2023年5月2日、ニューヨーク。オンライン学習サービスのチェグの株価は、1日で48.4%下げて引けた。前日の決算説明会で、最高経営責任者(CEO)のダン・ローゼンスワイグ氏が「対話型AIのChatGPTが新規顧客の伸びに影響している」と認めたからである。売上高は市場予想を上回っていた。それから3年半、奇しくも似た場面が画面に灯った。2026年10月30日、ソーシャルメディアのレディットの株価は、米東部時間10時53分(日本時間23時53分)に95ドル55セントと、前日比26.27%安で取引されている。
レディットもまた、売上高を53%伸ばしながら、利用者を連れてくる「入り口」が細っていると自ら開示した。会社は株主への書簡で、7〜9月期に検索エンジンからの流入が「大きく減った」と書いている。二つの場面は韻を踏んでいるのか、それとも別の曲なのか。チェグのその後をたどりながら、レディット株をいまどう見るべきかを考える。
2023年5月の場面:好決算と「入り口」の告白
当時のチェグの1〜3月期の売上高は1億8,760万ドルで、前年同期比7%増と市場予想を上回った。だが会社は、4〜6月期の売上高見通しを1億7,500万〜1億7,800万ドルと低めに示し、通期の利益見通しを取り下げた。ローゼンスワイグ氏は、3月に学生のChatGPTへの関心が急に高まったと説明し、「新規顧客の伸び率に影響が出ていると考えている」と述べた。年初の段階では目立った影響はなかった、とも付け加えている。
市場の反応は容赦なかった。株価は5月1日の終値17ドル60セントから、2日には9ドル08セントで引けた。ジェフリーズが投資判断を引き下げ、モルガン・スタンレーのアナリストは、AIの話題が決算を「完全にかき消した」と評した。ローゼンスワイグ氏は米メディアに対し、市場の反応は「極めて行き過ぎだ」と反論し、オープンAIと組んで開発中の対話型サービスを示して巻き返しを訴えた。
2026年10月の場面:レディットが書いた数字
レディットが米証券取引委員会(SEC)に提出した資料によると、7〜9月期の売上高は8億9,500万ドルで53%増、10〜12月期の売上高見通しは10億〜10億3,000万ドルだった。成長そのものは続いている。株価を押し下げたのは利用者の数だ。1日あたりの利用者数(DAUq)は1億3,030万人で12%増えたが、米国に限ると5,070万人で2%減った。ログインせずに訪れる利用者は7,680万人と17%増えた一方、ログインした利用者の伸びは7%にとどまる。
決定的だったのは、先行きについての一文である。10月は検索からの流入が週平均で100万件を超えて減っており、この傾向が続けば、10〜12月期の利用者数は約1億3,000万人から1割台前半の減少になりうると会社は書いた。そのうえで、ログインした利用者を中心とする形に移る方針を示し、10〜12月期に米国以外の一部の市場で試験を始める。会社は検索エンジンの名前を挙げていない。
レディットの株価(ドル)
読み方:決算前の1週間ですでに15%下げており、決算後の下げはその上に重なった。1月の高値からは63%安い。出所:Yahoo Finance(日足の終値と30日の取引時間中の値)。
対照表:同じ点と、違う点
| 項目 | チェグ(2023年5月) | レディット(2026年10月) |
|---|---|---|
| 同じ点:きっかけ | 会社自身がChatGPTの影響を認めた | 会社自身が検索からの流入減を開示した |
| 同じ点:決算の数字 | 売上高は予想を上回った | 売上高は53%増、利益も大きく伸びた |
| 同じ点:1日の下げ | 終値で48.4%安 | 取引時間中に26.27%安(10時53分) |
| 違う点:売上高の伸び | 7%増 | 53%増 |
| 違う点:次の四半期の見通し | 1億7,500万〜1億7,800万ドル、前期を下回る見通し | 10億〜10億3,000万ドル、前期を上回る見通し |
| 違う点:失うもの | 有料の会員そのもの | ログインしない訪問者(広告の在庫) |
| 違う点:会社の打ち手 | AIを使った新サービス | ログインを前提にした形への移行 |
当時その後に起きたこと:チェグの半年
チェグの株価のその後(2023年、終値、ドル)
読み方:翌日の反発は続かず、半年後にはさらに安かった。年末に戻したものの、急落前の水準には遠い。出所:Yahoo Finance(日足の終値)。
急落の翌日、チェグの株価は10ドル17セントで引け、12%戻した。だが、それは続かなかった。5月末の終値は8ドル98セントで、急落した日の水準を下回った。11月1日には7ドル50セントと、急落前の17ドル60セントから57%安い水準まで下げている。2023年の最後の取引日には11ドル36セントまで戻したが、急落前の値には遠く及ばなかった。
当時の教訓は、急落の翌日の反発が「底」を意味しなかったことである。会社が自ら認めた構造の変化は、1日では株価に織り込みきれない。四半期ごとの決算で、利用者の減少が実際の数字として現れるたびに、売りが繰り返された。
「今回は違う」論を検証する
今回は違う、という見方には根拠がある。第一に、レディットの売上高は53%伸びており、次の四半期も増収の見通しだ。チェグは売上高が細る局面で信頼を失ったが、レディットはまだ伸びている。第二に、失うものの質が違う。チェグが失ったのはお金を払う会員だったが、レディットがまず失うのは、ログインせずに検索から一度だけ訪れる人々である。広告の在庫は減るが、ログインした利用者は7%増えている。
一方で、似ている点も軽くない。どちらも、会社が自ら「入り口が細っている」と認め、それを止める手段を自分で持っていない。チェグにとってのChatGPTと同じく、検索の仕組みの変化はレディットの外で起きている。そして会社自身が、10〜12月期の利用者数が1割台前半減りうると書いた。チェグの例が示すように、こうした予告は四半期ごとに数字として確かめられ、そのたびに株価が試される。
歴史が示す3つの教訓
- 翌日の反発は底の証拠ではない。チェグは急落の翌日に12%戻したが、半年後にはさらに安かった。
- 会社が自ら示した悪い見通しは、四半期ごとに試される。次の決算で利用者数が予告どおり減れば、それ自体が新しい売り材料になりうる。
- 売上高が伸びているあいだは、打ち手を試す時間がある。チェグとの最大の違いはここにあり、レディットの株価が回復する道があるとすれば、この時間を使えるかどうかにかかる。
今回固有の監視点と、本誌の見立て
レディットの株価は、2026年1月13日の終値258ドル93セントから、30日10時53分時点で63%下にある。過去50営業日の終値の平均は約151ドル50セントで、いまの値はそこから4割近く離れている。売られすぎを示す数字ではあるが、チェグの例を踏まえれば、それだけで買いの理由にはならない。本誌は1〜3カ月の見通しを次のように置く。
| シナリオ | 確率(本誌の見立て) | 中身 | 確かめる材料 |
|---|---|---|---|
| 安値圏でのもみ合い | 45% | 90〜130ドルで推移し、30日の窓(前日終値129ドル60セント)は埋まらない | 10〜12月期の利用者数が予告の範囲で減る |
| チェグ型の続落 | 30% | 30日の安値95ドル05セントを割り込み、80ドル台へ | 米国の利用者や売上高の伸びが鈍る |
| 見直しの買い | 25% | 129ドル60セントを回復し、窓を埋める | ログインを前提にした試験で利用者の質の改善が示される |
30日はレディットだけでなく、半導体株やAI投資の関連株も大きく売られた日である。市場全体の流れは米国株の寄り付き1時間の記事に、AIへの巨額投資をめぐる通説の検証はインテル急落とAI株の売りの記事にまとめた。検索の仕組みの変化は、レディットのような「検索から人が来る」会社に共通する課題であり、同じ日にピンタレストは7.05%安、ロブロックスは18.43%安(いずれも10時53分)で取引されている。ただし両社の下げには、それぞれの決算の事情もある。
主な参照
- レディットの7〜9月期決算・株主への書簡・10〜12月期見通し(2026年10月29日)/SEC提出資料
- チェグの決算説明会とChatGPTの影響(2023年5月2日)/ザ・レジスター、フォーチュン
- チェグの終値48.4%安と経営陣の反論(2023年5月3日)/モトリーフール
- レディット、チェグ、ピンタレスト、ロブロックスの株価(日足と30日の取引時間中の値)/Yahoo Finance
データ基準日:2026年10月30日(米東部時間10時53分、日本時間23時53分)。レディット、ピンタレスト、ロブロックスの株価は取引時間中の値であり、終値ではない。前日比は29日の終値との比較。チェグの株価はYahoo Financeの日足の終値で、2023年当時の値である。過去50営業日の平均は本誌の計算。チェグの経営陣の発言は当時の報道による。レディットの利用者数の見通しは会社が示した条件付きの見方であり、確定した数字ではない。シナリオの確率は本誌の見立てである。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断は各自の責任において行われたい。













