なぜフラット35の金利は、4カ月ぶりに下がったのにまだ高いのか。答えは、川の上流と下流のあいだにある時間差にある。住宅金融支援機構が11月2日に公表した11月の金利は、返済期間21〜35年・融資率9割以下で最も多い金利が3.81%だった。10月の3.83%から0.02ポイント下がったが、現在の制度になった2017年10月以降で2番目に高い。上流の長期金利は10月に大きく下がっている。その低下は、まだ下流までほとんど届いていない。
本稿では、この「上流と下流」の比喩を最後まで使う。上流は国債の長期金利、途中にある堰(せき)は住宅金融支援機構が発行する債券、下流が私たちの借りるフラット35である。順に見ていく。
11月の金利:下流の水位はほぼ横ばい
| 商品(融資率9割以下) | 11月の最も多い金利 | 10月 | 変化 |
|---|---|---|---|
| フラット35(返済期間21〜35年) | 3.81% | 3.83% | −0.02pt |
| フラット35(融資率9割超) | 3.92% | 3.94% | −0.02pt |
| フラット20(返済期間20年以下) | 3.49% | 3.51% | −0.02pt |
| フラット50(返済期間36〜50年) | 4.11% | 4.10% | +0.01pt |
金融機関ごとの金利の幅は、21〜35年の融資率9割以下で3.81%〜5.73%ある。最も多い金利と最低金利がどちらも3.81%で、多くの金融機関が最低水準で貸している。フラット50だけは逆に0.01ポイント上がった。全体としては「下がった」というより「止まった」と読むほうが実態に近い。
原理:水は上流から堰を通って下流へ
まず上流から考えてみてほしい。住宅金融支援機構は、民間の金融機関が貸したフラット35の債権を買い取り、それを裏付けに債券を発行して資金を集める。この債券(機構債、MBSとも呼ぶ)を買う投資家は、同じ期間の国債より高い利回りを求める。だから上流の長期金利が上がれば、機構債の利率も上がる。
次に堰である。機構債の利率は「国債の利回り+上乗せ幅(スプレッド)」で決まる。住宅金融支援機構は、このスプレッドを条件決定時の新発10年国債の利回りとの差として公表している。上流の水位が同じでも、堰が高くなれば下流に流れる水位は上がる。
最後に下流だ。金融機関は、機構債で決まった資金の調達コストに自らの手数料などを上乗せして、フラット35の金利を決める。住宅ローンの専門メディアの解説では、前月に条件が決まった機構債の利率が翌月のフラット35に反映されるとされる。ここが肝心だ。上流の変化が下流に届くまでには、1カ月ほどの時間差がある。
用語メモ。①最も多い金利(最頻金利):フラット35を扱う金融機関の金利のうち、最も多くの機関が提示している金利。報道でいう「フラット35の金利」は通常この値を指す。②機構債(MBS):住宅ローン債権を担保に住宅金融支援機構が毎月発行する債券。フラット35の資金の出どころである。③スプレッド:機構債の利率と新発10年国債の利回りの差。投資家が住宅ローン債権のリスクに求める上乗せ分で、bp(0.01%)で表す。
現実の数字:上流は0.3ポイント下がり、堰は高くなった
では10月に何が起きたのかを数字で見る。上流の長期金利は大きく下がった。日本経済新聞によると、新発10年国債の利回りは10月30日に2.755%で取引を終え、10月の1カ月で0.295ポイント低下した。月間の低下は8カ月ぶりである。財務省が公表する10年国債の金利も、9月30日の3.057%から10月30日には2.817%まで下がった。年内の最高は10月7日の3.111%だった。
| 機構債 | 条件決定日 | 利率 | スプレッド | 逆算した10年国債利回り |
|---|---|---|---|---|
| 第233回 | 2026年9月16日 | 3.65% | 65bp | 約3.00% |
| 第234回 | 2026年10月22日 | 3.59% | 68bp | 約2.91% |
| 変化 | — | −0.06pt | +3bp | 約−0.09pt |
この表で、11月の金利が0.02ポイントしか下がらなかった理由が見える。第一に、10月の機構債の条件が決まったのは10月22日で、長期金利がまだ月末ほど下がっていなかった。逆算すると当時の10年国債は約2.91%で、月末の2.755%より高い。第二に、堰が高くなった。スプレッドは65bpから68bpへ3bp広がり、国債利回りの低下分の一部を打ち消した。住宅金融支援機構の資料では、このスプレッドは2025年9月から2026年1月まで51bpだった。1年前より堰はかなり高い。
1年で水位はどこまで上がったか
フラット35の金利の推移(返済期間21〜35年・融資率9割以下、%)
読み方:2026年1月に初めて2%を超え、6月に3%台に乗った。10月の3.83%は2017年10月の制度変更以降の最高で、11月は0.02ポイント下がった。2025年11月の値は一次資料で確認できなかったため省いた。出所:11月は住宅金融支援機構、それ以前は共同通信、日本経済新聞、読売新聞などの報道。
1年前の2025年10月は1.89%だった。2026年1月に初めて2%を超え、6月には一気に3.21%へ上がった。11月の3.81%は1年前より1.92ポイント高い。数字を家計に置き換えると、重さがはっきりする。4,000万円を35年、元利均等・ボーナス払いなしで借りた場合の毎月の返済額は、本誌の試算で金利1.89%なら約13万300円、3.81%なら約17万2,600円になる。月4万2,000円あまりの差で、35年間の利息の総額は約1,471万円から約3,248万円へ、2倍を超える。
借入額や期間、金利を自分の条件に変えたときの返済額は、ローン計算ツールで確かめられる。0.1ポイントの差が35年でどれだけ効くのかを、一度自分の数字で見ておくと判断がぶれにくい。
ほかの川:銀行の固定金利と日銀
同じ上流から水を引いている川はほかにもある。朝日新聞によると、11月の10年固定型の最優遇金利は、三菱UFJ銀行が3.89%に引き上げた一方、三井住友銀行は3.7%、みずほ銀行は3.4%に引き下げた。3メガバンクの平均は3.663%である。銀行は自前の資金で金利を決めるため、フラット35より早く上流の低下を反映できる。同じ固定金利でも、どこで借りるかで差が出ている。
変動金利の上流は長期金利ではなく、日本銀行の政策金利である。日銀は10月30日の決定会合で政策金利を1.25%に据え置いた。採決は8対1で、高田委員は1.5%への利上げを提案して反対した。次の会合は12月17〜18日だ。日銀の判断は10月の決定会合の記事、政策金利の行き着く先は最終到達点の解説で扱っている。
よくある誤解。「4カ月ぶりに下がったから底を打った」とは言えない。0.02ポイントの低下は、上流の大きな下げのごく一部が届いただけで、堰はむしろ高くなっている。また、フラット35は申し込んだ月ではなく、融資が実行される月の金利が適用される。11月に申し込んでも、実行が12月以降なら12月以降の金利になる。上流の長期金利がこの先また上がれば、下流の水位もそれに続く。
12月の水位を読む:機構債の条件決定日が分かれ目
上流と下流の時間差を使えば、12月の水位はある程度読める。次の機構債(第235回)の条件は11月中旬に決まる。新発10年国債の利回りは11月2日15時時点で2.770%だった。この水準が条件決定日まで続き、スプレッドが68bpのままなら、機構債の利率は単純計算で約3.45%になる。10月の3.59%より0.14ポイント低い。その場合、12月のフラット35にも下げ圧力がかかる計算だ。
ただし、これは上流が動かない前提の計算にすぎない。11月中旬までに長期金利が上がる、あるいはスプレッドがさらに広がれば、下げ幅は小さくなるか消える。日銀が12月に利上げに動くとの見方が強まれば、上流の水位そのものが上がる。確認すべき順番は、まず新発10年国債の利回り、次に11月中旬の機構債の条件、そして12月初めのフラット35の公表である。
まとめ:覚えて帰る3点
上流の長期金利は10月に0.3ポイント近く下がったが、下流のフラット35は0.02ポイントしか下がらなかった。水が届くまでの時間差と、堰が高くなったことがその理由である。覚えて帰るのは次の3点だ。
- 時間差:フラット35は前月に条件が決まる機構債の利率を映す。今日の長期金利は、来月の金利の手がかりになる。
- 堰の高さ:スプレッドは1年前の51bpから68bpに広がった。国債が下がっても、堰が上がれば金利は下がりにくい。
- 適用は実行月:申し込んだ月の金利ではなく、融資実行月の金利が使われる。
主な参照
- フラット35の11月の金利(商品別、融資率別)/住宅金融支援機構
- 機構債(第233回・第234回)の発行条件とスプレッドの推移/住宅金融支援機構、同(発行実績)
- 10年国債の金利(9月30日、10月7日、10月30日)/財務省
- 新発10年国債利回りの10月の推移と11月2日の水準/日本経済新聞、日本相互証券
- フラット35の10月の金利と過去の推移、2017年10月以降の比較/産経新聞、読売新聞
- 3メガバンクの11月の10年固定型金利/朝日新聞
- 日銀の10月30日の決定/日本銀行
データ基準日:2026年11月2日。フラット35の金利は11月に融資が実行される場合の金利で、新機構団信付き、返済期間21〜35年・融資率9割以下の最も多い金利を中心に示した。2025年10月から2026年10月までの月次の金利は報道各社が伝えた値で、本誌が住宅金融支援機構の原資料で1件ずつ確認したものではない。新発10年国債の11月2日の利回りは15時時点の取引時間中の値で、終値ではない。10月30日の値は終値である。機構債の利率がフラット35に反映される時期についての説明は、住宅ローン専門メディアの解説にもとづく。返済額は元利均等・ボーナス払いなし・手数料や団信の費用を含まない本誌の単純試算であり、実際の返済額は金融機関の条件で異なる。12月の機構債利率の計算は前提を置いた試算で、予想ではない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品を推奨するものではない。借入の判断はご自身の責任において行っていただきたい。










