2018年11月7日、米中間選挙の開票から一夜明けたニューヨークで、S&P500は前日比2.12%高の2,813.89で引けた。民主党が下院を奪い返し、上院は共和党が守る。事前の予想どおりの「ねじれ議会」に、市場は安堵の買いで応えた。だが7週間後のクリスマスイブ、同じ指数は2,351.10まで沈んでいた。9月20日の終値からは19.8%の下落である。8年後のきょう、再びトランプ大統領のもとで中間選挙が11月3日に迫り、株式市場は2週間前とは違う顔で投票日を迎える。
本稿は、2026年の中間選挙を2018年の鏡に映して読む。結論を先に書けば、選挙の結果そのものは大半が値段に織り込まれている。予測市場は民主党の上下両院制覇に約7割の確率を付けている。株価を左右するのは選挙の夜よりも、その後の米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ判断である。2018年に指数を沈めたのも、選挙ではなく12月の利上げだった。
投票日前夜の数字:予測市場は「民主党の両院制覇」に約7割
まず現在地を確かめる。予測市場ポリマーケットの「議会の勢力図」市場では、日本時間11月2日午前3時4分の時点で、民主党が上下両院を制する確率が69.5%、下院は民主党・上院は共和党という「ねじれ」が22.5%、共和党が両院を維持する確率が4.5%だった。院ごとに見ると、民主党が上院を取る確率は71.5%、下院は94.5%である。もう一つの大手、カルシでも、11月1日(日曜)朝に民主党の両院制覇が約70%、ねじれが27%と報じられた。9月上旬には両院制覇の確率は50%を下回っていたというから、この2カ月で民主党側へ大きく傾いたことになる。
世論調査も同じ方向を指す。ロイターとイプソスが10月26日に締め切った全米調査では、トランプ大統領の支持率は32%で、前週の過去最低から1ポイント戻しただけだった。どちらの党の候補に投票するかを尋ねる「総括投票」では、登録有権者の47%が民主党、36%が共和党を選んだ。現在の議会は上院が共和党53対民主党系47で、下院も共和党がわずかに多数を握る。下院は435議席すべて、上院は100議席のうち35議席が改選される。キャピタル・グループの集計では、過去23回の中間選挙で大統領の与党は下院で平均27議席、上院で平均3議席を失ってきた。与党が両院で議席を増やした例は2回しかない。
ただし、予測市場の確率は当選の保証ではない。上院は激戦州がいくつも残り、ジョージア州で過半数を取る候補が出なければ、2027年1月の決選投票まで上院の行方が決まらない筋もある。
2018年と2026年、同じ点と違う点
鏡に映す前に、二つの年を並べておく。似ているのは政治の構図と、選挙直前の相場の荒れ方である。違うのは金利と円の水準、そして選挙の「驚き」の向きだ。
| 項目 | 2018年(トランプ1期目の中間選挙) | 2026年(2期目の中間選挙) |
|---|---|---|
| 選挙前の議会 | 共和党が上下両院を支配 | 共和党が上下両院を支配(上院53対47) |
| 事前の予想 | 民主党が下院、共和党が上院(ねじれ) | 民主党の両院制覇が69.5%(ポリマーケット) |
| FRBの政策金利 | 2.00〜2.25%。12月19日に2.25〜2.50%へ利上げ | 3.75〜4.00%。10月28日は据え置きだが、2人が利上げを主張 |
| 米10年債利回り | 3.22%(11月6日) | 4.94%(10月30日) |
| ドル円(ECB参照レート) | 113.15円(11月6日) | 157.25円(10月30日) |
| 選挙直前の株価 | 9月20日の最高値から下落中 | 10月30日にS&P500が1.82%安、6月以来の大幅安 |
| 東京市場 | 11月7日(水)に通常取引 | 11月3日は文化の日で休場。開票は4日(水)の取引時間中に進む |
奇しくも、選挙の直前に株価が崩れた点は2018年とよく似ている。10月30日のS&P500は140.32ポイント安の7,580.07で引け、6月以来の大幅な下げとなった。ナスダック総合指数は747.73ポイント安の25,437.00である。AIへの過大な期待を疑う売りがハイテク株に広がった。この下げの中身は10月30日の米国株の番付にまとめてある。
当時、その後に起きたこと
2018年の時計を少し巻き戻す。投票日前日の11月5日、S&P500は0.56%高の2,738.31だった。投票日の6日は2,755.45で引け、開票翌日の7日は58.44ポイント高の2,813.89まで買われた。ナスダック総合指数も2.64%上げた。予想どおりの結果が出たことで、不透明感が晴れたという買いである。
2018年の中間選挙:開票翌日の安堵から7週間
読み方:選挙の結果は予想どおりで、翌日は2%超の上昇となった。下げの引き金はその6週間後の利上げだった。出所:IANS(ビジネス・スタンダード)、ボストン・グローブ、米連邦準備制度理事会、米財務省、欧州中央銀行の参照レート。
安堵は長続きしなかった。FRBは12月19日、政策金利の誘導目標を2.25〜2.50%へ引き上げた。その3営業日後の12月24日、S&P500は半日取引で2,351.10まで下げた。開票翌日の終値からは16.4%安である。米10年債利回りは11月6日の3.22%から12月24日には2.74%まで下がった。ECB参照レートで見たドル円も、113.15円から110.86円へ2円29銭の円高になった。株安、金利低下、円高が同時に進んだ。選挙で決まった「ねじれ議会」がこの下げを起こしたわけではない。引き金は金融政策だった。
三井住友DSアセットマネジメントは1982年以降の11回の中間選挙を検証している。それによると、選挙後3カ月のS&P500の平均騰落率は+5.9%で、11回中9回が上昇した。下落したのは2002年の−7.8%と2018年の−0.9%だけである。2018年は選挙前3カ月も−3.3%で、11回の中で選挙の前後とも下げた唯一の年だった。日経平均も2018年は選挙前3カ月が−1.6%、選挙後3カ月が−5.8%と冴えなかった。
中間選挙後3カ月のS&P500騰落率(1982〜2022年の11回)
読み方:11回中9回で上昇し、平均は+5.9%。下落は2002年と2018年の2回だけで、2018年はトランプ大統領1期目の中間選挙だった。出所:三井住友DSアセットマネジメント「市川レポート」(2026年10月5日、Bloombergのデータを基に作成)。
「今回は違う」論を検証する
楽観論の根拠は統計である。キャピタル・グループの集計では、1950年以降、中間選挙の投票日から1年後のS&P500の騰落率は平均15.4%で、それ以外の年のほぼ2倍だった。一方で、1970年以降の中間選挙の年は、リターンの標準偏差の中央値が16%近くと、ほかの年の13%を上回る。選挙の前は荒れ、選挙が終われば戻る。これが平均的な姿である。
では、今回は平均の側に立つのか、2018年の側に立つのか。構造的な違いは3つある。第一に金利の水準である。米10年債利回りは10月30日に4.94%で、2018年より1.7ポイント高い。株価の割高感を測る物差しが当時より厳しい。第二にFRBの構えである。10月28日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は政策金利を3.75〜4.00%に据え置いたが、10対2の採決で、クック理事とハマック・クリーブランド連銀総裁は0.25ポイントの利上げを求めた。次回のFOMCは12月8〜9日で、投票日の約5週間後にあたる。2018年は投票日の6週間後に利上げが決まった。今回も選挙のすぐ後に利上げの判断が控える。第三に、選挙の驚きの向きが逆になる。2018年は予想どおりの結果が出て、驚きはなかった。今回は民主党の両院制覇がすでに7割近く織り込まれており、予想を外れるとすれば共和党が上院を守る側である。
政策面の含意も整理しておく。民主党が両院を取れば、大型減税や歳出拡大といった与党の新しい法案は通りにくくなる。財政赤字の拡大観測が後退すれば長期金利には下げ圧力、ドルには売り圧力がかかりやすい。ただし関税や制裁は、議会を通さず大統領の権限で動かせる部分が大きい。豪証券会社ペッパーストーンも、議会の勢力が変わっても関税や制裁、外交では大統領が大きな権限を保つと指摘している。同社は両院制覇ならヘルスケアや再生可能エネルギーが追い風を受け、金融や従来型エネルギーには規制の不透明感が出るとみる。共和党が両院を守る場合は、規制緩和が続く代わりに、財政赤字と国債増発への警戒が再燃しうる。
本誌のシナリオ:2027年2月上旬までのS&P500
読み方:選挙結果よりも、12月8〜9日のFOMCの利上げ判断が分かれ目になるとみる。確率は本誌の判断で、予測市場の数値ではない。
本誌の見立てはこうである。選挙の結果は、それ自体では大きな相場材料になりにくい。今後3カ月(2027年2月上旬まで)のS&P500について、選挙通過後に平均的な戻りを見せる筋を45%、12月の利上げとAI投資への疑念が重なって2018年型の調整が続く筋を35%、方向感のないもみ合いを20%とみる。円相場は、民主党の両院制覇と長期金利の低下が重なれば円高に振れやすい。その場合、輸出株の比重が大きい日経平均には逆風となる。
見立てを改める線:12月8〜9日のFOMCで利上げが決まり、かつS&P500が10月30日終値の7,580.07を下回ったまま12月を迎えれば、基本線を2018年型の調整に切り替える。逆に、共和党が上院を守る結果で米10年債利回りが5%台に乗るなら、「財政拡大+金利上昇」という別の筋を検討し直す。
歴史が示す3つの教訓
- 予想どおりの結果は、翌日の安堵で終わる。2018年の開票翌日の2.12%高は、7週間で消えた。選挙の夜の値動きを、その後の方向と取り違えないことだ。
- 選挙後の相場を決めるのは金融政策である。2018年の下げの引き金は12月の利上げだった。今回もFOMCは選挙の約5週間後に開かれる。
- 平均は韻を踏むが、繰り返しはしない。選挙後3カ月の上昇は11回中9回だが、外れた2回のうち1回が、今回と同じトランプ大統領のもとでの2018年だった。
今回固有の監視点:開票は東京の取引時間と重なる
今回の選挙には、日本の投資家にとって当時になかった事情がある。11月3日は文化の日で東京市場が休場のため、東京が最初に選挙に反応するのは4日(水)になる。その4日の取引時間中に、開票速報が次々と届く。米国は11月1日に冬時間へ移ったため、米東部時間に14時間を足すと日本時間になる。
開票の流れ(日本時間11月4日)
読み方:米東部時間に14時間を足すと日本時間になる(米国は11月1日から冬時間)。東京の4日の取引時間中に、上院の激戦州の結果が次々と届く。出所:USポーリングデータの投票締め切り時刻(米東部時間)を本誌が日本時間に換算。
注目は、東京の寄り付きと同じ日本時間9時に投票を締め切るジョージア州の上院選である。ここで民主党が早々に勝てば、民主党の大勝の流れが強いと受け止められやすい。11時に締め切るウィスコンシン州の上院選で共和党の勝利が早く伝われば、民主党が上院の過半数に届く道は細くなる。下院の大勢が判明するのは、早くても日本時間4日の午後になる見通しである。郵便投票の集計が多いカリフォルニア州などの結果次第では、数日かかる可能性もある。選挙と同じ週には米10月雇用統計(6日)も控える。ドル円の週間の見通しは中間選挙と雇用統計の週のドル円見通しで整理した。
| 監視点 | 見る数字・出来事 | 読み方 |
|---|---|---|
| 上院の帰趨 | ジョージア州・ペンシルベニア州・ウィスコンシン州の当確 | 共和党が上院を守れば、織り込みとの差が最も大きい驚きになる |
| 米長期金利 | 米10年債利回り(10月30日4.94%) | 5%台に乗れば財政不安、4.7%を割れば景気・利上げ後退の読み |
| ドル円 | 157円台(10月30日のECB参照レート157.25円) | 両院制覇と金利低下が重なれば円高方向 |
| FRB | 12月8〜9日のFOMC | 利上げなら2018年型の調整の筋が強まる |
| ジョージア州の決選投票 | 過半数の候補が出たか | 決選投票なら上院の確定は2027年1月にずれ込む |
主な参照
- 議会の勢力図・上院・下院の確率(日本時間11月2日3時4分取得)/ポリマーケット
- カルシの両院制覇約70%(11月1日朝)/シーキング・アルファ(TradingView掲載)
- 支持率32%、総括投票47%対36%(10月26日締め切り)/ロイター・イプソス調査(カトマンズ・ポスト掲載)
- 与党の議席減の平均、投票日から1年後の平均騰落率、変動率/キャピタル・グループ
- 中間選挙前後3カ月のS&P500(2026年10月5日)/三井住友DSアセットマネジメント
- 中間選挙前後3カ月の日経平均(2026年10月6日)/三井住友DSアセットマネジメント
- 改選議席数、政策・セクターの見方/ペッパーストーン
- 投票締め切り時刻(米東部時間)とジョージア州の決選投票規定/USポーリングデータ
- 2026年の休業日(11月3日文化の日)/日本取引所グループ
- FOMC声明(2026年10月28日)/米連邦準備制度理事会、FOMC日程/同
- FOMC声明(2018年12月19日)/米連邦準備制度理事会
- 米国債利回り(2018年・2026年)/米財務省
- ドル円のECB参照レート/フランクファーター(欧州中央銀行データ)
- 2018年11月5日・7日の米国株終値/IANS(ビジネス・スタンダード掲載)、同
- 2018年12月24日のS&P500終値/ボストン・グローブ(ブルームバーグ配信)
- 2026年10月30日の米国株終値(米東部時間16時26分)/AP通信(HuffPost掲載)
データ基準日:2026年11月2日(日本時間午前3時4分)。予測市場の確率はポリマーケットの公開データを同時刻に取得した値で、取引時間中の気配であり、確定値ではない。カルシの数値はシーキング・アルファの報道(11月1日朝、米東部時間)による。株価指数と米国債利回りは各日の終値、ドル円は欧州中央銀行の参照レート(中欧時間14時15分ごろ)で、ニューヨーク終値ではない。2018年11月6日のS&P500終値は、7日の終値と前日比から本誌が算出した。開票翌日比16.4%安、利回り差などの比率も本誌の計算である。投票締め切り時刻は州法に基づく一般的な時刻で、州内でも地域により異なる。シナリオの確率は本誌の判断であり、将来の株価や為替を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













