17万4,150円。コーエーテクモホールディングス(3635)の株を100株買うのに、10月20日の終値で必要になる金額である。この日、東京市場では日経平均が841円安と大きく崩れたが、同社株は3.75%高の1,741.5円で引けた。前日の取引終了後に、4〜9月期の営業利益見込みを70億円から115億円へ引き上げたからである。
ただ、この光景には既視感がある。ちょうど1年前の2025年10月23日にも同社は中間期の見通しを引き上げ、翌日の株価は同じ63円高だった。その日に付けた2,175円はいまも52週高値として残り、株価は年末までに1割下げた。今年の上方修正は去年の再演になるのか。決算本番の10月26日を前に、数字を家計の単位まで下ろして確かめる。
現場の1コマ:25年前のゲームが店頭に戻ってきた
10月1日、コーエーテクモは『真・三國無双2 with 猛将伝 Remastered』を発売した。2001年に発売した作品と拡張版を一本にまとめ直したリマスター作で、ゲーム専門メディアは「25年の時を経て登場」と伝えた。新作ではなく、昔のヒット作に手を入れて売り直す商品だ。同社の稼ぎ方を一つの商品で示すなら、これが分かりやすい。
今回の上方修正で会社が挙げた理由も、同じ方向を向いている。開示資料によれば、売上高と営業利益を引き上げたのは「前年度に発売した大型タイトルやバックカタログの販売が好調に推移したこと等」による。バックカタログとは過去に発売した旧作のことだ。発売から時間がたったゲームが、値下げセールやダウンロード販売で売れ続ける。開発費はすでに使い終えているので、売れた分の多くが利益に残る。
注意したいのは時期である。このリマスター作の発売は10月1日で、今回修正した4〜9月期の外側にある。つまり上方修正は新作の力ではなく、前の年度に出した作品と旧作の積み上げで生まれた。下期に何が売れるかは、まだ一つも数字になっていない。
数字の分解:利益250億円のうち、ゲームで稼いだのは半分以下
同社が10月19日に適時開示した修正の中身は次のとおりだ。4〜9月期の売上高は340億円から370億円へ、営業利益は70億円から115億円へ、経常利益は120億円から250億円へ、最終利益は90億円から180億円へ引き上げた。前年同期と比べると、売上高は18.3%増、営業利益は44.4%増、経常利益は40.5%増、最終利益は33.7%増になる。期初は減益を見込んでいたので、一転して増益の着地見込みである。
4〜9月期の営業利益(億円)
読み方:上期の営業利益は3年続けて減っていたが、今期は見込みで115億円と、2期前(2024年4〜9月)の106億5,100万円を上回る。ただし過去最高だった2023年4〜9月の138億5,500万円には届かない。出所:過去の実績は株探の業績推移、今期は同社の2026年10月19日の適時開示(修正予想)。
ここで一つ分解が要る。経常利益250億円から営業利益115億円を引くと、残りは135億円になる。これは本業のゲームではなく、手元資金の運用などから生じる「営業外収支」だ。開示資料も、経常利益と最終利益の修正理由を「金融市場の動向を注視しながら運用を行い、営業外収支が計画を上回る見込み」と説明している。
つまり、4〜9月期の経常利益のうち本業が稼いだのは46%で、54%は運用の成果である。家計にたとえれば、給料が想定より増えたうえに、積み立てていた投資信託も大きく値上がりした、という半年だった。給料の増加は来年も続くかもしれないが、投信の値上がりは相場しだいで逆回転もする。株価が見るべきは前者のほうだ。
上流をたどる:通期計画はまだ「去年より3割少ない下期」を前提にしている
会社は通期予想を据え置いた。2027年3月期の計画は売上高900億円、営業利益320億円、経常利益420億円、最終利益310億円のままである。開示資料は「現時点で修正はございません」としつつ、「事業環境や金融市場の動向を注視し、引き続き検討」すると書いた。
据え置かれた通期から上期の見込みを引くと、下期の姿が見える。営業利益は320億円から115億円を引いて205億円。前期の下期は、通期の371億6,800万円から上期の79億6,400万円を引いた292億円だった。会社の計画は、下期の営業利益が前年同期より約3割少ないことを前提にしている計算になる。経常利益で同じ計算をすると、下期は170億円で、前期の下期392億円の半分以下だ。
上期の時点で通期計画をどこまで消化したか(進捗率)
読み方:今期の数字は上期見込みを据え置き中の通期計画で割り、過去3期は上期実績を通期実績で割った。右端の数字は上期/通期(億円)。営業利益の35.9%は過去3期の範囲内だが、経常利益の59.5%は4期で最も高い。出所:株探の業績推移、同社の適時開示をもとに本誌計算。
では通期の上方修正は近いのか。上期の時点で通期計画をどこまで消化したかという進捗率で見ると、答えは利益の段で分かれる。営業利益の進捗率は35.9%で、過去3期の21.4%〜48.6%の範囲に収まる。この数字だけで通期の上振れを断言できる水準ではない。一方、経常利益の進捗率は59.5%で、過去3期のどの年よりも高い。通期を上げる余地が大きいのは運用益が乗る経常と最終の段であり、その運用益は10月に入ってからの相場の荒れ方しだいで目減りしうる。日経平均の10月の値動きは20日朝の寄り付き1時間の記事や19日の大引けの記事で追っている。
下期に控える新作は少なくない。12月10日に『進撃の巨人3』、2027年2月25日に『カリアのアトリエ ~夜の王国と追憶の道標~』、3月4日に『Wo Long 2: Wings of Ember』が発売予定だと、同社とゲームメディアが伝えている。会社が下期の営業利益を前年より3割少なく置いているのは、これらの新作の売れ行きに保守的な前提を置いているからだとみることもできる。ただし会社はタイトル別の計画を開示しておらず、ここは本誌の推論である。
去年の同じ日に何が起きたか
同社が10月に中間期の見通しを引き上げるのは今年が初めてではない。gamebizによれば、2025年10月23日にも同社は4〜9月期の営業利益見込みを50億円から78億円に、経常利益見込みを80億円から175億円に引き上げ、通期予想は据え置いた。下期に新作が集中する計画であることと、世界経済と金融市場の不確実性を理由に挙げていた。
| 項目 | 2025年(去年) | 2026年(今年) |
|---|---|---|
| 中間期の上方修正の発表日 | 10月23日 | 10月19日 |
| 中間営業利益見込みの修正 | 50億円→78億円 | 70億円→115億円 |
| 中間経常利益見込みの修正 | 80億円→175億円 | 120億円→250億円 |
| 通期予想 | 据え置き | 据え置き |
| 発表翌営業日の株価 | 63円高(+3.07%)、終値2,117円 | 63円高(+3.75%)、終値1,741.5円 |
| 発表翌営業日の出来高 | 256万7,300株 | 325万4,200株 |
| その後 | 同日の高値2,175円が52週高値に。年末の終値は1,905.5円 | 10月26日に中間決算 |
去年は、修正翌日の終値2,117円から年末の終値1,905.5円まで10.0%下げた。上方修正のニュースで買われた株が、決算本番を通過したあとに伸び悩んだ形だ。もちろん1年分の事例で今年を占うことはできない。それでも「10月の上方修正は恒例で、株価にとっては一日の材料で終わりやすい」という見方が市場にあっても不思議ではない。今年の株価が去年と違う道を歩くには、通期の数字そのものが動く必要がある。
家計への換算:100株持つと何がいくら動くか
ここで数字を私たちの財布の単位に置き直す。同社株の売買単位は100株で、20日の終値1,741.5円なら購入代金は17万4,150円になる。会社の今期の配当予想は1株48円で、前期の66円から減る計画だ。株探の集計では、20日終値での予想配当利回りは2.76%、予想PERは18.8倍である。
| 100株あたり | 金額 | 計算 |
|---|---|---|
| 購入代金(20日終値) | 17万4,150円 | 1,741.5円×100株 |
| 20日1日の値上がり | +6,300円 | 63円×100株 |
| 年間配当(会社予想、税引き前) | 4,800円 | 48円×100株 |
| 年間配当(特定口座、税引き後) | 約3,825円 | 4,800円×(1−20.315%) |
| 年間配当(NISA口座) | 4,800円 | 非課税 |
| 52週高値2,175円まで戻った場合 | +4万3,350円 | (2,175円−1,741.5円)×100株 |
| 200日移動平均(約1,652円)まで下げた場合 | −約9,000円 | (1,651.7円−1,741.5円)×100株 |
1日で6,300円の値上がりは、年間配当の税引き後3,825円を上回る。言い換えると、この株を配当目当てで持つ人にとっても、損益を決めるのは配当より株価の振れである。配当予想が前期より18円少ない点も覚えておきたい。同社の配当予想は利益予想と同じ日に出ており、通期の利益予想が変われば配当予想も見直される可能性がある。日本株の配当とNISAの関係はこちらの記事で整理した。
生活防衛と投資の接点:株価の位置と需給
株価の位置を確認する。20日の終値1,741.5円は、4月20日以来およそ半年ぶりの高い終値だ。ただし52週高値の2,175円からはまだ19.9%下にあり、売られすぎからの反発というより、6月19日の安値1,417.5円から続く戻りの途中にいる。14日間の相対力指数(RSI、買われすぎ・売られすぎの目安)は本誌の計算で64.8で、買われすぎの目安とされる70には届いていない。
コーエーテクモHD株の目安となる価格(円)
読み方:20日は前日の高値1,687.5円より上の1,700円で底を付け、値幅の「窓」を空けて上げた。上は9月1日と同じ1,756円で止まっている。終値で1,756円を上回るか、窓を埋めて1,687.5円を割るかが、目先の分かれ目になる。出所:株探の日足(東京市場)、移動平均は本誌計算。
上値の壁ははっきりしている。20日の高値1,756円は、9月1日の高値とちょうど同じ値だ。同じ価格で2度跳ね返されれば、そこが当面の天井として意識されやすい。下の目安は、19日の高値1,687.5円と20日の安値1,700円のあいだに空いた「窓」である。窓が埋まり、25日移動平均の1,660.9円と200日移動平均の1,651.7円も割り込めば、今回の上方修正で買われた分は帳消しになる。
需給にも一つ注意点がある。株探によれば10月16日時点の信用買い残は81万2,800株、信用売り残は3万2,700株で、信用倍率は24.86倍だった。信用買い残とは、お金を借りて株を買い、まだ返していない人の株数のことだ。これが多いと、株価が上がった場面で戻り売りが出やすい。20日の出来高325万4,200株は直近20営業日平均の約3.6倍で、買い残の多くがこの日に入れ替わった可能性もあるが、それは次の週の残高を見るまで分からない。
| シナリオ | 中身 | 本誌の見立て |
|---|---|---|
| 上抜け | 26日の決算で通期の営業利益予想を引き上げ、終値で1,756円を上回る | 3割程度 |
| もみ合い | 中間決算は見込みどおり、通期は据え置きか経常のみ修正。1,690〜1,760円で推移 | 4割強 |
| 去年の再演 | 材料出尽くしで窓を埋め、200日移動平均の1,652円を割り込む | 2〜3割 |
本誌の見立てをまとめる。今回の上方修正は中身のある修正だが、通期を据え置いた以上、株価にとって本当の判定は26日に持ち越された。見たいのは三つある。通期の営業利益320億円が引き上げられるか、配当予想48円が動くか、そして下期の新作についての会社の説明である。逆に、26日に通期が据え置かれ、終値で1,687.5円を割り込んだら、今年も去年と同じ道をたどっているとみる。どの選択肢を取るにせよ、100株で1日6,000円前後動く銘柄だということを前提に、持つ量を決めたい。
次に店頭と株価に届く変化の日付
- 10月26日(月):2027年3月期第2四半期決算の発表と決算説明会(同社IRカレンダーの予定)。通期予想と配当予想の扱いが最大の焦点
- 10月27日(火)ごろ:決算を受けた最初の取引日。去年は決算翌営業日に1.84%安だった
- 12月10日(木):『進撃の巨人3』発売予定(PS5、Nintendo Switch 2、Xbox Series X|S、Steam)
- 2027年2月25日:『カリアのアトリエ ~夜の王国と追憶の道標~』発売予定
- 2027年3月4日:『Wo Long 2: Wings of Ember』発売予定
主な参照
- 業績予想の修正に関するお知らせ(2026年10月19日)/コーエーテクモホールディングス(適時開示)
- IRカレンダー(第2四半期決算発表は2026年10月26日予定)/コーエーテクモホールディングス
- 株価・出来高・信用残・PER・利回り・過去の業績推移/株探、株探(決算)
- 通期予想の据え置きと株価の反応/株探(MINKABU PRESS)
- 2025年10月23日の中間期上方修正/gamebiz
- 『進撃の巨人3』の発売日と対応機種/gamebiz、『真・三國無双2 with 猛将伝 Remastered』(2001年発売作のリマスター、2026年10月1日発売)/gamebiz、コーエーテクモゲームス
- 『カリアのアトリエ』の発売日/4Gamer.net、gamebiz、『Wo Long 2』の発売日/PSU
- 日経平均の20日の終値(6万4,075円42銭、841円28銭安)/株探
データ基準日:2026年10月20日の東京市場の終値。株価・出来高・信用残高・PER・配当利回りは株探の表示にもとづき、信用残高は10月16日時点の値である。移動平均、RSI、進捗率、下期の逆算値、100株あたりの金額は本誌の計算で、情報ベンダーの値と小さな差が出ることがある。4〜9月期の数値は会社の修正予想(着地見込み)であり、10月26日に発表予定の決算で確定する。日本経済新聞は今回の数字が市場予想を上回ったと報じているが、本誌は比較対象となる市場予想の数値を確認できていないため、本文では取り上げていない。下期の新作の売れ行きに関する記述と、シナリオの確率は本誌の見立てであり、将来の株価や業績を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















