キオクシアホールディングス(285A)が10月30日18時45分(日本時間)に発表した4〜9月期決算は、純利益が前年同期の37倍の2兆1,979億円だった。それでも株価は夜間取引(PTS)で売られた。理由は過去の数字ではなく、会社が示した10〜12月期の見通しにある。純利益予想は1兆3,600億円で、7〜9月期の実績1兆3,557億円とほぼ同じ。市場が待っていた「もう一段の伸び」が、会社の数字には書かれていなかった。
まず下の4枚を見てほしい。この決算の論点は、ほぼこの4つの数字に集約される。
伸び率は「急加速」から「横ばい」へ
7〜9月期の売上収益は2兆4,800億円、営業利益は1兆9,947億円、純利益は1兆3,557億円だった。前の四半期(4〜6月期)と比べると、売上は40.3%、純利益は61.0%増えている。会社が7月31日に示していた7〜9月期の見通し(売上2兆3,900億円、純利益1兆2,700億円)も上回った。実績だけを見れば、文句のつけようがない四半期である。
前四半期比の伸び率:実績と会社予想
読み方:7〜9月期は売上・純利益とも前四半期から4〜6割伸びたが、会社の10〜12月期予想はほぼ横ばい。出所:キオクシアホールディングス決算短信(10月30日)から本誌計算。
問題は次の四半期だ。10〜12月期の会社予想は売上2兆5,000億円、営業利益1兆9,950億円、純利益1兆3,600億円。前の四半期比でそれぞれ0.8%、0.0%、0.3%の増加にとどまる。前年同期比では純利益が約15倍になるため「15倍増益」という見出しが並んだが、株価が見ているのは前年ではなく直前の四半期との比較である。
市場予想との差は2,300億円
日本経済新聞によると、10〜12月期の純利益のQUICKコンセンサス(アナリスト予想の平均)は1兆5,932億円だった。会社予想はこれを約2,332億円、率にして14.6%下回る。日経ヴェリタスは決算前の10月24日の記事で、市場の期待を「1.5兆円前後」と紹介し、高いハードルだと書いていた。そのハードルを、会社の見通しは越えなかった。
10〜12月期の純利益:市場予想と会社予想(億円)
読み方:会社予想は市場予想を2,332億円(14.6%)下回り、直前の四半期の実績とほぼ同じ水準にとどまった。出所:日本経済新聞(10月30日18時47分)、キオクシアホールディングス決算短信。
なぜ伸びが止まるのか。会社自身の説明は短い。決算短信には「データセンター向けの需要が旺盛に推移することが予想されるものの、為替の悪化を見込むことなどから、第2四半期と同水準の業績を見込んでいます」とある。想定為替レートは1ドル=157円で、7〜9月期の平均161円より4円の円高を置いた。
ドル建てに直すと、伸びは3%台
為替の影響を外すと、景色は少し変わる。本誌の試算では、売上予想2兆5,000億円を想定レート157円で割ると約159億ドル、7〜9月期の2兆4,800億円を161円で割ると約154億ドル。ドル建てでは約3.4%の増収見通しになる。円建ての0.8%増よりは強いが、同業他社や業界の価格見通しと並べると、それでも控えめである。
次の四半期の伸び:キオクシアと業界の見通し
読み方:ドルに換算しても、キオクシアの増収見通しはサンディスクの見通しや業界の価格予想を大きく下回る。ドル換算は本誌試算(売上予想÷157円と7〜9月期売上÷161円の比較)。サンディスクは122億〜126億ドルの中央値と直前四半期約110億ドルの比較、NANDはトレンドフォース予想15〜20%の中央値。基準の異なる数字を並べた参考図である。
米サンディスクは10月29日、次の四半期の売上高見通しを122億〜126億ドルとした。直前の四半期の約110億ドルと比べて11〜14%の増収である。台湾の調査会社トレンドフォースは9月30日、10〜12月期のNAND型フラッシュメモリーの契約価格が前期比15〜20%上がるとの見通しを出している。価格がこれだけ上がる局面で、ドル建て3%台の増収見通しは保守的に映る。保守的な見通しなのか、それとも出荷量や価格交渉に会社だけが見ている制約があるのか。この問いへの答えが、来週以降の株価を左右する。
株価はすでに高値から64%安い
30日の東京市場の終値は1万3,470円で、前日比1,035円(7.14%)安かった。この下げは決算発表の前、取引時間中に起きている。米ハイテク株の時間外での急落が重荷になった。発表後のPTS(ジャパンネクスト)では、19時46分時点で1万2,631.5円と、東京の終値をさらに6.22%下回った。PTSの安値は発表3分後の18時48分に付けた1万2,516.5円である。
株価分割を調整した年初来高値は6月22日の3万7,567円で、30日の終値はそこから64%下にある。同社株の過去の大きな値動きは、高値から65%下落した局面を2018年のSKハイニックスと比べた記事でも取り上げた。韓国ソウル経済新聞はブルームバーグのデータを引き、10月15日時点の信用買い残が約9,200億円と東証で最大だったと報じている。信用で買った投資家の売りが出やすい需給は、決算の中身とは別に株価の重荷になり得る。
見落とされた株主還元の転換
見通しの陰に隠れたが、株主還元は大きく変わった。会社は上場後初めての中間配当として1株90円(10月1日の1対3の株式分割前の基準)を決めた。従来予想はゼロだった。支払総額は479億円で、12月8日から支払う。あわせて新しい方針も示した。設備投資や研究開発などに必要な資金を確保し、純現金(手元資金が有利子負債を上回る状態)を保ったうえで、中長期的な余剰資金の100%を機動的な自社株買いと累進配当(原則として減配しない配当)で還元するという。
4〜9月期の営業キャッシュフローは2兆3,796億円、8月には8,003億円の自社株買いを実施した。9月末の手元資金は1兆3,973億円、自己資本比率は49.8%まで上がっている。稼ぐ力そのものは、見通しが横ばいでも高い水準にある。
週明けのシナリオ
本誌は週明け11月2日の東京市場について、次の3つのシナリオを置く。確率は本誌の見立てであり、PTSの値動きと信用買い残の大きさ、米メモリー株の地合いを踏まえている。
| シナリオ | 確率 | 想定する値動き | きっかけ |
|---|---|---|---|
| PTS水準で下げ止まり | 45% | 1万2,500〜1万3,000円で推移 | 横ばい見通しを「為替前提の保守的な数字」と受け止める |
| 信用売りが続き下値を探る | 35% | PTS安値1万2,516.5円を割り、1万2,000円を試す | 市場予想との差14.6%を重く見た見直し売りと信用の整理 |
| 還元方針を評価して戻す | 20% | 30日終値1万3,470円を回復 | 累進配当と余剰資金100%還元が買い材料として広がる |
個人投資家のチェックリスト
- 11月2日の寄り付きとPTS安値1万2,516.5円の関係。寄り付きがこれを下回れば、2つ目のシナリオの確率が上がる。
- 決算説明会での価格の説明。NAND価格の上昇をどこまで見通しに入れたかが語られれば、「保守的な見通し」かどうかを判断しやすくなる。
- ドル円の水準。会社の想定は157円。実際のレートが想定より円安なら、見通しには上振れの余地が生まれる。
- 米マイクロンとサンディスクの株価。メモリー株全体の地合いは同社株にもそのまま波及しやすい。マイクロンの直近決算はこちらの記事で整理している。
- 11月末のTOPIX浮動株比率の見直し。日本取引所グループの10月7日の発表として、同社の浮動株比率が10月末に32.5%、11月末に50%へ段階的に引き上げられると報じられている。指数連動の買いが需給を下支えする可能性がある。
30日の東京市場全体の動きは大引けの記事にまとめた。日経平均が1,369円安となる中で、半導体関連の主力株が下げを主導した一日だった。
主な参照
- 2027年3月期 第2四半期決算短信(10月30日18時45分開示)/キオクシアホールディングス
- 剰余金の配当(中間配当)に関するお知らせ/キオクシアホールディングス
- 投資家情報(決算発表日時)/キオクシアホールディングス
- 10〜12月期純利益のQUICKコンセンサス(10月30日18時47分)/日本経済新聞
- 決算前の市場の期待(10月24日)/日経ヴェリタス
- 株価・PTS(10月30日15時30分、19時46分)/Yahoo!ファイナンス
- 取引時間中の急反落(10月30日10時22分)/株探
- NAND契約価格の見通し(9月30日)/トレンドフォース
- サンディスクの決算と次期見通し(10月29日)/モトリーフール
- 信用買い残(10月19日)/ソウル経済新聞
- TOPIX浮動株比率の見直し(10月30日)/CRYPTO TIMES
データ基準日:2026年10月30日(日本時間19時46分)。東京市場の株価は10月30日の終値、PTSの価格は同日19時46分時点の取引時間中の値で、その後の変動は反映していない。ドル建ての増収率は本誌の試算。信用買い残とTOPIX浮動株比率の見直しは報道によるもので、本誌は一次資料で確認できていないため「報じられている」として扱った。本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を勧めるものではない。投資判断はご自身の責任で行ってほしい。














