11月5日木曜、ニューヨーク。株式市場では半導体株が崩れていた。同じ日の午後、原油先物は逆の方向に清算された。WTI原油の12月物は2.40ドル高の90.52ドル、北海ブレントの1月物は3.67ドル高の98.29ドル。前日に8%を超えて下げたブレントは、1日でその下げ幅の4割を取り戻した。
4日の売りは「戦争が終わる」という読みの売りだった。5日の買い戻しは、ホルムズ海峡の周辺で船が燃え続けているという現実の買いである。2日間の値動きは、原油市場が二つの物語のあいだで揺れていることを示している。
原油の2日間:選挙の売りと海峡の買い
価格は各日の清算値(ブレント1月物、WTI12月物)。出所:ロイター、CNBC、CBSニュース、OPEC。
水曜日——選挙が原油を売らせた
話は1日前にさかのぼる。11月4日水曜、米中間選挙の結果が固まり、民主党が上下両院を制した。同じ日、バンス副大統領はSNSに「負けた理由は戦争だ」と書き込んだ。トランプ大統領は英フィナンシャル・タイムズ紙に、イランを直ちに攻撃する計画はないと語った。
原油はこれを、戦争の出口が近づいた合図として受け取った。リポー・オイル・アソシエイツのアンディ・リポー氏はロイターに「選挙結果を受けて、市場はトランプ氏が取引に傾くかもしれないと結論づけている」と述べた。ブレントは8.98ドル安の94.62ドル、WTIは7.97ドル安の88.12ドル。ともに8月31日以来の安値で清算した。先物の手じまい売りが重なったと、ブルームバーグは伝えている。
その日、カナダのCIBCでエネルギー取引を見るレベッカ・バビン氏は、別の見方を口にしていた。「売りは少し行き過ぎかもしれない」。翌日、その言葉は数字で裏づけられることになる。原油が戦争終結に賭けた経緯は、1991年の湾岸戦争と比べた記事で扱った。
同じ頃、ワシントンでは在庫が減っていた
4日には、米エネルギー情報局(EIA)の週間統計も出ていた。10月30日までの1週間で、原油在庫は86万5,000バレル減の4億980万バレル。ロイターの事前調査では87万7,000バレルの積み増しが見込まれていた。ディーゼルなど留出油の在庫は360万バレル減と、予想の10万バレル減を大きく上回った。製油所の稼働率は1.7ポイント上がって94.5%である。
選挙の見出しの陰で、米国内の需給は締まる方向にあった。売られた原油の足元には、在庫の減少という支えが残っていた。
木曜日——海峡は閉じたままだった
5日、ペルシャ湾から報告が相次いだ。英国海事貿易オペレーション(UKMTO)は、カタールのマディナト・アッシュ・シャマルの北約50海里で、タンカーが正体不明の飛翔体2発を受けたと伝えた。攻撃した主体は特定されていない。イラン革命防衛隊は、「許可のない航路」で海峡を通ろうとしたタンカー2隻とタグボートが炎上したと主張し、別のタンカーが海峡の東で機雷に触れたとも発表した。革命防衛隊は、テヘランと調整しない船にとって海峡は「安全ではなく、閉じている」と宣言した。
革命防衛隊の主張は、船名も示されず、第三者による確認もない。それでも数字は重い。ロイターによれば、10月に被害を受けた船舶は35隻で、戦争が始まって以来、月間で最も多かった。日曜日以降だけでも、少なくとも5隻が被害を報告している。海事情報会社ウィンドワードの集計では、4日にホルムズ海峡を通過した船は5隻にとどまった。サウジアラビアは紅海側の輸出拠点ヤンブーに危険警報を出した。
外交の窓も開かなかった。カタール、パキスタン、サウジアラビアを介した間接協議は続いているが、イランの最高国家安全保障会議の事務局長は米国の回答を「説得力がない」と退けた。モジタバ・ハメネイ師の名で出た声明は、米国の政策が変わるとの期待は「重大な誤り」だとした。トランプ大統領は前日、「必要なら準備はできている」と述べている。
強気と慎重、二つの読み
政治リスク調査会社ユーラシア・グループは、この2日間で見通しを書き換えた。ロイターによると、同社は米イランの合意が成立する確率を20%から10%に下げ、米国の攻撃再開の確率を65%から60%に下げた。代わりに、にらみ合いが続く確率を15%から30%へ引き上げた。緊張が高まればブレントは110〜125ドルに上がり得るとしている。シティは、中間選挙後にホワイトハウスが緊張をむしろ高める可能性に警鐘を鳴らした。
一方、ゴールドマン・サックスは10月中旬のリポートで、ブレントの12月の見通しを90ドルとし、2027年平均を80ドルと置いた。価格には25ドル近い戦争のリスク分が乗っているという見立てだった。ブレントは今も98ドル台にある。戦争の終わりを信じる側から見れば、まだ下げ余地がある水準だ。海峡を見ている側から見れば、3月31日の終値の高値118.35ドルを17%下回る、守りの薄い水準でもある。
先物の期間構造から見た原油の割高・割安は、1年先の先物を扱った記事にまとめている。
東京から見た2日間
日本の投資家にとって、この揺れは資源株の値動きとガソリン代に直結する。5日の東京市場でINPEX(1605)は7.9%下げた。前日の米国時間に原油が崩れた分を、まとめて織り込んだ形だ。6日の東京では、その原油が反発した後の取引になる。INPEXの採算と原油価格の関係はINPEXの記事で整理した。
原油高は、円にとっても重荷になる。輸入代金の支払いでドル需要が増えるためだ。5日は株安を受けたリスク回避の円買いが勝ったが、原油が100ドルを再び超えれば、その力関係は変わり得る。
残された問い
カタールの仲介者は4日、新しい提案への回答を36時間以内に受け取る見込みだと伝えられていた。その期限は6日に来る。オマーンは、海峡の共同管理の仕組みについてイランと協議を続けているとしている。OPECプラスは11月1日、12月の生産水準を据え置くと決めた。次に有志7カ国が集まるのは11月29日である。
水曜日に原油を売った人々は、選挙が戦争を終わらせると読んだ。木曜日に買い戻した人々は、海の上ではまだ何も終わっていないと見た。どちらが正しかったかは、ワシントンの演説ではなく、ホルムズ海峡を通る船の数が先に教えることになる。
主な参照
- 11月5日の清算値、タンカー被害、ユーラシア・グループとシティの見方/ロイター(Yahoo Finance)
- 11月4日の清算値と市場関係者の発言/CNBC、OilPrice.com
- 革命防衛隊の発表、UKMTOの報告、協議の状況/CBSニュース
- EIA週間統計(10月30日終了週)/ロイター(BOE Report)、原典は米エネルギー情報局
- ホルムズ海峡の通過隻数/ウィンドワード
- OPECプラスの決定と次回会合/OPEC
- ゴールドマン・サックスの見通し(10月中旬)/investingLive
データ基準日:2026年11月5日の清算値(ニューヨーク時間)。WTIは12月物、ブレントは1月物の清算値で、清算後の時間外取引の値とは異なる。過去の高値は期近物をつないだ日足にもとづき、限月の乗り換えで実際の取引値と差が出る場合がある。イラン革命防衛隊によるタンカー被害の主張は、本稿執筆時点で第三者による確認がなされていない。EIAの在庫統計は報道ベースの数値で、EIAのサイトに直接アクセスして照合することはできなかった。各社の確率と見通しは発表時点のもので、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の商品や銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















