2024年4月26日、日本銀行は金融政策の据え置きを決めた。会見で植田和男総裁は、円安が物価の基調に与える影響は大きくないとの見方を示した。円安を止める意思はないと市場は受け止めた。週明けの29日、日本が祝日で取引の薄い時間帯に、ドル円は一時1ドル=160円24銭まで上昇した。そして同じ日のうちに154円40銭まで急落した。財務省が後に公表した数字では、この日の円買い介入は5兆9,185億円だった。
2年半後のきょう、2026年10月30日。日銀は2日間の会合を終え、昼ごろに結果を公表する。ドル円は9時前に157円82銭前後と、当時の会合当日とほぼ同じ158円の手前にいる。歴史は繰り返さないが、韻を踏むことはある。本稿は2024年4月の鏡に今日を映し、どこが同じでどこが違うかを確かめたうえで、向こう1〜2週間と1〜3カ月の見通しを示す。
ドル円の参照レート(2026年4月1日〜10月29日)
読み方:2026年は2度の大規模な円買い介入があり、7月28日の163円91銭が参照レートでの年初来高値だった。9月18日の利上げの日は、慎重な反対票が出て、かえって円安に振れた。値はECBが毎営業日に公表する参照レート(中央ヨーロッパ時間14時15分ごろ)で、取引時間中の高値・安値とは異なる。介入額は財務省の公表値。
当時と今の対照表
| 項目 | 2024年4月26日(当時) | 2026年10月30日(今回) | 同じか、違うか |
|---|---|---|---|
| 日銀の決定 | 据え置き | 1.25%で据え置きの見方が大勢 | 同じ |
| 日銀の政策金利 | 0〜0.1%程度(3月にマイナス金利を解除) | 1.25%(9月18日に1.0%から引き上げ) | 違う |
| 会合当日のドル円 | 参照レート156.83円、週明け29日の始値158.19円 | 9時前に157.82円前後 | ほぼ同じ水準 |
| 米国の金融政策 | 利下げ待ち | 据え置きだが、2人が利上げを主張 | 違う(ドル高要因が強い) |
| その年の介入 | 4月29日が最初の介入 | 4〜5月と7〜8月にすでに実施、計約27.1兆円 | 違う(当局の構えが明確) |
| 次の利上げの観測 | 遠いとの見方 | 12月の利上げを7〜8割織り込むとの分析 | 違う |
対照表から分かるのは、数字の位置は似ていても、舞台装置がまるで違うということだ。当時の日銀は利上げを始めたばかりで、次の一手は遠いとみられていた。今の日銀は政策金利を1.25%まで上げ、12月にも次の利上げがあるとの見方が強い。一方で米国は、当時は利下げを待っていたが、今は利上げを主張する反対票が出ている。円を押し上げる力も、ドルを押し上げる力も、当時より強い。
当時、その後に起きたこと
2024年4月の据え置きのあと、相場は次のように動いた。三菱UFJ銀行のレポートによると、4月29日のドル円は158円19銭で始まり、高値160円24銭、安値154円40銭を付けた。財務省はこの日5兆9,185億円、5月1日にも3兆8,700億円の円買い介入を実施していた。ECBの参照レートでは、4月30日の157円から5月3日には153円22銭まで下げた。
だが、介入の効果は長く続かなかった。円安はその後も進み、財務省は7月11日と12日にも円買い介入に動いた。流れを本当に変えたのは、7月31日の日銀の利上げである。ECBの参照レートでは、7月30日の154円85銭から8月5日には142円24銭まで円高が進んだ。当時の教訓は、介入は時間を稼ぐ手段で、方向を変えたのは金利だった、ということになる。
2026年は介入済みの年である
今年は、当局がすでに2度大きく動いた年だ。財務省の公表によると、4月30日に6兆2,787億円、5月4日に7,802億円、5月6日に4兆6,759億円の円買い介入を実施した。さらに7月30日から8月26日までの期間には、15兆3,993億円という大規模な介入を行った。ECBの参照レートで見ると、ドル円は7月28日に163円91銭と今年の最高値を付け、8月3日には156円68銭まで下げた。
片山さつき財務相は10月27日、為替市場で「断固たる措置をとる用意がある」と述べ、まさに今この瞬間も含めて緊張感を持って市場の動きを見ていると強調した。10月29日以前の1カ月分の介入実績は、30日19時に財務省が公表する。数字がゼロかどうかも、今日の確認事項の一つである。
「今回は違う」論の検証
今回は違うと言える最大の根拠は、日銀の物価判断だ。日本経済新聞などは、日銀が物価2%の目標に達したと判断する方向だと報じている。オランダの金融大手INGは「タカ派的な据え置き」を予想し、来年に政策金利が1.75〜2.00%に達するとみる。この判断が展望レポートに書き込まれれば、植田総裁の会見は2024年4月とは逆に、円安を抑える方向に働く可能性がある。
ただし、今朝の物価統計はこの見方に冷や水をかけた。総務省が8時30分に公表した東京都区部の10月の消費者物価指数(中旬速報値)は、総合が前年同月比2.8%上昇と9月の2.7%から加速した。だが生鮮食品とエネルギーを除く指数は2.6%上昇と、9月の2.9%から鈍った。物価の基調を示す数字が下がったことは、日銀が「2%に到達」と言い切るうえでの弱みになる。同時に公表された9月の完全失業率は2.4%と、労働市場は引き締まったままだ。
もう一つの違いは、反対票の向きだ。9月18日の利上げは7対2で決まり、反対した2人は利上げに慎重だった。その日、ECBの参照レートは前日の155円69銭から157円89銭へとむしろ円安に振れた。利上げをしても、慎重な反対票が円売りを招いた。今回、据え置きに対して利上げを主張する反対票が出れば円高、利上げに慎重な声が目立てば円安と、票の中身が相場を左右しうる。
歴史が示す3つの教訓
教訓1:据え置きそのものより、総裁の言葉が相場を動かす。2024年4月の円安は、据え置きの決定ではなく、会見での円安への言及の仕方から始まった。今日も、15時30分からの植田総裁の会見が本番である。
教訓2:当局は、薄い市場で節目を越えた瞬間に動く。2024年は日本の祝日に160円を超えた日に、2026年4月は160円前後の局面で介入があった。今回の介入警戒の帯も、160円が一つの目安になる。
教訓3:介入は時間を稼ぎ、方向を変えるのは金利である。2024年の円高を決定づけたのは7月の利上げだった。今回も、12月の利上げの確度が上がるかどうかが、1〜3カ月の方向を決める。
今回固有の監視点と見通し
本誌の見通しを示す。向こう1〜2週間は、156円80銭〜158円50銭のレンジでの推移を本線(45%)とみる。上限の158円50銭近辺は200日移動平均(ECBの参照レートで158円53銭)で、7週間にわたり上値を抑えてきた。日銀が「2%到達」を明記し、12月利上げの観測が強まれば、レンジの下限を割って155円台を試す展開になる(25%)。逆に、植田総裁が判断に慎重な姿勢を見せれば、200日線を越えて159〜160円を試す展開になる(30%)。その場合は介入への警戒が急速に強まる。
1〜3カ月では、154〜160円のレンジで、中心は157円前後とみる。12月に日銀が利上げし、米国が据え置けば、年明けにかけて155円を割る余地が出てくる。米国が利上げに動けば、日米の利上げが打ち消し合い、158円前後での膠着が続く。前日までの見立てはドル円見通し:FOMC後157.8円、158.5円が壁で、日銀会合の論点は日銀10月会合、据え置き濃厚|焦点は利上げ到達点2%で整理した。
- 昼ごろ:日銀の決定と票割れ。過去4回の会合では11時47分〜12時12分に公表された。
- 同時刻:展望レポートの基本的見解。「2%に到達」の表現と、2027・2028年度の物価見通し。
- 15時30分:植田総裁の会見。円安への言及と、12月利上げへの距離感。
- 19時:財務省が9月29日〜10月28日の介入実績を公表。
- 撤退線:158円53銭(200日線)を終値で越えたら、レンジの見立てをやめ、160円方向へ切り替える。156円80銭(10月23日の参照レート)を割れたら、155円方向へ切り替える。
主な参照
- 日銀の会合日程と過去の決定/日本銀行、9月18日の利上げ/日本銀行(2026年9月18日)
- 介入の実績/財務省 外国為替平衡操作の実施状況、財務省(2026年7月30日〜8月26日分)
- 2024年4月29日のドル円の値動き/三菱UFJ銀行の為替レポート
- 東京都区部の消費者物価指数(2026年10月中旬速報値)/総務省統計局(10月30日)、完全失業率/総務省統計局
- 日銀会合の予想と利上げ観測/ING(10月29日)、investingLive(10月29日)
- 片山財務相の発言/investingLive(10月27日)
- FRBの政策決定/米連邦準備制度理事会(10月28日)
- ECBの参照レート(チャートと移動平均の計算に使用)/Frankfurter(ECBのデータ)、現在値/Yahoo!ファイナンス
データ基準日:ドル円の現在値は2026年10月30日8時54分(日本時間)のYahoo!ファイナンスの取引時間中の値。過去の水準と移動平均は、10月29日までのECBの参照レート(中央ヨーロッパ時間14時15分ごろの値)から本誌が計算した。参照レートは取引時間中の高値・安値とは異なる。2024年4月29日の高値と安値は三菱UFJ銀行のレポートによる。日銀が「2%到達」と判断するとの見方は報道によるもので、本稿執筆時点で日銀の決定は公表されていない。利上げ観測の確率は金融機関などの分析にもとづく。シナリオと確率は本誌の分析で、将来の相場を保証しない。外国為替証拠金取引(FX)は元本を上回る損失が生じる可能性がある。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の通貨の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














