まず下の1枚を見てほしい。ポンドドルは10月20日、英国の雇用統計を受けて上げ、日本時間22時55分に1.3393ドルを付けた。前日比0.63%高で、主要通貨の中でも上げが目立つ。けさの記事で「壁」とした1.34ドルまで、あと7ポイントである。この水準を抜けるかどうかは、あす21日の英消費者物価指数(CPI)がほぼ決める。
本稿の見通しを先に示す。今後1〜2週間は1.33〜1.35ドルのレンジを基本とし、CPIが市場予想を上回れば1.3456ドル、下回れば1.32ドル台前半を試す。11月5日のイングランド銀行(英中銀、BOE)の会合までの中期では、上値1.3656ドル、下値1.3201ドルの3カ月レンジの中で、やや上寄りとみる。以下、その根拠を図で示す。
1.34ドルは、なぜ壁なのか
ポンドドルの節目(ドル)
読み方:現在値の1.3393ドル(10月20日22時55分)は、1.34ドルの壁の7ポイント下にある。上は9月16日の1.3456ドル、下は10月2日の1.3201ドルが目安になる。出所:欧州中央銀行の参照レートから本誌が換算(7月20日〜10月19日)、現在値はGoogleファイナンス。
欧州中央銀行(ECB)が毎日公表する参照レートから計算すると、ポンドドルが最後に1.34ドルを上回ったのは9月16日の1.3456ドルである。それ以降、1カ月以上この水準を回復していない。7月20日から10月19日までの3カ月では、高値が8月21日の1.3656ドル、安値が10月2日の1.3201ドル。19日の参照レートは1.3331ドルだった。
つまり1.34ドルは、9月半ばに下抜けた後、一度も戻れていない水準だ。ここを抜ければ次の目安は9月16日の1.3456ドルで、その上は3カ月高値の1.3656ドルまで目立った節目がない。逆に跳ね返されれば、19日の1.33ドル近辺が最初の支えになる。なお、参照レートは1日1回の値で、取引時間中の高値や安値とは一致しない。
きょうの雇用統計は何を変えたか
英国の雇用統計(10月20日公表、%)
読み方:失業率は下がり、定例賃金は予想を上回った。一方でボーナスを含む総賃金は伸びが鈍った。出所:英国家統計局(ONS)、前回値と市場予想はパウンド・スターリング・ライブなどの報道。
英国家統計局(ONS)が20日朝(英国時間7時)に公表した雇用統計では、6〜8月の失業率が4.7%と、前回発表の4.9%から下がった。市場予想は4.9%とも5.0%とも伝えられており、どちらを基準にしても予想より良い。ボーナスを除く定例賃金の伸びは前年比3.7%で、市場予想の3.6%、前回の3.5%を上回った。英中銀が物価の先行きを見るうえで重視するのが、この定例賃金である。
ただし、強い数字ばかりではない。ボーナスを含む総賃金の伸びは3.7%と前回の3.9%から鈍った。7〜9月の求人数は69万1,000件と2万1,000件減り、英メディアによれば12年ぶりの低さである。給与支払いデータの雇用者数は8月に前月比1,000人増とほぼ横ばいで、9月の速報値は1万3,000人増だった。ONS自身も定例賃金を「比較的安定」と表現している。労働市場が締まり直したというより、冷え込みが止まった、という読み方が近い。
市場の反応は素直だった。英国のポンド専門サイト、パウンド・スターリング・ライブによると、ポンドドルは発表直後に1.3330ドルから1.3348ドルへ上げた。その後、米国の金利低下でドルが全面安になったことも追い風になった。米10年債利回りは米東部時間9時31分に5.106%と、19日の終値5.15%(米財務省)から下がっている。
あすの英CPIと、その先の日程
ポンドドルを動かす日程(日本時間)
読み方:最初の山場はあすの英CPI。その後は米国とユーロ圏の会合が続き、11月5日の英中銀で一区切りとなる。出所:英国家統計局、FRB、欧州中央銀行、イングランド銀行、米労働統計局の公表日程。
英国の9月CPIは21日の英国時間7時(日本時間15時)に公表される。8月は総合が前年比3.1%、食品やエネルギーを除くコアが2.6%、サービスが3.4%だった。9月の市場予想は総合3.4%、コア2.8%と伝えられているが、予想値は調査によって差がある。英中銀の政策金利は3.75%で、9月17日の会合では6対3で据え置きが決まった。グリーン、マン、ピルの3委員は4.00%への利上げを主張した。
市場は11月5日の利上げをほぼ織り込んでいる。報道によれば、確率は9割強である。ロイターの10月15日の調査でも、11月に4.00%へ引き上げるとの見方が多数を占めた。ここが、ポンドの上値を考えるうえでの急所になる。利上げがすでに価格に入っているなら、CPIが予想通りでもポンドは上がりにくい。上げるには、11月の「次」、つまり12月以降の追加利上げを市場に意識させるほどの強い数字が要る。この織り込みの度合いはけさのポンドドルの記事で検証した。
米国側の日程も重い。米連邦公開市場委員会(FOMC)は27〜28日で、政策金利の誘導目標は3.75〜4.00%である。複数の報道によると、CMEグループのフェドウオッチが示す10月の利上げ確率は15〜17%で、12月はおよそ9割だ。10月の利上げ観測が後退していることが、きょうのドル安の背景の一つにある。その経緯はFRB10月利上げ確率の記事にまとめた。
CPI後のシナリオ
| シナリオ | 9月CPI(総合) | 確率 | ポンドドルの想定 | 理由 |
|---|---|---|---|---|
| 上振れ | 3.6%以上 | 30% | 1.34ドルを上抜け、1.3456ドルを試す | 11月の次の利上げが意識され、英金利が一段高 |
| 予想通り | 3.3〜3.5% | 45% | 1.33〜1.35ドルのもみ合い | 11月の利上げは織り込み済みで、材料にならない |
| 下振れ | 3.2%以下 | 25% | 1.33ドルを割り、1.32ドル台前半へ | 英中銀の利上げは1回で終わるとの見方が強まる |
本誌が上振れに30%を置くのは、きょうの定例賃金が予想を上回り、サービス価格の伸びが鈍る材料が乏しいためだ。一方で、米銀ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(BBH)は、英中銀の利上げは「織り込みすぎ」だと指摘したとFXStreetが伝えている。下振れの25%は、その見方を反映した。中期で上寄りとみる理由は、ポンド側の材料というより、ドル側の材料にある。10月のFOMCで利上げが見送られれば、ドルの重荷になりやすい。
個人投資家向けチェックリスト
- 21日15時(日本時間)の英CPIの前後は、値幅が急に広がる。発表をまたいで建玉を持つなら、損切りの位置を先に決めておきたい。
- 上方向の判断材料は、1.34ドルを日足の終値で上回るかどうか。取引時間中に一瞬抜けるだけでは、9月16日以来の壁を越えたとは言えない。
- 見通しを取り下げる条件は、1.3201ドル(10月2日の安値)を割り込むこと。この場合、3カ月レンジの下限が破れ、レンジ相場という前提そのものが崩れる。
- ポンド円で取引する場合は、ドル円の動きも同時に効く。ポンド円の水準感はポンド円見通しで扱った。
海外FX業者の仕組みや選び方は、FX解説ページにまとめている。
主な参照
- 英国の雇用統計(2026年10月20日公表)/英国家統計局(ONS)
- 英国の8月CPIと9月CPIの公表日/英国家統計局(ONS)
- 政策金利と9月の決定内容/イングランド銀行
- 雇用統計直後のポンドの値動きと市場予想/パウンド・スターリング・ライブ
- ECBの参照レート(7月20日〜10月19日、ポンドドルは本誌が換算)/欧州中央銀行
- FOMCの日程と政策金利/米連邦準備制度理事会(FRB)
- 米国債利回りの終値(10月19日)/米財務省
- ポンドドルと米10年債利回りの気配値(10月20日)/Googleファイナンス
データ基準日:2026年10月20日(日本時間22時55分)。ポンドドルは取引時間中の気配値で、終値ではない。1.3201ドル、1.3331ドル、1.3456ドル、1.3656ドルはECBの参照レート(ユーロドルとユーロポンドの値)から本誌が換算した1日1回の値である。米10年債利回りは米東部時間9時31分の値。英国の失業率と9月CPIの市場予想は報道によって数字が異なる。英中銀の11月利上げの確率、CMEフェドウオッチの確率、BBHの見方は報道によるもので、本誌は原資料を直接確認していない。シナリオの確率と想定レンジは本誌の判断で、将来の為替レートを保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















