市場はこう信じている——イーロン・マスク氏の2社、スペースX(SPCX)とテスラ(TSLA)の株価は、AIへの巨額投資と両社の合併観測が支える。今週はその通説を数字で試す週になる。スペースXは米国時間10月20日の取引終了後に7〜9月期決算を発表し、日本時間21日(水)午前5時30分から説明会を開く。テスラは米国時間21日の取引終了後に発表し、日本時間22日(木)午前6時30分から説明会を開く。
決算前の最後の終値(10月19日)はスペースXが147.96ドル(前日比1.32%高)、テスラが368.06ドル(同3.76%高)だった。テスラはこの日、合併観測を手掛かりに買われたとの見方が出ている。だが、本当か。今日は通説を3つの論点に分けて尋問する。AIは利益を生んでいるのか。合併は株主総会の議題に載っているのか。そしてオプション市場は、決算翌日の値幅を十分に見込んでいるのか。
通説の陳述:最も強い形で言えばこうなる
公平のために、通説を最も強い形で要約しておく。スペースXは4〜6月期に売上高78億1,400万ドルを計上し、前年同期の40億7,100万ドルから92%伸びた。そのうちAI部門の売上高は25億6,100万ドルで、1〜3月期の8億1,800万ドルから3倍以上に増えた。会社は4〜6月期にクラウドサービス契約を合計141億ドル分結び、それだけで同期のAIインフラ売上が16億ドル増えたと説明している。AI部門の調整後EBITDA(利払い・税金・償却前利益)は11億4,600万ドルの黒字に転じた。
7〜9月期の市場予想も強気だ。ブルームバーグ集計の売上高予想は128億9,000万ドルで、調整後1株利益は約0.15ドルと上場後初の黒字が見込まれていると報じられている(テスララティが英ペッパーストン経由で引用)。売上高予想はベンジンガ集計で127億5,000万ドル、ビジブル・アルファ集計で130億ドルと、どの集計でも127億〜130億ドルの範囲に収まる。予想が当たれば、売上は1四半期で約65%伸びる計算になる。
テスラ側の材料もある。7〜9月期の納車台数は48万6,532台で、市場予想の46万1,974台(エレクトレック集計)を上回った。テスラは2026年1月にxAIへの約20億ドルの出資に合意し、xAIがスペースXに統合された後の3月12日にスペースXのクラスA株を取得している。両社の資本関係はすでに存在する。合併すれば、テスラ株主はAIと宇宙の成長をまとめて手にできる。これが通説の骨格である。
尋問1:スペースXのAIは、利益を生んでいるのか
証拠を見よう。スペースXの4〜6月期決算資料によると、AI部門は売上高25億6,100万ドルに対し、営業損益は12億5,700万ドルの赤字だった。1〜3月期の24億6,900万ドルの赤字から半減したとはいえ、赤字であることに変わりはない。調整後EBITDAの黒字11億4,600万ドルは、減価償却費18億8,500万ドルと株式報酬5億1,600万ドルを足し戻した結果である。データセンターの減価償却は、AIの事業では実際にかかるコストそのものだ。
スペースXの部門別営業損益(2026年4〜6月期、億ドル)
読み方:利益を出しているのはスターリンクの通信部門だけで、AI部門の赤字が全社の営業損益を赤字に押し下げている。AI部門の設備投資は同じ四半期に158.28億ドルで、全社の86%を占めた。出所:スペースXの4〜6月期決算資料。
会社全体で利益を出しているのは通信(スターリンク)部門だけで、営業利益は16億5,600万ドル。宇宙部門の5億4,200万ドルの赤字とAI部門の赤字を差し引くと、全社の営業損益は1億4,300万ドルの赤字になる。純損失は5億4,100万ドル、1株あたりでは0.09ドルの赤字だった。
この説明には穴がある。より重いのは設備投資だ。4〜6月期の設備投資は183億6,900万ドルで、そのうちAI部門が158億2,800万ドルと全体の86%を占めた。前年同期のAI部門の設備投資は7億4,900万ドルにすぎない。7〜9月期の設備投資予想は196億ドル、フリーキャッシュフローは約116億ドルのマイナスと報じられている。四半期あたりの売上高を上回る額を、毎期設備に投じている計算になる。
通説側の再反論も聞いておく。スペースXは6月末時点で現金・現金同等物と有価証券を1,000億ドル持ち、6月には250億ドルの社債(加重平均利率5.855%)も発行した。資金が尽きる心配は当面ない。ただし市場予想が求めるのは、AI売上が約64億ドル(報道ベース)と、4〜6月期の2.5倍に増えることだ。141億ドルの契約がどれだけ7〜9月期の売上に計上されたか。これが決算の第1の焦点になる。
尋問2:合併は、テスラの株主総会の議題に載っているのか
ロイターは19日、両社の決算がマスク氏のAI投資を試す場になり、合併観測が強まっていると報じた。英バークレイズのアナリストが、スペースXを買い手とする株式交換を想定し、発表時期によっては株主総会の投票に影響しうると指摘したとも伝えられている。
証拠を見よう。テスラは10月19日、米証券取引委員会(SEC)に2026年の委任状説明書(DEF 14A)を提出した。年次株主総会は12月3日午後3時(米中部時間)に、テキサス州のギガファクトリーで開かれる。議題はわずか3つで、取締役3人の選任、2025年の役員報酬に関する勧告的投票、監査法人プライスウォーターハウスクーパースの選任承認である。スペースXとの合併に関する議案はない。
公平のために言えば、議案がないことは合併の可能性がゼロであることを意味しない。合併は取締役会で合意したあと、別途の臨時株主総会にかけることもできる。だが少なくとも、「12月の総会で合併が決まる」という筋書きを裏付ける書類は、いま公開されている中にはない。説明書に載っているのは、テスラがスペースX株を約20億ドルで取得した事実と、スペースXとの取引でテスラが2025年に約1億4,330万ドルの売上(主に車両販売)を計上したという取引関係である。
もう1つの書類がある。テスラは9月29日、総額300億ドルの融資枠を結んだとSECに届け出た。3年の期限付き融資枠が200億ドル、5年の融資枠が80億ドル、364日の融資枠が20億ドルである。4〜6月期のテスラは設備投資が57億8,900万ドルに膨らみ、フリーキャッシュフローは10億9,200万ドルのマイナスだった。合併の前に、テスラ自身のAI投資の資金繰りが議論されるべき局面にある。
尋問3:オプション市場は、値幅を十分に織り込んでいるのか
本誌は米ナスダックが公開するオプションの気配(10月19日の取引終了時点)から、10月23日満期の権利行使価格が株価に最も近いコールとプットを組み合わせた「ストラドル」の価格を計算した。スペースXは148ドルのコール6.00ドルとプット5.925ドルで合計11.925ドル、株価の約8.1%。テスラは367.5ドルのコール12.20ドルとプット11.375ドルで合計23.575ドル、株価の約6.4%である。決算翌日に株価がこれ以上動けば、オプションの売り手は損をする水準と読める。
今回の織り込み値幅と、前回決算の翌日の値動き
読み方:織り込み値幅は上下どちらにも動きうる幅で、緑の棒の長さは方向を示さない。前回は2社とも、今回の織り込みのほぼ2倍下げた。織り込みは10月23日満期のストラドル価格(10月19日の気配の中値)を株価で割った本誌試算。前回の値動きはナスダックの日足終値。
だが前回の決算を思い出したい。スペースXは8月4日の終値125.33ドルから、初決算翌日の5日には108.27ドルまで13.6%下げた。売上高は市場予想を上回ったにもかかわらずである。テスラは7月22日の終値374.01ドルから、翌23日には319.69ドルへ14.5%下げた。2社とも、前回の実際の値幅は今回の織り込みのほぼ2倍だった。
テスラの利益の流れも見ておく。会社資料によると、営業利益率は2025年7〜9月期の5.8%から、10〜12月期5.7%、2026年1〜3月期4.2%、4〜6月期1.4%と3四半期続けて下がった。調整後1株利益も0.50ドル、0.50ドル、0.41ドル、0.33ドルと減っている。7〜9月期の調整後1株利益の市場予想は、ザックス集計で0.22ドル(10人、0.09〜0.52ドル)、ベンジンガ集計で0.41ドルと大きく割れている。基準となる予想がこれほど割れていれば、どちらの数字に対して「上振れ」と見なされるのか、読みにくい。売上高予想は276億〜278億ドルで、前年同期の280億9,500万ドルを1〜2%下回る水準だ。
テスラの営業利益率の推移(%)
読み方:営業利益率は3四半期続けて下がり、4〜6月期は1.4%になった。今回の決算で4%台に戻るかが、本業の底打ちを判断する目安になる。出所:テスラの4〜6月期決算資料(米証券取引委員会への提出書類)。
通説側の再反論は、こうなる。前回はスペースXが上場直後で、ロックアップ(上場前株主の売却制限)の解除を控えていた。テスラも前回は利益率の急低下という一度きりのショックがあった。今回は材料が出尽くし、値幅は小さくなるはずだ、と。この反論には一理ある。ただし、本誌が10月19日の記事で引用した別の推計(リスクリバーサル集計、10月18日)でも織り込みはスペースXが9.0%、テスラが7.4%で、前回の実績には届いていない。
生き残った主張と、死んだ主張
| 通説の主張 | 証拠 | 判定 |
|---|---|---|
| スペースXのAIは急成長している | AI売上は1〜3月期8.18億ドル→4〜6月期25.61億ドル。契約141億ドル | 生き残った |
| スペースXのAIは利益を生んでいる | AI部門の営業損益は12.57億ドルの赤字。黒字は償却費を足し戻した調整後EBITDAのみ | 死んだ |
| 資金面の心配はない | 手元資金1,000億ドル。ただし設備投資は四半期で183.69億ドル | 条件付きで生き残った |
| 12月の総会で合併が決まる | 10月19日提出の委任状説明書の議題は3つ。合併議案なし | 死んだ |
| テスラの本業は底打ちした | 納車は予想超え。だが営業利益率は3四半期連続で低下し1.4% | 未決(決算待ち) |
| オプションは値幅を十分に見込んでいる | 織り込みは8.1%と6.4%。前回の実績は13.6%安と14.5%安 | 死にかけている |
評決:通説35、懐疑65
本誌の評決は、通説に35、懐疑に65である。AIの売上が伸びていることは事実で、ここを否定するのは藁人形を叩くことになる。だが「AI投資と合併観測が株価を支える」という通説のうち、利益と合併の2本の柱は、公開されている書類の上ではまだ立っていない。今週の決算で問われるのは売上の伸びではなく、伸びた売上が設備投資と減価償却を上回る日が見えるかどうかである。
決算翌日の値動きについて、本誌は次のシナリオを置く。確率は本誌の判断であり、オプション市場が示す確率ではない。
| 銘柄 | シナリオ | 条件 | 確率(本誌判断) | 翌日の値幅の目安 |
|---|---|---|---|---|
| スペースX | 上振れ | 売上130億ドル超、AI売上が予想を上回り、全社で営業黒字 | 35% | +8〜+15% |
| スペースX | 予想並み | 売上127億〜130億ドル、設備投資は200億ドル前後 | 35% | −5〜+5% |
| スペースX | 失望 | AI売上の未達、または設備投資の上方修正で現金流出が拡大 | 30% | −8〜−15% |
| テスラ | 上振れ | 営業利益率が4%台に戻り、調整後1株利益が0.41ドルを上回る | 25% | +6〜+12% |
| テスラ | 予想並み | 利益率2〜4%、1株利益0.22〜0.41ドルの間 | 40% | −4〜+4% |
| テスラ | 失望 | 利益率が2%を下回る、または設備投資計画の再引き上げ | 35% | −6〜−14% |
円建てで見ると、スペースX株100株は19日終値で1万4,796ドル、1ドル158.47円(日本時間20日11時42分時点)で約234万円になる。オプションが織り込む8.1%の値動きは、100株で約19万円の上下に相当する。テスラ100株は約583万円で、6.4%の値動きは約37万円である。決算は日本時間の早朝に出るため、国内の証券会社で米国株を取引する個人投資家は、決算をまたいで持つかどうかを前夜のうちに決めておく必要がある。
再審条件:評決を覆すデータ
- スペースXのAI部門が営業黒字に転じれば。調整後ではなく営業損益で黒字なら、「AIは利益を生まない」という懐疑側の最大の根拠が崩れる。評決は通説側に大きく傾く。
- スペースXが7〜9月期の設備投資を190億ドル未満に抑えれば。報じられている予想196億ドルを下回れば、現金流出への懸念は和らぐ。
- テスラが営業利益率を4%以上に戻せば。3四半期続いた低下が止まり、本業の底打ちが数字で確認できる。
- 両社が合併について正式に開示すれば。取締役会の特別委員会の設置や、8-K(重要事項の臨時報告)の提出があれば、尋問2の判定は改めなければならない。
日本株への波及も記しておく。テスラ向けに電池を供給するパナソニックホールディングスは、テスラの決算翌日の22日に東京市場で反応しやすい。スペースXの通信事業が伸びれば、国内の宇宙関連株の評価にも影響する。スペースXの前回の決算は初決算のルポに、テスラの納車台数の検証はこちらに、今週の決算全体の織り込み値幅は番付記事にまとめた。
主な参照
- 7〜9月期決算の発表日と説明会の時刻/スペースX
- 4〜6月期の部門別売上・営業損益・設備投資/スペースX決算資料
- 7〜9月期の納車台数と決算発表日/テスラ(米証券取引委員会への提出書類)
- 4〜6月期の営業利益率・1株利益・設備投資/テスラ決算資料
- 年次株主総会の議題(10月19日提出)/テスラ委任状説明書
- 300億ドルの融資枠(9月29日)/テスラ8-K
- 株価・オプション気配・ザックス集計の1株利益予想/ナスダック
- スペースXの市場予想(ブルームバーグ集計、設備投資予想)とバークレイズの見方/テスララティ
- スペースXの市場予想(ベンジンガ集計)/ベンジンガ
- テスラの納車予想(46万1,974台)/エレクトレック
データ基準日:2026年10月19日(米国市場の終値)。株価とオプションの気配は10月19日の米国市場終了時点のもので、日本時間20日の時間外取引は反映していない。ドル円は日本時間20日11時42分時点の取引時間中の値である。ストラドルの価格は売り気配と買い気配の中値から本誌が計算したもので、23日満期のため決算以外の日数分の時間価値も含む。市場予想は集計会社によって異なり、スペースXのAI売上・設備投資・フリーキャッシュフローの予想、テスラの売上高予想、バークレイズの見方は報道ベースで、本誌は元データを確認していない。シナリオの確率と値幅は本誌の判断であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















