19日(月)の夜11時、パリのいくつかの地区から人が消えた。パリ警視庁が翌朝6時までの夜間外出禁止を敷いたからだ。リヨンやリールなどでも同様の措置がとられた。フランスのルコルニュ首相は、週末の抗議行動が暴徒化したことを受けて各地の当局に部分的な外出禁止を求め、20日には「夜を落ち着かせるのに役立った」と述べた。週末に拘束された人は約2,400人にのぼる。中部リモージュでは17日、歴史ある市庁舎が放火で一部焼けた。同じ20日、国民議会で予定されていた2027年予算案の歳入部分の採決は延期された。
街の混乱は、遠い国の話では終わらない。フランス国債の利回り、ユーロの対ドル相場を経て、私たちが払うユーロの値段に届く。ユーロドルは日本時間22時59分に1.1235ドルと、前日比0.18%高。抗議が和らいだことで小反発したが、10月7日に付けた3カ月安値1.1177ドルからの戻りは鈍い。本稿では街頭から為替までの流れをたどり、今後1〜2週間の見通しを示す。19日の記事は「予算採決が分岐点」としたが、その採決自体が先送りになったことが、きょうの新しい事実である。
街頭から為替まで:何がつながっているのか
街頭からユーロの値段まで(川上→川下)
読み方:抗議そのものより、予算が決まらないことが国債利回りを押し上げ、ユーロの重荷になっている。出所:ユーロニュース、アルジャジーラ、アクションフォレックス、Googleファイナンス。
上流から順に見ていく。FX情報サイトのアクションフォレックスによると、20日に予定されていた歳入部分の採決は、2,000本を超える修正案が残っているため延期された。審議は27日に再開されるが、採決の日程は決まっていない。抗議の参加者は生活費の高騰と歳出削減に反発しており、ユーロニュースによると、デモの参加者は24日(土)にも新たな抗議を呼びかけているが、主要な労働組合はこれを支持していない。
予算が決まらなければ、財政赤字を減らす道筋も見えない。その不安が表れるのが国債市場である。フランスの10年国債利回りは20日に4.96%前後で推移し、10月上旬に付けた4.9937%、つまり2002年7月以来の高水準に近い。ドイツ国債との利回り差は、アクションフォレックスによれば20日の取引時間中に152.5ベーシスポイント(1.525%)で、直近では158.67ベーシスポイントと2011年11月以来の広さまで開いた。この利回り差は情報源によって数字が異なるため、本稿では「およそ150ベーシスポイント」として扱う。
利回り差が広がることは、ユーロ圏の中でフランスだけが借金の条件を悪くしていることを意味する。2011年11月はユーロ圏の債務危機のさなかだった。今回はそこまでではないが、ユーロという通貨全体への信認に、じわりと効く。
ECBは、ユーロを支えられるか
ユーロの下支え役となるのが欧州中央銀行(ECB)である。中銀預金金利は2.50%で、9月16日から適用されている。次の理事会は10月29日で、市場はおよそ9割の確率で据え置きを見込んでいると、ECBの動向を追うサイトが伝えている。ユーロ圏の9月の消費者物価は前年比3.8%と高く、次の利上げは12月との観測がある。
ただし、ECBの利上げはフランスにとって両刃の剣だ。金利が上がれば、ただでさえ高いフランスの借入コストがさらに増える。ECBのラガルド総裁は、長期金利の上昇そのものが金融を引き締める効果を持つとして、債券市場を注視していると報じられている。仏国債が売られる局面で、ECBが利上げを急ぐとは考えにくい。ユーロを買う材料としてのECBには、限界がある。
ドル側の事情も効いている。米連邦公開市場委員会(FOMC)は27〜28日で、複数の報道によると10月の利上げ確率は15〜17%まで下がった。米10年債利回りは20日の米東部時間9時31分に5.106%と、19日の終値5.15%から下がっている。きょうのユーロ高は、ユーロが買われたというより、ドルが売られた結果とみるのが自然である。
私たちの財布への換算
日本から見ると、ユーロの値段はユーロドルとドル円の掛け算で決まる。きょうのユーロ円は177円51銭。ECBの参照レートでは、7月30日の186円99銭から10月7日の176円85銭まで下がった。ユーロ建ての支払いは、夏に比べて5%ほど安くなっている。
| 支払い | 7月30日(186円99銭) | 10月20日(177円51銭) | 差額 |
|---|---|---|---|
| パリのホテル1泊150ユーロ | 2万8,049円 | 2万6,627円 | 1,422円安い |
| 旅行の現地予算1,000ユーロ | 18万6,990円 | 17万7,510円 | 9,480円安い |
| ユーロ建て資産3,000ユーロの円換算 | 56万970円 | 53万2,530円 | 2万8,440円目減り |
旅行者や輸入品の買い手にとっては追い風、ユーロ建ての資産を持つ人には逆風になる。ユーロ円の値動きと予想レンジはユーロ円見通しの記事で扱った。本稿はユーロとドルの関係に絞る。
ユーロドルの見通しと節目
ECBの参照レートで見ると、ユーロドルの3カ月の高値は8月21日の1.1699ドル、安値は10月7日の1.1177ドルである。1.13ドルを最後に上回ったのは9月30日の1.1355ドルで、10月に入ってからは一度もない。19日の参照レートは1.1225ドルだった。
本誌は今後1〜2週間のユーロドルを、1.118〜1.130ドルのもみ合いが基本(確率45%)とみる。27日の予算審議の再開と28日のFOMCを控え、どちらにも大きく動きにくい。上振れ(35%)は、抗議が収まり、FOMCが利上げを見送ってドル安が進む場合で、1.13ドル台を回復する。下振れ(20%)は、独仏の利回り差が158.67ベーシスポイントの直近の最大を超えて広がる場合で、1.1177ドルの安値を割り込む。確率は本誌の判断である。
| 水準 | 意味 | 見るべき材料 |
|---|---|---|
| 1.1355ドル | 9月30日の参照レート。1.13ドル台を最後に付けた水準 | FOMCの利上げ見送りでドル安が進むか |
| 1.1300ドル | 10月に入って回復していない節目 | 週末の抗議と27日の予算審議 |
| 1.1235ドル | 現在値(20日22時59分) | 21日以降の仏国債利回り |
| 1.1177ドル | 10月7日の3カ月安値。見通しの撤回線 | 独仏利回り差が158.67bpを超えるか |
生活防衛と投資の接点
現実的な選択肢を並べておく。推奨ではない。ユーロ圏への旅行や留学の費用がある人は、ユーロ円が夏より5%安い水準にあることを踏まえ、一度に両替せず数回に分ける方法がある。ユーロ建ての外貨預金や欧州株の投資信託を持つ人は、円換算の目減りが為替要因によるものか、資産そのものの値下がりかを分けて確認したい。FXでユーロドルを取引する人は、27日と28日が続く来週前半に値幅が広がりやすい点に注意がいる。
前回の見通しは19日のユーロドルの記事に、10月の安値からの戻りの検証は16日の記事にある。FX取引の基本はFX解説ページにまとめた。
次に届く変化の日付
- 10月24日(土) フランスで新たな抗議行動が呼びかけられている(ユーロニュース)。
- 10月27日(火) 国民議会で2027年予算案の審議が再開。採決の日程は未定。
- 10月29日(木)3時(日本時間) FOMCの結果発表。
- 10月29日(木)夜(日本時間) ECB理事会。据え置きの予想が大勢。
主な参照
- 仏予算採決の延期、仏国債利回り、独仏利回り差(2026年10月20日)/アクションフォレックス
- 夜間外出禁止、ルコルニュ首相の発言、週末の抗議の呼びかけ(2026年10月20日)/ユーロニュース、アルジャジーラ
- リモージュ市庁舎の放火(2026年10月17日)/ウィキペディア
- ECBの政策金利と理事会の日程/欧州中央銀行
- ECBの参照レート(ユーロドル、ユーロ円)/欧州中央銀行
- FOMCの日程と政策金利/米連邦準備制度理事会(FRB)
- 米国債利回りの終値(10月19日)/米財務省
- ユーロドル、ユーロ円、米10年債利回りの気配値(10月20日)/Googleファイナンス
データ基準日:2026年10月20日(日本時間22時59分)。ユーロドルとユーロ円は取引時間中の気配値で、終値ではない。3カ月の高値・安値と過去の水準はECBの1日1回の参照レートで、取引時間中の高値や安値とは一致しない。仏予算の採決延期と独仏利回り差の数値はアクションフォレックスの報道によるもので、利回り差は情報源によって140〜150ベーシスポイント台と幅がある。ECBの据え置き確率、FOMCの利上げ確率、ラガルド総裁の発言は報道によるもので、本誌は原資料を直接確認していない。家計への換算は本誌の計算で、手数料を含まない。シナリオの確率と想定レンジは本誌の判断で、将来の為替レートを保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















