10月20日火曜、テキサス時間の午後3時過ぎ。スペースXが7〜9月期決算を公表し、続く決算説明会でイーロン・マスクはテスラとの統合について問われた。答えは慎重だった。「両社とも、株主の要請を受けて特別委員会を設けた」。この一言で、まだ決まってもいない合併に一つの数字が付いてまわることになった。両社が抱えるビットコインは、6月末時点の開示を足すと3万221BTCになる。
21日午後7時44分(日本時間)のビットコインは8万3,337ドル。この価格で計算すると、合算の保有額は約25億2,000万ドルになる。上場企業の保有ランキングに当てはめると6位に入り、首位ストラテジーと2位メタプラネットに次ぐ集団に加わる規模だ。ただし、合併は決まっていない。マスク自身がそう念を押している。
テスラ・スペースX統合案とビットコイン保有の時系列
読み方:統合の話は説明会の発言から始まったばかりで、取引条件は決まっていない。日付は米国時間(10月22日のみ日本時間)。出所:両社の米証券取引委員会への提出書類、決算説明会の書き起こし(モトリーフール)、報道。
説明会の壇上で、マスクは何を言ったか
決算の数字そのものは強かった。スペースXが米証券取引委員会(SEC)に提出した決算資料によると、7〜9月期の売上高は145億7,500万ドルで前年同期比161%増、純利益は44億400万ドルだった。だが説明会で記者と投資家の関心を集めたのは、決算資料に載っていない話題だった。
マスクは統合案について、委員会は「独立取締役で構成されている」と説明した。そして自らの立場をこう語った。「私は利害が対立する当事者なので、特別委員会の議論には加われない」。そのうえで、楽観論にくぎを刺した。「SpaceXとテスラの合併は確実だと考えている人もいるようだが、それは言い過ぎだ。良い考えだと思うか、と聞かれれば、答えはイエスだ。だが最後は株主が支持しなければならない」。
ハードルの高さにも触れた。「特にテスラ側では、投票した株だけでなく、全株式の50%の賛成が必要になる」。さらに「特別委員会はいかなる取引条件でも合意に達しておらず、達する保証もない」と続けた。発言は説明会の書き起こし(モトリーフール掲載)による。同社は書き起こしに誤りが含まれうると注記しており、本稿では発言の趣旨が変わらない範囲で引用した。
巻き戻し——2社の金庫に眠るビットコイン
話を4カ月前に戻す。8月4日、スペースXは4〜6月期の四半期報告書(10-Q)をSECに提出した。そこには短い一文がある。6月30日と2025年12月31日の時点で「ビットコインを1万8,712単位保有していた」。取得原価は6億6,100万ドル、1BTCあたりに直すと約3万5,300ドルだ(本誌計算)。
今回の7〜9月期の決算資料には、保有枚数の記載がない。載っているのは貸借対照表の「デジタル資産」で、9月30日時点で15億7,300万ドル。2025年末の16億3,700万ドルから6,400万ドル減った。この減少額は、1〜9月期のキャッシュフロー計算書にある評価損6,400万ドルと一致する。9月30日のビットコイン終値は8万3,554ドル(Yahoo Financeの日足、UTC基準)で、1万8,712BTCに掛けると15億6,000万ドル強になる。売却なしで価格変動だけが反映された、と読むのが自然だ。ただし、これは本誌の推計であり、9月末の枚数を会社は開示していない。
テスラ側の数字は7月23日提出の10-Qにある。6月30日時点で保有するデジタル資産の大半は「1万1,509単位のビットコイン」で、取得原価は3億8,600万ドル。1BTCあたり約3万3,500ドルである(本誌計算)。時価は6月末で6億7,400万ドル、2025年末の10億800万ドルから1〜6月で3億3,400万ドルの評価損を計上した。テスラはこのほか、3月に取得したスペースX株を30億700万ドル分保有している。2社はすでに、資本でもつながっている。
3万221BTCという数字の出どころ。スペースXの1万8,712BTCとテスラの1万1,509BTCは、いずれも両社の6月30日時点の開示である。足し算は本誌による。両社とも7〜9月に売買した可能性は残る。テスラは21日の米国市場の取引終了後に7〜9月期決算を発表する予定で、新しい数字はそこで出る可能性がある。
上場企業のビットコイン保有(BTC)
読み方:合算すると、マラとブリッシュの間の6位に入る。首位ストラテジー(84万8,517BTC)は目盛りに収まらないため省いた。出所:BitcoinTreasuries.NET(10月21日午前10時45分UTC時点)、両社の10-Q。合算は本誌計算。
番付の中で——メタプラネットのすぐ後ろへ
企業のビットコイン保有を集計するBitcoinTreasuries.NETによると、21日午前(日本時間の夕方)時点で上場企業の保有の首位はストラテジーの84万8,517BTCである。2位は東京証券取引所スタンダード市場のメタプラネットで4万4,000BTC。以下、トゥエンティワンが4万3,514BTC、ストライブが3万6,818BTC、マラ・ホールディングスが3万5,577BTCと続く。
単独のスペースXは7位、テスラは11位だ。合算の3万221BTCはマラとブリッシュ(2万2,000BTC)の間に入り、順位は6位に上がる。日本の個人投資家にとって身近な比較で言えば、メタプラネットの約7割の量を、世界で最も注目される経営者の一人が率いる会社が持つことになる。
ただ、規模感は冷静に見ておきたい。首位ストラテジーの保有は合算の約28倍あり、上場企業全体の保有約128万7,000BTCに占める比率は2.3%にとどまる(本誌計算)。市場の需給を一気に変える量ではない。それでも、どちらの会社もビットコインを買うために存在する会社ではなく、本業で稼ぐ事業会社である点は大きい。暗号資産の保有を主な事業とする企業への逆風については、MSCIの新ルールを扱った記事で整理した。
強気派と慎重派——同じ数字を別の目で見る
強気派の見方はこうだ。2社とも3万ドル台半ばで取得したビットコインを手放さず、価格が最高値から大きく下げた局面でも売らなかった。21日にCoinDeskは、両社の統合が実現すれば「3万BTCを超えるビットコインを一つにまとめる」と報じ、市場の話題になった。合併企業が財務方針としてビットコインの保有を続けると表明すれば、事業会社による長期保有の象徴になりうる。
慎重派は、まず合併そのものの不確かさを指摘する。マスク自身が条件で合意していないと述べ、テスラは全株式の過半の賛成を必要とする。テスラの年次株主総会は12月3日に開かれるが、合併は議案に入っていないと報じられている。英バークレイズが12月より前の発表を予想していると一部で報じられたが、本誌はリポート本体を確認できていない。
もう一つの論点は、保有の向きが変わりうることだ。合併すれば財務方針は新しい取締役会が決める。3万BTCを持ち続けるのか、一部を売るのか、買い増すのか。現時点でそれを示した発言はない。保有の「量」は分かっても、「意思」はまだ分からない。
その間、ビットコインの値動きは静かだった
説明会から一夜明けた21日、ビットコインはじりじりと上げた。CoinGeckoによると午前10時42分(UTC)時点の24時間の値幅は8万1,273〜8万3,568ドルで、24時間で2.27%高。CoinDeskは同日朝、ビットコインが約8万3,500ドルと1週間ぶりの高値にあると伝え、アジアのハイテク株高を背景に挙げた。
それでも、10月7日から20日までの日足終値は8万1,382〜8万3,679ドルの狭い帯に収まっている。CoinGeckoが記録する最高値は2025年10月6日の12万6,080ドルで、現在値はそこから約34%低い。統合の話題で値幅が広がったわけではない。2社の保有を合わせても、需給を動かす量ではないことを、市場はすでに見抜いているようにも映る。最近の値動きの縮小についてはこの記事で、最大の買い手ストラテジーの最近の買いの細り方はこちらで扱っている。
エピローグ——次の数字はテスラの決算で出る
物語の次の場面は、すぐにやってくる。テスラは21日の米国市場の取引終了後に7〜9月期決算を公表し、決算説明会は日本時間22日午前6時30分に始まる。保有ビットコインの最新の枚数が示されるか、そしてマスクが統合について説明会で何を語るかが、最初の見どころになる。テスラの決算の注目点は決算プレビューにまとめた。
その先には、10月27〜28日の米連邦公開市場委員会(FOMC)がある。ビットコインにとっては、2社の合併の行方よりも金利の行方のほうが目先の値動きを左右しやすい。統合の話題は、決まるまで何度も浮き沈みするだろう。残された問いは一つだ。もし3万BTCが一つの会社の金庫に収まるとき、その会社の取締役会はそれを「準備資産」と呼ぶのか、それとも「売却可能な資産」と呼ぶのか。
主な参照
- スペースXの7〜9月期決算(売上高、純利益、デジタル資産15億7,300万ドル、評価損6,400万ドル)/米証券取引委員会(8-K、2026年10月20日提出)
- スペースXのビットコイン保有1万8,712単位、取得原価6億6,100万ドル(6月30日時点)/米証券取引委員会(10-Q、2026年8月4日提出)
- テスラのビットコイン保有1万1,509単位、取得原価3億8,600万ドル、スペースX株の保有(6月30日時点)/米証券取引委員会(10-Q、2026年7月23日提出)
- テスラの7〜9月期決算の発表日程(10月21日の取引終了後、説明会は米中部時間午後4時30分)/米証券取引委員会(8-K、2026年10月2日提出)
- マスク氏の発言(特別委員会、合併は確実ではない、全株式の50%)/モトリーフール(決算説明会の書き起こし、10月20日)、TechCrunch
- 統合なら3万BTC超、ビットコインが1週間ぶり高値/CoinDesk(10月21日)、CoinDesk
- 上場企業のビットコイン保有ランキング(10月21日午前10時45分UTC時点)/BitcoinTreasuries.NET
- ビットコイン価格、24時間値幅、最高値12万6,080ドル(2025年10月6日)/CoinGecko、日足終値/Yahoo Finance
データ基準日:2026年10月21日午後7時44分(日本時間)。ビットコイン価格は取引時間中の気配値で、終値ではない。日足終値はUTC基準。両社のビットコイン保有枚数は6月30日時点の開示で、合算3万221BTCと保有額約25億2,000万ドル、1BTCあたりの取得原価、ストラテジーとの比較、上場企業全体に占める比率は本誌の計算である。スペースXが7〜9月に売買しなかったという見方は貸借対照表からの推計で、会社は9月末の枚数を開示していない。保有ランキングは集計サイトの値で、更新時点により変わる。マスク氏の発言は第三者による書き起こしにもとづく。英バークレイズの予想と、合併が株主総会の議案に入っていないことは報道によるもので、本誌は一次資料を確認できていない。テスラとスペースXの統合は、本稿執筆時点で決定していない。本記事は情報提供を目的としたものであり、暗号資産や特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















