市場はこう受け止めた。JPモルガンが、ビットコインは今後10年で株式も金も上回ると予想した、と。10月20日、暗号資産メディアや金融ニュースには「年率10%」「株と金に勝つ」という見出しが並んだ。長くビットコインに懐疑的だった米大手銀行のお墨付きである。日本時間20日22時44分時点のビットコインは8万1,559ドル(約1,288万円)。2025年10月6日の最高値12万6,080ドルから35%安い水準で、この見出しは押し目買いの理由として読まれやすい。
だが、本当か。今日はこの通説を尋問する。証拠は原文、つまりJPモルガン・アセット・マネジメントが19日に公表した「2027年版 長期資本市場予想(LTCMA)」の報告書そのものである。見るべき点は3つある。報じられた数字は正しいか。「勝つ」は何を基準にした言葉か。そしてJPモルガンは本当に強気に転じたのか。
通説の陳述:何が報じられたのか
まず通説を最も強い形で示しておく。JPモルガン・アセット・マネジメントは毎年、主要資産の今後10〜15年の期待リターンを示す長期予想を出している。31回目となる2027年版で、初めてビットコインのリターンに幅を付けた。執筆者はグローバル債券・通貨・コモディティ部門のポートフォリオマネジャー、シーナ・シャー氏と、JPモルガン・プライベートバンクのデジタル資産戦略責任者、デニス・クリスタロ氏である。
基本シナリオは年率10.0%。同じ報告書の米国大型株は7.5%、金は5.5%、米国総合債券は5.6%、米ドル現金は3.2%だ。数字だけを並べれば、ビットコインは確かに首位に立つ。プライベート・エクイティの9.8%さえ上回る。前提となる価格は9月30日時点の8万3,000ドルで、現在の価格とほぼ同じ水準である。ここまでは通説の言う通りだ。
尋問1:報じられた「弱気−9.7%、強気17%」は正しいか
証拠を見よう。コインデスクをはじめ多くの記事は、弱気シナリオを年率マイナス9.7%、強気シナリオを17%と伝えた。報告書の表(Exhibit A)を開くと、この2つの数字は確かに載っている。ただし、それは3つある予測の枠組みのうち1つ目だけの値である。
JPモルガンは3つの枠組みでビットコインを評価している。1つ目はビットコインの供給増加と米ドルや世界のマネーサプライとの比較で、基本10.7%、弱気マイナス9.7%、強気17.0%。2つ目は金を補う資産としての評価で、基本10.7%、弱気マイナス13.3%、強気17.3%。3つ目はネットワークの利用拡大で、基本マイナス3.2%、弱気マイナス19.1%、強気6.1%だ。これを65対30対5の比重で合成した最終値が、基本10.0%、弱気マイナス11.2%、強気16.6%である。
この説明には穴がある。報じられた弱気シナリオは、JPモルガン自身の最終値より1.5ポイント甘い。年率マイナス11.2%が10年続けば、価値はおよそ3割まで縮む計算だ。マイナス9.7%なら約36%が残る。差は小さく見えて、最悪の場合の着地点を変える。
公平のために言えば、基本シナリオの10.0%は報道も原文も一致している。また、3つ目の枠組みの比重は5%と小さく、最終値への影響は限られる。それでも、ブロックチェーンの利用拡大という「本業」の評価で基本シナリオがマイナスになっている事実は、見出しからは読み取れない。
JPモルガンの10年期待リターン(年率、%)
読み方:基本シナリオだけを見ればビットコインが首位だが、同じ表の弱気シナリオはマイナス11.2%で、ほかの資産のどの数字よりも振れ幅が大きい。出所:J.P.モルガン・アセット・マネジメント「2027 Long-Term Capital Market Assumptions」(データ基準日2026年9月30日)。
尋問2:「株と金に勝つ」は、何を基準にした言葉か
ここが本丸である。報告書がビットコインに置いた想定変動率(ボラティリティ)は年率55.0%。米国大型株の18.0%の約3倍、金の17.2%の3倍強だ。値動きの大きさを考えずに期待リターンだけを比べれば、ビットコインが勝つのは当然とも言える。
証拠を見よう。現金の3.2%を上回る分を、変動率1単位あたりで比べてみる。ビットコインは(10.0−3.2)÷55.0で0.12。米国大型株は(7.5−3.2)÷18.0で0.24、金は(5.5−3.2)÷17.2で0.13、米国総合債券は(5.6−3.2)÷4.7で0.51である。リスクに見合う取り分という物差しでは、ビットコインは4資産の中で最下位に落ちる。計算は本誌によるもので、報告書の数字だけを使っている。
もう一つ、報告書の数字には見落としやすい区別がある。年率10.0%は複利(幾何平均)のリターンで、同じ表の算術平均リターンは20.9%だ。変動が大きい資産ほど、この2つの差は開く。毎年の平均が20%を超えても、上下の振れが大きいために10年後の手取りは年10%相当にとどまる、という意味である。
公平のために言えば、55%という想定は高すぎるという反論がある。本誌がコインゲッコーの日次終値から計算した実際の変動率は、直近365日で約44%、直近90日で約38%だった。ビットワイズのマット・ホーガン氏も、JPモルガンは変動率を過大に見積もっていると指摘したと報じられている。仮に44%で計算し直しても、超過リターン÷変動率は0.15で、米国大型株の0.24には届かない。結論は変わらない。
尋問3:JPモルガンは強気に転じたのか
見出しの多くは「懐疑派だったJPモルガンが転向した」という物語をまとっている。だが、原文の書き出しはこうだ。「現時点で、ビットコインを分散投資の手段として推す根拠は示さない。市場との相関が不安定だからだ。私たちはビットコインを投機的な資産であり、金融緩和へのヘッジとみている」。
報告書はさらに、ビットコインは「主に、世界のマネーサプライの伸びに連動する高ベータのリスク資産として取引されている」と書く。そして「10年予想を作ること自体が時期尚早だと考える」と明言したうえで、「結果の幅を検討することには意味がある」として数字を示した。ビットコインは同社の主要な相関行列には組み込まれず、別枠の小さな表で参考扱いにとどまる。19日の発表資料も、ビットコインに幅を付けたが「配分には含めない」と書いている。
この説明には穴がある、と通説の側は言うだろう。少なくとも数字を出したこと自体が変化だ、と。それは正しい。同じ報告書は、変動率が下がり続け、相関が安定すれば、ビットコインの役割は将来変わりうるとも書いている。また、同じ日にはスイス金融市場監督機構(FINMA)が国内初のビットコイン現物ETFを個人向けに承認した。発行体や上場日は公表されていない。制度面の前進は続いている。ただ、それは「勝つと予想した」こととは別の話である。
生き残った主張と、死んだ主張
| 主張 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| JPモルガンの基本シナリオは年率10% | 生存 | 報告書の最終値は10.0%(9月30日の8万3,000ドルが起点) |
| 弱気はマイナス9.7%、強気は17% | 死亡 | それは第1の枠組みの値。合成後の最終値はマイナス11.2%と16.6% |
| 期待リターンは株・金・債券を上回る | 生存 | 米国大型株7.5%、金5.5%、米国総合債券5.6%を上回る |
| リスクを考えても株と金に勝つ | 死亡 | 超過リターン÷変動率は0.12で、米国大型株0.24、金0.13を下回る |
| JPモルガンが強気に転じた | 重傷 | 「投機的な資産」と明記し、配分には含めない。数字を出したこと自体は変化 |
| 変動率55%は保守的すぎる | 生存 | 実績は365日で約44%。ただし44%でも順位は変わらない |
評決
通説は、見出しの部分だけが正しい。
基本シナリオの年率10.0%が株や金の期待リターンを上回る、という事実は生き残った。だが、その数字に付いていた条件、すなわち弱気シナリオのマイナス11.2%、変動率55%、そして「投機的な資産」という位置づけは、見出しの段階で落ちている。本誌の評決は、通説を3割の正しさとみる。「JPモルガンがビットコインを推奨した」と読むのは誤りであり、「ビットコインの10年後に、初めて具体的な幅を示した」と読むのが7割の実態である。
個人投資家にとっての実務的な意味は、予想の「幅」のほうにある。基本シナリオ通りなら10年で約2.6倍、弱気なら約3割に縮み、強気なら約4.6倍になる。いずれも報告書の年率から本誌が計算した値だ。米国大型株の基本シナリオ7.5%は10年で約2.1倍で、こちらの幅ははるかに狭い。ビットコインを持つかどうかではなく、資産全体のうちどれだけを持つかという問いに、この報告書は答えを出していない。報告書自身も、配分を持つなら強気と弱気の両方でストレステストを行うよう求めている。
足元の需給は別の話として見ておきたい。米国のビットコイン現物ETFには19日、差し引き5億2,660万ドルが流入し、流出続きに区切りが付いた。その意味はETF流入の記事で検証した。一方、最大の保有企業ストラテジーの買いは12〜18日の週に267BTCにとどまった。買い手の変化は、長期予想とは無関係に価格を動かす。
再審条件
この評決を覆す材料を、先に挙げておく。
- 実際の変動率が30%を下回り、そこにとどまったら。超過リターン÷変動率は約0.23となり、米国大型株の0.24とほぼ並ぶ。リスク調整後でも勝つという主張が復活する。
- JPモルガンが来年版でビットコインを主要な相関行列に入れたら。報告書自身が挙げた条件、つまり相関の安定と規制の明確化が満たされたことを意味する。
- 中央銀行が準備資産としてビットコインを保有し始めたら。報告書の強気シナリオ(第2の枠組みで年率17.3%)の前提そのものである。
- ビットコインが株安の局面で下げなくなったら。米国大型株との相関は報告書で0.33。これが安定して下がれば、分散投資の手段という評価が成り立つ。
短期の値動きを左右する材料は別にある。10月30日には大量のビットコインオプションが満期を迎える。オプション満期の記事で、その規模と価格への影響を整理した。
主な参照
- 2027 Long-Term Capital Market Assumptions(ビットコインの3シナリオ、変動率、資産別の期待リターン)/J.P.モルガン・アセット・マネジメント
- 2027年版長期資本市場予想の発表資料(2026年10月19日)/PR Newswire
- JPモルガンの予想を伝えた報道(2026年10月20日)/コインデスク
- スイス初のビットコインETFの承認(2026年10月20日)/スイス金融市場監督機構(FINMA)、ザ・ブロック
- ストラテジーのビットコイン購入(2026年10月19日提出の臨時報告書)/米証券取引委員会(SEC)
- ビットコインの最高値と日次終値(変動率の計算に使用)/コインゲッコー
- ビットコインとドル円の気配値(10月20日22時44分=日本時間)/Googleファイナンス
データ基準日:2026年10月20日(日本時間22時44分)。ビットコイン価格は取引時間中の気配値で、24時間取引のため終値ではない。円換算は同時刻のドル円157円90銭で本誌が計算した。JPモルガンの数値はすべて同社報告書の年率リターンで、起点は2026年9月30日の8万3,000ドルである。弱気マイナス9.7%・強気17%と伝えた報道は、報告書の第1の枠組みの値を引用したものとみられる。超過リターン÷変動率、10年後の倍率、実績変動率は本誌の計算で、報告書には載っていない。ビットワイズのホーガン氏の発言は報道によるもので、本誌は原文を確認していない。スイスのETFの発行体・上場先・手数料は公表されておらず、本記事では記していない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















