11月3日火曜、ロンドン。ロンドン金属取引所(LME)の銅3カ月物は、取引開始から間もなく1トン1万3,800ドル台まで売られた。8月19日以来、およそ2カ月半ぶりの安値である。日本時間で18時56分にあたる9時56分(グリニッジ標準時)、価格は1万3,981ドル、前日比2.5%安だった。翌4日の東京では、東証の業種別騰落率で前場の下落トップに非鉄金属が並んだ。だが東京で大きく売られたのは、銅を掘る会社ではなかった。
銅の値下がりは、ニューヨーク商品取引所(COMEX)の先物で見ると、2日の終値から4日昼までに3.4%。同じ期間に電線大手の株価は8〜10%下げ、銅鉱山・製錬の大手2社は5〜7%の下げにとどまった。この記事は、その差がどこから生まれたのかをたどる。
ロンドンの火曜日:銅が「追いついた」日
その日のロンドンで、売りの理由を最も短く言い表したのは米マレックスのエド・メイアだった。ロイターの取材に、彼はこう語っている。「銅はAI半導体株を襲った急落に『追いついて』いるのではないかとみている」。
同じ日、INGの商品ストラテジスト、エワ・マンティも同じ方向を指した。「テクノロジー株が圧迫されるなかで、投資家は景気循環型の資産から手を引いている」。マンティはさらに、AIやデータセンターへの投資から、目先どれだけの金属需要が生まれるのかという問いが改めて突きつけられていると付け加えた。
売りはほかの金属にも広がった。ロイターが17時2分(グリニッジ標準時、日本時間4日2時2分)時点で伝えた数字では、アルミニウムが2.0%安の3,032.5ドル、亜鉛が2.6%安の3,790.5ドル、スズは4.3%安の4万7,450ドルで、4月中旬以来の安値を付けた。銅は同じ時刻に1万4,034ドル、2.1%安まで戻していた。
この日の安値には、報道によって1万3,833ドルと1万3,883ドルの2つの数字がある。いずれもロイターの配信を引用した記事で、どちらも1万3,800ドル台だ。本稿では「1万3,800ドル台」と書く。
銅が売られた48時間(日本時間)
読み方:LMEの時刻はロイターがグリニッジ標準時で伝えたものを日本時間に直した。出所:ロイター配信(ビジネス・レコーダー、キトコ)、ヤフーファイナンス、株探。
巻き戻し:9月の高値から7%
時計を9月に戻す。COMEXの銅先物は9月22日、1ポンド6.83ドルの高値を付けた。ヤフーファイナンスで遡れる過去2年の日足で最も高い水準だ。そこから4日昼(日本時間11時47分)の6.323ドルまでで、7.4%下げたことになる。
10月に本誌は2度、銅を取り上げた。19日には最高値まで3.6%の距離にあった銅を、27日にはインドネシアのグラスバーグ鉱山の稼働率67%という供給側の話を書いた。供給の細さは、今も変わっていない。変わったのは需要の側の物語である。
ロイターによれば、LMEの在庫は30万9,650トンと4カ月ぶりの高水準に増え、米国の倉庫には1万7,325トンが新たに入った。一方、中国の輸入需要の目安とされる洋山プレミアムは1トン200ドル前後で、10年余りで最も高い。現物は中国で不足しているのに、先物は売られている。この食い違いが、今回の下げの性格をよく表している。
中国からの逆風もあった。中国人民銀行が金融機関の外貨預金準備率の引き上げを打ち出し、人民元が下落した。ドル建ての金属は、中国の買い手にとってその分だけ割高になる。上海有色網(SMM)は4日朝の銅市況のまとめで、高いプレミアムと弱い需要が最終需要を抑え続けていると書いた。
同じ頃、東京では:銅より大きく下げた銅の株
4日朝9時、文化の日の休場を挟んだ東京市場が開いた。米中間選挙の開票が始まり、民主党の優勢が伝わるにつれて、日経平均株価は前場で2,246円安の6万835円まで売られた。株探によると、11時36分時点の業種別騰落率で下落率が最も大きかったのは非鉄金属だった。
銅と非鉄株の下落率(11月2日終値→4日前場)
読み方:銅そのものの下げは3.4%。銅鉱山・製錬の2社は5〜7%、電線大手は8〜10%下げた。銅先物は4日11時47分、株価は11時30分の気配値で、いずれも取引時間中の数値。出所:ヤフーファイナンス、株探、本誌計算。
中身を見ると、物語はロンドンと重なる。前場で最も下げたのは三井金属の9.85%安、古河電気工業の9.66%安、住友電気工業の9.02%安、JX金属の8.87%安、フジクラの8.49%安だった。古河電工、住友電工、フジクラはいずれも電線の大手で、データセンター向けの光ファイバーや光部品を手がける。JX金属と三井金属も、半導体や電子機器向けの材料の比重が高い。AI関連として買われてきた銘柄が、AI関連として売られた。
これに対して、銅鉱山の権益と製錬を持つ住友金属鉱山は6.62%安、三菱マテリアルは5.20%安。銅の値下がりに最も素直に連動するはずの2社の下げが、電線株より小さかった。銅そのものの下落は2日の終値6.543ドルから3.4%で、両社の下げはその1.5〜2倍、電線株は2.5〜2.9倍にあたる。東京の非鉄株を動かしたのは、銅の値段よりも、銅を使う側の需要の物語だったことになる。
強気と慎重のあいだ
慎重派の声は、先に引いたメイアとマンティに集約される。銅は景気とAI投資の両方に賭ける資産で、その片方が揺らげば、在庫の増加が売りの口実になる。LMEのテクニカルでも、銅は100日移動平均の1万4,053ドルを割り込み、ここが上値の抵抗に変わったとロイターは書いた。最初の支えは200日移動平均の1万3,589ドルにある。
強気派の根拠は現物にある。洋山プレミアムの高さは、中国の工場が今も輸入の銅を必要としていることを示す。グラスバーグの稼働が戻りきっていない以上、供給の細さは続く。コメルツ銀行は3日、米国の輸入が強いにもかかわらず供給リスクは高まっていると指摘した。先物の売りが行き過ぎれば、現物の需要が下値を支える、という見立てである。
エピローグ:次の日付
残された問いは2つだ。1つは、AI関連株の売りがどこで止まるか。銅の先物も東京の電線株も、その答えを待っている。もう1つは、米中間選挙の結果が財政と景気の見通しをどう変えるか。開票は4日も続いており、上院の大勢判明には数日かかる可能性があるとロイターは伝えている。
日付も並ぶ。6日には米国の10月雇用統計が出る。東京では、JX金属と古河電工が9日、住友金属鉱山、フジクラ、三井金属が10日、三菱マテリアルが11日に決算を発表する予定だ。電線各社の決算で、データセンター向けの受注に変化があるかどうか。銅の物語の次の章は、そこから書かれることになる。
主な参照
- LME銅の価格(9時56分GMT)、100日・200日移動平均、洋山プレミアム、ING・マンティ氏の発言/ビジネス・レコーダー(ロイター配信)
- LME銅の価格(17時2分GMT)、LME在庫、米国倉庫への流入、マレックス・メイア氏の発言、他の金属の価格/キトコ(ロイター配信)
- 中国の銅市況/上海有色網(SMM)
- 銅の供給リスク/FXストリート(コメルツ銀行)
- COMEX銅先物の日足・気配値(4日11時47分)/ヤフーファイナンス
- 非鉄株の株価(4日11時30分)と決算発表予定日/株探、業種別騰落率(前引け)/株探
- 上院の大勢判明まで数日の可能性/ロイター
データ基準日:2026年11月4日の東京時間(銅先物は11時47分、株価は11時30分時点)。銅先物と株価は取引時間中の数値であり、終値ではない。LMEの価格は11月3日のロンドン時間の気配値で、公式の決済価格とは異なる。同日の安値は報道によって1万3,833ドルと1万3,883ドルの差がある。株価の下落率は11月2日の終値との比較で、東京市場は3日に休場だった。COMEX銅の9月22日の高値はヤフーファイナンスで遡れる過去2年の日足にもとづくもので、上場来の最高値かどうかは確認していない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄・商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。












