灯油18リットル、2,563円。資源エネルギー庁の10月13日調査による全国平均の店頭価格で、1リットルにすると142.4円になる。9月28日の2,538円から2週で25円上がった。ストーブを出す季節に、ポリタンク1缶の値段がじわりと上がっている。その裏で21日、米国は北東部の暖房油の備蓄を2012年以来はじめて動かした。
原油の値動きを追うと、いま起きていることを見誤りやすい。「WTI原油が98ドルに急落」という見え方は、先物の限月が切り替わっただけである。実際に締まっているのは原油ではなく、軽油と灯油という「中間留分」だ。本記事は、私たちの灯油缶から米国の備蓄タンク、ホルムズ海峡まで、値段の流れを上流へたどる。
私たちが払っている値段を分解する
まず店頭の数字を並べる。レギュラーガソリンの全国平均は10月19日時点で1リットル170.2円と、前週から0.1円上がった。資源エネルギー庁によると、補助がなければ213.2円になる。差の43円は、国が石油元売りに支給している補助金が吸収している。10月22日から28日までの支給額は42.8円で、前週の43.0円から0.2円減る。
灯油の店頭価格は前述のとおり1リットル142.4円(10月13日調査)。配達では152.7円である。灯油にも国の補助が入っており、元売りに支給されるため消費者の申請は要らないと報じられている。つまり店頭の値段は、国際市況から補助分を差し引いた「調整後」の数字だ。補助額が減れば、原油が動かなくても店頭は上がる。
上流をたどる1:原油は下がっていない
21日のニューヨーク市場について、「WTIが3.7%下げて98ドル」と読める画面がある。これは錯覚である。11月物は20日に101.79ドルで取引を終えて満期を迎えた。21日からは12月物が先頭の限月になり、比べている2本は別の商品だ。限月の締め上げについては前日の記事で詳しく扱った。
同じ限月で比べると、WTIの12月物は21日に97.15ドルで清算され、前日比0.67ドル(0.7%)安だった。北海ブレントの12月物は108.82ドルで0.03ドル高と、ほぼ横ばいである。日中は値動きが大きく、米東部時間ではWTI12月物が96.26〜100.40ドル、ブレント12月物が107.69〜111.31ドルの間を上下した。両者の差は11.67ドルある。
日中に売られた理由として、市場ではロシアとウクライナの和平協議が挙がる。ロシア大統領府のウシャコフ補佐官は、プーチン大統領が米特使ウィトコフ氏と約3時間会談したあと、11月10日以降に米国・ウクライナを交えた3者協議を再開する用意が「原則として」あると述べたと報じられた。戦争が終われば、ロシア産の軽油が市場に戻るとの期待がある。ただし大統領府は、和平に役立つ中身はなかったとも述べている。
上流をたどる2:締まっているのは軽油と灯油
原油が横ばいでも、軽油と灯油は別の動きをしている。米エネルギー情報局(EIA)が21日に公表した週報(10月16日終了週)では、商業用の原油在庫が306万1,000バレル減って4億1,250万バレルになった。ロイター調査の予想は約82万バレル減で、予想を大きく上回る取り崩しである。一方、軽油と暖房油を含む留出油の在庫は167万4,000バレル増えた。予想は116万バレル減だった。
在庫が増えたのに、なぜ政府は備蓄を出すのか。答えは地域にある。米エネルギー省は21日、北東部家庭用暖房油備蓄から最大31万5,000バレルの超低硫黄の留出油を貸し出すと発表した。保管先はメーン州サウスポートランド、ボストン、コネティカット州ニューヘイブンの3カ所である。入札の締め切りは10月27日、引き渡しは11月13日まで。借り手は同じ量に上乗せ分を加えて、2027〜28年の暖房シーズン前に返す。ライト長官は「一時的な供給の混乱に対する一時的な措置」と説明した。
全米平均の軽油価格は9月22日に1ガロン6.53ドルと過去最高を付けたと、米自動車協会(AAA)のデータを基に報じられている。1リットルに直すと約1.73ドル、22日朝のドル円158円台で換算すると270円を超える。日本の灯油の約1.9倍である。備蓄は2012年以来使われてこなかったとされ、9月にはメーン州選出の上院議員らが放出を求めていた。
値段の流れ:ホルムズ海峡から私たちの灯油缶まで
読み方:上の段ほど上流で、値段は上から下へ伝わる。国際市況が横ばいでも、補助額が減れば店頭の値段は上がる。出所:資源エネルギー庁、米エネルギー情報局、米エネルギー省、Newsquawk、ガルフ・ニュース。
上流をたどる3:ホルムズ海峡はまだ閉じている
中東側の材料は、和平期待とは逆を向いている。湾岸紙ガルフ・ニュースによると、イラン革命防衛隊は20日、200万バレル超を積んだ超大型タンカーがホルムズ海峡の南で機雷に触れたと主張した。米中央軍は機雷の主張を否定したと伝えられる。21日にはオマーン沖で、タンカーが「正体不明の飛翔体」に被弾したと英海運当局(UKMTO)が発表した。乗組員は無事だった。
イランのアラグチ外相は、米国がイラン側の案を受け入れない限り海峡は閉じたままだと述べたと報じられている。ブレントが110ドル近辺から下がらない理由はここにある。和平期待で軽油の先行きは少し和らいだが、中東の原油の出口は塞がれたままだ。機雷をめぐる過去との比較はこちらの記事にまとめている。
家計への換算:補助がなくなれば月いくらか
上流の値段は、最後に私たちの財布へ届く。下の表は、現在の全国平均価格と補助なしの価格で、典型的な使用量の月額を比べたものである。ガソリンは補助なし価格を資源エネルギー庁が公表している。灯油は補助なしの価格が公表されていないため、ガソリンと同じ1リットル約43円の補助が外れた場合を本誌が仮定して計算した。
| 品目と使用量 | 現在の月額 | 補助なしの月額 | 差額(月) |
|---|---|---|---|
| ガソリン 月50リットル | 8,510円(170.2円) | 10,660円(213.2円) | 2,150円 |
| 灯油(店頭) 月4缶=72リットル | 10,252円(142.4円) | 13,348円(185.4円と仮定) | 3,096円 |
| 灯油(店頭) 月8缶=144リットル(寒冷地の目安) | 20,504円 | 26,696円(同上) | 6,192円 |
読み方:灯油を月に4缶使う家庭では、補助がなくなると月3,000円余りの負担増になる。寒冷地で月8缶なら6,000円を超える。灯油の補助なし価格は本誌の仮定で、実際の補助額は品目ごとに異なる可能性がある。
生活防衛と投資の接点
家計の側でできることは限られる。灯油は需要期の11月から値上がりしやすいため、早めに買い置きする家庭は多い。ただし補助額は毎週変わり、ブレントが下がれば店頭も下がる。買い置きは価格の当て物ではなく、配達の遅れなど供給の不安に備えるものと考えたほうがよい。
株式市場では、21日の東京市場でINPEX(1605)が3,800円(0.6%安)、ENEOSホールディングス(5020)が1,418円(0.6%高)、出光興産(5019)が1,558.5円(0.2%安)で取引を終えた。原油高は開発会社のINPEXに、精製の利ざやは元売りに効く。軽油と灯油が締まる局面は、元売りの精製利ざやには追い風になりうる。ただし補助金制度のもとでは、元売りの店頭価格は国の支給額と連動しており、利ざやの拡大がそのまま利益になるとは限らない。
本誌の見立てとして、今後2週間のブレント12月物の値動きを3つのシナリオに分ける。基本シナリオ(確率55%)は102〜115ドルのもみ合いで、和平協議の日程とホルムズ海峡の膠着が打ち消し合う。上振れシナリオ(25%)は115ドル超で、タンカー被害が続き保険料がさらに上がる場合。下振れシナリオ(20%)は102ドル割れで、米国とイランの協議に進展が出た場合である。撤退線は、ブレント12月物の終値が102ドルを割り込んだ時点とする。そのときは「中間留分の逼迫が店頭価格を押し上げる」という本記事の見立てを改める。
次に店頭へ届く変化の日付
- 10月27日(火):米エネルギー省の暖房油備蓄の入札締め切り(米中部時間11時)。
- 10月28日(水):資源エネルギー庁が26日調査のガソリン・灯油価格と、29日からの補助額を公表する見込み。米EIA週報も同日。
- 11月1日(日):OPECプラスの有志国の会合。10月4日の会合では11月の生産量を9月の水準に据え置いた。
- 11月10日以降:ロシアが示した、米国・ウクライナとの3者協議の再開時期。
- 11月13日:米国の備蓄暖房油の引き渡し期限。
前日の原油相場の流れはこちら、ガソリン補助金の仕組みはこちらの記事で扱った。
主な参照
- ガソリン全国平均価格・補助なし価格・支給額(10月19日調査)/資源エネルギー庁 燃料油価格定額引下げ措置
- 灯油の全国平均価格(10月13日調査、資源エネルギー庁「石油製品価格調査」を基に作成)/oil-stat.com、エネカルテ
- 週間石油在庫統計(10月16日終了週)/米エネルギー情報局(EIA)
- 北東部家庭用暖房油備蓄の貸し出し/米エネルギー省
- 原油先物の清算値(10月21日)/Newsquawk
- 軽油の全米平均価格(AAAのデータ)/The Truth About Cars
- ホルムズ海峡とタンカー被害/ガルフ・ニュース
- ロシア・ウクライナ協議/インタファクス・ウクライナ
- OPECプラス有志国の会合(10月4日)/OPEC
データ基準日:2026年10月21日(米国市場の清算値)・10月19日(ガソリン調査)・10月13日(灯油調査)。原油の清算値は報道によるもので、取引所の公表値は直接確認していない。日中の値幅はヤフー・ファイナンスの5分足を基に本誌が算出した。東京市場の株価は10月21日の終値。灯油の全国平均は本記事の作成時点で確認できた最新の調査(10月13日)であり、19日調査の数値は含まない。灯油への補助と消費者の申請不要の扱いは報道ベースである。軽油の全米平均6.53ドルは9月22日時点の報道で、10月21日時点の数値ではない。円換算は1ドル158円台で概算した。家計換算表の灯油の補助なし価格とシナリオの確率は本誌の仮定・判断である。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















