レギュラーガソリン1リットル170円10銭。経済産業省が15日に公表した、13日時点の全国平均である。前週より10銭安く、価格板だけ見れば落ち着いた1週間だった。だがその裏で、政府は15日から21日に売る分について1リットル43円の補助を出している。前の週(8〜14日分)は42.4円だった。店頭の数字が動かない分、動いているのは補助の額であり、その額を決めているのはホルムズ海峡のタンカーと、海の上の運賃である。
今週、その海の上で2つの動きがあった。ホルムズ海峡周辺で船への攻撃が増え、原油は週間で上昇する流れにある。一方で米政府は、ロシアやイランの原油を運んできた「影の船団」と呼ばれるタンカーの一部について、制裁の緩和を検討していると伝えられた。国際エネルギー機関(IEA)の備蓄放出の前倒しについては本誌の別記事で扱った。本稿では、店頭の170円から川上へさかのぼり、私たちの財布に次に何が届くかを考える。
価格板の170円を分解する——誰がいくら払っているか
共同通信によると、13日時点の軽油は1リットル159円60銭で前週と同じ、灯油は18リットル2,563円で10円上がった。ガソリンの補助は、価格を170円程度に抑える仕組みで、額は毎週計算し直される。つまり店頭の170円10銭は、私たちが払う170円と、税金から出る43円の合計で成り立っている。補助額は価格の約4分の1にあたる大きさだ。
灯油はすでに家計の目に見える形で上がっている。16日にTBSが報じたところでは、赤沢亮正経済産業相は北海道の灯油価格が過去最高値になったことを受けて対策を強化すると表明した。元売りから直接売るルートの新設や、輸入灯油の高い価格と国内卸価格の差の補助が柱である。冬を前に、補助はガソリンの外側にも広がり始めた。
では、補助の43円はどこから来るのか。原油の値段を円とリットルに直すと見えてくる。北海ブレント先物(12月物)は16日の日本時間16時47分に1バレル105.45ドルだった(ロイター、取引時間中)。1バレルは約159リットルで、同じころのドル円157.9円(17時29分、取引時間中)で換算すると、原油だけで1リットル約105円になる(本誌計算)。
この換算から2つの目安が出る。ブレントが1ドル動くと、原油代は1リットル約1円動く。ドル円が1円円安に動くと、約0.66円動く(いずれも本誌の概算)。補助が170円程度を守る限り、この変化はまず店頭ではなく補助額に出る。原油が10ドル上がれば、補助は10円近く増えると考えてよい。
海峡から価格板まで——川上から川下へ(10月13〜16日)
読み方:海峡の通過量と運賃が国際価格を押し上げ、円建ての原油代になる。日本では補助が価格板を170円程度に保つため、上流の変化はまず補助額に出る。出所:ロイター、ケプラー、ポリマーアップデート、経済産業省(時事通信・共同通信)、本誌計算。
上流をたどる①——ホルムズ海峡、攻撃は増えても船は動いている
最も上流は、中東の海峡である。英海事貿易作戦機関(UKMTO)の警報を集計したイラン・インターナショナルによると、10月5日から11日の1週間に、ホルムズ海峡とペルシャ湾周辺で12隻の商船が攻撃を受けた。うち6件は11日の1日に集中した。13日にもタンカー1隻とコンテナ船1隻が正体不明の飛翔体に撃たれ、UKMTOが調べている。
それでも、原油の流れは止まっていない。ロイターが引用した船舶追跡会社ケプラーの集計では、13日までの7日間に海峡を通った量は平均で日量1,162万バレル。平時の基準とされる日量1,715万バレルの約68%である。米中央軍(CENTCOM)は、13日に1,900万バレルを超える原油の輸送を支えたと発表した。攻撃は増えたが、米軍の護衛の下で船は通っている。
ロイターによると、イランは米国による港の封鎖と9月に強まった制裁への対抗として、攻撃を強めていると表明している。トランプ大統領は11月3日の中間選挙の前にイランへの新たな攻撃はしないと述べたと報じられている。イラン・インターナショナルによると、匿名のイラン高官は攻撃の狙いの1つに中間選挙への影響を挙げた。選挙までの約2週間、海峡の緊張は続きやすいとみておくべきだろう。
上流をたどる②——運賃と「影の船団」
海峡の次に値段を押し上げているのが、タンカーの運賃である。化学品業界紙のポリマーアップデートによると、今週、米メキシコ湾岸からアジアへ向かう大型タンカー(VLCC)1隻の運賃が、一括8,100万ドルという記録的な水準で成約したと伝えられた。約200万バレルを積むとして、1バレルあたり約40.5ドルである。ブレント価格の4割近い運賃を払っている計算になる。
ここで出てきたのが、制裁緩和の話だ。ロイターによると、米政府の当局者は14日、ロシア、イラン、ベネズエラの原油や石油製品を運んできた「影の船団」の一部の船について、制裁の解除を検討していると述べた。目的は、記録的な運賃を下げることである。トランプ政権はすでにロシア産軽油への制裁を一時的に外し、欧州諸国などから批判を受けていた。
ただし、効果には疑問もある。ロイターは同じ15日、制裁を緩めても使える船はあまり増えないとするアナリストの見方を伝えた。本誌も、、この緩和が運賃を下げる力は限られるとみる。
上流をたどる③——相場、WTIだけが走った週
ロイターによると、16日の日本時間16時47分時点で、ブレントは前日比0.44%安の105.45ドル、米国産のWTI原油先物(11月物)は0.63%安の97.35ドルだった。週間ではブレントが0.72%高、WTIが5.9%高である。
差を生んだのは米国の在庫である。米エネルギー情報局(EIA)が15日に発表した週間統計では、9日までの1週間に米国の原油在庫が860万バレル減った。市場予想は約29万バレルの減少だった。WTIは15日に3%超上げて清算値97.97ドル。ブレント(12月物)との差は、前週末9日の12.87ドルから7.95ドルまで縮んだ(各清算値から本誌計算)。米国の原油が、海峡の外にある「代わりの原油」として買われている。
1週間の値動き(10月9日→15日の清算値、ドル)
読み方:同じ週でもWTIは6ドル超上げ、ブレントは1ドル余りにとどまった。両者の差は約5ドル縮んだ。米国の原油在庫が予想を大きく上回って減ったことが背景にある。出所:米ヤフー・ファイナンスの限月別の日足清算値から本誌計算、在庫はEIA。
16日のアジア時間には、別の数字も出回った。価格サイトの「つなぎ足」で、ブレントが約3%、WTIが約2%下げたように見えたのである。これは限月の切り替えによる見かけの下げだ。米ヤフー・ファイナンスの連続足は、ブレントで12月物から1月物へ、WTIで11月物から12月物へ表示を移した。期近ほど値段が高い状態なので、表示を移すだけで値が下がって見える。同じ限月で比べると、下げは1%に届いていない。
「つなぎ足」と同じ限月の比較(16日17時19分時点、前日の清算値比)
読み方:つなぎ足は表示する限月を期先に切り替えたため、期近との価格差の分だけ下げて見える。同じ限月で比べた下げは1%未満である。出所:米ヤフー・ファイナンス(BZ=F、BZZ26、CL=F、CLX26)、取引時間中の値から本誌計算。
むしろ注目すべきは、この「期近ほど高い」幅である。15日の清算値で、ブレントの12月物は1月物より2.75ドル高かった。いま手に入る原油に3ドル近く多く払うのは、目先の原油が足りないという市場の判断の表れである。
日本の備え——13日に3法案、16日にタンカー再保険
日本政府も、海の上の費用に手を打ち始めた。共同通信によると、政府は13日、「原油等調達多角化法案」など3法案を閣議決定した。ホルムズ海峡を通らずに原油を輸入する元売りなどに、増えた費用を交付する制度を新設する。米国などからの輸送は中東より時間がかかり、運賃も膨らむためだ。財源は事業者が納める納付金である。
16日には、特定タンカー法の改正案を閣議決定した。時事通信によると、海外の再保険が引き受けられない場合に政府が肩代わりする制度で、これまではイラン産原油の輸送船に限っていた。改正案はイランに限らず、原油、液化天然ガス(LNG)、石油製品に対象を広げる。物流専門紙ロジスティクス・トゥデイによると、対象国は品目ごとに政令で指定し、公布から3カ月以内に施行する。
これらは「船が来なくなる事態」を防ぐ保険で、値段を下げる政策ではない。迂回の費用は納付金として事業者が負担し、いずれ製品価格に乗る可能性がある。
家計への換算表——月40リットルの車で考える
ガソリンを月40リットル使う家庭を例に、数字を家計の単位に直す。前提は本誌の仮定で、補助の仕組みが今の形のまま続くものとする。
| 項目 | 1リットル | 月40リットル | 年間 |
|---|---|---|---|
| 店頭で払う額(13日時点の全国平均) | 170.10円 | 6,804円 | 8万1,648円 |
| 税金から出る補助(15〜21日分) | 43円 | 1,720円 | 2万640円 |
| ブレントが10ドル上がった場合の補助の増加 | 約10円 | 約400円 | 約4,800円 |
| 補助が10円縮小された場合の店頭の上昇 | 10円 | 400円 | 4,800円 |
表の要点は、いまの原油高が店頭ではなく税金側に溜まっていることだ。月40リットルの車1台で、毎月1,720円分を補助が肩代わりしている。補助の財源や期限の議論が始まれば、それが店頭の価格板に届く経路になる。
生活防衛と投資の接点——株と円はどう動いたか
16日の東京市場で、日経平均は前日比898円高の6万5,324円で引けた。前日に3,318円下げた反動である。原油に関わる銘柄も上げた。終値はINPEX(1605)が3,670円で0.85%高、ENEOSホールディングス(5020)が1,387円で0.80%高、コスモエネルギーホールディングス(5021)が4,124円で1.35%高、出光興産(5019)は1,545円で0.32%安だった。日本航空(9201)は2,952円で1.08%高、ANAホールディングス(9202)は2,861円で0.30%高である(いずれも米ヤフー・ファイナンスの終値から本誌計算)。
原油の値段がそれぞれの会社に届く経路は違う。INPEXのような開発会社は、原油が高く円が安いほど売上が増えやすい。元売りは補助のおかげで販売量を保てる一方、原油の上げ下げで在庫の評価が振れる。航空会社は燃料費が増え、燃油サーチャージで取り戻すまでに時間差がある。原油高は輸入代金を増やして円安の圧力になり、円安はさらに補助額を押し上げる。
家計の選択肢は、灯油を早めに確保するか値下がりを待つか、原油高への備えとしてエネルギー株を持つかなどだ。後者は下の下振れシナリオでは逆に動く。本誌は特定の選択を勧めない。
今後2〜4週間の見通し——3つのシナリオと捨てる条件
本誌の基本線は、ブレント(12月物)が98〜112ドル、WTI(11月物、期近)が90〜103ドルの範囲で上下するというものだ。確率は50%とみる。海峡の攻撃は中間選挙まで続くが、米軍の護衛で流れは日量1,100万〜1,200万バレル台を保つ。影の船団の制裁緩和は運賃を少し下げるにとどまる、という前提である。
比較のために専門家の予想を置いておく。原油専門ニュースのオイルプライスによると、ロイターが9月に30人の専門家に聞いた調査では、2026年平均のブレント予想は89.05ドルで、最も高い予想でも97.60ドルだった。いまの105ドル台は、その最も強気な予想の年間平均さえ上回っている。
ブレント12月物の水準と本誌の判断線(ドル)
読み方:98ドルと112ドルが本誌の判断線である。清算値がこの範囲の外で2日続けば、基本シナリオを捨てる。出所:ロイター、米ヤフー・ファイナンスの清算値、本誌の見立て。
| シナリオ | 確率 | ブレント(12月物) | WTI(期近) | 引き金 | 補助額の目安 |
|---|---|---|---|---|---|
| 基本:高止まりのもみ合い | 50% | 98〜112ドル | 90〜103ドル | 攻撃は続くが海峡の流れは日量1,100万〜1,200万バレル台、制裁緩和の効果は小さい | 40円台が続く |
| 上振れ:海峡の流れが細る | 25% | 112ドル超 | 103ドル超 | ケプラーの集計で流れが日量900万バレルを下回る週が出る、護衛の縮小、大型タンカーの被弾 | 50円台へ |
| 下振れ:交渉と運賃の低下 | 25% | 98ドル未満 | 90ドル未満 | 米イランの合意の枠組み、制裁緩和の正式決定で運賃が下がる、海峡の流れが日量1,400万バレルを超える | 30円台へ |
この見方を捨てる条件:ブレント(12月物)の清算値が2日続けて112ドルを上回るか、98ドルを下回ったときは、基本線を捨てて上振れか下振れのシナリオに切り替える。112ドルは今週の清算値の最高(12日の106.65ドル)を5ドル超上回る水準、98ドルは10月7日の清算値100.20ドルの少し下にあたる。
次に店頭へ届く変化の日付
| 日付 | 出来事 | 見るところ |
|---|---|---|
| 10月20日(火) | WTI 11月物の取引最終日 | 期近が12月物に移る。つなぎ足の見かけの下げに注意 |
| 10月21日(水) | 経済産業省の週間価格調査の公表(通常の日程の場合)、米EIAの週間在庫統計 | 補助額が43円から増えるか、米国の在庫減が続くか |
| 10月30日(金) | ブレント12月物の取引最終日 | 期近が1月物に移る。12月物と1月物の差(15日は2.75ドル)がどう変わるか |
| 11月3日(火) | 米中間選挙 | 選挙後に米国の対イラン姿勢と制裁緩和の議論が変わるか |
| 臨時国会の会期中 | 原油調達の3法案と特定タンカー法改正案の審議 | 成立の時期と、納付金の水準 |
店頭の170円は、しばらく動かないだろう。動くのは補助額であり、その先にある財源と期限の議論である。原油が店頭に届くまでの時間差はこちらの解説に、円安と補助の関係は14日の記事にまとめた。来週水曜の補助額が、海の上で起きていることを私たちに伝える最初の数字になる。
主な参照
- ガソリン全国平均170円10銭(13日時点)/時事通信、軽油・灯油と補助額43円(15〜21日分)/共同通信(Yahoo!ニュース)
- 灯油の対策強化(赤沢経産相、16日)/TBS NEWS DIG(Yahoo!ニュース)
- 原油価格、週間騰落、影の船団の制裁緩和の検討、ケプラーの海峡通過量/ロイター(Yahoo Finance)
- 制裁を緩めても船は増えにくいとの見方/ロイター
- 海峡周辺の攻撃件数(UKMTOの集計)、CENTCOMの発表、中間選挙との関係/イラン・インターナショナル
- VLCCの運賃8,100万ドル/ポリマーアップデート
- 米国の原油在庫860万バレル減(EIA)/オイルプライス(Yahoo Finance)、予想との比較/オイルプライス
- 原油調達3法案の閣議決定(13日)/共同通信(熊本日日新聞)
- 特定タンカー法改正案の閣議決定(16日)/時事通信(Infoseek)、ロジスティクス・トゥデイ
- ロイターの9月の原油価格予想調査/オイルプライス
- 先物の限月別の清算値、株価とドル円/米ヤフー・ファイナンス(CLX26、CLZ26、BZZ26、BZF27、各銘柄の日足)
データ基準日:2026年10月16日。原油価格は同日の日本時間16時47分(ロイター)と17時19分(米ヤフー・ファイナンス)時点の取引時間中の値で、終値ではない。前日比と週間騰落は、10月9日と15日の清算値との比較である。ドル円は17時29分時点の取引時間中の値。東京市場の株価と日経平均は16日の終値。影の船団の制裁緩和は米当局者の発言として報じられたもので、米政府の正式な決定ではない。海峡周辺の攻撃件数は報道機関の集計で、集計元により数字に差がある。原油の円建て換算、補助額の目安、家計への換算は本誌の概算である。シナリオと確率は本誌の見立てであり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















