1キロリットル9万9,100円。前週末の夜間取引で、国内の原油先物(2027年3月限)がこの値を付け、最高値を更新したと日本経済新聞が伝えた。1リットルに直せば99円10銭で、まだ精製も輸送もしていない原油だけの値段である。そのころ政府は、レギュラーガソリンの全国平均を1リットル170円程度に抑える補助金を続けていた。そして高市首相は23日、その補助金の見直しを指示した。私たちの給油口の値段は、原油高と補助金の出口という二つの力に同時に引っ張られている。
本記事は、週末のサウジアラビアへの攻撃で原油がどこまで上がったのかを確かめる。それが家計にいくらの負担になるのかを円で示し、次に店頭へ届く変化の日付を並べる。中東の供給不安の経緯はWTI原油100ドル回復の番付でも扱った。
値段の分解:原油1リットルはいくらか
国際指標の北海ブレント原油(12月限)は23日(金)、前日比3.14%高の1バレル116.72ドルで取引を終えた。ロイターによれば、終値としては4月29日以来の高値である。米国の指標であるWTI原油(12月限)も3.80ドル高の103.27ドルで引けた。
これを円建ての1リットルに直す。1バレルは約159リットルで、23日のECB参照レート(1ドル=156円80銭)を使うと、ブレントは1リットル約115円、WTIは約102円になる。ここに精製と輸送の費用、石油石炭税とガソリン税、流通の利幅、そして消費税が積み上がる。くるまのニュースは、補助金がなければレギュラーガソリンは1リットル213円を超えるとの試算を伝えた。補助金がこの差を埋め、店頭を170円前後に保っている。
原油からガソリンまで:川上から川下へ
読み方:上流の原油高は、補助金というクッションを通って店頭に届く。首相がそのクッションの見直しを指示した。出所:ロイター、日本経済新聞、時事通信、くるまのニュース、本誌計算。
上流をたどる:週末にサウジで何が起きたか
イエメンの親イラン武装組織フーシ派の報道官は24日(現地時間)、サウジアラビアの石油施設と空港を攻撃したと主張した。仏フランス24(ロイター配信)によると、攻撃対象として挙げたのは、国営石油会社サウジアラムコの西部ヤンブーの施設、ラービグの製油所、原油のポンプ施設と東西パイプライン、首都リヤドと東部ダンマンの空港などである。サウジ主導の連合軍は、ヤンブーとタイフに向かった弾道ミサイル2発を破壊したと発表した。ただ、着弾の有無についてサウジ側は直ちには確認していない。
25日にもサウジ南部で弾道ミサイル10発が迎撃され、リヤドなどにもミサイルと無人機が飛来した。アラブ首長国連邦(UAE)の英字紙ザ・ナショナルによると、民間防衛当局は2人が負傷したと発表した。一方、原油の生産や東西パイプラインの流量が減ったかどうかについては、報道の見出しが食い違っている。本誌はサウジ政府の公式発表を確認できていない。被害の規模はまだ分からない、というのが現時点で正確な言い方である。
週明けの市場は、まず利益確定で応じた。26日のアジア時間に、ブレント(12月限)は日本時間9時54分に115.40ドル(1.1%安)、WTI(12月限)は11時36分に101.11ドル(2.09%安)と、いずれも金曜の高値から下げている。時事通信によると、中東産ドバイ原油も午前中に下げに転じた。つまり「6カ月ぶりの高値」は金曜に付けた値で、週明けに更新されたわけではない。
家計への換算:補助金が縮むと、月いくらか
時事通信によると、補助金の基金残高は9月末で約5,600億円あり、原油高が続けば早期に底をつく可能性がある。首相は「支援単価や出口も含めて柔軟に検討する」よう赤沢経済産業相に指示した。どの程度、いつから補助を減らすかはまだ決まっていない。そこで、店頭価格が170円から上がった場合の負担を、月に50リットル給油する家庭で試算した。
| 店頭価格(1リットル) | 170円からの上昇 | 月50リットルの負担増 | 年間の負担増 |
|---|---|---|---|
| 175円 | +5円 | +250円 | +3,000円 |
| 180円 | +10円 | +500円 | +6,000円 |
| 190円 | +20円 | +1,000円 | +12,000円 |
| 213円(補助金ゼロの試算) | +43円 | +2,150円 | +25,800円 |
補助金が一気になくなる可能性は低いとみられる。ただ「出口」が議題に上った以上、店頭価格は今後、原油と為替の動きをより直接に映すようになる。冬場は灯油の負担も重なる。灯油と軽油の需給は灯油と米暖房油の記事で詳しく見た。
生活防衛と投資の接点
原油高で得をする側もある。26日前場の東京市場では、業種別で鉱業が5.01%高と首位だった。国内最大の石油・天然ガス開発会社INPEX(1605)は5.34%高の4,066円、石油元売り最大手のENEOSホールディングス(5020)は2.82%高の1,458円だった。WTI原油に連動する上場投資信託(1671)は9時4分に6,856円の年初来高値を付けた後、前引けには6,781円まで伸び悩んだ。週明けの原油安を映した形だ。
家計の側から見れば、エネルギー株や原油連動の商品は、ガソリン代の上昇に対する一種の「保険」と考えることもできる。ただし保険料に当たる値下がりのリスクは大きい。今回のように攻撃の被害が確認されないまま値が戻れば、株価も原油ETFも上げ幅を失う。選択肢として並べるにとどめ、どれかを推奨するものではない。
本誌の見通し:ブレントは2週間で108〜120ドル
| シナリオ | 確率(本誌) | ブレント(期近) | きっかけ |
|---|---|---|---|
| 基本:高止まり | 50% | 108〜120ドル | 攻撃は続くが、生産への被害は限定的と判明 |
| 上振れ | 25% | 120ドル超 | サウジ政府が生産や輸出の停止を公表 |
| 下振れ | 25% | 108ドル割れ | 米国とイランの交渉進展、攻撃の沈静化 |
本誌は高止まりを基本とみる。サウジの施設が攻撃にさらされ続ける限り、売り手は強気に出にくい。一方で、生産への実害を示す公式発表はまだない。トランプ米大統領は25日、イランをめぐって「決断の時が近づいている」と米フォックス・ニュースに語った。交渉か軍事行動かで、原油は上下どちらにも10ドル単位で動きうる。サウジ政府が輸出の停止を公式に認めた場合、本誌は基本シナリオを上振れ側へ切り替える。
次に店頭へ届く変化の日付
- 28日(水)23時30分:米エネルギー情報局(EIA)の週間石油統計。米国の在庫が減っていれば、WTIの下支えになる。
- 29日(木)午前3時:FOMCの声明。利上げの示唆が強ければドル高・原油安の方向に働く。
- 30日(金):日銀の決定会合の結果。円相場を通じて、円建ての原油価格に効く。
- 補助金の見直し案:支援単価と出口の方針が示されれば、店頭価格の上限が変わる。時期は未定。
- 11月3日(火):米中間選挙。ガソリン価格は選挙の争点で、米政権の対イラン判断にも影響しうる。
米エネルギー省は23日、ルイジアナ州の戦略石油備蓄(SPR)から最大40万バレルを、製油所への貸し出し(交換)の形で放出することを認めた。売却ではなく、いずれ返してもらう前提の措置である。米国内の需給の綱渡りが続いていることを示す。東京市場全体の動きは今朝の寄り付き1時間の速報にまとめた。
主な参照
- 原油の週明けの値動きと金曜の清算値/Investing.com(ロイター配信)
- WTIの清算値と国内原油先物/日本経済新聞、日本経済新聞
- フーシ派の攻撃の主張/France 24
- 25日の迎撃と被害/The National
- ガソリン補助金の見直し指示/時事通信
- 補助金なしの価格試算/くるまのニュース
- 戦略石油備蓄の交換/OilPrice.com
- 週間石油統計の公表日程/米エネルギー情報局
- INPEX、ENEOS、WTI連動ETFの株価/Yahoo!ファイナンス
データ基準日:2026年10月26日11時40分(日本時間)。ブレントとWTIの116.72ドル、103.27ドルは23日(金)のニューヨーク市場の清算値。週明けの値は取引中の値で、時刻を付記した。国内原油先物(2027年3月限)の9万9,100円は、26日の取引日に属する前週末の夜間取引で付けた値で、26日朝は9万8,200円で寄り付いた後に小安く推移した(日本経済新聞)。株価とETFは26日前場の値(11時30分)。円換算は1バレル=158.987リットル、1ドル=156円80銭(23日のECB参照レート)で本誌が計算した。フーシ派の攻撃対象は同派の主張で、本誌は被害を確認していない。サウジの原油生産への影響は報道が食い違っており、記事では採用しなかった。家計の負担額とシナリオの確率は本誌の試算・判断で、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















