豪州の9月消費者物価が出た28日、豪ドルは一気に買われ、対ドルで0.7050ドル近辺まで上げたと報じられた。ところが週が終わってみると、欧州中央銀行(ECB)の参照レートでは23日の0.7022ドルから30日の0.7025ドルへ、ほぼ横ばいで引けている。インフレがここまで上振れたのに、値幅は行って来いだった。筆者はこの「上げきれなさ」こそ、11月3日の豪準備銀行(RBA)理事会を前にした今の相場の素顔だとみている。
先に結論を書く。筆者の見立ては、向こう1〜4週間で豪ドル米ドルは強気寄りだ。押し目は0.6960〜0.7000ドルで拾い、狙いは8月中旬の水準である0.71ドル台前半。逆に、日足の終値で0.6911ドル(10月の参照レートの最安値)を割り込んだら、この見立ては撤回する。28日の当サイトのCPI直後の分析から変わったのは、米連邦準備制度理事会(FRB)の据え置き、日銀の据え置き、そしてニュージーランドで起きた「織り込み済みの利上げが来なかった」事件の3つである。
なぜCPIの上振れで豪ドルは上げきれなかったのか
材料そのものは強烈だった。豪統計局(ABS)が28日に公表した9月の消費者物価指数は前年同月比4.3%で、8月の4.0%から加速した。7〜9月期で見ると前期比1.3%の上昇である。基調を示すトリム平均も前年比3.6%と、8月の3.5%(改定値)から上がった。RBAの物価目標は2〜3%だから、どの物差しで見ても目標の上にいる。
中身もよくない。前年比で見ると自動車燃料が23.6%、電気代が12.8%上がっている。電気代は政府の電力補助金が終わった影響で、燃料は中東情勢を受けた原油高の転嫁だ。RBA自身、9月29日の声明で「世界のエネルギー価格は8月の見通しの前提を大きく上回っている」と書き、燃料高が他の財やサービスにも一部波及していると認めていた。
それでも豪ドルが上げきれなかった理由は、需給で説明がつく。CPIの前からすでに利上げはかなり織り込まれていた。発表後、金利先物が示す11月3日の利上げ確率は60%から85%へ跳ねたと報じられ、外為どっとコムの週次レポートも「8割以上を織り込んでいる」と書いている。織り込みが8割を超えた材料で、さらに買い上がる向きは少ない。買いたい筋はもう買っている。正直、ここから先の豪ドルを動かすのは「利上げするか」ではなく、「その次をどう語るか」だ。
もう1つ、ドル側の事情もある。FRBは28日、政策金利を3.75〜4.00%で据え置いたが、採決は10対2で、クック理事とハマック・クリーブランド連銀総裁の2人が0.25%の利上げを主張して反対票を投じた。据え置きの中に利上げ派が2人いる。ドルの下値を支える材料であり、豪ドルの戻りを抑えた一因とみてよい。
ニュージーランドで何が起きたか――「織り込み済み」の怖さ
筆者が今週いちばん気にしているのは、豪州ではなく隣のニュージーランドだ。ニュージーランド準備銀行(RBNZ)は28日、市場が利上げを予想する中で政策金利を2.75%に据え置いた。ウエストパック銀行の速報によれば、委員7人のうち据え置きが4人、利上げが3人という僅差の判断だった。同行自身も利上げを予想していたと書いている。結果、NZドルは売られた。
これが豪ドルにとっての教訓になる。8割を織り込んだ利上げが見送られれば、残りの2割に賭けていなかった大半のポジションが一斉に投げに回る。外為どっとコムのレポートも、据え置きなら豪ドルが大きく下落しかねないと警告している。RBAは9月に利上げした後、総裁会見で据え置きの議論にも触れ、いったん連続利上げ観測が後退した経緯がある。理事会が慎重な一面を見せた前例は、ほんの1カ月前にあるわけだ。
豪ドル米ドルの水準の地図:0.7050ドルと0.6911ドル
豪ドル米ドルの水準の地図(ECB参照レートほか)
読み方:青が現在値、橙が筆者の撤退ライン。0.7050ドル近辺は報道ベースの取引時間中の水準で、それ以外はECBの参照レート(中央ヨーロッパ時間14時15分ごろ)。0.70ドルの大台と0.71ドル台前半(8月18日の参照レート0.7111ドル)は本文で扱う。出所:Frankfurter(ECBデータ)、FXStreet。
地図の読み方を書いておく。上はまず0.7050ドル近辺。28日にCPIで買われた際の上値で、ここを日足の終値で抜けない限り、上げは「行って来い」のレンジの中にとどまる。その上は8月中旬の0.71ドル台前半、さらに上は参照レートで7月以降の最高値となった9月9日の0.7225ドルだ。
下は0.70ドルの大台が心理的な節目で、その下の本当の防衛線が0.6911ドル。10月15日の参照レートで、10月の最安値にあたる。7月2日の0.6889ドルはこの4カ月の最安値で、ここまで割れれば夏以降の上げはほぼ帳消しになる。0.6911ドルと0.6889ドルの間はわずか0.0022ドルしかない。ここを割り込むと、売りの損切りが重なりやすい日柄に入る。
筆者の見立て:強気寄り、理由は3つ
11月3日のRBAと向こう1〜4週間のシナリオ(筆者の確率)
読み方:「利上げ+追加示唆」なら0.7050ドル上抜けから0.71ドル台前半へ。「利上げ+様子見示唆」なら材料出尽くしで0.6950〜0.7050ドルのもみ合い。「据え置き」なら0.6911ドルを試し、0.6889ドルまでの値幅を想定する。確率は筆者の判断で、金利先物の織り込み(報道ベースで8割超が利上げ)より据え置きをやや低めに置いた。
理由1:金利差がまだ広がる方向にある。RBAの政策金利4.60%とFRBの誘導目標の上限4.00%の差は0.60%。3日に0.25%上げて4.85%になれば、差は0.85%に広がる。RBAは今年2月、3月、5月、9月と4回利上げしており、そのたびに差は豪ドル有利に動いてきた。
理由2:インフレの中身が一過性に見えない。電気代は補助金の終了で上がった分が当面は残り、燃料高は運賃や外食に転嫁され始めている。RBAは3日に四半期ごとの「金融政策報告」も公表する。ここで物価見通しが引き上げられれば、「次もある」という読みが強まる。筆者は、利上げそのものより、この見通しの数字の方が相場を動かすとみている。
理由3:週足で崩れていない。参照レートで見ると、9月下旬からの下げは10月15日の0.6911ドルで止まり、その後は0.70ドルを挟んだもみ合いに移った。CPIで行って来いになったとはいえ、安値を切り下げてはいない。投げが一巡した後の値動きである。
確率の置き方は図のとおりだ。「利上げ+追加示唆」を45%、「利上げ+様子見の示唆」を40%、「据え置き」を15%とした。据え置きの確率は、市場の織り込みからみた残りの1〜2割より少し低めに置いた。インフレがここまで上振れた後で見送るのは、RBAにとって説明が難しいと考えるからだ。2番目のシナリオは材料出尽くしで売られやすいが、下値は0.6911ドルの手前で止まるとみる。
逆になったら:撤退ラインは0.6911ドル
見立てが外れる道筋もはっきりしている。1つは据え置き。ニュージーランドと同じ展開になれば、0.6911ドルを一気に試し、0.6889ドルまで値幅が出る可能性がある。2つ目は米国の雇用統計の上振れだ。FRBの中に利上げ派が2人いる以上、強い数字が出れば米国の利上げ観測が戻り、金利差の議論が逆回転する。3つ目は株の急落によるリスク回避で、豪ドルは株安に弱い通貨である。
だから撤退ラインは、日中に一瞬割れた水準ではなく、日足の終値で0.6911ドルを下回ったときと決めておく。発表直後の数分間は値が飛びやすく、騙しの割れも多い。レバレッジをかけている人は、発表をまたいでポジションを持つなら枚数を落とすのが先だ。
豪ドル円は110円台、日銀1.25%との金利差
円で豪ドルを持つ人にとっては、もう1つの綱引きがある。日銀は30日、政策金利を1.25%程度に据え置いた(賛成8、反対1)。RBAとの金利差は3.35%で、3日に利上げがあれば3.60%に広がる。ただし30日は日銀の据え置きの後に円が買われ、ECBの参照レートで豪ドル円は110.46円と、前日の111.05円から下げた。外為どっとコムによれば、CPI後の29日には一時111.56円近辺まで上げていた。円相場の見方は植田総裁会見後のドル円の分析にまとめた。
同レポートが挙げる下値の目安は、10月23日の安値109.49円近辺と、15日の安値108.64円近辺だ。来週の予想レンジは108.50〜112.50円とされている。筆者も、豪ドル円は豪ドル米ドルより値幅が出やすいとみている。RBAが利上げしても、円高が同時に進めば相殺されるからだ。豪ドル円の水準の考え方は10月22日の豪ドル円見通しも参照してほしい。
来週の監視リストと個人投資家向けチェックリスト
来週の予定は詰まっている。時刻はすべて日本時間で、米国は11月1日に冬時間に切り替わる点に注意したい。
| 日時(日本時間) | イベント | 強気継続のサイン | 見立て撤回のサイン |
|---|---|---|---|
| 11月3日(火)12:30 | RBA政策金利発表・金融政策報告 | 4.85%へ利上げ、物価見通しの上方修正 | 据え置き、または「当面様子見」の文言 |
| 11月3日(火) | 米中間選挙の投票(結果判明は4日以降) | 波乱なく株が落ち着く | 株の急落でリスク回避が広がる |
| 11月6日(金)22:30 | 米10月雇用統計 | 雇用の伸びが鈍り、米利上げ観測が後退 | 強い数字で米利上げ観測が再燃 |
| 毎営業日 | 豪ドル米ドルの日足終値 | 0.7050ドル超えで引ける | 0.6911ドル割れで引ける |
| 毎営業日 | 豪ドル円の日足終値 | 111円台を回復して引ける | 109.49円割れで引ける |
初心者が避けたいのは、RBAの発表の数分前に新規の注文を入れることだ。発表直後はスプレッドが広がり、指値が思わぬ値段で約定することがある。発表を見てから、日足の終値で方向を確かめても遅くはない。海外のFX業者の仕組みやリスクについては、当サイトのFX解説ページで整理している。
主な参照
- 9月の消費者物価指数(10月28日公表)/豪統計局(ABS)
- 9月29日の政策決定と声明/豪準備銀行(RBA)
- 政策金利の推移/RBA
- 2026年の理事会日程/RBA、金融政策報告の公表日/RBA
- 10月28日のFOMC声明/米連邦準備制度理事会
- 10月30日の「当面の金融政策運営について」/日本銀行
- RBNZの10月28日の据え置きと委員の判断/ウエストパック銀行
- CPI後の豪ドルの値動きと利上げ確率/FXStreet
- 9月の利上げ後に連続利上げ観測が後退した経緯(10月3日)/外為どっとコム
- 豪ドル円の週間の値動きと予想レンジ(10月31日)/外為どっとコム
- ECB参照レート(豪ドル米ドル・豪ドル円、7月1日〜10月30日)/Frankfurter(ECBデータ)
- 米雇用統計の公表日程/米労働統計局
データ基準日:2026年10月30日(ECB参照レートは中央ヨーロッパ時間14時15分ごろの値)。文中の豪ドル米ドル・豪ドル円の水準のうち、日付付きの小数4桁・小数2桁の値はECBの参照レートであり、取引時間中の高値・安値や終値ではない。30日の米国市場の時間帯の値動きは反映していない。28日の0.7050ドル近辺は報道ベースの取引時間中の水準、豪ドル円の111.56円・109.49円・108.64円と予想レンジは外為どっとコムのレポートによる。利上げ確率(60%から85%へ、8割以上)は報じられている金利先物の織り込みで、時点により変わる。RBAの発表時刻は同行が示す「理事会後の午後2時30分(豪東部夏時間)」を日本時間に換算した。シナリオの確率と撤退ラインは筆者の判断であり、将来の相場を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













