市場が織り込む10月の米利上げ確率は15%前後しかない。それなのに、なぜバンク・オブ・アメリカ(BofA)は10月28日の利上げ予想を取り下げないのか。答えは、確率と予想がそもそも別の問いに答えているところにある。確率は「明日、雨が降る割合」であり、予想は「傘を持って出るべきか」という判断である。降水確率15%の日にも雨は降るし、傘を持つ人はいる。
この記事では、この「天気予報と傘」のたとえを最後まで使い、米連邦準備理事会(FRB)の10月会合を順に見ていく。数字は特に断りのない限り、10月19日朝(米東部時間)時点のものである。日本の読者にとっては、FRBの発表が日本時間29日午前3時、日銀の決定会合が30日と、2日続けて大きな予定が並ぶ週の話でもある。
結論を先に:市場の利上げ確率は約15〜20%、利上げ見送りが約85%である。BofAは「インフレは9月会合後に悪化した」として10月の利上げ予想を据え置いた。ほかの大手金融機関の多くは12月とみる。判断の材料は、28日の声明より前に新しく出てこない。FRB高官が発言を控える期間に入っているからだ。
まず空模様を確かめる:FRBはいまどこにいるか
天気予報を読む前に、今日の空を見ておく必要がある。FRBは9月16日、政策金利を0.25%引き上げ、誘導目標を3.75〜4.00%とした。投票は12対0の全会一致で、2023年以来の利上げだった。声明は「インフレは高止まりしている」と書き、「委員会は物価の安定を実現する」と言い切っている。
同じ日に公表された参加者の金利見通し(ドットチャート)では、2026年末の中央値が4.1%だった。いまの誘導目標の中心は3.875%だから、年内にもう1回、0.25%の利上げがある計算になる。18人のうち16人が年内に少なくとももう1回の利上げを見込み、そのうち4人は2回を見込んでいた。10月7日に公表された9月会合の議事要旨も、ほとんどの参加者が「年末までにさらなる引き上げが適切となる可能性が高い」とみていたと記している。
つまり、空にはすでに雲がある。年内にもう1回の利上げという雨が降ること自体は、FRB自身がほぼ予告している。問われているのは「いつ降るか」、10月28日か12月9日か、である。ここが肝心だ。
降水確率はどう作られるか
次に、市場の「降水確率」がどう計算されるかを見ていく。材料はフェデラルファンド(FF)金利先物という取引である。ある月の政策金利の平均がいくらになるかに賭ける先物で、価格は100から予想金利を引いた形で表される。
10月19日の米東部時間9時43分、11月限の価格は96.08だった。100から引くと、11月の平均金利は3.92%と見込まれていることになる。いまの実効金利は3.88%である(ニューヨーク連銀、10月16日)。10月28日に0.25%上がれば、11月の平均は4.13%前後になるはずだ。市場が見込む上げ幅は3.92−3.88=0.04%で、0.25%に対する割合はおよそ16%になる。これが降水確率の正体である。先物の価格に隠れた「何割の人が雨に賭けているか」を割り戻した数字にすぎない。
用語を3つだけ押さえる。①FF金利先物:将来の政策金利の月平均に賭ける先物。価格から市場の利上げ確率を逆算できる。CMEの「フェドウオッチ」はこれを自動で計算した道具である。②ドットチャート:FRB参加者が年末の適正金利を1人1点で示した図。3・6・9・12月の会合で公表する。③ブラックアウト期間:会合の2週前の土曜日から会合翌日まで、高官が金融政策について公の発言を控える決まり。今回は10月17日から29日までにあたる。
この降水確率は、1週間で大きく揺れた。ロイターによると、10月14日の9月消費者物価指数(CPI)の発表前は約22%で、発表後は47.1%に跳ね上がった。シーキングアルファが伝えたフェドウオッチの数字では、15日には27.1%に下がっている。16日にはウォーシュ議長の発言を受けて約15%まで下がったと報じられた。19日の時点では、予測市場ポリマーケットの「0.25%利上げ」が14.5%、本誌がFF金利先物から計算した値が約16%、BofA自身の推計は約20%である。
10月28日の0.25%利上げの確率(市場の織り込み、%)
読み方:CPIの上振れで一時は5割近くまで上がった確率は、ウォーシュ議長が「会合の結果を前もって判断しない」と述べたあと15%前後に戻った。出所:ロイター、シーキングアルファ、ニューヨーク・ポストなどの報道、ポリマーケット、Yahoo Finance(FF金利先物)。
なぜ確率は1日で47%から15%へ落ちたか
空模様を変えたのは2つの出来事である。1つ目は9月のCPIだ。総合は前年同月比3.7%上昇と、予想の3.6%を上回った。前月比は0.6%上昇で、ガソリンは前月比9.1%上昇、前年同月比34.2%上昇だった。イランとの戦争でエネルギー価格が上がり、それが物価全体を押し上げている。食品とエネルギーを除くコア指数も前月比0.3%上昇と、予想の0.2%を上回った。雲は厚くなった。
2つ目は、ウォーシュ議長の発言である。議長は国際通貨基金(IMF)の会合で、物価の安定を実現すると繰り返しつつ、「会合の結果を前もって判断しない。年内の会合で何をするかを今の時点で言うつもりはない」と述べた。将来の政策を前もって示す「フォワードガイダンス」については「もうその仕事はしていない」とも語っている。予報官が「明日の天気は言わない」と宣言したようなものだ。手がかりが消えると、市場は「急いで降らせる理由はない」という読みに戻った。
ほかの高官の発言も、同じ方向を指していた。ウォラー理事は10月8日の講演で「追加の利上げを予想する。ただ、時期には柔軟性がある。利上げは連続した会合で行う必要はない」と述べた。シカゴ連銀のグールズビー総裁は9月のCPIを「がっかりさせる」と評しながらも、さらにデータを見たいという立場だった。利上げは必要だが、10月に急ぐ必要はない。これが先週の高官の多数派の声である。
それでもBofAが傘を持つ理由
ここで最初の問いに戻る。BofAは10月19日のリポートで、10月の利上げ予想を据え置いた。Investing.comによると、理由はこう書かれている。「9月のインフレ指標は10月利上げの根拠を強めた」「インフレの状況は9月会合以降に悪化した。名目経済が好調なため、エネルギーの衝撃が価格に転嫁されるリスクが高まっている。コアPCE物価は年末に前年比3.4%となってもおかしくない」。
BofAの理屈は単純である。FRBの多数が年内2回の利上げを支持したのなら、2回目を10月に行い、12月に3回目の余地を残せばよい。そして決め手は「ウォーシュ議長が本当はどんな人物か」だという。BofAは「議長がFRBに『大転換』をもたらす気が本当にあるのか、確信は低い。だが好意的に解釈し、10月利上げの予想を維持する」と書いた。
天気予報のたとえで言えば、BofAは降水確率を否定していない。自分で推計した確率も20%と、市場とほぼ同じである。違うのは傘を持つかどうかの判断だ。予報官(議長)が「雨が降るかは言わない」と言ったことを、BofAは「不意打ちで降らせる気がある」と読んだ。市場は「急がない」と読んだ。同じ空を見て、違う結論を出している。
| 予想する主体 | 次の利上げ時期 | 根拠・出所 |
|---|---|---|
| BofA | 10月28日(12月も余地) | インフレは9月会合後に悪化(10月19日、Investing.com) |
| シティ | 12月 | その後は据え置き、利下げは2027年6月まで見込まず(10月14日、ロイター) |
| ゴールドマン・サックス | 12月 | 10月から12月に予想時期を変更(9月30日、ロイター) |
| UBS | 12月と2027年3月 | 9月を含めて計3回の利上げを予想(10月15日、中国メディア報道) |
| 市場(ポリマーケット) | 10月は見送りが85.5% | 10月19日、米東部時間9時53分 |
| FRB(ドット中央値) | 年内にあと1回 | 2026年末4.1%(9月16日公表) |
日本の読者にとっての「雨」
この雨が日本の投資家に当たるのは、主に為替である。ドル円は19日の米東部時間10時前後に158円40銭前後で、前週末から上げている。米10年債利回りは5.10%前後で、10月16日の終値は5.09%(米財務省)だった。日本の10年国債利回りは同じ日に2.958%(財務省)で、日米の長期金利差は2%を超える。
FRBの声明は日本時間29日午前3時に出る。同じ29日の米東部時間8時30分(日本時間21時30分)には、9月の個人消費支出(PCE)物価と7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値が発表される。FRBが目標の物差しにしているのはこのPCE物価で、8月はコアで前年比3.0%上昇だった。そして日銀は29〜30日に決定会合を開き、展望リポートを公表する。日銀は9月18日に政策金利を1.25%程度に引き上げたばかりで、植田総裁は19日の国会で、基調的な物価上昇率は2%に「かなり近い」と述べたとロイターは伝えている。
円にとっての3日間(日本時間)
読み方:FRBの決定、米物価、日銀の決定が3日間に集中する。FRBの声明が先、日銀が後という順番に注意したい。出所:FRB、米商務省経済分析局、日本銀行の公表日程。
順に整理するとこうなる。FRBが10月に利上げすれば、日米の金利差は広がり、ドル高・円安の方向に力が働く。見送っても、声明が12月の利上げを強く示せば、同じ方向の力は残る。逆に、声明が利上げの打ち止めを匂わせれば、円を買い戻す動きが出やすい。その翌日に日銀がどう語るかで、円の向きはもう一度変わりうる。ドル円の水準ごとの見方はドル円見通し|158円で膠着、159円台は売り場にまとめた。
よくある誤解:「確率15%だから利上げはない」。降水確率15%は、同じような空模様の日が100日あれば15日は雨が降る、という意味である。15%は決して小さくない。しかも先物の確率は、先週1週間で22%から47%、そして15%へと動いた。ブラックアウト期間で高官が黙っている間も、29日のPCE発表より前に出る経済指標や原油価格が確率を動かしうる。ポリマーケットでは、反対票ゼロの全会一致になる確率も27%にとどまる。結論が割れる会合になる可能性は高い。
まとめ:傘の判断は自分でする
たとえに戻ろう。FRBという予報官は、年内にもう一度雨が降るとほぼ予告している。市場の降水確率は、10月28日については約15〜20%、12月まで含めればはるかに高い。BofAは、予報官が黙ったことを「不意打ちの雨」の兆しと読んで傘を持った。多くの銀行は12月まで傘はいらないと読んだ。どちらが正しいかは、日本時間29日の午前3時に分かる。
覚えて帰るのは3点である。第一に、利上げ確率はFF金利先物の価格を割り戻した数字で、予想ではない。第二に、FRB自身が年内にもう1回の利上げを示しており、争点は「するか」ではなく「いつか」である。第三に、10月28日のFOMC、29日の米PCE物価、30日の日銀と、円にとっての大きな予定が3日続く。米金利が5%台にある背景は米10年債利回り5.29%の記事、9月のCPIの中身は米9月CPIの記事で扱った。
主な参照
- 9月16日の政策決定と声明、金利見通し(ドットチャート)、議事要旨、会合日程/FRB、FRB(経済見通し)、FRB(議事要旨)、FRB(日程)
- ウォラー理事の講演(10月8日)/FRB、ブラックアウト期間の規則/FRB
- 実効FF金利/ニューヨーク連銀
- BofAの10月利上げ予想(10月19日)/Investing.com(Yahoo Finance掲載)
- 9月CPI/CBSニュース、グールズビー総裁の発言/Yahoo Finance
- ウォーシュ議長の発言と利上げ確率の低下(10月16日)/ニューヨーク・ポスト
- シティ、ゴールドマン・サックスの予想/ロイター(AOL掲載)、ロイター(AOL掲載)
- 8月PCE物価と発表日程/米商務省経済分析局、日程
- 米国債利回り/米財務省、日本国債利回り/財務省
- 日銀の9月18日の決定と会合日程/日本銀行、日本銀行(日程)
データ基準日:2026年10月19日、米東部時間10時前後(日本時間23時前後)。ドル円、米10年債利回り、FF金利先物、ポリマーケットの確率は取引時間中の値で、終値ではない。米国債と日本国債の利回り、実効FF金利は10月16日の公表値である。利上げ確率のうち、14日と15日の値はロイターとシーキングアルファが伝えたCMEフェドウオッチの数字、16日の値はニューヨーク・ポストなどの報道、19日の約16%はFF金利先物11月限の価格(Yahoo Finance)から本誌が計算した概算である。9月CPIの数値は米労働統計局の発表を伝えた複数の報道で確認したもので、本誌は同局のサイトに接続できなかった。BofAのリポートは執筆者名が示されていない。各金融機関の予想は報道にもとづく。植田総裁の発言はロイターの報道による。アイキャッチ写真はワシントンのFRB本部(エクルズ・ビル、撮影:AgnosticPreachersKid、ウィキメディア・コモンズ、CC BY-SA)。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















