なぜ世界最大の資産運用会社が、値上がりの一部をわざわざ手放すビットコインETFを出そうとしているのか。答えは「床と天井のある部屋」にある。米ブラックロックが10月19日に届け出た「iシェアーズ・ビットコイン・マネージド・プロテクションETF」(ティッカーはPBIT)は、ビットコインの下落を1区切りあたり約10%までに抑える床を張る。その代わりに、上昇には天井を付ける。床を張る費用は、天井より上の値上がりをあきらめることで払う仕組みだ。
この記事では、この「部屋」がどう組み立てられているかを順に見ていく。届け出の書類は米証券取引委員会(SEC)で公開されているが、手数料も天井の高さもまだ空欄である。何が決まっていて、何が決まっていないのかを分けて読むことが、ここでは肝心だ。
届け出の中身——決まっていること、空欄のこと
書類の形式は「485APOS」で、iシェアーズ・トラストの登録届出書の変更として出された。ビットコイン現物ETFが使ってきた「S-1」ではなく、一般の投資信託と同じ1940年投資会社法の枠組みである。SECの受付は米東部時間19日16時44分。書類は、提出から75日後に効力を持つという規定を選んでいる。そのまま進めば効力発生は2027年1月初めになる計算だが、これは本誌の計算で、書類に日付は書かれていない。
| 項目 | 届け出の記載 |
|---|---|
| 名称・ティッカー | iシェアーズ・ビットコイン・マネージド・プロテクションETF(PBIT) |
| 運用会社 | ブラックロック・ファンド・アドバイザーズ |
| 書類の形式・提出日 | 485APOS(登録届出書の変更)、2026年10月19日 |
| 保有するもの | ビットコインのETF(IBITなど)を対象にしたオプション、米短期国債、マネー・マーケット・ファンド、短期の投資適格債。ビットコインやビットコインETFを直接は保有しない |
| 下落の床 | 1区切り(トランシェ)ごとに、開始時の基準価格の約90%。損失は手数料を除いて約10%まで |
| 上昇の天井 | 各トランシェの開始時に市場の状況で決める。数値の記載なし |
| 手数料 | 空欄 |
| 上場する取引所 | 空欄 |
原理の分解——2本のオプションで床と天井を作る
部屋の作り方を、第一原理から順に見ていく。材料は「コールオプション」だけである。コールオプションとは、決められた価格(行使価格)で買う権利のことだ。
まず床。ファンドは、行使価格が現在値の約90%のコールを買う。現在値より安い価格で買う権利なので、ビットコインが上がればその分だけ価値が増え、ほぼビットコインと同じように動く。一方で、価格が90%を下回ると権利は価値を失うが、それ以上は損をしない。最初に払った代金が損失の上限になる。これが床の正体である。
次に天井。同時に、ファンドは現在値より高い行使価格のコールを売る。売ったコールは、価格がその水準を超えたときに買い手へ値上がり分を渡す約束になる。だから天井より上の値上がりはファンドの手に残らない。その代わり、売ったコールの代金が入ってくる。この代金で床の費用をまかなうわけだ。
つまり、床を張るほど、天井は低くなる。ビットコインの値動きが荒い時期ほどオプションは高くなり、床の費用もかさむ。ブラックロックが天井の高さを書類に書けないのはこのためで、各トランシェの開始時点のオプション価格を見るまで決められない。届け出には、極端な値動きのときには保護が弱まりうるという注意書きもある。
1トランシェの損益のかたち(手数料控除前、天井は仮定)
読み方:青線がPBITの1トランシェ、点線がビットコインそのもの。−10%より下は床で止まり、天井より上の値上がりは手放す。床の約10%は届け出の記載、天井の+15%は説明のための本誌の仮定。出所:SECへの届け出(2026年10月19日)、本誌作成。
用語の整理。①コールスプレッド:行使価格の違うコールを1本買い、1本売る組み合わせ。損益の上と下に限りが付く。②トランシェ:開始日と満期を区切った1つの単位。PBITは約3カ月のトランシェを3本、開始日を1カ月ずつずらして持つ。③FLEXオプション:行使価格や満期を自由に決められる取引所のオプション。PBITは原則としてこれを使い、満期日にだけ行使できる欧州型とする。
3つの部屋を少しずつずらして並べる
ここが肝心だ。PBITは部屋を1つではなく3つ持つ。それぞれの部屋は約3カ月で期限を迎え、毎月1つが満期になって、新しい部屋が1つ加わる。床と天井の位置は、部屋ごとに開始時の価格で決まる。
この並べ方には利点がある。1つの部屋しかなければ、買った日によって床までの距離がまったく違ってしまう。満期直前に買えば床は目の前にあり、天井もすぐ上にある。3つをずらしておけば、どの日に買っても、床と天井の位置は3つの平均に近くなる。その代わり、ファンド全体の床は「ちょうど10%」にはならない。直近に始まった部屋は床が遠く、古い部屋は相場が動いた分だけ床との距離が変わっているからだ。届け出も、床や天井の数値は固定されたものではないと明記している。
現実の数字に当てはめる
ビットコインは日本時間21日7時46分(グーグル・ファイナンス)で8万2,941ドル、前日比1.34%高だった。仮に今日、新しい部屋が始まるなら、床はその90%の約7万4,650ドルになる。天井は未定なので、ここでは説明のために開始時から15%上、約9万5,380ドルと置いてみる。15%という数字は本誌の仮定で、ブラックロックの数字ではない。
この部屋が3カ月後に満期を迎えたとき、ビットコインが30%下がっていれば、部屋の損失は約10%で止まる。10%下げていれば損失は約10%、5%上げていれば利益も約5%。そして30%上がっていても、利益は天井の15%までだ。いずれも手数料を引く前の話である。
過去の値動きに当てはめると、床のありがたみと天井の痛みの両方が見えてくる。CoinGeckoの日次データでは、ビットコインは7月23日の6万6,077ドルから10月20日の8万1,875ドルまで、90日で約24%上げた。この期間を1つの部屋で過ごしたなら、利益は天井で頭打ちになっていた。一方、ここ90日の高値は9月22日の8万6,597ドル、安値は8月2日の6万2,773ドルである。24/7ウォール・ストリートの分析によれば、ビットコインは今も過去最高値を35.4%下回っており、50日移動平均の8万1,538ドル付近で攻防が続く。下げ続けた時期に持っていた人ほど、床の価値を感じるはずだ。
先行する部屋と、隣の大部屋
この種の商品はPBITが初めてではない。米カラモスは2025年1月に、ビットコインの下落を100%防ぐ「CBOJ」を出した。こちらは年1回、1月に部屋を作り直す。床を一番高く張った分、天井は低い。同社の年次報告書を引いた情報では、2026年7月末時点の純資産は1,780万ドル、天井は約8%とされている。本誌は報告書の原文を確認できていないため、参考値として扱う。
比べる相手として、隣の大部屋も見ておく。ブラックロックのビットコイン現物ETF「IBIT」の純資産は10月19日時点で657億ドル。経費率は0.25%である。SoSoValueの集計を引いた報道によれば、19日の米ビットコイン現物ETF全体の資金流入は5億2,660万ドルで、9月22日以来の大きさだった。そのうちIBITが6億6,520万ドルを集めた。10月の累計は差し引き9,057万ドルの流出である。PBITは、この大部屋に入る勇気がまだ出ない投資家に向けた小部屋という位置づけになる。
よくある誤解:「最初の10%の損失を肩代わりしてくれる」わけではない。一部の報道は「10%のバッファー(緩衝)」と書いたが、届け出の仕組みは逆である。緩衝型は最初の10%の下落を吸収し、それを超えた分を投資家が負う。PBITの床型は、10%までの下落は投資家が負い、それを超えた分を止める。しかも床の位置は各トランシェの開始時の価格が基準で、あなたが買った日の価格ではない。手数料もまだわからない。床があるからといって、損をしないわけではない。
日本の投資家にとっての距離
日本では、暗号資産を金融商品取引法の枠組みに移す改正法が7月15日に成立し、7月23日に公布された。施行日は公布から1年以内に政令で決まるが、本稿執筆時点で日付は示されていない。税制では、特定の暗号資産と暗号資産ETFの利益に20.315%の申告分離課税を適用し、損失の3年繰り越しを認める改正が決まっている。適用は改正法の施行の翌年1月1日からで、施行が2027年なら2028年からになる。国内での暗号資産ETFの上場は2027〜28年が見込まれると報じられているが、決定したものではない。
つまり、日本の個人投資家がPBITのような部屋を国内の制度の中で選べるようになるのは、まだ先の話である。それでも、この届け出は1つの方向を示している。ビットコインを「全部か無か」で持つのではなく、床と天井を決めて持つ商品が、運用大手の品ぞろえに加わり始めたということだ。
まとめ——部屋の設計図を覚えて帰る
最初の比喩に戻ろう。PBITは、ビットコインという荒天の中に建てる「床と天井のある部屋」だ。床を張る費用は、天井より上の景色をあきらめることで払う。覚えて帰ってほしいのは次の3点である。
- 床は約10%、天井は未定。下落はトランシェごとに約10%で止まるが、上昇の天井はオプション価格しだいで、届け出に数字はない。
- 緩衝ではなく床。最初の10%の下落は投資家が負う。床の基準は各トランシェの開始時の価格である。
- まだ申請の段階。手数料も取引所も空欄で、効力発生は早くても2027年1月初めの計算になる。
ビットコインETFへの資金の出入りの読み方は5億2,700万ドルの流入を扱った記事に、JPモルガンの長期予想については10年10%予想を検証した記事にまとめている。
主な参照
- iシェアーズ・ビットコイン・マネージド・プロテクションETFの届け出(目論見書の案)/米証券取引委員会(2026年10月19日提出)、提出書類の一覧
- IBITの純資産と経費率(10月19日時点)/iシェアーズ
- 米ビットコイン現物ETFの資金流出入(SoSoValue集計)/BeInCrypto(Yahoo Finance掲載、10月20日)、Crypto Briefing
- ビットコインの日次価格/CoinGecko、50日移動平均と過去最高値からの下落率/24/7ウォール・ストリート(Yahoo Finance掲載、10月20日)
- カラモスCBOJの設定/カラモス
- 金融商品取引法等の改正法の成立/金融庁、公布と税制改正の整理/PwC、税理士会の解説
データ基準日:ビットコイン価格は日本時間2026年10月21日7時46分(グーグル・ファイナンス、取引時間中の値)、日次の価格はCoinGeckoの世界標準時0時の値、IBITの純資産は10月19日時点。PBITは申請の段階であり、SECの手続きの中で内容が変わる、または上場しない可能性がある。効力発生の時期は本誌が届け出の規定から計算したもので、書類に日付の記載はない。図と本文の天井15%は説明のための本誌の仮定で、実際の天井はトランシェごとに市場の状況で決まる。カラモスCBOJの純資産と天井は二次情報にもとづく参考値である。国内の暗号資産ETFの上場時期は報道にもとづく見通しで、決定したものではない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













