レギュラーガソリン1リットル170.1円。資源エネルギー庁が10月26日に調べた全国平均である。11月2日、ニューヨークの原油先物は1日で7%を超えて下げたが、私たちが給油所で払うこの数字は、おそらくほとんど動かない。原油安の恩恵は、まず家計ではなく国の補助金の側に届く仕組みになっているからだ。今回はその道筋を、給油所の価格板から中東の交渉の席までさかのぼって確かめる。
11月2日、原油に何が起きたか
まず川上の数字から。CNBCによると、米国産標準油種WTIの期近物は11月2日、1バレル96.46ドルで取引を終えた。下落率は7.4%で、7月27日以来の大きさである。北海ブレント原油は7.6%安の104.77ドルで清算した。NBCニュースは、ドル建ての下げ幅としては両指標とも4月17日以来最大だったと伝えている。軽油の先物も5.4%下げた。
ブレントの104.77ドルは、ゴールドマン・サックスが同じ日に引き上げたばかりの12月の予想値105ドルとほぼ同じ水準だ。予想の引き上げと同じ日に、相場のほうが先にそこまで下りてきたことになる。ゴールドマンの見通しの中身は前日の記事で扱った。
売りのきっかけは外交である。ロイターを引用したCNBCとオイルプライス・ドットコムによると、日曜日にカタールのドーハで行われた協議のあと、米国とイランの戦争を終わらせるための合意案の草稿が回覧されている。草稿の中身は明らかになっていない。イラン国営通信(IRNA)によると、ペゼシュキアン大統領は、最高指導者が対話による解決について政府に一定の権限を与えたと述べた。
米国側も歩み寄りの言葉を重ねた。ルビオ国務長官は「平和的に解決したい」と述べ、トランプ大統領はSNSに「イランはできるだけ早い決着を望んでいる。実現するかもしれない」と書いた。NBCニュースの取材には、中間選挙後のイラン攻撃を検討しているかと問われ、2度「ノー」と答えている。10月に原油が10%を超えて上げた背景には、選挙後に攻撃が再開されるという警戒があった。その前提が1日で揺らいだ。
給油所の170円は、どう決まっているか
ここから川下へ降りる。いまの日本のガソリン価格は、市場が自由に決めた値段ではない。国が「基準価格」を170円に置き、それを上回る分を石油元売りへの補助金で埋めている。10月29日から11月4日までの補助額は1リットル52.4円である。資源エネルギー庁の資料には、補助がなければ222.5円になっていたという線も描かれている。
補助額の計算式は公表されている。翌週の想定小売価格(今週の価格+前週の補助額+原油価格の変動分+調達費用の調整分)から、基準価格170円を引いた額が次の週の補助額になる。10月29日適用分では、原油価格の変動分が6.0円、調達費用の調整分が3.5円上乗せされ、補助額は前週の42.8円から52.4円へ増えた。
原油安が給油所に届くまでの道筋
読み方:原油の値下がりは、まず補助額の縮小として吸収される。小売価格が基準価格の170円から大きく下がる仕組みにはなっていない。出所:CNBC、NBCニュース、資源エネルギー庁。
この式を読むと、今回の原油安がどこに効くかが分かる。原油が下がれば「原油価格の変動分」がマイナスになり、補助額が縮む。小売価格は基準価格の170円近辺に保たれたままである。つまり原油が1日で7%下げても、給油所の価格板はほとんど動かず、減るのは国の支出のほうだ。
円に直すと、いくらの値下がりか
本誌の試算で大きさをつかんでおく。ブレントは前営業日の113ドル台から104.77ドルへ、およそ8.6ドル下げた。1バレルは約159リットル。欧州中央銀行(ECB)が11月2日に公表したドル円の参照レート157.90円で換算すると、1リットルあたり約8.6円の値下がりになる。精製や輸送の費用、為替の動き、原油が届くまでの時間差を考えない単純な換算である。
ガソリン1リットルの値段の内訳(円、10月29日〜11月4日の補助)
読み方:原油の1日の下げを円に直すと1リットル約8.6円で、補助額52.4円の6分の1ほどにあたる。続けば補助額が縮み、小売価格はほぼ変わらない。出所:資源エネルギー庁、CNBC、欧州中央銀行の参照レートをもとに本誌計算。
この値下がりが1週間続けば、11月4日ごろに発表される次の補助額は、52.4円から数円単位で小さくなる計算になる。ただし原油価格の変動分は1週間の平均で計算されるため、1日の急落がそのまま全額で反映されるわけではない。週の後半に反発すれば、効果は薄まる。
| 家計の例 | 月の給油量 | 基準価格が170円のまま | 基準価格が175円になると |
|---|---|---|---|
| 近所の買い物中心 | 20リットル | 3,400円 | 3,500円(+100円) |
| 通勤で毎日使う | 40リットル | 6,800円 | 7,000円(+200円) |
| 地方で2台持ち | 80リットル | 1万3,600円 | 1万4,000円(+400円) |
家計に効くのは、原油の日々の値動きより、この基準価格のほうである。高市首相は10月29日、補助を12月から段階的に縮める方針を示したと毎日新聞が報じた。基準価格を月5円ずつ引き上げる形が伝えられている。経過は補助縮小の記事にまとめた。自分の車の燃費と月の走行距離で負担の変化を確かめたいなら、燃料費計算ツールに170円と175円を順に入れて比べるとよい。
逆に言えば、今回の原油安は補助の縮小を進めやすくする材料になる。原油が下がっている局面で基準価格を上げれば、補助なし価格と基準価格の差が縮み、補助の出口が近づく。私たちの財布に届くのは、値下がりよりも「値上がりが緩やかになる」という形である可能性が高い。
交渉の席は、まだ固まっていない
上流の交渉には、まだ大きな隔たりがある。CNBCによると、アラグチ外相は、米国が制裁を解除し、地域の軍事的な展開を以前の水準に戻し、海上封鎖を解くことを求めている。オイルプライス・ドットコムによると、外務省のバガイ報道官は、米国の海上封鎖が終わらない限りホルムズ海峡は再開できないと述べた。一方で、最高指導者は10月31日、軍に対して「いかなる脅威にも即時に反撃せよ」と命じている。
専門家の見方も慎重だ。TDセキュリティーズのライアン・マッケイ氏は、外交の見出しだけでリスク分の上乗せが全部はがれるとは見ていないと述べた。INGのアナリストは「これが何かにつながるかは分からない」とし、市場は週末まで息を詰めて待つことになるかもしれないと書いている。タンカーやフーシ派の攻撃も続いていると伝えられている。
今後1〜2週間の3つの筋書き
本誌の見立てを確率付きで置いておく。基準は北海ブレントの清算値である。
| 筋書き | 確率 | ブレントの目安 | 給油所への影響 |
|---|---|---|---|
| 協議が続き、草稿が次の会合に進む | 30% | 95〜100ドル | 補助額が縮み、補助縮小が予定どおり進む |
| 膠着。見出しで上下する | 50% | 100〜112ドル | 170円近辺のまま。補助額は週ごとに上下 |
| 中間選挙後に再び緊張が高まる | 20% | 115ドル超 | 補助額が再び膨らむ。縮小の時期が議論に |
2つ目の筋書きを最も重く見るのは、条件の隔たりが大きいからである。イランは制裁と封鎖の解除を求め、米国はまだ何も約束していない。それでも10月の上昇分の大半が1日で消えたことは、市場が「合意の可能性」にどれほど敏感になっているかを示している。原油連動の上場投資信託(ETF)であるUSOも、11月2日に7.08%下げた。投資家の側では、原油高を前提にした持ち高を減らす動きが先に進んでいる。
次に店頭へ届く変化の日付
- 11月3日(米国時間):米中間選挙。結果よりも、選挙後に攻撃再開の観測が出るかどうかが原油の焦点になる。
- 11月4日ごろ:次週の補助額の発表。2日の急落が「原油価格の変動分」にどれだけ入るかが分かる。適用は5日からの見込み。
- 11月4日(米国時間):米エネルギー情報局(EIA)の週間在庫統計。需給面から下げが正当化されるかを確かめる。
- 12月:補助の段階的な縮小が始まる見込み。ここで初めて、給油所の価格板の数字が変わる。
給油所の価格板の数字は、原油ではなく基準価格で決まっている。原油の急落が家計に届くまでには、補助金という緩衝材を通る分だけ時間がかかる。届くときには、値下がりではなく値上がりの幅が小さくなるという形をとる可能性が高い。供給面の整理はOPECプラスの12月方針の記事も参照してほしい。
主な参照
- WTI・ブレントの清算値、イラン側・米国側の発言(11月2日)/CNBC
- 下落幅の比較、軽油先物、トランプ大統領の発言(11月2日16時32分=米東部時間)/NBCニュース
- 合意案の草稿、バガイ報道官とINGの発言(11月2日)/オイルプライス・ドットコム
- ゴールドマン・サックスの12月予想(11月2日)/CNBC
- ガソリン全国平均価格と補助額の算定式(10月26日調査)/資源エネルギー庁
- 補助の段階的な縮小方針(10月29日)/毎日新聞(Yahoo!ニュース)
- ユーロ参照レート(ドル円157.90円、11月2日)/欧州中央銀行
- USOの日足終値(11月2日)/stockanalysis.com
データ基準日:原油は2026年11月2日(米国時間)の清算値、ガソリン価格は10月26日の調査値。取引時間中の値ではない。1リットルあたり約8.6円は、ブレントの下げ幅をECBの参照レートで単純に換算した本誌の試算であり、精製費・輸送費・時間差を含まない。ブレントの前営業日の水準(113ドル台)は、ロイターを引用した報道の下げ幅から逆算した値である。家計の表の175円は補助縮小の報道に沿った仮定で、政府が確定した価格ではない。筋書きの確率は本誌の判断である。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














