なぜ「10月はビットコインが上がる月」という話が、今年も外れそうなのか。答えは、季節の話が「気候」の話であって「今日の天気」の話ではない点にある。米コインベースの日足で数えると、2016〜2025年の10月は10回中8回上昇した。だが2026年10月は、日本時間31日7時44分の時点で月初から8.0%安い。月足が確定するのは日本時間11月1日の午前9時(協定世界時で10月31日の24時)で、そこまでに8.7%戻さなければ2年続けての「赤い10月」になる。
今日の講義では、この1本の比喩を最後まで使う。季節の傾向は「平年の降水確率」であり、目の前の空模様は別に見なければならない。傘を持つかどうかは、平年値ではなく、いま見える雲で決める。順に見ていく。
結論を先に:「10月は強い」という平年値は今年は当たらない見込みだ。過去に赤い10月だった2回(2018年と2025年)は、いずれも11月がさらに大きく下げた。ただし標本は2つしかなく、予報としての力は弱い。本誌の11月の見立ては、7万4,900〜8万1,900ドルでのもみ合いが45%、下抜けが35%、回復が20%である。7万9,146ドルを日足の終値で取り戻せば、弱気の見方を後退させる。
平年値はどう作られたのか:10年分の10月
まず「平年の降水確率」にあたる数字を、自分の手で作ってみてほしい。材料はコインベースが公開している日足である。各年の10月1日の始値と10月31日の終値(いずれも協定世界時)を比べると、10月の騰落率が出る。
ビットコインの10月の騰落率(2016〜2026年)
読み方:10回中8回が上昇だが、平均17.8%高は2017年と2021年の大相場に引っ張られており、中央値は12.7%高。2026年は日本時間31日7時44分時点の途中経過で、月足は確定していない。出所:コインベースのBTC-USD日足(協定世界時)から本誌計算。
10回のうち上昇は8回。平均は17.8%高、中央値は12.7%高だった。暗号資産の世界で「アップトーバー(Uptober)」と呼ばれる言い伝えは、この数字から来ている。ここまでは正しい。
ここが肝心だ。平均17.8%という数字は、2017年の48.5%高と2021年の40.0%高という、2回の大相場に引っ張られている。気象でいえば、記録的な大雨の年が2回あるだけで「平年の雨量」は大きく見える。中央値の12.7%のほうが、普通の年の姿に近い。そして2025年に4.0%安、2026年はいまのところ8.0%安と、直近2年は平年値の外側にいる。
用語ボックス
・月足の確定:その月の最後の取引の値段で、月の終値が決まること。ビットコインは24時間取引のため、多くのデータ会社は協定世界時0時を日の区切りにする。日本時間では午前9時だ。
・中央値:数字を小さい順に並べたときの真ん中の値。極端な年に引っ張られにくい。
・標本数:結論の土台になったデータの件数。10年の季節性なら標本は10。2回の出来事から言えることは少ない。
今日の空模様:何が雲を呼んだのか
次に、平年値ではなく、いまの空を見る。今年の10月を時系列でたどると、月初の10月2日に付けた8万7,249ドルが月中の高値だった。そこから中旬まで8万1,000〜8万4,000ドル台で推移し、雲が厚くなったのは月末の数日である。
2026年10月のビットコイン:月初の高値から月末の雲まで
読み方:値段はコインベースの日足(協定世界時)。雲が厚くなったのは月末の数日である。床の水準はインベスティングライブの分析。出所:コインベース、TRMラボ、インベスティングライブ。
一番大きな雲は、交換所バイナンスで起きた流出事件だ。ブロックチェーン分析会社TRMラボによると、協定世界時29日20時5分ごろから約20分の間に大半の送金が行われ、流出額は盗まれた時点の値段で約63億6,000万ドルにのぼる。TRMは記録が残る中で最大の暗号資産の盗難と位置づけ、北朝鮮のハッカー集団「トレーダートレイター」の犯行と高い確度で判断した。テザーやサークルなどが凍結した額は計約27億ドルで、ビットコイン1万8,270枚を含む約24億ドルは、なお犯人の手元にあるという。
バイナンス側は、利用者の資産は安全で損失は全額補償すると説明している。共同創業者で共同最高経営責任者(CEO)のイー・ハー氏は「48時間以内に出金サービスの再開を始める見込みだ」と述べたと報じられている。つまり、この週末は「出金が実際に再開されるか」という、もう一つの雲が空にかかったまま月末を迎える。
事件の詳しい経過と、円建てでの家計への影響はこちらの記事に、8万ドル割れの主因がFRBかバイナンスかを検証した分析はこの記事にまとめた。本稿はそこから一歩引いて、「月の終わり方」が次の月に何を語るのかを考える。
赤い10月のあと、11月はどうなったか
ここで、読者が一番知りたい問いに進む。10月が下げて終わった年、11月はどうだったのか。コインベースの日足で10月31日の終値から11月30日の終値までを測ると、次のようになる。
| 10月の結果 | 該当した年 | 翌11月の騰落率 | 11月の上昇回数 |
|---|---|---|---|
| 上昇(8回) | 2016・2017・2019〜2024年 | +6.6%、+53.7%、−17.5%、+42.8%、−7.1%、−16.2%、+8.9%、+37.4% | 8回中5回 |
| 下落(2回) | 2018年・2025年 | −36.9%、−17.5% | 2回中0回 |
| 2026年 | 31日7時44分時点で8.0%安 | — | — |
赤い10月は2回とも、11月にさらに大きく下げた。2018年は36.9%安、2025年は17.5%安である。この表だけを見れば「11月はもっと悪い」と言いたくなる。
よくある誤解:「2回とも下げたから、今年も下げる」
標本が2つしかない統計は、予報ではなく逸話に近い。コインを2回投げて2回とも表が出ても、3回目に表が出る確率は変わらない。2018年は相場全体が長い下げ局面の途中にあり、2025年は10月上旬に史上最高値を付けた直後の反落だった。今年の背景は、そのどちらとも違う。過去の形をなぞる前に、いまの雲の種類を確かめる必要がある。
では、この表から何も学べないのか。そうではない。学べるのは方向ではなく、振れ幅である。10年分の11月のうち、上下10%を超えて動いた年は7回あった。11月は、平年値でみても「雨が降るなら土砂降りになりやすい月」なのだ。傘を持つかどうかより、傘の大きさを考えるべき月と言い換えてもいい。
天気図を読む:いま見えている値段の帯
平年値の次は、天気図だ。値段の地図の上に、今月の高値と安値、そして市場参加者が意識している水準を並べてみる。
ビットコインの値段の帯(ドル)
読み方:現在値は日本時間31日7時44分のコインベースの値。床と天井はインベスティングライブの分析、ほかはコインベース日足。7万9,146ドルの回復と7万4,911ドルの下抜けが、本誌の予報の分かれ目である。
読み方を順に説明する。日本時間31日7時44分の値段は7万6,836ドル。国内の交換業者ビットフライヤーでは同じころ1,212万1,054円だった。10月の安値は30日に付けた7万6,141ドル(コインベース)である。為替・市場ニュースのインベスティングライブは、10月22日以降のもみ合いの床を7万9,146ドル、天井を8万1,930ドルとし、30日にその床を割り込んだと分析した。同社は100日移動平均を7万6,146ドル付近と示しており、30日の安値はこの線のすぐ上で止まった形になる。
その下で目立つのは、9月16日の安値7万4,911ドルだ。ここを割ると、9月中旬からの下値の支えが外れ、心理的な節目の7万ドルが意識されやすくなる。上では、割り込んだ床の7万9,146ドルが今度は重しになりやすい。さらにその上の8万3,556ドルは10月の始値で、月足を赤から白に変える線である。
11月の予報:3つのシナリオと確率
ここまでの材料を、天気予報の形にまとめる。確率は本誌の判断であり、平年値(季節性)よりも、いま見えている雲(バイナンスの出金再開、値段の帯)に重みを置いた。
11月のシナリオ別の確率(本誌の見立て、%)
読み方:確率は本誌の判断で、季節の傾向より足元の材料に重みを置いた。日足終値で7万9,146ドルを2日続けて上回れば雨のシナリオを取り下げる。
くもり(45%):7万4,900〜8万1,900ドルのもみ合い。バイナンスの出金が週末から順に再開され、流出した資金の行方に新しい悪材料が出なければ、売りは一巡しやすい。ただ、7万9,146ドルの上には戻り売りが待っており、上も下も抜けきれない展開が中心になる。
雨(35%):7万4,911ドルを割り、7万ドル台前半を試す。出金再開が遅れる、あるいは犯人の手元にあるビットコイン1万8,270枚が市場で売られる兆しが見えれば、9月の安値は持ちこたえにくい。赤い10月のあとの過去2回が示した「11月の大きな下げ」と同じ形になる。
晴れ間(20%):7万9,146ドルを日足の終値で回復し、8万1,930ドルに挑む。事件の後始末が早く進み、米国株の売りが落ち着けば、割り込んだ床をすぐに取り戻す可能性もある。10月の始値8万3,556ドルまで戻れば、季節の言い伝えは1カ月遅れで当たったことになる。
この予報が外れたと判断する線:日足の終値(協定世界時0時、日本時間9時)で7万9,146ドルを2日続けて上回れば、雨のシナリオは取り下げる。逆に日足の終値で7万4,911ドルを下回れば、くもりの見立てを取り下げ、雨を中心に置き直す。
個人投資家が月末の週末にできること
最後に、傘の選び方を考える。季節の言い伝えで売り買いを決めるのは、平年の降水確率だけで傘を置いて出かけるのに近い。実際に見るべきものは3つある。1つ目は、バイナンスの出金再開が予定通りに進むかどうか。2つ目は、日本時間11月1日9時に確定する10月の月足の終値。3つ目は、その後の日足の終値が7万9,146ドルと7万4,911ドルのどちら側にあるかだ。
週末は株式市場が閉まっており、ビットコインだけが値を付け続ける。流動性が薄い時間帯は値が飛びやすい。積み立てで保有している人にとって、1カ月の下げは計画を変える理由にはなりにくい。一方、証拠金を使った取引をしている人は、雨のシナリオが当たったときに損失がどこまで膨らむかを、先に数字で確かめておきたい。国内の暗号資産の税制や規制の変化についてはこちらの解説も参考になる。
まとめ:平年値と空模様を分けて見る
講義を比喩に戻して締めくくる。「10月は強い」は平年の降水確率であり、外れる年がある。今年はその外れ年になりそうで、空にはバイナンスという厚い雲がかかっている。覚えて帰ってほしいのは次の3点だ。
- 2016〜2025年の10月は8勝2敗だが、平均は2回の大相場に引っ張られている。今年は31日7時44分時点で8.0%安だ。
- 赤い10月の後の11月は過去2回とも大きく下げた。ただし標本は2つで、方向の予報には使えない。使えるのは「11月は振れ幅が大きい」という教訓である。
- 本誌の見立てはもみ合い45%、下抜け35%、回復20%。分かれ目は7万9,146ドルと7万4,911ドルの2本の線だ。
主な参照
- ビットコインの日足(2016〜2026年、協定世界時)/コインベース
- ビットコインのスポット価格(31日7時44分=日本時間)/コインベース
- ビットコインの円建て価格(31日7時47分=日本時間)/ビットフライヤー
- バイナンスからの流出額・凍結額・犯行グループの判断/TRMラボ
- 出金再開の見通しに関するバイナンス共同CEOの発言(報道)/AMBクリプト
- もみ合いの床と天井、100日移動平均の水準/インベスティングライブ
データ基準日:2026年10月31日7時44分(日本時間)。ビットコインの価格は取引時間中の値であり、10月の月足の終値ではない。月足は日本時間11月1日9時に確定する。過去の月間騰落率は、コインベースのBTC-USD日足の始値・終値(協定世界時)から本誌が計算したもので、他の交換所やデータ会社の数字とは小さく異なる場合がある。出金再開の見通しは報道によるもので、本誌はバイナンスの公式発表で直接確認していない。100日移動平均ともみ合いの床と天井はインベスティングライブの分析による。シナリオの確率は本誌の判断であり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















