「店内でお召し上がりですか」。コンビニのレジでも、ハンバーガー店のカウンターでも、毎日くり返されるこの一言が、2027年4月からは今より重い意味を持つかもしれない。食料品の消費税を2年間1%に下げる法案が、10月20日の衆院本会議で審議入りする。持ち帰りの弁当やパンは1%になる一方、店内で食べれば10%のままだ。同じ品物にかかる税率の差は、いまの2ポイントから9ポイントに広がる。
法案の中身と閣議決定の経緯は10月9日のこの記事でたどった。今回は審議入りの日に合わせ、店頭のレジから家計の月額、国会の日程、そして国債利回りと小売株までを順に登っていく。
レジの一言で変わる値段:600円のセットを分解する
まず、税抜600円の昼食セットを例にとる。いまの税率なら、持ち帰りは8%で648円、店内は10%で660円になる。差は12円だ。法案どおり2027年4月に食料品の税率が1%に下がると、持ち帰りは606円になる。店内は660円のまま変わらない。差は54円に広がる。
週5日の昼食なら、月に約20回。持ち帰りを選ぶだけで月1,080円、年で1万2,960円ほどの差になる計算である。ただしこれは、店が本体価格を変えずに税率の差をそのまま値札に映した場合の話だ。
税抜600円のセットの税込価格(円)
読み方:本体価格が同じなら、持ち帰りと店内の差は12円から54円に広がる。実際には店が本体価格を調整して税込価格をそろえることもあり、2019年には日本マクドナルドが店内と持ち帰りを同じ税込価格にした。出所:法案概要(内閣官房・財務省)の税率をもとに本誌計算。
実際にそうなるとは限らない。2019年10月に軽減税率が始まったとき、日本マクドナルドは店内と持ち帰り(ドライブスルーを含む)の税込価格を同じにした。「お客様にとっての分かりやすさや利便性を重視した」と説明したと、インプレスの「Impress Watch」が報じている。税率が違っても、本体価格を調整して税込価格をそろえる方法である。差が2ポイントなら吸収もしやすかった。9ポイントになると、そろえるには店内の本体価格を下げるか、持ち帰りの本体価格を上げるしかない。どちらを選ぶかで、私たちの払う額は変わる。
法案はこの値札の問題にも手当てをしている。内閣官房と財務省の法案概要には、実施のための特例として「総額表示義務の特例」が並ぶ。ほかに、簡易課税制度や中間申告の特例、定期購入や通信販売の経過措置もある。レジやPOSシステムの改修が間に合わない事業者への配慮だと、共同通信は伝えている。
家計の食費のうち、1%になるのはどこまでか
次に、家計全体で見る。総務省の家計調査によると、2025年の2人以上世帯の食料への支出は1カ月平均9万4,895円だった。このうち外食が1万6,563円、酒類が3,784円である。外食と酒類は減税の対象外で、10%のまま残る。残りの7万4,548円が、税率8%から1%に下がる食料品にあたる。
2人以上世帯の1カ月の食料支出(2025年平均、円)
読み方:食費のおよそ8割が減税の対象になり、外食と酒類の約2万円は対象外のまま残る。出所:総務省「家計調査報告(2025年平均)」。1%になる食料品は、食料の合計から外食と酒類を引いた本誌の計算。
この7万4,548円は税込の金額である。8%の税を除いた本体は約6万9,026円。税率が1%になれば、税込は約6万9,716円になる。差は月約4,830円、年で約5万8,000円、2年間で約11万6,000円だ。値下がり分がすべて店頭価格に反映されることが前提で、この点は前の記事の試算と同じである。
一方で外食の1万6,563円には、いまと同じ約1,506円の消費税が毎月かかり続ける。仮に外食をすべて同じ本体価格の持ち帰りに置き換えられたとしても、税は約150円になり、浮くのは月約1,350円にとどまる。外食が家計に占める額は大きくないが、外食を売る側から見れば話は別だ。業界団体の日本フードサービス協会は9月10日、店内飲食が10%に据え置かれることで客離れが起きると懸念を示し、食事券などの需要喚起策を求める考えを示した。椋本充士会長は「来店へのマイナス影響を危惧している」と述べたと、共同通信が伝えている。政府・与党が外食向けの商品券や「Go To Eat」を検討していることと株価の反応は、前日の記事で扱った。
| 項目 | いまの税込(月) | 2027年4月以降(月) | 差(月) | 差(年) |
|---|---|---|---|---|
| 外食・酒類を除く食料品 | 74,548円 | 約69,716円 | 約−4,830円 | 約−5万8,000円 |
| 外食(学校給食を含む) | 16,563円 | 16,563円 | 0円 | 0円 |
| 酒類 | 3,784円 | 3,784円 | 0円 | 0円 |
| 食料の合計 | 94,895円 | 約90,063円 | 約−4,830円 | 約−5万8,000円 |
上流をたどる:国会の日程と10兆円の財源
レジの値段を決める法律は、まだ成立していない。法案の正式名は「租税及び社会保険料による負担の軽減のための飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の支給に関する法律案」。内閣官房の国会提出法案一覧によると、10月9日に国会へ提出された。概要では、2027年4月1日から2029年3月31日まで、飲食料品の消費税率を国分0.78%、地方分と合わせて1%とする。地方の減収は地方特例交付金で補う。
同じ法案には、所得に連動する新しい給付「就業者負担軽減支援金」も入っている。勤労所得が一定額を超え、合計所得が一定額以下の人などに年1回支給する仕組みで、具体的な金額や所得の線引きは政令に委ねられている。時事通信によると、野党はこの対象と金額が見えないと批判しており、審議の焦点の一つになる。
消費税減税法案:審議入りから実施まで
読み方:11月上旬と12月12日は政府・与党の目標で、確定した日程ではない。参院では与党が過半数を持たない。出所:内閣官房・財務省の法案概要、共同通信、時事通信。
日程はこうだ。共同通信によると、法案は21日以降に衆院財務金融委員会での審議に移る。政府・与党は11月上旬までの衆院通過と、12月12日の会期末までの成立をめざす。時事通信は、与党が参院で過半数を持たず、野党との接点探しが課題になると伝えている。成立が会期末にずれ込めば、店がレジを改修する時間はそれだけ短くなる。
財源はさらに上流にある。共同通信は、減税の財源が2年間で10兆円規模にのぼると報じている。法案概要の表現は「特例公債に頼ることなく、歳出・歳入全般の見直しにより確保する」までで、何を削り、何を増やすかは書かれていない。共同通信は、財源の具体策が示されていない点を野党が批判していると伝えている。
さらに上流:国債市場と円はどう受け止めているか
財源が決まらない減税は、ふつうなら国債の売り材料になる。だが、足元の数字は逆を向いている。財務省の「国債金利情報」で10年債の利回りを見ると、10月7日の3.111%が10月の最高で、法案が提出された9日は3.027%、19日は2.935%だった。提出日から19日までに9.2ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)下がった。30年債も4.085%から4.028%へ5.7bp低下している。
法案提出日(10/9)から10/19までの国債利回りの変化(bp)
読み方:法案が提出されてからも、どの年限の利回りも上がっていない。財源が未定の減税でも、債券市場は今のところ売りで反応していない。出所:財務省「国債金利情報」(10月9日と19日の値の差、1bp=0.01%)。
債券市場は、少なくともいまのところ減税を「財政悪化の号砲」とは扱っていない。2年で10兆円という規模がすでに8月から報じられ、織り込みが進んでいたと読むのが自然だろう。ただ、10年債の利回りが3%前後で推移していること自体が、住宅ローンの固定金利や預金金利を通じて私たちの家計に届く。長期金利の水準感は10年債入札の記事に詳しい。
円も大きくは動いていない。Google Financeによると、ドル円は20日11時46分(日本時間)時点で1ドル=158円47銭前後だった。円安で輸入食品の値段が上がれば、減税で下げた分を物価上昇が食ってしまう。減税の効き目は、2027年4月時点の為替水準にも左右される。ドル円の当面の見方はこちらにまとめた。
生活防衛と投資の接点:店の側に何が起きるか
家計にとっての選択肢は単純で、持ち帰りと自炊の比重を上げれば減税の恩恵が大きくなる。ここで店の側に目を移すと、1%と10%の差は、持ち帰りの弁当や総菜を売る店には追い風、店内飲食に頼る店には向かい風になりうる。ただし、価格をどう設定するか、レジ改修にいくらかかるかで、実際の損得は会社ごとに違う。以下は監視の対象として挙げるもので、売買を勧めるものではない。
- セブン&アイ・ホールディングス(3382):20日の前場終値は2,090.5円で、前日比24円(1.16%)高。コンビニは持ち帰りとイートインの両方を一つのレジで扱う。9ポイントの差をどう値札とレジに落とし込むかが、2027年に向けた実務の焦点になる。
- 日本マクドナルドホールディングス(2702):前場終値は8,150円で、前日比100円(1.24%)高。2019年に店内と持ち帰りの税込価格を統一した会社が、差が9ポイントになっても同じ方針を続けるのか。価格方針の発表は、外食全体の値付けの手がかりになる。
市場全体は減税の審議入りを材料視していない。日経平均の前場終値は6万4,511円94銭で、前日比404円76銭安。TOPIXは4,031.59で0.88%安だった。半導体株を中心とした売りが指数を押し下げており、小売株の小幅高は減税というより個別の動きと見るべきだろう。
次に店頭へ届く変化の日付
私たちのレジに変化が届くまでには、まだいくつもの関門がある。目安になる日付を並べておく。
- 10月21日以降:衆院財務金融委員会での実質審議。支援金の対象と金額について、政府答弁がどこまで具体的になるか。
- 11月上旬:政府・与党がめざす衆院通過の時期。参院で野党の賛成が得られるかが次の関門になる。
- 12月12日:臨時国会の会期末。成立がここまでずれ込むと、事業者の準備期間は4カ月を切る。
- 年末:2027年度予算の編成。共同通信によると、中小零細農家や外食への支援策の最終決定はこの過程になる。
- 2027年4月1日:法案が成立すれば、食料品の税率が8%から1%に下がる。外食と酒類は10%のまま。
- 2029年4月1日:税率は8%に戻る。景気に応じて延長する条項は法案に入っていないと、共同通信は伝えている。
レジの「店内でお召し上がりですか」に答えるたびに、2年間で数千円から数万円の差が積み上がる。その値段を最終的に決めるのは、国会の日程と、店がどんな値札を選ぶかである。
主な参照
- 法案の概要(令和8年10月)/内閣官房・財務省
- 国会提出法案(第222回臨時国会、10月9日提出)/内閣官房
- 飲食料品の消費税率の臨時的な引下げ/財務省
- 家計調査報告(2025年平均)の費目別支出/総務省統計局
- 国債金利情報(10月の日次)/財務省
- 20日の審議入り/NHK
- 国会日程と財源・支援策(共同通信、10月18日)/山陰中央新報
- 2年で10兆円の財源、景気条項なし(共同通信、10月19日)/Yahoo!ニュース
- 野党の追及と参院の勢力(10月18日)/時事通信
- 日本フードサービス協会の要望(共同通信、9月10日)/秋田魁新報
- マクドナルドの店内・持ち帰り同一価格(2019年9月10日)/Impress Watch
- 株価・指数・ドル円の気配値(10月20日)/Google Finance
データ基準日:2026年10月20日(日本時間11時46分)。株価と日経平均・TOPIXは同日の前場終値(11時30分)で、大引けではない。ドル円は11時46分時点の気配値。国債利回りは財務省「国債金利情報」の各日の値で、20日の値は含まない。家計の試算は2人以上世帯の2025年平均をもとにした本誌の計算で、値下がり分が全額価格に反映されることを前提とする。600円のセットは説明のための仮の例であり、特定の店の価格ではない。法案は審議中で、内容や日程は変わる可能性がある。2年で10兆円という財源規模は報道によるもので、政府の公式な試算額ではない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













