドンの北海ブレント原油先物は1バレル115.81ドルで取引を終えた。前週末より91セント安い。戦争の行方を左右しうる会談の日に、原油はわずか0.8%しか下がらなかった。
この「下がらなさ」に、いまの原油市場の空気が凝縮されている。外交の扉は開きかけている。しかしその扉の外では、サウジの石油施設への攻撃が続いている。本稿では、金曜の6カ月ぶり高値から火曜のアジア時間までの数日間を、時系列で追う。
金曜日——6カ月ぶりの高値
物語は10月23日金曜から始まる。この日、ブレントは3ドルあまり上げて116.72ドルで引けた。4月29日以来の高値水準で、週間では6%の上昇だった。米国産のWTI原油は103.27ドルで、週間の上げは2.3%にとどまった(ロイター配信)。中東の供給不安に、より敏感な欧州の指標が先に走った形である。
週末には火種が増えた。イエメンの親イラン武装組織フーシ派は、サウジ東西を結ぶ原油パイプラインのポンプ施設と、リヤドの空港を攻撃したと主張した。サウジ側はこの攻撃を確認していない。一方でサウジ主導の有志連合は月曜、リヤドと南部を狙ったドローン3機を撃墜したと発表している。
巻き戻し——2月28日から続く戦争
ここで時計を戻しておく。米国とイスラエルによるイラン攻撃で戦争が始まったのは2月28日だ。戦火はその後サウジアラビアとイエメンへ広がり、ホルムズ海峡と紅海の出口であるバブ・エル・マンデブ海峡の2カ所で、商業船の通航が乱れ続けている。ワシントン近東政策研究所の集計では、10月はホルムズ海峡とその周辺海域で商船への攻撃が最も多い月になった。
外交の糸もないわけではなかった。9月、イランのアラグチ外相は国連総会の場外で「7日以内にホルムズ海峡を再開する」案を示している。条件は三つ。米国がイランの港湾に対する海上封鎖を解くこと、イラン産原油への制裁を免除すること、そしてレバノンを含む停戦を守ることだ(PBS、9月25日)。トランプ大統領は当時、合意を急いでいないと述べていた。この案はいまも宙に浮いたままである。
6カ月ぶり高値からテヘラン会談まで
読み方:外交の動きが続いた月曜でも、ブレントの下げは1%に満たなかった。攻撃と交渉が同時に進んでいるためである。出所:ロイター、AP(PBS)、The New Arab、OilPrice.com。
日曜と月曜——仲介者たちのテヘラン
25日日曜、カタールの仲介団がテヘランに入った。関係者によれば、米国と連携した動きである。翌26日、冒頭の3人が続いた。会談はパキスタンの要請で開かれ、イラン国営テレビは議題を「地域協力」と「米国とイスラエルによるイランへの侵略とその帰結」と伝えた(ニュー・アラブ)。サウジ外務省は「交渉の回路を開くことの重要性」を強調した。
イラン国営メディアによると、4カ国は会談の最後に、平和と安全保障の協力強化に向けて協議を続けることで一致した。合意文書や停戦の約束が出たわけではない。トランプ大統領は記者団に「今日は攻撃しない」と語り、FOXニュースには、取引するか「終わらせる」かの「決断の時が近づいている」と述べている。
同じ月曜、エジプト議会はシシ大統領に対し、サウジの防衛を支援するため「あらゆる必要な措置」を取る権限を与えた。和平の席が設けられた日に、別の国が参戦の準備を整えた。この二つが同じ日に起きたことが、市場の迷いをよく表している。
強気派と慎重派——20ドルの保険料をめぐって
市場の見方は二つに割れている。慎重派の代表は、米運用会社ギャロ・パートナーズのマイケル・アルファロ最高投資責任者だ。CNBCの取材に、不透明感が原油価格を1バレル約20ドル押し上げていると述べた。外交が実を結べば、その20ドルは剥げ落ちうる。ただし同氏は、ブレントが120〜140ドルを超えれば需要の破壊が進むとも語り、本当の課題は製油能力で、その影響は2027年以降まで残りうるとした。
強気の側には、時間軸の長い警告がある。国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡の混乱が続くなか、エネルギー市場は2027年になっても戦前の状態に戻らない可能性があると述べた。サウジアラビアとシンガポールは、サウジアラムコが2027年後半からシンガポールのジュロン岩盤備蓄基地に原油を貯蔵する計画を発表している。産油国自身が、海峡の外に逃げ道を用意し始めたということだ。
ロイターの記者たちは月曜の値動きを「平和への期待」と「サウジへの攻撃」の綱引きとして描いた。ブレントは日中に2ドル超下げたが、引けでは下げ幅を91セントまで縮めている。仲介者がテヘランにいるあいだも、売り手は最後まで強気になりきれなかった。
火曜のアジア時間——動かない値札
27日火曜、東京で株式市場が引けた午後4時ごろ、ブレントは115.61ドル、WTIは101.46ドルだった。いずれも前日の清算値からわずかに安い水準で、取引時間中の気配値(オイルプライス・ドットコム、11分遅れ表示)である。会談の翌日になっても、値札はほとんど動いていない。
ブレントとWTI(ドル/バレル)
読み方:清算値(終値に相当)と、火曜のアジア時間の気配値を並べた。会談の翌日も、ブレントは115ドル台にとどまっている。出所:ロイター(清算値)、OilPrice.com(気配値、11分遅れ)。
同じ頃、東京では別の物語が進んでいた。自民党の提言案では、ガソリン補助金を12月から毎月5円ずつ縮める方向が示されている。原油が高止まりしたまま補助が細れば、店頭価格の上昇は家計に直接届く。その試算は本日のガソリン補助金の記事で整理した。日本は開戦前の2025年11月時点で、原油輸入の95.1%を中東に頼っていた(経済産業省の石油統計速報、LNEWS)。テヘランの会議室で交わされる言葉は、日本の給油所の値札と細い糸でつながっている。
エピローグ——次の日付
物語はまだ終わらない。27日はイスラエルの総選挙の投票日にあたる。米国では27〜28日に連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれ、結果は日本時間29日未明に出る。30日には日銀が会合を終える。原油の値札にとって最も重いのは、そのどれでもなく、トランプ大統領が「決断の時」と呼んだ判断がいつ下されるかだ。
月曜のテヘランで4カ国が約束したのは「協議を続けること」だけだった。それでもブレントが116ドル台から115ドル台へ下がる理由としては十分だった。そして、それ以上は下がらなかった。外交の扉が本当に開くのか、それとも閉じるのか。答えが出るまで、市場はこの20ドルの保険料を払い続けることになる。ここ1週間の原油の値動きは前日の記事と、ホルムズで7隻被害が報じられた日の記事にもまとめている。
主な参照
- Oil settles lower on peace hopes, Saudi attacks limit losses(10月26日)/ロイター(AOL配信)
- Saudi-led talks in Tehran seek to avert renewed Iran, US war(10月26日)/The New Arab
- Oil prices fall from six-month high as Iran talks ease supply fears(アルファロ氏の発言、トランプ大統領のFOXでの発言)/CoinCentral(CNBC報道の要約)
- Oil prices fall 2% on Iran diplomacy hopes(サウジ・シンガポールの備蓄計画、IEAビロル氏の発言)/Grafa
- Iran has suggested a deal to reopen the Strait of Hormuz in 7 days(9月25日)/PBS NewsHour(AP)
- 原油価格の気配値(10月27日16時ごろ、11分遅れ)/OilPrice.com
- 石油統計速報(2025年11月分)の報道/LNEWS
データ基準日:2026年10月27日(日本時間16時ごろ)。金曜と月曜のブレント・WTIはICE・NYMEXの清算値(ロイター報道)、火曜の数値は取引時間中の気配値であり、終値ではない。両者を混同しないよう注意してほしい。フーシ派の攻撃はフーシ派自身の主張であり、サウジ側は確認していない。トランプ大統領の「決断の時」発言とアルファロ氏の発言はCNBCの報道に基づくもので、本誌は発言の全文を確認していない。日本の中東依存度は開戦前の数値で、足元の比率ではない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。












