こんな場面を考えてみてほしい。子どもがテストで95点を取って帰ってきた。学年平均は70点、過去最高の点数だ。ところが親は喜ばない——塾の先生が「次は98点は堅い」と言っていたからだ。95点という事実は変わらないのに、家の空気は「3点足りない」で決まってしまう。7月23日夕方にディスコが発表した決算は、まさにこの95点だった。そして株式市場という「親」の反応を理解できるかどうかが、決算シーズンを生き延びる個人投資家の分水嶺になる(基準日2026年7月24日朝。決算数値は7月23日16:00発表)。
まず95点の中身を確認しよう。半導体を削り・磨き・切る装置で世界首位のディスコの4-6月期は、売上高1,143億円(前年比+27.1%)、営業利益490億円(+42.2%)、純利益342億円(+44.0%)。4-6月期として過去最高で、自社の事前計画(営業420億円)も大きく超えた。増配まで付けた(上期171円、前年同期比+42円)。数字だけ見れば文句のない満点答案である。では、なぜこれが「未達」と報じられ、翌朝の株価の重石になり得るのか。ここが今日の講義の主題だ。
原理:株価は「点数」ではなく「期待との差」で動く
順に見ていく。株価には、発表前から「みんなが予想する点数」が織り込まれている。ディスコの場合、アナリストたちの予想(コンセンサス)は4-6月期の経常利益で493億円だった。実績は484億円——過去最高でありながら、市場の期待には1.7%届かなかった。さらに会社が初めて示した上期(4-9月)の利益見通しは、コンセンサスに5.2%足りない。つまり同じ答案が、①自社計画という物差しでは+70億円の「勝ち」、②市場期待という物差しでは−9億円の「負け」——物差しが2本あり、株価を動かすのは常に2本目なのである。
同じ490億円が、物差し次第で「勝ち」にも「負け」にもなる
左:会社の計画対比(4-6月期営業利益)。右:アナリスト予想対比(同・経常利益)。市場が使うのは常に右の物差しだ。
出所:ディスコ決算(7月23日)、アナリスト予想はIFIS集計。
今日の用語(3つだけ覚えて帰ってほしい)
・コンセンサス=アナリスト予想の平均値。市場が事前に織り込んだ「期待の点数」
・ガイダンス=会社自身が示す業績見通し。次のテストの「自己申告の目標点」
・織り込み済み=良い数字が事前に株価へ反映され切った状態。発表されても株価が動かない理由の大半はこれ
適用:なぜ「3点」の未達がここまで重いのか
ここで前提が効いてくる。ディスコの株価は7月15日の73,550円から、キオクシア・ショックの巻き添えで21日に66,840円まで4日続落し、22日に+2.6%の68,590円まで戻したところで決算を迎えた。急落直後の市場は神経質だ——「装置の実需は無傷」という証拠を求めて、答案の隅々まで採点する。そこに出てきた上期見通しから逆算すると、7-9月期の営業利益は約559億円。市場が置いていた予想は613億円だから、会社の申告目標は市場の期待より約54億円低い。「先生(会社)自身が、次のテストの目標点を塾(市場)の想定より下げた」——急落明けの教室で、これは効く。23日の東京市場では、日経の先行報道(1Q4割増益)が出てもなお売り先行だったのが、その証拠である。
よくある誤解:「過去最高益なのに売られるのは市場がおかしい」——おかしくない。株を今日買う人が払う値段は、過去の利益ではなく将来の利益に付く。最高益は過去の成績表、ガイダンス未達は未来の予告編だ。市場は常に予告編に値段を付ける。満点決算のTSMCが売られたのも同じ原理である。
この答案には「隠れた加点」も書いてある
公平に採点するなら、弱気一色の答案ではない。第一に、会社計画420億円に対する490億円の超過は、AI向け需要(HBM・先端パッケージング関連の研削・切断工程)の強さの実弾証拠であり、暴落の引き金だった「中国発の供給過剰懸念」とは別の場所で商売が伸びていることを示す。第二に、増配+42円は経営陣の需要への自信の表明だ。第三に、ディスコのガイダンスには保守的な癖があることが市場でも知られており、「低い目標を出して超える」パターンの常連でもある。つまりこの決算は「装置サイクルの崩れ」ではなく「期待の高さの調整」——今週の観戦ガイドで立てた問い「ディスコは装置需要無傷を証明できるか」への答えは、「実需は無傷、ただし期待には3点足りず」が正確なところだ。
覚えて帰る3点と、次のテスト日程
比喩を回収しよう。95点の答案を前にした親の機嫌は、①点数そのもの②塾の予想③次のテストの目標申告——の3つで決まる。ディスコは①満点②3点不足③目標控えめ、だった。持ち帰るべき教訓は3つ。第一に、決算は必ず「コンセンサス対比」で読む(会社計画対比の「上振れ」見出しに飛びつかない)。第二に、急落直後の決算は平時より採点が辛い——同じ数字でも6月に出ていれば買われた可能性が高い。第三に、1社の答案でサイクル全体を判定しない。次のテストは7月29日のSKハイニックス(メモリー好況の本丸)、続いてアドバンテスト・東京エレクトロンの決算だ。装置株の「答え合わせ」は、まだ1時間目が終わったばかりである。
- 決算:株探(決算速報)、Yahoo!ファイナンス
- コンセンサス対比:QUICK Money World、IFIS株予報
- 株価推移:IR BANK(6146)
免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品への投資を勧誘・推奨するものではない。決算数値は2026年7月23日の会社発表・各社集計に基づく。7-9月期の約559億円は上期会社計画から1Q実績を差し引いた編集部の逆算値である。投資判断はご自身の責任で行われたい。
















