2018年5月29日、米マイクロン・テクノロジーの株価は62.62ドルで引けた。その年の最高値である。同社はその後も四半期ごとに過去最高の売上高を更新し続けた。それでも株価は下げ続け、12月24日には29.02ドルと、高値から53.7%安い水準まで沈んだ。利益はまだ増えているのに、株価だけが先に天井を打つ。メモリー半導体の相場が何度も見せてきた型である。
8年後のきょう、10月26日。キオクシアホールディングス(285A)の終値は1万2,550円だった。6月22日の終値3万6,233円から65.4%下げている。4〜6月期の純利益は前年同期の46倍の8,421億円、7〜9月期は1兆2,700億円を見込む。利益はなお増えている。奇しくも、同じ日に韓国から届いたのは、キオクシアへの投資で巨額の利益を得たSKハイニックスが特別配当を検討している、という報道だった。
キオクシアの終値(2026年4月〜10月26日、分割調整後)
読み方:6月22日の天井から、利益が増え続けるなかで株価は65.4%下げた。2018年のマイクロンは天井から底まで53.7%安だった。出所:Yahoo!ファイナンスの日足(2026年9月の1株→3株の分割を調整)。
2018年と2026年――同じ点と違う点
2018年はキオクシアにとっても節目の年だった。同年6月1日、東芝は半導体メモリー事業「東芝メモリ」を、米投資ファンドのベインキャピタルが率いる企業連合に約2兆円で売却した。この企業連合に3,950億円を投じたのがSKハイニックスである。マイクロンの株価が天井を付けたのは、その3日前のことだった。
| 比べる点 | 2018年(マイクロン) | 2026年(キオクシア) |
|---|---|---|
| 株価の天井(終値) | 5月29日・62.62ドル | 6月22日・3万6,233円 |
| 天井からの下落 | 12月24日の底まで53.7%安 | 10月26日まで65.4%安(底は未確定) |
| 天井の後の利益 | 2018年8月期は売上高・純利益とも過去最高 | 4〜6月期の純利益は46倍、7〜9月期も増益を計画 |
| 需要の主役 | スマートフォン、パソコン、クラウド | AIデータセンター向けの企業用SSD |
| 大株主の動き | 東芝がメモリー事業を約2兆円で売却 | ベインが保有株を売り切り、SKハイニックスは売却益の還元を検討と報道 |
| 同じ点 | 利益が伸びている最中に株価が先に崩れた | |
対照表で目を引くのは、下げの深さである。キオクシアの下げはすでにマイクロンの2018年の下げを上回っている。ただし、これは上げの大きさの裏返しでもある。キオクシアは2024年12月18日に上場した。分割調整後の公開価格は485円で、26日の終値はその約26倍にあたる。2025年末の終値と比べても、なお約3.6倍だ。
当時、その後に起きたこと
2018年と2026年の年表
読み方:2018年は、良い決算が続くあいだに株価が下げ、見通しの引き下げとともに底を付けた。出所:マイクロン、東芝、SKハイニックスの開示、ブルームバーグ、Yahoo!ファイナンス。
2018年の教訓は、底を付けたのが「悪い知らせ」の直後だったことである。マイクロンは2018年12月の決算発表で、需要の鈍化を理由に次の四半期の見通しを引き下げた。株価はその数日後の12月24日に底を付け、2019年6月末には38.59ドルまで戻した。底から33%の戻りである。良い決算が続く間は下げ、見通しの悪化が出たところで売りが尽きた。
SKハイニックスの株価も同じ年に天井を打った。週足の終値で見ると、2018年5月の9万5,200ウォンから12月末の5万8,300ウォンまで38.8%下げている。メモリーの相場では、韓国と米国、そして日本の銘柄が同じ方向に動きやすい。
特別配当の報道――何が分かっていて、何が分かっていないか
26日の報道は、韓国の東亜日報が最初に伝えたものだ。同紙は、SKハイニックスがキオクシア株の売却で得た約20兆ウォンの利益のうち、8割にあたる約16兆ウォンを特別配当に回す方向だと報じた。ブルームバーグはこれを約1兆9,000億円と円に換算して伝えている。
ここは区別して読む必要がある。SKハイニックスは26日、韓国の電子公示で「さまざまな株主還元策を検討しているが、現時点で確定した事項はない」と開示した。追加の還元策は、28日の7〜9月期決算の発表時に取締役会の決議を経て公表するとしている。否定ではないが、確認でもない。配当の総額、1株あたりの金額、支払いの時期は、いずれも報じられている段階にとどまる。
キオクシア株への含意は2つある。1つは、ベインの企業連合を通じた売却がすでに終わっていることだ。ベインは7月8日に保有株をすべて売却したと明らかにしている。新たな大量売却の材料ではない。もう1つは、SKハイニックスがなおキオクシア株の約14%に相当する転換社債を持つと、ブルームバーグが報じている点である。こちらは将来の売り圧力の候補として残る。26日のキオクシアは寄り付き直後の9時10分に1万3,035円まで上げたが、終値は1.61%安だった。SKハイニックスの終値は0.16%安の127万5,000ウォンだった。
「今回は違う」論を検証する
今回は違う、という主張にも根拠はある。台湾の調査会社トレンドフォースは9月30日、10〜12月期のNANDフラッシュの契約価格が前期比15〜20%上がると予想した。7〜9月期の10〜15%に続く値上がりで、AIデータセンター向けの企業用SSDが最も強いとしている。2018年後半のように価格が崩れる兆しは、少なくとも9月末時点の予想には見えない。
一方で、2018年と韻を踏む材料もそろっている。10月13日には、中国企業との競争激化への懸念からキオクシア株が一時10%安になったと日本経済新聞が報じた。15日には米コアウィーブの社債価格の急落を受けて、米半導体株指数が4%を超えて下げたと株探が伝えている。需要は強くても、供給の増加と資金調達の不安が先に意識される。これは2018年の構図とよく似ている。株探によると、10月16日時点の信用買い残は4,780万株にのぼり、戻り局面の売り圧力として残る。
歴史が示す3つの教訓
- 利益のピークを待ってから売るのでは遅い。2018年のマイクロンは、過去最高益の発表を続けながら株価が半値以下になった。株価は利益の「伸び率」が鈍る瞬間を先に織り込む。
- 底は見通しの悪化と一緒に来やすい。2018年の底は、会社が見通しを引き下げた直後だった。キオクシアの30日の決算で慎重な見通しが出ても、それが売りの終わりになる可能性はある。
- 大株主の売りが終わった後の相場は、需給より業績で動く。東芝の売却もベインの売却も、出尽くした後は材料にならなかった。残るのは業績と、メモリー価格である。
今回固有の監視点――30日の決算
本誌はキオクシアを当面の「売られすぎ側」の注目銘柄に置く。ただし、底を当てにいく局面ではない。決算後の値動きについて、本誌は次の3つの筋書きを考える。
| 筋書き | 本誌の確率 | 条件 | 株価の想定 |
|---|---|---|---|
| A:上振れと強気の見通し | 35% | 7〜9月期の純利益が計画の1兆2,700億円を上回り、10〜12月期も増益を示す | 13日の終値1万5,180円を目指す戻り |
| B:計画並み | 40% | 計画どおりの着地で、見通しも大きく変わらない | 1万1,500〜1万3,500円の往来 |
| C:慎重な見通し | 25% | 価格や需要に慎重な見方を示す | 26日の安値1万2,290円を割り込む。ただし2018年型なら売りの最終局面になりうる |
日程を整理しておく。28日(水)にSKハイニックスの決算と株主還元策の発表、同じ日に東京ではアドバンテストが決算を出す。30日(金)にキオクシアと東京エレクトロンが続く。前週のマイクロンの決算でも、成長の鈍化が焦点になった。その読み解きはマイクロンの決算の記事にある。26日の東京市場で半導体株がどう売られたかは大引けの検証で扱った。
本誌が見方を改める条件も書いておく。決算でNANDの値上がりが続くと確認でき、それでも株価が1万2,290円を割れるなら、下げは業績ではなく需給の問題とみる。逆に1万5,180円を終値で回復すれば、2018年型の長い下げとは違う道に入ったと判断する。
主な参照
- 特別配当の報道(東亜日報が最初に報道、ブルームバーグの円換算)/ブルームバーグ、東亜日報
- SKハイニックスの開示(確定事項なし、28日に公表)/朝鮮ビズ、聯合インフォマックス
- 2018年の投資額(3,950億円)と売却益の推計/iNews24
- ベインの保有株の売却完了(2026年7月8日)/Investing.com
- キオクシアの4〜6月期決算と7〜9月期の見通し/秋田魁新報(共同通信)
- 10月26日の株価、決算発表予定日、信用残/株探
- NANDの契約価格の予想(2026年9月30日)/トレンドフォース
- マイクロンの2018年8月期決算/マイクロン・テクノロジー
- キオクシア・マイクロン・SKハイニックスの株価の推移/Yahoo!ファイナンス
- 10月13日・15日の急落の報道/日本経済新聞、株探
データ基準日:2026年10月26日の東京市場の終値。SKハイニックスの株価は同日の韓国市場の終値。キオクシアの過去の株価は2026年9月の株式分割を調整した値。マイクロンとSKハイニックスの2018年の株価はYahoo!ファイナンスの日足・週足の終値で、配当は調整していない。特別配当の金額と売却益は報道にもとづくもので、SKハイニックスは確定した事項はないとしている。転換社債の保有比率はブルームバーグの報道による。確率と株価の想定は本誌の見立てであり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













