11月4日水曜の朝、米ロードアイランド州ウーンソケット。米ヘルスケア大手CVSヘルス(CVS)の本社から、2本の発表文が同時に出た。1本目は7〜9月期の決算で、通期の利益見通しを引き上げる内容だった。2本目の見出しは「ヘルスケアで2つの明確なリーダーをつくる意向」。会長兼最高経営責任者(CEO)のデビッド・ジョイナー氏は、約9,000店の薬局チェーンを本体から切り離し、独立した上場会社にすると表明した。
保険会社アエトナの買収を完了してから、ほぼ8年。薬局、薬剤給付管理(PBM)、医療保険を1社に束ねた「垂直統合」の実験は、ここで幕を下ろすことになった。分割の完了は2028年前半の見込みである。そして市場は、上方修正と分割という二つの朗報に、すぐには拍手を送らなかった。
その朝:二つの会社の名前
発表文によると、分割後の一方は暫定的に「CVSヘルス」の名を残すヘルスケア・ソリューションの会社になる。保険のアエトナ、PBMのCVSケアマーク、専門薬局のCVSスペシャルティ、高齢者向け診療所のオーク・ストリート・ヘルス、在宅医療のシグニファイ・ヘルスが入る。率いるのはジョイナー氏である。
もう一方が「CVSファーマシー」だ。約9,000店の薬局、通販薬局、簡易診療所のミニッツクリニック、そしてテクノロジーサービスのHealth100事業を持つ。CEOには、グループ社長のプレム・シャー氏が就く。全米で約3万人の薬剤師を抱える会社が、初めて単独で株式市場に立つことになる。
ジョイナー氏は発表文で「私たちの歴史は、ヘルスケアの次に来るものに先回りして、自ら進化してきたことで形づくられている」と述べた。薬局については「この国の健康と医療の玄関口」と表現している。分割は米国の連邦所得税上、会社と株主にとって非課税となるよう設計され、完了すれば株主は両社の株を持つ。両社とも投資適格の格付け、潤沢なフリーキャッシュフロー、魅力的な配当を見込むとしたが、具体的な配当額や財務目標は示していない。主幹事の財務アドバイザーはゴールドマン・サックスが務める。
巻き戻し:束ねた8年、ほどく2年
時計の針を2018年11月28日に戻す。CVSはこの日、アエトナの買収を完了した。米証券取引委員会に提出した書類が、その日付を記録している。買収額は約690億ドルと広く報じられた。薬局でつかんだ顧客を、保険とPBMで囲い込む。処方箋が出てから薬が手に渡り、その代金を保険が払うまで、すべてを1社の中で完結させる構想だった。
CVSヘルスの8年:束ねてから、ほどくまで
出所:CVSヘルスの発表資料と米証券取引委員会への提出書類、フィアース・ヘルスケア、ロイター。
2023年3月29日に在宅医療のシグニファイ・ヘルスを、5月2日には高齢者向け診療所のオーク・ストリート・ヘルスを傘下に入れ、医療の提供そのものにも手を伸ばした。だが、構想は数字の上で重荷になっていく。2024年10月17日、アエトナ出身のカレン・リンチ氏がCEOを退き、PBM部門を率いていたジョイナー氏が後を継いだ。同じ月、ロイターはCVSが小売と保険の分離を含む選択肢を検討していると報じている。
重荷は2025年に形になった。今回の決算資料によれば、CVSは2025年7〜9月期に、医療提供部門(ヘルスケア・デリバリー)にかかわる57億ドルののれんの減損を計上している。この四半期の1株損益は3ドル13セントの赤字だった。買った診療所の価値を、自ら引き下げた形である。束ねるのに5年、ほどく決断までにさらに3年かかった。
二人の主役:保険の数字、薬局の数字
分割後の2社を率いる二人は、それぞれ違う数字を背負う。ジョイナー氏の側の柱はアエトナである。7〜9月期の医療給付費率(保険料収入のうち医療費の支払いに回った割合)は91.3%で、前年同期の92.8%から1.5ポイント改善した。会社は利益の回復計画が進んでいると説明する。PBMなどを含むヘルスサービス部門の売上高は9.5%増えた。
一方、シャー氏が引き継ぐ薬局の部門は、売上高が2.0%減った。会社は理由として、規制にともなう一部の薬価引き下げ、後発薬の登場、薬局への支払いの圧力を挙げた。ただし調整後の営業利益は10.6%増え、処方箋の調剤件数は4億7,000万件と前年同期の4億6,140万件を上回った。2025年に取得した旧ライトエイドの店舗の資産が上乗せになっている。売上は細っても、1枚の処方箋から利益を絞り出す力は増しているのである。
9月末時点で、CVS全体はPBMで約8,700万人、保険で約3,700万人の加入者を抱える。この二つの数字の距離が、分割の論理を物語っている。薬局の客と保険の加入者は、もともと同じ人々ではなかった。束ねても、相乗効果が数字に表れにくかったのである。
クライマックス:上方修正の朝に下げた株価
決算の数字そのものは強かった。7〜9月期の売上高は1,084億ドルで前年同期比5.4%増。調整後の1株利益は2ドル09セントで、前年同期の1ドル60セントから伸びた。通期の調整後1株利益の見通しは「7ドル90セント〜8ドル10セント」から「少なくとも8ドル20セント」へ、営業キャッシュフローの見通しは「少なくとも115億ドル」から「少なくとも155億ドル」へ引き上げた。それでも会社は、医療費の高止まりと景気の逆風の可能性を理由に、年末までは慎重な見方を保つとした。
そして市場は、朗報を朗報として受け取らなかった。CVSの株価は3日、ウォール・ストリート・ジャーナルの分割報道を受けて3.28%高の91ドル41セントで引けた。ところが4日の寄り付き前には87ドル台まで下げ、取引が始まると下げが加速した。寄り付きの高値は85ドル05セント、そこから9時37分(米東部時間)には79ドル37セントまで売られた。前日比13.17%安である。通期見通しを引き上げ、株主が待っていた分割を発表した朝に、株価は1割以上下げた。市場が嫌ったものが何かについて、本稿執筆時点で会社の説明は確認できていない。バロンズは同日、米国の薬剤費補助制度「340Bプログラム」をめぐるリスクが本当の焦点だと指摘している。
朗報が二つ重なったのに、なぜ株は下げたのか。分割の観測は、前夜に米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じ、英フィナンシャル・タイムズも2028年までの分割と伝えていた。発表は答え合わせになった。そして答えには、完了までの1年半以上の時間と、最終的な取締役会の承認、米証券取引委員会への登録届出書の効力発生、非課税扱いの確認という条件が付いていた。二つの会社の配当額も、まだ書かれていない。
同じ朝、ニューヨークの市場全体は米中間選挙の結果に揺れていた。民主党が上下両院の主導権を握り、ダウ平均先物は大きく上げていた。医療保険と薬価は、議会の勢力図が変わると真っ先に議論の的になる分野である。選挙の結果が株式市場にどう響いたかは、中間選挙の注目株の記事で病院株を軸に整理した。
エピローグ:残された問い
2028年前半までに、答えが出るべき問いは三つある。一つ目は、CVSケアマークがなぜ薬局ではなく保険の側に残るのかだ。2024年の報道の段階では、PBMをどちらに置くかが論点の一つだった。今回の発表は、PBMを保険と組ませる道を選んだ。薬局は、CVSケアマークという最大の顧客と、社外の取引先として向き合うことになる。
二つ目は、単独になった薬局チェーンが、薬価の引き下げ圧力にどこまで耐えられるかである。7〜9月期は利益を伸ばしたが、売上高は減っている。三つ目は、残る経営陣と取締役の顔ぶれだ。発表文は、追加の人事と取締役は後日公表するとしている。
日本の個人投資家にとって、CVSは米国株の個別銘柄として、またS&P500に連動する投資信託を通じて、意外に身近な会社である。米国の医療をめぐる大型株の動きは、注目株の記事でも定期的に取り上げている。次の節目は、分割に向けた登録届出書の提出と、次の四半期決算である。アエトナを迎え入れた2018年の冬から数えて、10年目に入る頃、CVSという名の会社は二つになる。
主な参照
- CVSヘルス「ヘルスケアで2つの明確なリーダーをつくる意向」(分割の構成、経営陣、時期、条件、事業規模)/CVSヘルス
- CVSヘルスの2026年7〜9月期決算と通期見通し、2025年7〜9月期ののれんの減損/米証券取引委員会(CVSの提出書類)
- アエトナ買収の完了(2018年11月28日)/米証券取引委員会(8-K)、買収額はフィアース・ヘルスケア
- シグニファイ・ヘルス(2023年3月29日)とオーク・ストリート・ヘルス(同5月2日)の取得完了/CVSヘルス、米証券取引委員会(8-K)
- ジョイナー氏のCEO就任(2024年10月17日)/フィアース・ヘルスケア
- 2024年10月の分離検討報道/ナスダック(ロイター配信)
- 前夜の分割報道(WSJ、FT)/ロイター
- CVSの株価(終値、時間外・取引時間中の値)/ヤフーファイナンス
データ基準日:2026年11月4日、米東部時間9時37分(日本時間4日23時37分)時点。CVSの株価のうち91ドル41セントは3日の終値で、それ以外は4日の寄り付き前または取引時間中の値であり、終値ではない。株価が急落した理由について、本稿執筆時点で会社の説明や確定的な報道は確認できていない。アエトナの買収額約690億ドルは報道にもとづく値で、負債を含めた額は約780億ドルと伝えた報道もある。分割は取締役会の最終承認などの条件付きで、計画が変わる可能性がある。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













