10月12日月曜、米バージニア州タイソンズコーナー。ビットコインを世界で最も多く持つ上場企業ストラテジーが、週次の定例開示を出した。前週に買い増したビットコインは250BTC、金額にして2,150万ドルだった。同じ紙の数行下には、自社の優先株「STRC」を1億9,240万ドル分買い戻したと記されている。ビットコインに使った金額の約9倍である。最大の買い手が、ビットコインより自社の証券の値段を支える方に資金を振り向けた週だった。
それから1週間後の10月19日19時49分(日本時間)、ビットコインは8万2,362ドル、円建てでは1,303万円前後で取引されていた(CoinGecko)。2025年10月6日につけた最高値12万6,080ドルからは34.7%低い。この1カ月の終値は8万1,000ドル台から8万6,000ドル台の間に収まり、10月4日の8万6,480ドルを最後に上値を切り下げている(Yahoo Financeの日足、協定世界時基準)。買い上がる力が乏しいまま、8万ドルの線の上にとどまっている形である。買い手の側で何が起きていたのかを、開示書類の日付順にたどる。
開示書類に残った、細くなる買い
ストラテジーは毎週月曜の朝、米証券取引委員会(SEC)に臨時報告書(フォーム8-K)を出し、前週のビットコイン取得と資金調達を報告する。9月下旬から10月上旬にかけての4本を並べると、取得の細り方がはっきり見える。
9月21日から27日の週、同社は1,665BTCを1億4,270万ドルで買った。同じ週には普通株(MSTR)の市場売り出しで2億4,620万ドルを調達しており、取得はこの資金でまかなった。ところが続く9月28日から30日の3日間は、取得がゼロだった。10月1日から4日は334BTC、そして10月5日から11日が冒頭の250BTCである。保有総数は10月11日時点で84万8,250BTC、取得総額は640億ドル、平均取得単価は7万5,444ドルとなった。
| 開示の対象期間 | 取得BTC | ビットコイン取得額 | 平均取得価格 | STRC買い戻し額 |
|---|---|---|---|---|
| 9月21日〜27日 | 1,665 | 1億4,270万ドル | 8万5,681ドル | 1億5,170万ドル |
| 9月28日〜30日 | 0 | 0ドル | — | 1億260万ドル |
| 10月1日〜4日 | 334 | 2,870万ドル | 8万5,839ドル | 7,370万ドル |
| 10月5日〜11日 | 250 | 2,150万ドル | 8万6,194ドル | 1億9,240万ドル |
| 4期間の合計 | 2,249 | 1億9,290万ドル | — | 5億2,040万ドル |
4期間を通すと、ビットコインの取得に1億9,290万ドル、STRCの買い戻しに5億2,040万ドルを使った。後半の2週間(9月28日〜10月11日)に限れば、ビットコイン5,020万ドルに対し買い戻し3億6,870万ドルで、比率は7倍を超える。この間の平均取得価格はいずれも8万5,000ドルを上回っており、足元の価格より高い水準で買っていたことになる。
ビットコインの買い手をめぐる1年と直近4週間
読み方:ストラテジーのビットコイン取得額は4週間で細り、同じ期間に優先株STRCの買い戻し額が上回った。出所:ストラテジーのフォーム8-K(SEC)、CoinGecko、crypto.news(ETFフロー、報道)、Yahoo Finance(終値)。
100ドルの額面をめぐる、もう一つの攻防
なぜ買い戻しなのか。手がかりは、STRCという証券の性格にある。STRCは額面100ドル、年率12.00%の配当を払う変動配当型の永久優先株で、ストラテジーにとってはビットコイン購入資金を集めるための主力の道具だった。その価格が額面を下回れば、新たに売り出しても額面どおりの資金は集まらない。
同社は9月30日の8-Kで、こう書いている。経営陣は「STRCが100ドル近辺で持続的かつ健全に取引されるまで」年率12.00%の配当を維持するよう取締役会に勧める、と。言い換えれば、100ドルを取り戻すまで高い配当を払い続け、市場でも自ら買い支えるという宣言である。10月12日の開示では、STRCの新規売り出しはゼロだった。STRCの終値は10月13日に99.90ドルまで戻したが、16日には97.72ドルへ下げた(Yahoo Financeの日足)。
10月15日、同社はもう一手を打った。11月分のSTRC配当を、月1回から毎日の支払いに切り替える案である。10月28日午前10時(米東部時間)に開く臨時株主総会での承認が条件となる。配当の受け取りを細かくして、利回りを求める買い手を呼び戻す狙いがあるとみられる。
仕組みの要点:ストラテジーの買いは、株や優先株を売って得た資金で成り立っている。普通株の株価や優先株の価格が崩れれば、調達できる金額が減り、ビットコインの買いも細る。会社の資金調達の状況が、そのままビットコインの需要に跳ね返る構造である。
ギャラクシーのアレックス・ソーンが数えた「吸収」と「放出」
ストラテジーだけの話ではない、と指摘したのが、米ギャラクシー・デジタルの調査部門を率いるアレックス・ソーン氏である。CoinPostや韓国のDigitalTodayが10月19日に伝えたところでは、同氏は10月の弱さの理由として、現物ビットコインETFからの資金流出と、ビットコインを財務資産として持つ企業の購入ペースの鈍化を挙げた。
同氏が用いたのは、ETFへの純流入と企業の購入量を「機関投資家による吸収」とし、5年以上動いていなかったコインの移動を「古参の放出」として差し引く指標だという。報道によれば、この指標は10月18日時点で年初来12万7,319BTCの売り越しで、10月だけでも約2万BTCのマイナスだった。企業の買いが支えた4月は約6万BTCのプラス、ETFから約7万BTCが流出した6月は約10万BTCのマイナスだったとされる。米国の現物ビットコインETFへの年初来の純流入は、わずか3億5,500万ドルにとどまるとも伝えられている。いずれも同氏の投稿を引いた報道で、本誌は原文の投稿を確認できていない。
ETFの直近の流れも、この見立てに沿っている。crypto.newsが10月19日に伝えた集計では、10月12日から16日の週の米現物ビットコインETFは差し引き約2億2,860万ドルの流出だった。ブラックロックのIBITが約1億6,500万ドル、フィデリティのFBTCが約6,000万ドルの流出で、前の週も約6億7,900万ドルの流出だったという。2週続けて、ETFという入口からお金が出ていった。
10月16日金曜、ナスダックの引け
週の最後に、市場は答えを出した。10月16日、ストラテジーの普通株は前日比9.6%安の136.83ドルで引けた。52週高値306.16ドルの半値を下回る水準である。同じ日、STRCは97.72ドルまで下げ、IBITも46.15ドルと前日を下回った。ビットコイン自体はこの日、8万1,000ドル台で踏みとどまっている。CoinGeckoのデータでは、この1週間の値幅は7万9,806ドルから8万4,074ドルで、一時は8万ドルを割り込んだ。
崩れたのはビットコインではなく、ビットコインを買うための資金を生む側の証券だった。普通株が下がれば、同じ株数を売っても集まる金額は減る。優先株が額面を割れば、新規の売り出しは止まる。ストラテジーの資金の入口がどちらも細ったまま、週末を迎えた。
それでも保有の含み益は残っている。19日に開示された10月18日時点の保有84万8,517BTCを、同日21時4分(日本時間)の8万2,282ドル(CoinGecko)で評価すると、時価は約698億2,000万ドルで、取得総額640億2,000万ドルを約58億ドル(9.1%)上回る。平均取得単価7万5,446ドルは、足元の価格から8.3%下にある。8万ドルの線は、その手前にあるもう一つの目安である。
同じ頃、東京では
東京証券取引所スタンダード市場のメタプラネット(3350)は10月19日、267円で取引を終えた。52週高値639円から58.2%低い。同社はストラテジーと同じく、ビットコインを財務の中心に据える企業である。取引所への開示によれば、6月30日時点の保有は4万3,000BTCだった。9月末には4万4,000BTCとなったと報じられているが、本誌は同社の9月末時点の開示を確認できていない。
日本の個人投資家にとって、ストラテジーの資金繰りは遠い国の話ではない。企業がビットコインを買い続けるという前提で株価に上乗せされてきた評価は、メタプラネットにも共通する。株価指数からの除外の可能性についてはMSCIの新ルールを扱った記事で検証した。円建てで見れば、8万ドルは1ドル=158円21銭換算で約1,266万円、ストラテジーの平均取得単価7万5,446ドルは約1,194万円にあたる。
エピローグ:月曜の夜に届いた8-K
日本時間19日21時すぎ、その8-Kが米証券取引委員会のサイトに載った。10月12日から18日の週、ストラテジーが買ったビットコインは267BTC、金額は2,210万ドル、平均取得価格は8万2,900ドルだった。資金は普通株の売り出しで得た2,200万ドルと、手元の現金10万ドルである。同じ週、同社はSTRCを193万8,780株、1億9,310万ドル分買い戻した。ビットコインに使った額の約8.7倍で、前の週とほぼ同じ構図が2週続いたことになる。取締役会は優先株の買い戻し枠を20億ドルから30億ドルに広げ、18日時点の残りは11億6,000万ドルとなった。優先株の配当に充てる米ドル準備は48億3,000万ドル、それとは別の手元資金は4億4,730万ドルある。保有総数は84万8,517BTC、平均取得単価は7万5,446ドルになった。
この先の日付は詰まっている。ストラテジーは10月28日にSTRCの日次配当を諮る臨時株主総会を開く。同じ28日には米連邦公開市場委員会(FOMC)の2日目があり、政策金利の判断が出る。10月30日には大口のビットコインオプションが満期を迎え、その規模と価格帯はオプション満期の記事にまとめた。年末までの強気・弱気の材料はビットコイン見通しの番付で整理している。
残された問いは一つである。ETFからの流出が止まらず、ストラテジーが自社の証券を支える側に回ったままなら、8万ドルの線を誰が買うのか。19日の開示は、少なくとも最大の買い手の答えを示した。ビットコインに2,210万ドル、自社の優先株に1億9,310万ドルである。
主な参照
- ビットコイン取得・STRC買い戻し(10月12日〜18日)、買い戻し枠の拡大/ストラテジー 8-K(10月19日提出)
- ビットコイン取得・STRC買い戻し(10月5日〜11日)/ストラテジー 8-K 別紙99.1(10月12日発表)
- 同(9月28日〜10月4日)/ストラテジー 8-K(10月5日発表)
- 同(9月21日〜27日)/ストラテジー 8-K(9月28日発表)
- STRC配当率12.00%維持の方針/ストラテジー 8-K(9月30日発表)
- STRCの日次配当と10月28日の臨時株主総会/ストラテジー 8-K(10月15日発表)
- ギャラクシーのソーン氏の指標と数値(報道)/DigitalToday(10月19日)、CoinPost(10月19日)
- 米現物ビットコインETFの週間フロー(報道)/crypto.news(10月19日9時56分=協定世界時)
- ビットコイン価格・最高値・円建て価格/CoinGecko
- MSTR・STRC・IBIT・メタプラネットの終値/Yahoo Finance
- メタプラネットの6月30日時点の保有量/日本取引所グループ(適時開示)
- FOMCの日程/米連邦準備制度理事会
データ基準日:2026年10月19日(日本時間19時49分、含み益の試算のみ21時4分)。ビットコイン価格は取引時間中の値(CoinGecko)で、円建て換算は同データの円価格から算出した1ドル=158円21銭による。MSTR、STRC、IBITは10月16日(米国時間)の終値、メタプラネットは10月19日の東京の終値である。ストラテジーの取得・買い戻しの数値は同社のSEC提出書類にもとづき、合計と比率は本誌の計算。ギャラクシーのソーン氏の指標と数値、およびETFの週間フローは報道にもとづくもので、本誌は原資料を確認できていない。メタプラネットの9月末時点の保有量は報道によるもので、同社の開示では確認していない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産や銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断は各自の責任において行われたい。
















