レギュラーガソリン1リットル170.1円。経済産業省が10月28日に公表した全国平均(10月26日時点)である。この値段には、国が石油元売りに払う1リットル52.4円の補助金がすでに入っている。補助がなければ店頭の値段は単純計算で220円を超える。その52.4円を決めている原油の値段について、11月2日、米ゴールドマン・サックスが見通しを大きく引き上げた。同じ日、原油の先物は米国とイランの協議への期待で3%近く下げている。私たちの財布にとって、どちらの数字が重いのか。
店頭の170.1円を分解する
店頭の値段は、原油の値段そのものではない。国は10月29日から11月4日の1週間、元売りに1リットルあたり52.4円の補助金を出している。過去最大の水準で、全国平均を170円前後に抑えるのが目的だ。つまり170.1円は「補助で押さえ込まれた値段」であり、原油の動きはまず補助金の額に吸収される。私たちが原油高を直接感じにくいのは、この仕組みのためだ。
ところが、この防波堤は低くなり始める。高市首相は10月29日、12月から補助の基準となる価格を月に5円ずつ引き上げることを基本的な考え方とすると述べた。理由は、補助に1日100億円を超える費用がかかっていることだ。正式な決定はまだで、原油の値段を見ながら判断するとしている。野村総合研究所の木内登英氏は、この方針が4月まで続けば基準価格は195円に達し、補助は27.4円に縮むと試算している。補助の縮小の日程はガソリン補助の記事で詳しく扱った。
上流をたどる:ゴールドマンは何を変えたか
ゴールドマン・サックスの原油予想(ドル/バレル)
読み方:予想は大きく上がったが、12月のブレント予想105ドルは今の値段より約5ドル低い。下がり方が浅くなるという見方である。出所:CNBC、investingLive、oilprice.com。
CNBCなどによると、ゴールドマン・サックスのダーン・ストライフェン氏らは2026年12月の北海ブレント原油の予想を1バレル90ドルから105ドルに、WTIを94ドルに引き上げた。2027年の平均はブレントを80ドルから88ドルへ、WTIを73ドルから78ドルへ上げている。基本シナリオには、2027年に世界で日量100万バレルの供給途絶が起きる前提を新たに組み込んだ。中東とロシア・ウクライナの紛争、地政学的な分断によって「途絶の危険が高い」とし、「途絶の時期と場所を予測するのはほぼ不可能だ」と説明している。
上振れの筋書きも示した。2027年の湾岸の産油量が2025年の平均を日量350万バレル下回る状態が続けば、ブレントは140ドルに達し、2027年の平均は130ドル程度になりうるという。報道によると、ゴールドマンは10月11日にも12月のブレント予想を85ドルから90ドルに上げたばかりで、3週間で2度目の引き上げになる。
ただし、見落とせない点がある。ブレントの期近1月物は日本時間16時前に110.16ドルで取引されていた(oilprice.com、11分遅れの表示)。引き上げた後の12月予想105ドルでも、今の値段より5ドルほど低い。ゴールドマンは「上がる」と言ったのではなく、「下がり方が浅くなる」と言ったことになる。
同じ日、相場は協議の方を見た
市場はこの日、ゴールドマンより中東の協議に反応した。ロイターによると、イランとカタールはドーハで3日続けて協議し、イランのアラグチ外相は協議が「進んでいる」と述べた。ザ・ナショナルによると、米ニュースサイトのアクシオスは、トランプ大統領がイスラエルのネタニヤフ首相に対し、追加の攻撃の前に外交にもう少し時間を与えたいと伝えたと報じた。判断は3日の中間選挙の後になるという。
WTIの期近物は日本時間16時前に100.74ドルと、10月30日の清算値104.12ドルから3.38ドル(3.25%)安い。Google Financeの表示では、この日の安値は100.15ドルで、100ドルの節目まで15セントに迫った。昼の時点で本誌がOPECプラスの記事に書いた安値100.98ドルを、午後にさらに下回ったことになる。ブレントの1月物は110.16ドルで、前週末比2.88%安だった。
一方で、海の上の緊張は解けていない。英国海事貿易作戦(UKMTO)の情報として報じられたところでは、1日にもホルムズ海峡付近で船舶が飛翔体を受けた。10月31日以降、少なくとも10件の事案が起きたとされる。協議への期待と現場の攻撃が同時に進んでいるのが今の相場であり、ゴールドマンが基本シナリオに途絶の前提を入れたのは、この「同時進行」が続くと見ているからだろう。
家計への換算:月50リットルの車で計算する
原油の値段が店頭に届くまでには、補助金と時間差という2つのクッションがある。そこで原油の予想そのものではなく、すでに方向が見えている補助の縮小を、月に50リットル給油する家庭に当てはめた。補助の縮小分がそのまま店頭に乗ると仮定した単純計算である。
| 時期の目安 | 店頭価格(1リットル) | 月50リットルの支出 | 今との差(月) |
|---|---|---|---|
| 現在(10月26日時点) | 170.1円 | 8,505円 | ― |
| 12月(基準を5円上げた場合) | 175円前後 | 8,750円前後 | 約250円増 |
| 2027年1月(10円上げ) | 180円前後 | 9,000円前後 | 約500円増 |
| 2027年4月(野村総研の試算) | 195円 | 9,750円 | 約1,250円増 |
4月まで続けば、年間に直すと約1万5,000円の負担増になる。これは原油の値段が今と変わらない場合の話だ。原油が上がっても、補助の基準価格が上がる局面では、国の補助がその分を吸収する設計は続く。逆に、協議がまとまって原油が大きく下がれば、補助の額が先に減り、店頭の値段はそれほど下がらない可能性が高い。原油の下落が私たちに届きにくいのも、同じ仕組みの裏返しである。
日本の輸入はどこまで中東に頼っているか
経済産業省の石油統計の速報によると、8月の原油輸入に占める中東の比率は60.7%だった。1月の95.1%から大きく下がり、前年同月を35.1ポイント下回っている。11カ月連続の低下である。海峡の混乱で、日本の調達は中東以外へ急いで振り向けられてきた。ただし6割はなお中東であり、海峡の行方が日本の原油の値段を決める構図は変わっていない。
生活防衛と投資の接点:3つの筋書き
今後1〜2週間のWTIの筋書きと確率(本誌)
読み方:基本は膠着だが、下への筋書きの方がやや厚い。確率は本誌の判断で、予測を保証しない。
今後1〜2週間のWTIについて、本誌は3つの筋書きを置く。協議が具体的な合意に近づき、WTIが90ドル台前半まで下がる筋書きを35%とする。協議と攻撃が並行し、98〜106ドルで上下する膠着を40%で基本とする。協議が決裂するか攻撃が拡大し、110ドルを超える筋書きは25%と見る。KCMトレードのティム・ウォーターラー氏は、中間選挙後に言葉の応酬が激しくなればブレントは120ドルに向かいうると述べている。
他の見通しとも並べておく。スイスのUBSは2026年末のブレントを110ドル前後、2027年9月に85ドルと見る。米エネルギー情報局(EIA)は10月の短期見通しで、10〜12月期のブレントを105ドル、2027年の平均を84ドルと予想した。大手の予想はおおむね「年末にかけて100ドル台、来年は下がる」でそろっている。違いは下がり方の速さだけだ。家計の側でできることは限られるが、補助の縮小という確実な変化に合わせて、車の使い方や給油の時期を見直す余地はある。株式の側では、原油高と海運の市況が業績を押し上げる会社もある。本誌は特定の銘柄を勧めないが、原油の筋書きを持つことは、どちらの判断にも役立つ。
次に店頭へ届く変化の日付
- 11月3日(火、米国時間):米中間選挙の投票。トランプ大統領の判断は選挙後とされる
- 11月4日(水):経済産業省の週間ガソリン価格調査(11月2日時点)の公表予定
- 11月5日(木)0時30分:米エネルギー情報局の週間石油在庫統計。米国の夏時間終了で、10月より1時間遅い
- 11月10日:米エネルギー情報局の短期エネルギー見通し(11月版)
- 12月:補助の基準価格の引き上げが始まる予定(正式決定前)
主な参照
- ゴールドマン・サックスの原油予想の引き上げ/investingLive、CNBC
- ゴールドマンの上振れシナリオ(ブレント140ドル)/rallies.ai
- 原油の下落とドーハでの協議、市場関係者の見方/アラブニュース(ロイター)
- トランプ大統領の判断時期、UBSの予想、海峡付近の事案/ザ・ナショナル
- WTIとブレントの気配値/oilprice.com、Google Finance
- 短期エネルギー見通し(10月)/米エネルギー情報局
- ガソリンの全国平均と補助金の額/共同通信(琉球新報)
- 補助縮小の方針/テレビ朝日系(KSB)、試算は野村総合研究所
- 原油輸入の中東比率(8月速報)/LNEWS(経済産業省の石油統計速報)
データ基準日:2026年11月2日(日本時間16時前)。WTIとブレントの値段は取引時間中の気配値(oilprice.comの11分遅れ表示)であり、終値ではない。10月30日の比較値はWTIが清算値、ブレントは1月物の前日比から逆算した値である。ゴールドマン・サックスの予想は報道によるもので、本誌は同社のリポートを直接確認していない。140ドルの上振れシナリオと以前の予想値は二次的な報道に基づく。海峡付近の事案の件数は報道ベースである。家計換算表は補助の縮小分がそのまま店頭価格に乗ると仮定した単純計算で、実際の価格は原油や為替で変わる。12月以降の補助の縮小は正式決定前である。筋書きの確率は本誌の判断であり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。












