銀1グラム292円71銭。田中貴金属が11月2日朝9時30分に公表した銀の店頭小売価格(税込)だ。前営業日から8円25銭下がった。1月30日の公表価格650円10銭と比べると、9カ月で半分以下になった。この数字の向こうには、ニューヨークの先物市場で1オンス50ドルの攻防が続いている。
日本時間3日11時50分時点で、ニューヨーク商品取引所(COMEX)の銀先物(期近)は1オンス50.205ドル、前日比1.34%安だった。1カ月で18%、1週間で7%下げた。1月29日に付けた最高値121.785ドルからは58.8%安になる。「売られすぎだから戻る」という声もあるが、私たちの手元の銀がいくらになったのか、まず現場の数字から見ていく。
店頭の1グラム:買う値段と売る値段の差は17円
田中貴金属の公表値には二つの価格がある。客が買うときの小売価格292円71銭と、客が売るときの買取価格275円66銭だ。差は17円05銭で、小売価格のおよそ5.8%にあたる。いま買って同じ日に売れば、それだけで5.8%を失う計算になる。
注意したいのは、同社の銀は現物の地金ではなく、口座の中で売り買いする取引だという点だ。店頭で銀の延べ板を持ち帰る形ではない。それでも、この価格は国内で銀の値段を測る代表的な物差しになっている。純銀上場信託(1542)の2日終値は2万2,770円で、こちらも1カ月で2割近く下げた。
円建ての下げはドル建てより少し小さい。ドル建ての先物が高値から58.8%安なのに対し、田中貴金属の小売価格は1月30日比で55.0%安だ。為替の動きや国内の値付けの違いが、わずかなクッションになった。ただ、クッションは3〜4ポイントにすぎない。銀の値段の大半は、海の向こうで決まっている。
高値からの下落率:今回の銀と金、過去の銀
読み方:今回の銀の下げ(ドル建て58.8%)は2011年の約47%をすでに超え、1980年の約79%に次ぐ。円建ての下げはやや小さい。出所:トレーディングビュー(11月3日11時50分、日本時間)、田中貴金属工業(1月30日・11月2日公表値)、キットコ。本誌計算。
上流をたどる:10月の下げを生んだ三つの流れ
一つ目:利上げ観測と強いドル金利
CNBCによると、10月29日に銀の現物は5.8%下げて1オンス49.34ドルを付け、2025年11月以来初めて50ドルを割った。米連邦準備制度理事会(FRB)が金利を据え置いたあと、市場は「高い金利が長く続く」と読んだ。ドイツの貴金属大手ヘレウスのリポートによれば、9月の個人消費支出(PCE)物価は前年比3.6%で、CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)の金利先物は12月の0.25%利上げを約76%織り込んでいる。利息を生まない銀には、金利が上がるほど逆風が強まる。
二つ目:ハイテク株の急落と投げ売り
銀は太陽光パネルや電子部品にも使われる工業用の金属でもある。AI関連株が崩れた10月下旬、銀は金より大きく売られた。独コメルツ銀行は、ハイテク株の急落が「強制的な売りや追加証拠金の請求を引き起こした可能性がある」と指摘し、下げは行き過ぎだとみている(CNBC、10月29日)。米半導体株指数は11月2日までの1カ月で21%下げた。
三つ目:ロンドンの倉庫に積み上がる在庫
英調査会社メタルズ・フォーカスによると、ロンドンの保管庫にある銀は9月末で9億3,200万オンスと、4年近くで最も多い。上場投資商品(ETP)向けを除いた使える在庫も約2億6,700万オンスで、2025年10月の底のほぼ2倍に戻った。2025年に銀を押し上げた「現物が足りない」という物語は、少なくともロンドンでは薄れている。同社は2027年に供給過剰へ転じるとみる。
一方で、世界の業界団体シルバー・インスティテュートは4月の年次報告で、2026年も4,630万オンスの供給不足が続くと予測した。不足は6年連続になる。ただし不足の幅は前年より縮む見通しで、数字の向きは「足りない」から「足りる」へゆっくり傾いている。
家計への換算表:手元の銀はいくら減ったか
田中貴金属の小売価格で、1月30日と11月2日の評価額を並べた。積み立てで少しずつ買った人は平均の買値が違うので、自分の買値で置き換えてほしい。
| 保有量 | 1月30日(650円10銭/g) | 11月2日(292円71銭/g) | 差額 | 11月2日に売った場合(275円66銭/g) |
|---|---|---|---|---|
| 100グラム | 6万5,010円 | 2万9,271円 | −3万5,739円 | 2万7,566円 |
| 500グラム | 32万5,050円 | 14万6,355円 | −17万8,695円 | 13万7,830円 |
| 1キログラム | 65万100円 | 29万2,710円 | −35万7,390円 | 27万5,660円 |
1キログラムの銀は、9カ月で35万円あまり目減りした。自分の買値からの騰落率は、パーセント計算ツールに買値と今の価格を入れれば一度で出せる。数字を見ずに「そのうち戻る」と構えるより、まず損益の大きさを正確に知っておきたい。
「売られすぎ」の根拠と反論
反発を期待する声にも根拠はある。米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉報告では、10月27日時点で投機筋(マネージドマネー)の買い越しは3,321枚まで減った。9月22日の1万3,309枚から5週間で75%縮み、2024年2月以来の低さだ。売りたい人はもうかなり売った、という見方は成り立つ。
インドの動きもある。ヘレウスによれば、インドは今後6カ月で約6,500トン(約2億900万オンス)の輸入許可を出した。2025年の輸入量の約9割にあたる。1〜9月の輸入は前年より32%少なかったので、買い控えの反動が出る余地はある。11月8日にはヒンドゥー教の祭りディワリを迎え、貴金属の需要期に入る。上場投資信託(ETF)も崩れていない。iシェアーズ・シルバー・トラストの保有量は11月2日時点で5億668万オンスと、10月を通じてむしろ増えた。売りの中心は先物の投機筋だった。
ただし、反論も重い。金と銀の価格比は日本時間3日昼時点で約78.8倍と、夏の60〜70倍台から上がった。メタルズ・フォーカスは2020〜2025年の平均82倍をまだ下回るとして、銀が金に対してさらに負ける余地を指摘する。12月の利上げ観測が残るかぎり、金利の逆風も止まらない。50日移動平均は61.42ドル、200日移動平均は70.79ドルで、現在値はどちらからも遠く下にある。
筆者の見立て:1〜3カ月は46.5〜53ドルの往来が本線
| シナリオ | 確率(筆者) | COMEX銀の目安 | 円建て小売の目安 | きっかけ |
|---|---|---|---|---|
| 往来 | 45% | 46.5〜53ドル | 270〜310円/g | 利上げ観測が残り、インドの買いが下値を支える |
| 反発 | 30% | 55〜57ドル | 320〜335円/g | 米雇用の鈍化で12月利上げ観測が後退 |
| 下抜け | 25% | 45ドル割れ | 260円/g割れ | 52週安値46.52ドルを終値で割り込む |
過去の例も慎重さを促す。2011年4月に1オンス49ドル台を付けた銀は、12月の安値26.385ドルまで約47%下げ、その後も長く戻らなかった。1980年1月の50ドル台の高値のあとは、5月に10ドル台まで落ちた。今回の下げ幅はすでに2011年を上回っており、「これだけ下げたのだから」という理由だけでは底の根拠にならない。
見立てを外す条件も書いておく。52週安値の46.52ドルを終値で割り込めば、往来の本線は崩れる。その場合、45ドル近辺までは目立った支えが見当たらない。逆に53ドルを終値で上抜けば、反発シナリオの比重を上げる。
生活防衛と投資の接点:選択肢を並べる
- 積み立てを続ける。価格が下がった局面では同じ金額で多くのグラム数を買える。ただし小売と買取の差5.8%は毎回の購入にかかる。
- いったん止めて様子を見る。利上げ観測が消えるまで待つ考え方だ。待つ間の機会損失はある。
- 金との比率を見直す。貴金属を持つ目的が「守り」なら、今回の下げ幅が銀の約半分だった金のほうが目的に合う。金の下げは高値から約3割にとどまっている。
- 売って損を確定する。買取価格で売ることになり、小売価格での評価額より5.8%低くなる。
どれを選ぶかは、銀を持つ目的と期間による。本誌はどれかを勧めるものではない。金の値動きは金価格、最高値から3割安の分析に、10月中旬時点の銀と白金の需給はこちらの記事にまとめた。
次に店頭へ届く変化の日付
- 11月4日(水)朝:祝日明けの田中貴金属の公表価格。3日のドル建ての動きが反映される。
- 11月6日(金)夜:米10月雇用統計。12月の利上げ観測を左右する。
- 11月7日(土)早朝:CFTC建玉報告。投機筋の買い越しがさらに減ったか、買い戻しが始まったかを確認する。
- 11月8日(日):インドのディワリ。前後の輸入と国内プレミアムの戻りに注目する。
主な参照
- 銀の店頭小売・買取価格(11月2日9時30分公表)/田中貴金属工業
- 銀が2025年11月以来の50ドル割れ、コメルツ銀行の見方(10月29日)/CNBC
- ヘレウスのリポート、インドの輸入許可とPCE(11月2日)/キットコ
- メタルズ・フォーカス、ロンドン在庫と金銀比価(10月29日)/キットコ
- 投機筋の建玉(10月27日時点)/米商品先物取引委員会
- iシェアーズ・シルバー・トラストの保有量(11月2日時点)/ブラックロック
- 2026年の需給見通しと1月29日の最高値/シルバー・インスティテュート
- 1980年と2011年の高値と安値/キットコ
データ基準日:2026年11月3日(日本時間11時50分)。COMEX銀・金先物と移動平均はトレーディングビューの取引時間中の気配値(遅延あり)で、終値ではない。田中貴金属の価格は11月2日9時30分公表分で、3日は祝日のため公表がない。高値からの下落率、金銀比価、家計換算表は本誌の計算による。2011年の安値はCOMEX先物の連続限月、1980年の値は当時のCOMEX先物で、現物価格とは異なる。シナリオの確率と水準は筆者の見立てで、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














