日経平均が3,643円下げた日に、円はほとんど買われなかった。6日の東京時間、ドル円は157円41銭から158円01銭の60銭幅に収まり、15時44分時点で157円99銭と158円台目前で推移している。昔なら株の暴落は円高の合図だった。今回、その合図は鳴らなかった。
筆者は昨日のドル円、雇用統計前に158円台|2024年5月の鏡の時点から、新たに二つのことが起きたとみている。一つは東京株の急落でも円が逃げ場にならなかったこと。もう一つは、米国の12月利上げの見込みが1週間で大きく後退したことだ。今夜22時30分の米10月雇用統計は、この二つを同時に試す。
テープ——株は投げ、円は動かず
まず値動きを確認する。5日のニューヨーク市場でドル円は158円36銭で始まり、高値158円49銭、安値157円55銭。終盤は157円63銭近辺で、円は0.46%高だった(ロイター)。ロイターは円高の理由を株安ではなく、日銀の9月会合の議事要旨で利上げペースを速める可能性に触れた委員がいたことに求めている。
6日の東京では、早朝8時台に157円25銭まで下げたのが安値だった。その後、日経平均が一時4,300円を超える下げを演じる間も、ドル円はむしろ下値を切り上げた。株で投げが出た日に、円買いの踏み上げが起きない。これは「有事の円買い」で利益を出そうとした向きが、もう少ないことを示している。円売りの持ち高が軽くなっていれば、株安が円高を連れてくる力も弱い。
高市早苗首相は6日の衆院財務金融委員会で、株安について「AI(人工知能)関連・半導体などを中心にかなり下落しているということを承知している。これが一時的なものに終わるのか、しばらく続くかは予断できない」と述べた(ロイター)。円相場や日銀への言及はなかった。
需給——利上げの見込みが1週間で14ポイント下がった
米連邦準備制度理事会(FRB)は9月17日に政策金利を0.25%引き上げ、誘導目標は3.75〜4.00%にある。10月27〜28日の会合では据え置いた。次の会合は12月8〜9日だ。
ここで効いているのが利上げ確率の後退である。ロイターが伝えたCMEのフェドウオッチでは、12月の利上げ確率は66.1%と、1週間前の79.9%から下がった。株の急落で「FRBは利上げを急げない」との見方が増えた形だ。米2年債利回りは11月5日に4.46%と、前日の4.58%から0.12ポイント低下している(米財務省)。
日本側も動いている。日銀は10月30日の会合で政策金利を1.25%程度に据え置いたが、日本経済新聞によれば、12月会合(17〜18日)での利上げ確率は6日朝の時点で50%台前半に下がった。株安で日銀の利上げも遠のいたとみる向きがある。日米の利上げ観測がそろって後退したため、金利差からは強い方向が出にくい。ドル円が動かなかった理由の半分はここにある。
水準の地図
ドル円の水準の地図(2026年11月6日)
出所:現在値はヤフーファイナンスの気配値(11月6日15時44分、日本時間)。雲と100日移動平均線はみんかぶ(6日13時49分時点)、10月の高安は日足から本誌確認。売り場と損切りは本誌の見立て。
上から見ていく。159円09銭は100日移動平均線、158円94銭は10月の高値で、10月は158円50銭から158円90銭の帯で何度も上値を抑えられた。158円66銭は200日移動平均線、158円44銭は一目均衡表の雲の上限である(みんかぶの6日13時49分時点のテクニカル分析)。この4本が158円40銭から159円10銭に固まっている。上値は重い。
下は157円52銭の基準線、157円18銭の雲の下限、そして10月22日前後に付けた156円10銭だ。本誌がヤフーファイナンスの終値から計算した50日移動平均線は157円34銭近辺にある。いまの157円台後半は、上の壁と下の床のちょうど中ほどにいる。
もう一つ忘れてはならない線がある。日米両政府は7月31日(米国時間)に協調介入に踏み切り、8月3日には円が155円台前半まで買われた(日本経済新聞、山陽新聞)。片山さつき財務相は11月2日、円相場について「前よりは改善はしているのではないか」と述べている。160円は介入の記憶が残る水準であり、そこへ向かう上昇は買いにくい。
今夜の数字——予想は「6万人前後」
| 項目 | 市場予想 | 9月の実績 | 予想の出所 |
|---|---|---|---|
| 非農業部門雇用者数 | 5.5万〜6.5万人増 | 2.9万人増 | フィスコ5.5万、ダウ・ジョーンズ5.9万、ブルームバーグ6.5万 |
| 失業率 | 4.2% | 4.2% | CNBC、ヤフーファイナンス |
| 平均時給(前月比) | +0.3% | +0.1% | みんかぶ |
| 平均時給(前年比) | +2.9% | +3.0% | みんかぶ、フィスコ |
発表は米東部時間の午前8時30分、日本時間では今夜22時30分だ。米国の夏時間が終わったため、10月までの21時30分から1時間遅くなっている。米国の指標や決算の時刻を自分の予定に合わせて確かめるなら、タイムゾーン変換ツールが手早い。
筆者の見立て——戻り売り、158円40銭から上は売り場
正直に言えば、今夜の数字がどちらに出ても、ドル円の上値は限られるとみている。弱気寄りだ。根拠は三つある。
第一に、上の壁が厚い。158円40銭から159円10銭に移動平均線と雲、10月の高値が重なる。強い数字で一度跳ねても、ここで戻り売りが待っている。第二に、FRBの利上げ確率はすでに66%まで下がった。弱い数字ならさらに下がり、ドル売りに傾きやすい。逆に強い数字でも、確率が1週間前の80%に戻るだけで、ドル買いの上積みは小さい。第三に、株安の続く市場では、ドルを積み増すより持ち高を軽くする動きが先に出やすい。外為どっとコムの中村勉氏も、今日の予想レンジを156円90銭から158円50銭とし、指標への反応は一時的になりやすいとしている。
本誌のシナリオと確率の目安は次のとおりだ。強い数字(雇用者数10万人超かつ平均時給前月比+0.4%以上)なら158円60銭から159円試しで、確率は25%。予想並み(3万〜10万人)なら157円20銭から158円40銭のもみ合いで45%。弱い数字(3万人未満、失業率4.3%以上)なら157円割れから156円10銭試しで30%とみる。来週いっぱいの想定レンジは156円00銭から159円00銭、1カ月では155円台前半から159円台と、下に振れやすいと考える。
逆になったら——159円10銭で見立てを捨てる
この見立てが外れるのは、100日移動平均線の159円09銭を終値で上抜けたときだ。そうなれば、壁が床に変わり、160円方向の買いが走る。戻り売りの損切りは159円10銭の上に置く。もう一つの外れ方は、株安が止まり、日銀の12月利上げ観測がさらに後退するケースだ。その場合は円売りが戻り、158円台の定着もありうる。
今夜と来週の監視リスト
| 日時(日本時間) | 材料 | 見るところ |
|---|---|---|
| 11月6日 22:30 | 米10月雇用統計 | 雇用者数が10万人を超えるか、3万人を割るか。平均時給の前月比 |
| 11月6日 夜 | 植田日銀総裁の講演(IMF主催) | 株安と12月利上げへの言及 |
| 週明け | 日経平均の安値5万6,745円 | 株安が続くのに円が買われない構図が続くか |
| 12月8〜9日 | 米FOMC | 利上げ確率66%がどこまで動くか |
| 12月17〜18日 | 日銀金融政策決定会合 | 利上げ確率50%台前半からの変化 |
同じ雇用統計をユーロの側から読んだユーロドル見通し:雇用統計前、上値は1.127もあわせて参照してほしい。海外FX業者の比較はFX解説ページにまとめている。
主な参照
- 雇用統計の公表日時/米労働統計局、9月の実績/米労働統計局
- 市場予想/CNBC、Yahoo Finance、みんかぶ、株探(フィスコ)
- 政策金利と会合日程/米連邦準備制度理事会、日本銀行
- NY市場のドル円、利上げ確率/ロイター(ニューズウィーク日本版)
- 高市首相の発言/ロイター(ニューズウィーク日本版)
- 日銀の12月利上げ確率/日本経済新聞
- テクニカル水準/みんかぶ、予想レンジ/外為どっとコム
- 米国債利回り/米財務省
- 協調介入/日本経済新聞、山陽新聞
データ基準日:2026年11月6日15時44分(日本時間)のドル円の気配値。取引時間中の数値であり終値ではない。ニューヨーク市場の値は5日終盤の気配、米国債利回りは5日の米財務省の公表値(終値)である。50日移動平均線は本誌がヤフーファイナンスの日足終値から計算した。雇用統計の市場予想は調査ごとに差がある。シナリオの確率と想定レンジは本誌の見立てであり、将来の相場を保証しない。為替介入の規模は公表されていない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の通貨の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















