2024年9月24日の朝、北京の記者会見場で中国人民銀行の潘功勝総裁が利下げと株式市場の支援策を一度に読み上げた。上海と深圳の大型株でつくるCSI300指数は、そこから国慶節の休場をはさんだ6営業日で32.5%上げた。2年後のきょう、同じ道具箱がもう一度開かれている。
11月2日、中国人民銀行、国家金融監督管理総局、中国証券監督管理委員会(証監会)の3当局は、株式市場を支える2つの道具の強化を打ち出した。だが3日の市場の反応は、当時とはまるで違う。CSI300は日本時間3日11時57分時点で4,013.44と、前日比0.09%安だ。同じ道具で、なぜ同じ音が鳴らないのか。当時との対照から考える。
CSI300指数:2024年の支援策相場と2026年の下げ(%)
読み方:2024年は発表から6営業日で3割を超えて上げたが、その後に上げ幅の一部を返した。今回は発表後の反応がほぼゼロにとどまる。出所:新浪財経の日次データ、トレーディングビュー(3日の値は日本時間11時57分の取引時間中の値)。本誌計算。
2026年11月2日、何が打ち出されたか
人民銀行の発表によると、3当局は2日に座談会を開き、証券会社や基金、保険会社が株を買うための資金を融通する「互換便利(スワップ・ファシリティー)」と、上場企業の自社株買いや大株主の買い増しを支える「再貸出」の2つの道具を強化すると表明した。互換便利の残高は1,050億元で、何度も期限を延ばしてきた。自社株買い向けの融資は約4,400億元が契約され、実行額は2,800億元を超える。
新味は三つある。一つ目は互換便利の第3弾で、証監会によると31社の証券会社と基金会社の申請が承認され、申請額は1,000億元を超える。二つ目は再貸出の金利を1.25%から1%に下げ、臨時の措置から「長期の制度」に格上げしたことだ。三つ目は証監会の規則見直しで、株価が公開価格を割り込んだ企業に自社株買いを促す仕組みや、信用取引の保証金率(1月に80%から100%へ引き上げ)の見直しの検討が含まれる。
背景には長い下げがある。CSI300は6月22日の終値5,059.66から10月30日の3,985.50まで21.2%下げた。週足では12週連続の下落で、ロイターによれば10月の月間下落率8.54%は2016年初め以来の大きさだった。
当時といまの対照表
| 項目 | 2024年9月24日 | 2026年11月2日 | 同じか、違うか |
|---|---|---|---|
| 発表の形 | 人民銀行総裁らの合同記者会見 | 3当局の座談会と証監会の質疑応答 | 違う(格が下がった) |
| 政策金利 | 7日物リバースレポを1.7%から1.5%に下げ | 政策金利の引き下げなし | 違う |
| 預金準備率 | 0.5ポイント下げ、約1兆元を供給 | 人民元の準備率は据え置き、外貨預金の準備率は4%から6%へ引き上げ(11月15日から) | 違う(向きが逆) |
| 互換便利 | 新設、当初枠5,000億元 | 第3弾、申請は1,000億元超 | 同じ道具、規模は小さい |
| 自社株買い向け再貸出 | 新設(報道では3,000億元、金利1.75%) | 金利を1.25%から1%へ、恒久化 | 同じ道具、使い慣らし済み |
| 直前の下げ | 数年に及ぶ長期の下げ | 6月の高値から21%安 | 似ている |
| 発表後のCSI300 | 大幅高、6営業日で32.5%高 | 発表は2日の取引終了後。3日は一時1.18%安 | 違う |
表を見ると、同じなのは道具の名前だけで、中身の重さは違う。2024年は金利、準備率、新しい道具の三つが同じ日に出た。いわば「驚き」の詰め合わせだった。今回は、すでに市場が知っている道具の延長と調整が中心だ。奇しくも同じ週に、人民銀行は外貨預金の準備率を引き上げている。人民元高の勢いを抑える狙いとみられ、資金を緩める方向の政策とは性格が異なる。
支援の道具の規模:2024年と2026年(億元)
読み方:今回の互換便利は第1〜3弾を合わせても2024年の当初枠の半分に満たない。厚みを増したのは自社株買いの融資と実行額のほうだ。出所:中国人民銀行、証監会、新華社(2024年)。
当時、その後に何が起きたか
2024年の物語には続きがある。CSI300は9月23日の3,212.76から10月8日の4,256.10まで駆け上がった。だが国慶節明けの10月8日が天井だった。翌9日に7.05%下げ、2025年1月13日には3,722.51まで下げた。高値からの下げは12.5%だが、発表前の水準と比べれば、なお15.9%高い位置にとどまった。
当時の教訓は二つあった。支援策は「底」をつくる力はあったが、「上昇の持続」までは保証しなかった。そして株価を長く支えたのは一度きりの驚きではなく、その後に積み上がった自社株買いの実弾だった。証監会によると、2026年1〜10月に645社が計2,377億元の自社株買いを公表し、747社が実際に1,345億元を買い戻した。いずれも過去最高である。
「今回は違う」論を検証する
今回の支援策を評価する側の言い分もある。国泰海通証券のハオ・ジョウ氏は、政策当局が資本市場の安定を守る決意を示す「もう一つの強い合図」だと述べている(ロイター)。構造的に異なる点もある。2024年は道具が新しく、使い方を市場が知らなかった。いまは自社株買いが制度として根づき、毎月の実行額が積み上がっている。崩れにくさという点では、当時より土台は厚い。
一方で、驚きの不在は重い。株価を短期間で押し上げるのは、市場が予想していなかった量と速さだ。今回は政策金利の引き下げがなく、互換便利の第3弾も2024年の当初枠の5分の1の規模にとどまる。3日朝、上海総合指数は一時1.54%安まで売られた。発表を「足りない」と受け止めた投資家がいたことを示す。歴史は韻を踏むが、今回の韻は2024年の秋より小さい。
歴史が示す3つの教訓
- 反応の大きさは、道具の種類より「驚き」で決まる。同じ互換便利でも、新設の2024年と第3弾の2026年では効き方が違う。
- 支援策の相場は、最初の数日で天井をつけやすい。2024年は発表から2週間で天井をつけ、3カ月で上げ幅の一部を返した。
- 下値を支えるのは自社株買いの実行額だ。発表された計画額より、実際に買われた金額を追うほうが確かだ。
今回固有の監視点と、日本の投資家への意味
日本の投資家にとっての接点は二つある。香港株や中国株に連動する投資信託を持つ人と、中国の景気に業績が左右される日本株を持つ人だ。東京市場は3日が文化の日で休場のため、支援策への反応は4日の取引で初めて表れる。休日前の2日の東京市場の動きはこちらの記事にまとめた。中国の7〜9月期の国内総生産(GDP)の分析で見たとおり、中国景気の減速は日本企業の業績にも波及している。株価対策だけで景気の流れが変わるわけではない。
筆者の見立てでは、CSI300が今後1カ月で4,256.10(2024年10月8日の終値)を上回る確率は15%程度にとどまる。本線(55%)は3,900〜4,150での値固めで、残る30%は10月30日の安値3,985.50を終値で割り込み、下げが続く筋書きとみる。見立てを改める条件は次のとおりだ。
- 政策金利か預金準備率の引き下げ:2024年型の「驚き」が加われば、上振れの確率を引き上げる。
- 互換便利第3弾の実行額と手数料:証監会は「近日」の実施としており、新華社は3日に実施すると伝えた。金額が申請額の1,000億元を大きく上回るかを見る。
- 上海総合指数の3日の安値3,582.10:ここを割り込めば、発表を「足りない」とみる売りが優勢になったと読む。
- 信用取引の保証金率:100%からの引き下げが決まれば、個人の買い余力が戻る。
主な参照
- 3当局の座談会、互換便利の残高、再貸出の金利引き下げ(11月2日)/中国人民銀行
- 互換便利第3弾、自社株買いの実績、規則の見直し(11月2日)/中国証券監督管理委員会
- 第3弾の実施日と担保の範囲(11月3日)/新華社
- 10月の下落率、国泰海通証券の見方/ジ・エッジ(ロイター配信)
- 2024年9月24日の預金準備率と金利の引き下げ/中国政府網(新華社)
- 外貨預金準備率の引き上げ(11月3日)/中国人民銀行
データ基準日:2026年11月3日(日本時間11時57分、北京時間10時57分)。3日の指数は取引時間中の値(トレーディングビュー)で、終値ではない。過去の終値は新浪財経の日次データで、取引所の公式データとは照合していない。下落率と上昇率は本誌の計算による。2024年の再貸出の規模と金利は報道ベースである。外貨預金準備率の引き上げの狙いは報道に基づく見方で、人民銀行は目的を明示していない。確率と水準は筆者の見立てで、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。アイキャッチ画像:Kamal Zharif/Flickr(CC BY-SA)。












