2026年6月4日、米国の現物ビットコインETF(上場投資信託)は、13営業日続いた資金流出をようやく止めた。その日の純流入はわずか305万ドル。流出の連続記録は約44億ドルに達しており、市場はこの小さなプラスを「売りの出尽くし」と読もうとした。だが、ビットコインはそこから4週間で一時9.5%下げた。4カ月半後のきょう、同じ問いが画面に灯っている。
10月19日(米国時間)、米国の現物ビットコインETFには差し引き5億2,664万ドルが流入した。1日の流入としては9月22日以来の大きさで、直前の2週間に流れ出た9億970万ドルの約58%を1日で取り戻した計算になる。同じ日、ブラックロックは損失に緩衝材を付けたビットコインETF「PBIT」の登録書類を米証券取引委員会(SEC)に出した。本稿はこの1日を、2026年に流出が止まった2つの日と並べて読む。結論から言えば、資金の戻りは本物だが、一日の数字だけで底入れとみるのは早い。
10月19日に何が起きたか
流入の中身は偏っている。ブラックロックの「iシェアーズ・ビットコイン・トラスト(IBIT)」に6億6,520万ドルが入った一方、フィデリティの「FBTC」は8,363万ドル、グレースケールの「GBTC」は5,493万ドルの流出だった。ほかの9本は資金の出入りがなかった。全体の純流入5億2,664万ドルは、ほぼIBIT1本の買いでできている。
一部の暗号資産メディアは、この流入を「7日連続の流出の後」と伝えた。これは日次の記録と合わない。Farside Investorsの日次表を10月1日からたどると、流出の日と流入の日は交互に近い形で並んでおり、7日続けて流出した区間はない。正しくは「週単位で2週続いた流出の後」である。10月5〜9日の週は6億8,110万ドル、12〜16日の週は2億2,860万ドルの流出だった。暗号資産メディアのコインテレグラフも、SoSoValueの集計をもとに週次で2週連続の流出と報じている。集計会社によって日次の数字はずれるが(たとえばBitboの表では10月9日が流出)、どの表でも7日連続にはならない。
米国の現物ビットコインETF、10月の日次純フロー(百万ドル)
読み方:青が流入、赤が流出。10月は流入と流出が入り混じり、7日続けて流出した区間はない。週単位では5〜9日に6億8,110万ドル、12〜16日に2億2,860万ドルの流出で、19日の流入はその約58%にあたる。出所:10月1〜16日はFarside Investorsの日次表(TFTC経由)、19日はTrader T集計(KuCoinニュース)。米国の営業日ベース、速報値を含む。
もう一つ見落とせないのは、資金が入った日に価格が上がっていないことだ。コインベースの日足(協定世界時の0時区切り)で、10月19日の終値は8万1,838ドル。前日の8万2,007ドルから0.2%安い。きょう日本時間15時47分のビットコインは8万1,737ドルで、1ドル=158円17銭で換算すると約1,293万円になる。5億ドル超の買いが入っても値段が動かなかったのは、同じだけの売りが別の場所にあったということである。
2つの鏡:6月4日と7月2日
2026年には、ETFの長い流出が止まった日が少なくとも2回ある。1回目が冒頭の6月4日だ。米コインデスクによると、5月半ばから続いた流出は13営業日と過去最長に達し、約44億ドルが流れ出た。この間、ビットコインは5月14日の8万1,079ドルから6月3日の6万4,040ドルへ21.0%下げている。流出を止めた6月4日の純流入は305万ドルにすぎなかった。
2回目は7月2日である。米ヤフーファイナンスに転載された99Bitcoinsの記事によると、10日連続で計27億3,000万ドルが流れ出た後、この日に2億2,170万ドルが流入した。流出期間にあたる6月16日から7月1日まで、ビットコインは8.6%下げていた。奇しくも、どちらの局面でも流出が止まったのは木曜日だった。
| 項目 | 2026年6月4日 | 2026年7月2日 | 2026年10月19日 |
|---|---|---|---|
| 直前の流出 | 13営業日連続、約44億ドル | 10営業日連続、27億3,000万ドル | 2週連続(週次)、9億970万ドル |
| 流出期間のビットコイン | 21.0%安 | 8.6%安 | 4.7%安(10月6〜16日) |
| 流出が止まった日の純流入 | 305万ドル | 2億2,170万ドル | 5億2,664万ドル |
| その日の終値(UTC) | 6万3,806ドル | 6万1,484ドル | 8万1,838ドル |
| 4週間後の終値 | 6万1,484ドル(3.6%安) | 6万4,722ドル(5.3%高) | — |
| 4週間の安値・高値 | 9.5%安〜5.4%高 | 0.5%安〜8.8%高 | — |
2つの先例は逆の結末を迎えた。6月4日の後、ビットコインは6月15日に6万7,264ドルまで戻したものの、7月1日には5万7,718ドルまで売られた。流出が止まった日は底ではなく、底は4週間後にあった。7月2日の後は様子が違う。翌日の安値6万1,163ドルを最後に下値を切り上げ、7月21日には6万6,924ドルを付けた。こちらは流出の終わりが、ほぼそのまま底になった。
ビットコインの終値と、ETFの流出が止まった日(2026年5月14日〜10月19日)
読み方:6月4日に流出が止まった後も下げは続き、底は7月1日(安値5万7,718ドル)だった。7月2日の後は下値を切り上げた。9月21日の大きな流入の後も、4週間で5.5%下げている。出所:コインベースのBTC/USD日足終値(UTC基準)、流出の連続日数はコインデスク・99Bitcoins(SoSoValue集計)。
同じ点と違う点
| 同じ点 | 違う点 |
|---|---|
| 流出の後に、まとまった流入が1日入っただけで、続くかどうかはまだ分からない | 今回の流入額は6月4日の約170倍、7月2日の約2.4倍と大きい |
| 流入の大半を1本のファンドが占め、ほかのファンドからは資金が出ている | 今回の前は連続流出ではなく、流入と流出が入り混じっていた |
| 流入の日にも価格は大きく動かなかった | 流出期間の下げは4.7%と浅く、投げ売りを伴っていない |
| 金融政策への警戒が背景にある | ブラックロックが損失を抑える型のETFを申請し、守りの需要が表に出た |
違う点のうち、最も重いのは3つ目である。6月と7月は、価格が2割、1割と下げた後の流入だった。売りたい人が売り終えた後なら、小さな買いでも流れは変わる。今回は、10月6日の8万5,540ドルから16日の8万1,500ドルまで4.7%下げただけで、売りが尽きたと言える根拠は薄い。下げが浅いぶん、売り手はまだ残っているとみるべきだ。
「今回は違う」論を検証する
強気の側は「金額が違う」と言うだろう。確かに5億2,664万ドルは、6月4日の305万ドルとは桁が違う。ただ、大きな流入の日がそのまま上昇相場の始まりになるとは限らない。直近の例が9月21日だ。この日、ETFには9億9,900万ドルが流入し、ビットコインは前日比6.7%高の8万6,595ドルで引けた(Farsideの日次表、コインベースの日足)。翌22日にも7億1,470万ドルが入った。それでも4週間後の10月19日の終値は8万1,838ドルで、9月21日より5.5%低い。金額の大きさは、続く日数ほど当てにならない。
次に、PBITの意味を考える。ブラックロックが10月19日にSECへ出した書類(様式485APOS)によると、PBITはビットコインもビットコインETFも直接は持たない。IBITなどを参照するオプションを組み合わせ、各期間の最大損失を初期時点でおよそ10%に抑える。その代わり、値上がりの取り分には上限がある。期間をずらした3つの区画を持ち、毎月1つが満期を迎えて新しい区画に入れ替わる仕組みだ。運用報酬は空欄で、目論見書の日付は2027年となっている。報道によると、効力の発生は提出から75日後が想定されている。
最大手の運用会社が「下落に備えたい」という需要に商品を合わせてきたことは、投資家の気分をよく映している。上値を取りに行くより、下げを避けたい人が多い。これは強気の材料というより、慎重さの表れと読むほうが自然だ。もっとも、承認前の書類であり、売買はまだ始まっていない。足元の資金の流れには影響しない。
イーサリアムの側は、さらに弱い。コインテレグラフによると、米国のイーサリアム現物ETFからは10月に入って16日の週までに約9億5,500万ドルが流出し、すでに今年の月間で最大になっている。ビットコインに戻った資金が暗号資産全体に広がっているわけではない。イーサリアムのETF流出と下値の目安はこちらの記事で扱った。
歴史が示す3つの教訓
- 流出が止まった日と、相場の底は別物である。6月4日は底の4週間前だった。底を確かめるには、流入が続くかどうかを見るしかない。
- 流入の金額より、続く日数が効く。9月21日の9億9,900万ドルも、4週間後には価格を守れなかった。7月の回復は、流入日が重なってから本物になった。
- どれだけ下げた後の流入かで、意味が変わる。2割下げた後の流入と、5%下げた後の流入は重みが違う。今回は後者に近い。
歴史は繰り返すのではなく、韻を踏む。今回の韻は「流入は戻ったが、売り手も残っている」というものだ。これが6月型の続きになるか、7月型の反転になるかは、この先2週間の資金の出入りで決まる。
今回の監視点:水準・確率・撤退線
最初に見る水準は50日移動平均線である。コインベースの日足終値から本誌が計算すると、10月19日時点で8万1,479ドル。価格はいま、この線のすぐ上にいる。下には10月15日の安値7万9,676ドルがあり、8万ドルの節目と重なる。上は9月21日の高値8万7,397ドルが壁になる。200日移動平均線は7万2,569ドルで、年末までの見通しを扱った番付記事で示した7万4,000ドルの下値とあわせ、深い下げの受け皿になる。
ビットコインの注目水準(ドル)
読み方:現在値8万1,737ドル(10月20日15時47分=日本時間)は50日線の上にある。終値で2日続けて10月15日の安値を割れば下げのシナリオ、10月12日の高値を超えれば反転のシナリオに切り替える。出所:コインベースの日足から本誌計算。移動平均は終値ベース。
今後2〜4週間の見通しを、本誌の判断で次の3つに分ける。確率は過去2例と足元の資金の偏りから置いたもので、統計的な推計ではない。
| シナリオ | 確率 | 条件 | 価格の目安 |
|---|---|---|---|
| 7月型の反転 | 30% | 流入が週次でプラスに転じ、IBIT以外にも資金が入る | 8万4,300〜8万7,400ドル |
| 一日限りのもみ合い(基本) | 45% | 流入と流出が入り混じる状態に戻る | 8万〜8万4,300ドル |
| 6月型の下げ | 25% | 流出が再び続き、利上げ警戒が強まる | 8万ドル割れ、7万4,000ドル前後まで |
基本シナリオの撤退線は、日足の終値で2日続けて7万9,676ドルを下回ること、または10月12日の高値8万4,262ドルを上回ることだ。前者なら6月型、後者なら7月型に見方を切り替える。資金の流れでは、週次の純流入が2週続けてプラスになれば反転の確率を引き上げ、10月19日の流入額を上回る流出が1日で出れば下げの確率を引き上げる。
日付の決まった材料は3つある。1つ目は毎営業日の資金フローで、米国の取引終了後、日本時間の翌朝に出そろう。2つ目は10月27〜28日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米連邦準備制度理事会(FRB)の日程表にある。3つ目は10月30日の大口オプション満期で、詳しくはこの記事にまとめた。値動きの小ささについては別の記事で、日本の暗号資産の税制がどう変わるかはこちらで扱っている。
主な参照
- 米ビットコインETFの日次資金フロー(9月18日〜10月16日)/TFTC(Farside Investorsのデータ)、Farside Investors
- 同(集計会社による違いの確認)/Bitbo
- 10月19日のファンド別フロー/KuCoinニュース(TechFlow、Trader T集計)、Crypto Briefing
- 週次の流出とイーサリアムETFの10月の流出/コインテレグラフ(SoSoValue集計)
- 13営業日連続の流出が6月4日に終了/コインデスク
- 10日連続の流出が7月2日に終了/ヤフーファイナンス(99Bitcoins)
- iシェアーズ・ビットコイン・マネージド・プロテクションETF(PBIT)の登録書類(様式485APOS、10月19日提出)/米証券取引委員会(EDGAR)
- FOMCの日程/米連邦準備制度理事会
- ビットコインの日足/コインベース、現在値とドル円(10月20日15時47分=日本時間)/Googleファイナンス
データ基準日:2026年10月20日15時47分(日本時間)。ビットコインの現在値8万1,737ドルとドル円158円17銭は取引時間中の値で、終値ではない。日足の終値はコインベースの協定世界時0時区切りで、米国市場の終値とは時刻が異なる。ETFの資金フローは米国時間の営業日ベースで、集計会社や発表後の修正によって数字が変わることがある。10月19日の数字は速報値である。7月2日の流入額は記事内で2億2,100万〜2億2,300万ドルと表記に幅があり、本文の数字を採った。50日・200日移動平均線とシナリオの確率は本誌の計算と判断である。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















