レギュラーガソリン1リットル170円10銭。資源エネルギー庁が28日に公表した26日時点の全国平均である。店頭の看板はほとんど動いていないが、その裏で国が払う補助金は、29日から1リットル52円40銭に増えた。前週の42円80銭から9円60銭の増額で、補助がなければ店頭は220円を超えていた計算になる。そして高市早苗首相は29日、この補助金を12月から段階的に縮小すると表明した。
私たちが給油所で払う値段は、これから毎月少しずつ上がっていく見通しだ。本稿は、170円の看板の中身を分解し、ホルムズ海峡と原油相場までさかのぼったうえで、家計にいくら響くかを月ごとに換算する。
29日からの補助額52.4円はこう決まった(円/リットル)
読み方:上の4本を足すと、補助がない場合の来週の店頭価格の想定222.4円になる。そこから国が決めた基準価格170円を引いた52.4円が、29日から元売り会社に支給される補助額である。高市首相はこの基準価格を12月から毎月5円ずつ上げる考えを示した。出所:資源エネルギー庁の資料(10月28日公表)。
170円の看板を分解する
まず、170円10銭が「本来の値段」ではないことを押さえたい。補助金は、石油元売り会社に国が支払い、卸価格を下げる仕組みだ。だから店頭の値段は、補助金の分だけ安く見えている。資源エネルギー庁の資料では、26日時点の補助なし価格は212円90銭で、170円10銭に前週の補助42円80銭を足した値になる。
29日からの補助額52円40銭は、次の計算で決まった。今週の店頭価格170円10銭に、前週の補助42円80銭、原油価格の変動分6円、調達費用にもとづく調整分3円50銭を足す。ここから基準価格の170円を引いた残りが補助になる。足し算の部分、つまり来週の「補助なしの想定価格」は222円40銭だ。基準価格の170円は、国が店頭をこの水準に抑えると決めた線である。
今回の補助は、3月19日に始まった「緊急的激変緩和措置」によるものだ。措置が始まる直前の3月16日には、全国平均は190円80銭まで上がっていた。なお、ガソリン税の上乗せ分だった暫定税率は2025年12月31日に廃止されている。
首相が示した「毎月5円」
毎日新聞によると、高市首相は29日夜、首相官邸で記者団に対し、補助金を12月から段階的に縮小すると表明した。170円程度に抑えている基準価格を、春先に向けて毎月5円ずつ引き上げることを基本とする考えだという。補助の終了時期は示していない。本誌が27日にガソリン補助金、12月から月5円縮小案|店頭185円へで伝えた段階では検討中の案だったが、これで首相自身の方針になった。
基準価格が上がれば、補助はその分だけ減り、店頭の値段は基準価格に近づいていく。単純に毎月5円ずつ上がると仮定すると、12月は175円、1月は180円、2月は185円、3月は190円程度になる。これは本誌の機械的な計算で、政府が月ごとの値段を示したものではない。原油相場が大きく下がれば、補助なしの価格そのものが基準価格を下回り、補助が自然になくなる場合もある。
上流をたどる:原油は102ドル
看板の向こうにあるのは、国際的な原油相場だ。ロイター通信によると、29日の米国市場で、米国産標準油種WTIの12月物の清算値は1バレル102.00ドルと、前日比0.78ドル(0.76%)安かった。北海ブレントの12月物は0.44ドル(0.38%)安の114.88ドルで清算した。前日の28日は、サウジアラビアの製油所への攻撃報道を受けて、WTIが2.9%上げていた。
29日に相場を押し下げたのは外交の動きだ。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、バンス米副大統領がイランの国家安全保障評議会のレザイ氏に書簡を送り、和平交渉の再開を促したと報じた。スイスの金融大手UBSのジョバンニ・スタウノボ氏は「中東の緊張緩和に向けた外交努力の再開で、原油価格は圧迫されている」と述べている。
一方で、下げ幅は小さかった。イラン革命防衛隊は、ホルムズ海峡の南でタンカー3隻が機雷に触れて爆発・炎上したと主張した。独立した確認はない。イエメンの親イラン武装組織フーシ派の攻撃も続き、サウジ主導の連合軍は新たなミサイルを迎撃したと発表した。米コンサルティング会社ゲルバー・アンド・アソシエイツは「交渉の動きがあっても、地域のインフラへの脅威は残っている」とみる。
原油の動きはWTI原油102ドル台回復、米のイラン作戦準備報道でも追っている。米国の在庫も需給の引き締まりを示す。米エネルギー情報局(EIA)の週次統計では、10月23日までの1週間で商業用の原油在庫が約189万バレル減り、軽油などの留出油在庫も約146万バレル減った。ガソリン在庫は約387万バレル増えた。
家計への換算:月にいくら増えるか
では、私たちの財布にはいくら響くのか。基準価格が毎月5円ずつ上がり、店頭価格が基準価格どおりに動くと仮定して、給油量ごとに10月と比べた負担の増加を計算した。
| 月 | 想定の店頭価格 | 月30リットル(買い物中心) | 月50リットル(通勤で毎日) | 月100リットル(営業車・地方の2台持ち) |
|---|---|---|---|---|
| 10〜11月 | 170円 | ±0円 | ±0円 | ±0円 |
| 12月 | 175円 | +150円 | +250円 | +500円 |
| 1月 | 180円 | +300円 | +500円 | +1,000円 |
| 2月 | 185円 | +450円 | +750円 | +1,500円 |
| 3月 | 190円 | +600円 | +1,000円 | +2,000円 |
| 12〜3月の合計 | — | +1,500円 | +2,500円 | +5,000円 |
月50リットルを使う家庭なら、3月には10月より月1,000円多く払う計算だ。12月から3月までの4カ月の合計では2,500円になる。1台目の負担は小さく見えても、地方で車を2台持つ家庭や、自営業で営業車を使う人には、もう一段重い。自分の車の燃費と走行距離に置き換えた金額は、燃料費計算ツールで確かめられる。
同じ補助金は軽油、灯油、重油にも1リットル52円40銭が支給されている。灯油は冬の暖房費に直結し、軽油はトラック輸送を通じて食品や日用品の値段にも響く。ガソリンの縮小が同じ時期に軽油や灯油にも及ぶかどうかは、まだはっきりしない。
生活防衛と投資の接点
現実的な選択肢を並べておく。推奨ではなく、考え方の整理である。給油の面では、値上げの前に満タンにしておくことの効果は1回分の差額にとどまる。月50リットルなら、5円の値上げ1回分は250円だ。それより、燃費の良い走り方やまとめ買いでの移動の削減のほうが、春までの累計では効いてくる。
投資の面では、原油高の恩恵を受ける国内企業として、石油・天然ガス開発のINPEX(1605)がある。29日の東証終値は4,056円だった。石油元売りのENEOSホールディングス(5020)は、補助金が卸価格を通じて流れる立場にある。両社とも11月中旬に決算を控える。原油価格に連動するETF(上場投資信託)もあるが、先物の乗り換えにかかるコストがあり、原油相場の値動きとは一致しない。いずれも、外交の進展で原油が急落すれば逆方向に振れる点に注意が要る。
本誌の見方。原油相場は、外交の進展と中東のインフラ攻撃という正反対の材料の間で振れている。本誌は向こう1カ月のWTIについて、95〜110ドルのレンジを本線(55%)とみる。和平交渉が具体的に進んで90ドルを割る展開を25%、ホルムズ海峡やサウジ施設の被害が広がって115ドルを超える展開を20%とする。どの場合でも、首相が示した基準価格の引き上げが続く限り、店頭価格は12月から上向きになる公算が大きい。
次に店頭へ届く変化の日付
- 11月1日(日):石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの主要産油国が、オンラインで会合を開く。ロイター通信は、12月の生産目標を据え置く見通しと伝えている。
- 11月3日(火):米中間選挙。米紙は、米国が湾岸諸国に、選挙後の対イラン作戦の再開に備えるよう伝えたと報じている。
- 11月4日(水):資源エネルギー庁が、11月2日時点の全国平均価格と、11月5日からの補助額を公表する見込み。
- 12月:首相が示した基準価格の引き上げが始まる。具体的な日付と金額は、政府の正式な発表を待つ必要がある。
主な参照
- 全国平均価格、補助額と計算式、補助なし価格/資源エネルギー庁 燃料油価格定額引下げ措置の資料(10月28日公表)、同措置のサイト
- 高市首相の表明/毎日新聞(Yahoo!ニュース、10月29日19時17分)
- WTIとブレントの清算値、外交と攻撃をめぐる報道、アナリストの発言/ロイター通信(グローブ・アンド・メール掲載、10月29日)
- 前日28日の値動き/ザ・ナショナル(10月29日)
- 米国の石油在庫/米エネルギー情報局(10月23日までの週)
- OPECプラスの会合の見通し/ロイター通信(ユーロネクスト掲載、10月27日)
- INPEXの株価と決算予定日/Yahoo!ファイナンス
データ基準日:ガソリン価格は2026年10月26日時点の全国平均(10月28日公表)、補助額は10月29日〜11月4日の適用分。原油はWTIとブレントの12月物の10月29日の清算値。月ごとの店頭価格と家計の負担増は、基準価格が毎月5円ずつ上がり、店頭価格が基準価格どおりに動くと仮定した本誌の単純な試算で、政府が示した数字ではない。首相の表明は報道によるもので、正式な制度変更の告示は本稿執筆時点で確認していない。タンカーの被害はイラン側の主張で、独立した確認はない。米国の対イラン作戦をめぐる部分は報じられている内容である。WTIのシナリオと確率は本誌の分析で、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄や商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














