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商社決算、進捗3割でも株価は下げた|4日発表

Takashi Suzuki Takashi Suzuki
2026年11月3日
オピニオン, 商品・貴金属, 株式, 経済
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市場はこう信じている——中東の紛争で原油が高く、円は1ドル158円台(日本時間3日20時時点、取引時間中)と安い。だから総合商社は4〜9月期決算で業績予想を引き上げ、株価もそれに応える。11月4日、三菱商事(8058)、三井物産(8031)、伊藤忠商事(8001)、丸紅(8002)の4社が、文化の日の休場明けにそろって決算を発表する。筋は通っている。

だが、本当か。今日はこの通説を2つに分けて尋問する。「上方修正はあるか」と「修正すれば株は上がるか」である。証拠は各社の4〜6月期の進捗、三菱商事が置いた前提、そして過去4回の決算で株価が実際にどう動いたかだ。

通説の陳述:材料はそろっている

通説の側の証拠を、最も強い形で並べておく。株探のデータによると、4社が5月1日に示した2027年3月期の純利益予想は、三菱商事が1兆1,000億円(前期比37.4%増)、三井物産が9,200億円(10.3%増)、伊藤忠商事が9,500億円(5.5%増)、丸紅が5,800億円(6.6%増)である。8月の4〜6月期決算では4社とも予想を据え置いた。三井物産の決算短信にも「直近に公表されている業績予想からの修正の有無:無」とある。

その4〜6月期の純利益は、三菱商事が2,985億円、三井物産が2,941億円、伊藤忠商事が2,938億円、丸紅が1,864億円だった。通期予想に対する進捗率は、本誌の計算で27.1%、32.0%、30.9%、32.1%になる。1年を4つに割れば1四半期あたり25%であり、4社とも3カ月でそれを上回った。

会社通期の純利益予想4〜6月期の純利益進捗率11月2日終値2025年8月以降の高値からの下落
三菱商事1兆1,000億円2,985億円27.1%4,772円−18.9%(5月14日 5,882円)
三井物産9,200億円2,941億円32.0%4,917円−26.2%(3月18日 6,659円)
伊藤忠商事9,500億円2,938億円30.9%2,271円−4.2%(10月26日 2,370.5円)
丸紅5,800億円1,864億円32.1%4,821円−23.5%(2月12日 6,301円)

出所:株探の業績・株価データ(終値ベース)、三井物産の決算短信。進捗率と下落率は本誌計算。高値は株探で取得できる2025年8月以降の終値の最高値で、上場来高値ではない。

尋問1:上方修正の余地は本当にあるか

証拠を見よう。最もはっきりした材料は三菱商事の前提である。日本経済新聞の5月1日の報道によると、同社は今期の予想を1ドル150円、原油1バレル78ドルで組んだ。1円の円安で純利益が50億円、原油が1ドル上がると24億円増える感応度も示している。中東情勢による300億円の悪化も、9月まで供給網の混乱が続く想定で織り込んだという。

実際の数字と比べる。欧州中央銀行(ECB)の参照レートから本誌が計算したドル円の平均は、4〜6月が159.39円、7〜9月が159.29円、4月から11月2日までで159.12円だった。前提より約9円の円安である。原油については、同じ日に決算を出したサウジアラムコの平均実現価格が4〜6月期108.1ドル、7〜9月期95.2ドルで、いずれも78ドルを大きく上回る。中東産の原油価格の目安として、前提との差は歴然としている。

感応度に当てはめた単純計算では、円安の9円で年450億円、原油が前提を17ドル上回れば年408億円で、合わせて800億円台の上振れ余地になる。三菱商事の予想1兆1,000億円に対して7〜8%にあたる。この説明には穴がある、という反論も公平のために書いておく。感応度は通期で前提がずれた場合の目安で、価格が利益に反映されるまでには時間差がある。為替の予約や価格の契約条件もある。それでも、前提が保守的だったという点は動かない。通説のこの部分は生き残る。

尋問2:好調な数字は株価に届いてきたか

決算をはさむ2日間の株価の変化(%)

三菱商事 8月-0.80%三井物産 8月-3.57%伊藤忠 8月-1.69%丸紅 8月-5.08%三菱商事 5月+8.18%三井物産 5月-5.39%伊藤忠 5月+3.66%丸紅 5月-9.50%

読み方:8月の4〜6月期決算では、4社とも進捗率が25%を超えたのに株価は下げた。5月の通期予想の発表でも、三井物産と丸紅は大きく売られた。変化は決算発表日の前営業日の終値から翌営業日の終値まで。出所:株探の日足終値から本誌計算。

ここが通説の弱点である。8月の4〜6月期決算で、4社はそろって進捗率25%を超えた。だが株価は4社とも下げた。決算発表日の前日終値から翌営業日の終値までの2日間で、三菱商事が0.80%、伊藤忠商事が1.69%、三井物産が3.57%、丸紅が5.08%の下落である。5月1日の通期予想の発表でも、三井物産は2日間で5.39%、丸紅は9.50%下げた。

過去4回(2025年11月、2026年2月・5月・8月)の決算で数えると、2日間で上げたのは16回中9回で、勝率は56%だった。ただし上げの多くは2025年11月と2026年2月に集中している。直近の5月と8月に限れば、8回中2回しか上げていない。三菱商事の5月(8.18%高)と伊藤忠商事の5月(3.66%高)だけである。好調な数字が出ても、株価がそれを素直に評価する局面ではなくなっている。

理由として考えられるのは、市場が「今期の数字」より「来期以降の資源価格」を見ていることだ。三井物産の高値は3月18日、丸紅は2月12日で、そこから2割以上下げている。資源の比重が小さい伊藤忠商事だけが10月26日に高値を付け、高値から4.2%安の位置にいる。資源高の恩恵が大きい会社ほど、株価は先に天井を付けている。

尋問3:下期も資源高は続くのか

上方修正の幅を決めるのは、上期の実績よりも下期(10月〜2027年3月)の前提である。ここに逆風がある。サウジアラムコの平均実現価格は4〜6月期から7〜9月期に12%下がった。さらにアラムコは11月3日の決算資料で、紛争前の生産水準に「数日で」戻せると明記した。海峡の通航が戻れば、原油の供給は一気に増えうる。その分析はアラムコ決算の記事にまとめた。

米国とイランの協議に期待が出た11月2日、原油は急落した。会社側は下期の前提を大きく引き上げにくい。上期の上振れ分だけを通期予想に足す「実績分の修正」にとどまる可能性が高い。その場合、株価が反応する余地は小さい。

もう一つ、4日の東京市場は全体の地合いが重い。休場中の日経平均先物は、祝日取引の15時31分時点で前日の日中終値比910円安だった(松井証券のデータ)。経緯は休場明けの先物を扱った記事にある。商社株の値動きは、決算そのものより相場全体の売りに引きずられる可能性がある。自分の買値から見た騰落率は、パーセント計算ツールで手早く出せる。

生き残った主張と、死んだ主張

主張判定根拠
4〜6月期は計画を上回るペースだった生存進捗率は4社とも27〜32%で、1四半期分の25%を超えた
三菱商事の前提は保守的だった生存前提150円・78ドルに対し、ドル円は平均159円台、中東産原油は95〜108ドル
上方修正すれば株価は上がる死亡寄り直近2回の決算では8回中2回しか上げていない。8月は4社とも下げた
資源高は下期も続く未決アラムコの実現価格は前期比12%低下。供給は「数日で」戻りうる
商社株は決算で独自に動く死亡寄り4日は先物が大きく下げた後の再開日で、全体の売りに巻き込まれやすい

評決:修正は6割、株高は4割

本誌の評決を出す。4社のうち少なくとも1社が通期の純利益予想を引き上げる確率は60%とみる。最も可能性が高いのは前提の差が数字で確認できる三菱商事で、進捗率が32%台の三井物産と丸紅がこれに続く。伊藤忠商事は資源の比重が小さく、前提の差の効きは弱い。

一方、決算を受けて2日間で株価が上がる確率は、4社平均で40%とみる。過去4回の勝率56%を出発点に、直近2回の弱さ(25%)と、4日の地合いの重さで下に補正した。上方修正が出ても、下期の前提を据え置いた「実績分の修正」なら、売られる筋のほうが強い。株価を動かすのは修正の有無より、自社株買いの追加や下期の資源価格の見方だろう。

会社上方修正の確率(本誌)2日間で上げる確率(本誌)注目点
三菱商事55%45%下期の為替・原油前提を引き上げるか
三井物産50%40%LNGと北米ガスの利益の持続性
丸紅45%35%直近2回はいずれも2日間で5%超の下落
伊藤忠商事35%40%非資源の安定感。高値圏で期待はすでに高い

再審条件

この評決を覆す材料を、先に挙げておく。

  • 下期の前提ごと引き上げる会社が出たら。実績分だけでなく先の見通しまで上げれば、株高の確率は上がる。
  • 自社株買いの追加や増配が出たら。株主還元の上積みは、利益の上振れとは別の買い材料になる。
  • 4日の東京市場が先物ほど下げずに始まったら。全体の売りが軽ければ、決算そのものが値動きを決める。
  • 原油が再び100ドルを超えて定着したら。下期の資源価格の見方が変わり、資源の比重が大きい三井物産と三菱商事に有利になる。

今週はこのほか、ソニーグループ・任天堂・トヨタ自動車が5日に決算を発表する。日程と予想変動幅は今週の決算をまとめた記事で扱った。

主な参照

  • 4社の業績予想・四半期実績・決算発表予定日・日足終値/株探
  • 2027年3月期第1四半期決算短信(業績予想の修正なし)/三井物産
  • 三菱商事の業績予想の前提と感応度(5月1日)/日本経済新聞
  • ドル円の取引時間中の値(日本時間11月3日20時)/グーグル・ファイナンス
  • ドル円の参照レート(4月1日〜11月2日)/欧州中央銀行(フランクファーター経由)
  • 三井物産の増益要因(LNG取引、北米シェールガス)/熊本日日新聞(共同通信)
  • 原油の平均実現価格と増産余力/サウジアラムコ

データ基準日:2026年11月3日(日本時間20時)。株価はすべて11月2日の終値で、東京市場は3日が祝日のため休場している。決算発表日は株探の予定日によるもので、発表時刻は各社の開示で確認してほしい。過去の値動きは、決算発表日の前営業日の終値から翌営業日の終値までの変化で、発表が取引時間中か終了後かは区別していない。感応度による上振れ額は本誌の単純計算で、会社の見通しではない。アラムコの実現価格は中東産原油の目安として使ったもので、各社の販売価格とは異なる。確率は本誌の判断であり、将来の業績や株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。

Tags: ドル円円相場原油日本株株価予想
Takashi Suzuki

Takashi Suzuki

大手マーケットメイカーのFXトレーディングデスクで8年以上にわたりキャリアを積み、うち3年は為替フォワードデスク、その後2年は金利(レート)デスクを担当した。さらにシンガポールではアジア・トレーディングデスクのヘッドとして4年間チームを率い、地域全体のフローとリスク管理を統括してきた。 現在もFX・金利・株式など幅広い市場で実際にトレードを行っており、機関投資家の最前線で培った実取引経験は豊富。FX・株式・暗号資産において自己のポジションを保有している。 こうした実務とマーケットでの経験をもとに、金融市場・暗号資産・FX・経済指標について、信頼性・正確性・迅速性の高い情報を届けることを目的としている。記事の内容は特定の金融商品の売買を推奨するものではなく、最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。

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