5日の東京市場で最初に見ておきたい銘柄はソフトバンクグループ(9984)である。子会社の英アーム(ARM)が日本時間5日早朝に7〜9月期決算を発表し、売上高も利益も会社予想を上回った。それでも株価は時間外取引で一段安となった。アーム株を11月4日の終値で評価し直すと、SBGが持つアーム株の価値は約28兆円になる。SBG自身の時価総額24.3兆円より大きい。
まず下の4枚を見てほしい。アームの決算で何が良く、何が物足りなかったのか。それがSBGの1株あたりの価値で何円になるのか。順に図で追う。
図1:アーム株は決算の前にもう下げていた
アーム株の終値(2026年9月1日〜11月4日)
読み方:9月22日の終値333.20ドルから11月4日の191.80ドルまで42%安。11月4日の5.28%安は決算発表前の取引時間中の下げである。出所:stockanalysis.comの日足終値、11月4日はナスダックの公式終値。
アーム株の4日の終値は191.80ドルで、前日比5.28%安だった。ただし、この下げは決算発表の前に起きている。決算は米国の取引終了後に出た。昼間の下げは、民主党が上下両院で勝ったことを受けた「AI・半導体株からの資金移動」によるものだ。同じ日、ダウ平均は約1,570ドル上げた。その一方でフィラデルフィア半導体株指数(SOX)は3.13%下げ、マイクロンとマーベルはそれぞれ約7%安だった。データセンターの建設に新たな制約がかかり、投資が鈍るとの懸念が売りの理由として報じられている。
決算を受けた時間外取引の下げは、昼間ほど大きくない。ナスダックのデータでは、米東部時間17時47分(日本時間5日7時47分)に189.00ドル、終値比1.46%安だった。TradingViewの時間外データでは一時182ドルまで売られている。一部の海外メディアは「時間外で約5%安」と伝えた。だが、これは昼間の下げと時間外の下げを一緒にした数字とみられる。アーム株は9月22日の終値333.20ドルから見ると42%安い。52週高値452.70ドルとの比較では58%安である。
図2:上振れの中身は「ライセンス」に偏った
アームの7〜9月期:前年同期比の伸び率(%)
読み方:大型契約で振れやすいライセンス収入が50%伸びた一方、毎期積み上がるロイヤルティ収入は8%増にとどまった。データセンター向けは「2倍」との記載を100%として描いた。出所:アームの株主への書簡(SECフォーム6-K、2026年11月4日)。
アームが米証券取引委員会(SEC)に提出した株主への書簡によると、7〜9月期の売上高は14億4,300万ドルで、前年同期比27%増えた。会社予想の中央値13億8,000万ドルを4.6%上回る。非GAAPの1株利益(一時的な費用を除いた利益)は0.52ドルで、会社予想0.47ドルを上回った。7〜9月期として過去最高の売上高である。
市場が引っかかったのは中身のほうだ。売上高の54%を占めたライセンス収入は50%増えた。ただ、ライセンス収入は大型契約の時期によって振れやすい。毎期積み上がるロイヤルティ収入(チップ1個ごとの使用料)は8%増にとどまった。データセンター向けのロイヤルティは前年の2倍になったが、スマートフォンを含む全体ではまだ1桁の伸びである。ライセンスの先行指標とされる年換算契約額(ACV)は12%増の17億9,000万ドルで、investingLiveによれば予想の約18億ドルをわずかに下回った。
10〜12月期の会社予想は売上高15億4,000万ドル(上下5,000万ドル)、1株利益0.56ドル。investingLiveが伝えた市場予想(売上高約15億3,000万ドル、1株利益0.55ドル)をわずかに上回るにすぎない。好材料もある。自社設計のデータセンター向けCPU「Arm AGI CPU」は、複数の顧客からの注文が2027年まで埋まった。最初の出荷は2027年1〜3月期の予定どおり進んでいる。会社は2027〜28年度に最大20億ドルの売上高を見込んでおり、この見通しへの自信は「過去90日で高まった」と書いている。ただ、売上高として数字に表れるのは早くても来年である。
図3:アーム持分だけで時価総額を上回る
SBGのアーム持分と時価総額(兆円)
読み方:アーム持分は6月末から約25兆円減ったが、なおSBGの時価総額を上回る。担保借入を引いても約24.8兆円で、時価総額とほぼ同じ。出所:ソフトバンクグループ「1株当たりNAV情報」(2026年6月末)、株探、ナスダック。11月4日の持分は編集部試算。
SBGが公表している1株当たりNAV(時価純資産)の資料では、6月末時点のアーム持分の価値は53.13兆円(担保借入の調整前)だった。保有株式全体83.11兆円の6割を超える。この数字と6月30日のアーム株価354.57ドル、資料のドル円162.39円から逆算すると、SBGが持つアーム株は約9億2,300万株になる。アームの発行済み株式(7〜9月期の加重平均で10億6,900万株)の約86%にあたる(編集部試算)。報道では「約9割」とされることが多い。
この株数に4日の終値191.80ドルと、日本時間5日7時40分時点のドル円158.35円を掛けると、アーム持分は約28.0兆円になる。6月末から25兆円ほど減ったが、それでもSBGの時価総額(4日終値4,269円で約24.3兆円)を上回る。アーム株を担保にした借入(6月末で3.22兆円)を差し引いても約24.8兆円で、時価総額とほぼ同じだ。単純に言えば、市場はビジョン・ファンド2号に入っているオープンAI持分などをほぼゼロで見ている計算になる。ただし、SBGには6月末時点で10.81兆円の純負債もある。「割安」と言い切れるかどうかは、この負債をどう評価するかで変わる。
図4:アーム株10ドルで、SBG株は1株256円分動く
アーム株価ごとの、SBG1株あたりのアーム持分(円)
読み方:アーム株10ドルで1株約256円、ドル円1円で約31円動く。ドル円は158.35円で固定し、借入と他の資産は含めていない。出所:ソフトバンクグループのNAV資料(6月末の保有株数を逆算)から編集部試算。
同じ計算から感応度を出せる。アーム株が10ドル動くと、SBGが持つアーム株の価値は約1.46兆円動く。SBGの発行済み株式(自己株式を除く56億9,900万株)で割ると、1株あたり約256円だ。ドル円が1円動いた場合は、1株あたり約31円の変化である。5日朝の時間外価格189.00ドルを当てはめると、1株あたりのアーム持分は4,846円になる。4日終値の4,918円より72円低い。私設取引システム(PTS)では5日0時50分に4,251円の約定があった。ただ、これはアームの決算発表前の値段である。
アームは連結子会社なので、アーム株の値下がりがSBGの決算の利益を直接減らすことはない。この仕組みはSBG決算の予習記事で説明した。利益に響くのはインテル株などの評価損益である。一方、株価にはアーム株の値動きが効く。担保に入れたアーム株の値段が下がれば借入の余力も縮むので、財務の面からも見ておく必要がある。
日経平均への波及と、10日までのシナリオ
4日の日経平均の終値は6万2,188円で、893円安だった。日中は一時6万30円まで下げた。大阪取引所の日経平均先物は、5日朝に終わった夜間取引で6万3,110円と、日中の終値より660円高い。米国株全体の上昇を映した形だ。ただ、日経平均は株価の高い銘柄の影響が大きい指数で、SBGはその代表格である(寄与度の仕組み)。指数全体が戻っても、SBGと半導体株が出遅れれば、日経平均がTOPIXに負ける一日になりうる。investingLiveもこの点を指摘している。
SBG株は52週高値9,074円(6月2日)から53%安く、50日移動平均(5,511円)を23%、200日移動平均(5,268円)を19%下回る。14日RSI(買われすぎ・売られすぎを示す指標)は34で、売られすぎの目安とされる30に近い。安値は4日の3,967円と、10月23日の3,962円だ。10月27日の売られすぎ判定の記事のあと一度は4,765円まで戻したが、その戻りをほぼ返した。
| シナリオ(11月10日の決算まで) | 確率 | 条件 | SBG株の目安 |
|---|---|---|---|
| 安値更新 | 35% | アーム株が180ドルを割り、SOXも続落 | 3,962〜3,967円の二番底を割り込む |
| もみ合い | 45% | アーム株が180〜210ドルで推移 | 4,000〜4,500円 |
| 反発 | 20% | アーム株が210ドルを回復し、半導体株への資金が戻る | 4,600円超(10月29日の4,765円を試す) |
本線は「もみ合い」に置く。アームの決算そのものは崩れておらず、AGI CPUの受注もある。そのため、決算を理由とした売りが続く可能性は高くないとみる。一方で、昼間の下げを生んだ半導体株からの資金移動は決算と関係がなく、1日で終わるとは限らない。そこで反発より安値更新の確率を高めにした。10日の決算発表後の値動きは、今週の決算番付で示した過去の傾向も参考になる。
個人投資家向けチェックリスト
- 5日夜の米国市場でアーム株が180ドルを守れるか。割り込むと、SBGの1株あたりのアーム持分は4,600円を下回る。
- SOXが4日の安値(1万64ポイント台)を割らないか。半導体株からの資金移動が続いているかを見る手がかりになる。
- ドル円。1円の円高で、SBGの1株あたりのアーム持分は約31円減る。
- 11月10日15時30分のSBG決算。インテル株の評価損と、アーム株を担保にした借入の残高を確かめる。
- 日経平均とTOPIXの差。SBGが出遅れる日は、日経平均だけが弱く見えやすい。
主な参照
- アーム2027年3月期第2四半期の株主への書簡(売上高、ロイヤルティ、ライセンス、ACV、会社予想、AGI CPU、発行済み株式数)/SEC提出書類(フォーム6-K、2026年11月4日)
- アーム株の終値・時間外価格(11月4日、米東部17時47分)/ナスダック
- アーム株の日足終値(9月1日〜11月3日)/stockanalysis.com
- 市場予想との比較、時間外の反応、日本市場への見方/investingLive(アーム決算)、investingLive(SBG)
- 米国株の上昇と半導体株の下落(11月4日)/MarketWatch
- 1株当たりNAV、アーム持分、借入、純負債、発行済み株式数(2026年6月末)/ソフトバンクグループ
- SBGの株価・時価総額・PTS・決算発表予定日、日経平均の終値/株探
- 移動平均・RSI・SOX・日経平均先物・ドル円(日本時間5日7時40分)/TradingView
データ基準日:2026年11月5日7時47分(日本時間)。アーム株の191.80ドルは11月4日の米国市場の終値、189.00ドルは時間外取引の価格で、この後も変わる。SBG株と日経平均は11月4日の東京市場の終値、日経平均先物は大阪取引所の夜間取引の終値。ドル円は日本時間5日7時40分の値。アームの保有株数・保有比率・持分価値・感応度は、SBGが公表した6月末のNAV資料から編集部が試算したもので、会社の公表値ではない。市場予想とACVの予想比較はinvestingLiveの報道にもとづく。シナリオの確率は編集部の主観である。本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではない。投資判断はご自身の責任で行ってほしい。














