塩野義製薬(4507)は2026年10月5日、米バイオ医薬品企業IntraBio(イントラバイオ)を20億ドル(3,155億6,000万円)で買収すると発表した。取得額はIntraBioの2025年12月期の売上高6,786万7,000ドルの29.5倍にあたる。同日の塩野義の終値は2,661円で、前営業日比4.49%安だった。
開示は取引時間中の15時(東京証券取引所の適時開示情報閲覧サービス)。日経平均株価は同日2.40%高の6万9,946円86銭で引けている。塩野義にとって、2025年12月以降で3件目の3,000億円超の取得となる。
取引の主要数値
| 項目 | 数値 | 備考 |
|---|---|---|
| 取得価額 | 20億ドル(3,155億6,000万円) | 1ドル=157.78円で会社が換算 |
| 取得形態 | 発行済株式のすべて | 米子会社Shionogi Inc.の完全子会社とする |
| 取引実行 | 2026年11〜12月(予定) | 競争法の待機期間満了と当局承認が条件 |
| IntraBioの売上高(2025年12月期) | 6,786万7,000ドル | 2024年12月期は353万5,000ドル |
| 同 営業損益(2025年12月期) | 3,529万2,000ドルの赤字 | 2023年12月期から3期連続の赤字 |
| 同 純資産(2025年12月末) | 1億4,454万9,000ドル | 取得額は純資産の13.8倍 |
| 取得額÷売上高 | 29.5倍 | 本誌計算 |
| 取得額÷塩野義の時価総額 | 13.3% | 時価総額2兆3,673億円(10月5日終値ベース) |
| 2027年3月期の業績への影響 | 精査中 | 会社発表 |
IntraBioは2015年設立、本社は米テキサス州オースティン。主力はAQNEURSA(一般名レバセチルロイシン)で、取引により塩野義はこの薬と関連化合物のグローバルでの全権利を取得する。株式の売り手は個人や信託、法人などの既存株主で、会社は相手先を開示していない。買収資金の調達方法は、発表資料に記載がない。
AQNEURSAの承認状況
AQNEURSAは、ニーマン・ピック病C型(NPC)の神経症状の治療薬として、2024年9月に米食品医薬品局(FDA)の承認を受けた。欧州医薬品庁(EMA)では2026年1月に承認されている。NPCの発症頻度は約10万人に1人とされる。
2026年9月18日には、毛細血管拡張性運動失調症(A-T)の運動失調の治療薬としてFDAの承認を得た。A-Tで承認された治療薬はこれが初めてだ。A-Tの発症頻度は4万〜10万人に1人とされる。欧州ではA-Tへの適応追加を申請中である。IntraBioの売上高は2024年12月期の353万5,000ドルから2025年12月期に19倍になった。この数字はA-Tの承認前のもので、A-T向けの売上はまだ入っていない。
10カ月足らずで3件、合計1兆円超
塩野義は2025年12月22日、田辺ファーマからALS治療薬エダラボン(米国製品名RADICAVA)の事業を25億ドルで取得すると発表した。承継は2026年4月1日に完了した。2026年1月20日には、英ViiV Healthcareへの追加出資で議決権比率を10.0%から21.7%へ引き上げると発表し、出資額は21億2,500万ドルだった。
塩野義の3,000億円超の取得3件(億円)
読み方:3件の取得額はいずれも3,100億〜3,950億円の範囲にある。金額は近いが、取得額を対象の売上で割った倍率は、エダラボン事業の4倍未満に対しIntraBioは29.5倍だった。出所:塩野義製薬の各発表資料(円換算額は会社発表)、倍率は本誌計算。
| 案件 | 発表日 | 取得額 | 対象の売上規模 | 取得額÷売上 |
|---|---|---|---|---|
| エダラボン事業(田辺ファーマから) | 2025年12月22日 | 25億ドル(3,941億7,500万円) | 年間1,000億円以上 | 4倍未満 |
| ViiV Healthcareへの追加出資(21.7%へ) | 2026年1月20日 | 21億2,500万ドル(3,347億9,300万円) | 持分法適用の関連会社 | 算出対象外 |
| IntraBio(今回) | 2026年10月5日 | 20億ドル(3,155億6,000万円) | 6,786万7,000ドル(約107億円) | 29.5倍 |
| 合計 | — | 1兆445億円 | — | — |
エダラボンは、すでに年1,000億円以上を売る製品を4倍未満の価格で買った案件だった。IntraBioは、売上が立ち上がったばかりの製品を売上の29.5倍で買う案件である。同じ希少疾患の取得でも、価格の根拠は現在の売上ではなく、A-Tの承認後に見込む売上の伸びにある。会社は今回の発表で、売上の見通しを示していない。
財務面では、2026年5月12日の決算説明資料で、エダラボン事業の買収とViiVへの追加出資のために合計6,600億円のブリッジローンを借り入れたと説明している。親会社所有者帰属持分比率は2025年3月末の88.7%から2026年3月末に65.4%へ下がった。流動負債は1,294億円から8,274億円に増えている。今回の20億ドルは、この借入の上に加わる。
業績予想との比較
| 項目(2027年3月期) | 会社予想 | 前期実績 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 7,000億円 | 4,997億円 | +40.1% |
| 営業利益 | 2,200億円 | 1,667億円 | +32.0% |
| 当期利益 | 2,100億円 | 2,052億円 | +2.4% |
IntraBioの2025年12月期の売上高を円に直すと約107億円で、会社の売上収益予想7,000億円の1.5%にあたる。一方、取得額の3,155億円は当期利益予想2,100億円の1.5年分だった。IntraBioは2025年12月期に3,529万ドルの営業赤字を計上している。取引実行は11〜12月の予定のため、今期に連結されるのは最長でも5カ月分になる。
会社の発言
IntraBio社の買収計画は、世界有数の希少疾患事業を築くという塩野義の確かな決意を具体的に示すものだ。
手代木功・会長兼社長CEO(英文の発表資料から本誌訳)
日本語の発表資料は、本取引を「将来の事業拡大を実現するための戦略的な事業投資」と位置づけた。米国でRADICAVAの事業基盤を活用してAQNEURSAを販売するとしている。脆弱X症候群、Jordan症候群、ポンペ病などの自社開発品の研究開発を加速するとも記している。
市場の反応
| 項目(10月5日) | 数値 | 時刻・比較 |
|---|---|---|
| 前営業日終値 | 2,786.0円 | 10月2日 |
| 始値 | 2,767.5円 | 9時00分 |
| 高値 | 2,784.0円 | 10時27分 |
| 安値 | 2,649.0円 | 15時20分(開示の20分後) |
| 終値 | 2,661.0円(−4.49%) | 15時30分 |
| 出来高 | 638万3,300株 | 直近20営業日平均290万3,780株の2.2倍 |
| PTS(ジャパンネクスト) | 2,680円 | 22時23分時点、出来高9,700株 |
終値の2,661円は、5月26日以降の90営業日で最も安い終値だった。下落率4.49%は、6月1日の4.50%安に次ぐ大きさとなる。日足データだけでは、15時の開示の前と後で下げを切り分けられない。安値は開示後の15時20分に付けている。夜間のPTSでは終値を19円上回る2,680円で取引されたが、出来高は9,700株と少ない。PTSの読み方は夜間PTSの解説記事にまとめている。
| 銘柄 | 10月5日終値 | 前営業日比 |
|---|---|---|
| 塩野義製薬(4507) | 2,661.0円 | −4.49% |
| 中外製薬(4519) | 6,089円 | +0.94% |
| 第一三共(4568) | 2,716.0円 | +0.26% |
| 武田薬品工業(4502) | 5,639円 | −0.07% |
| アステラス製薬(4503) | 2,235.0円 | −0.45% |
| エーザイ(4523) | 4,659円 | −0.87% |
| 日経平均株価 | 69,946.86円 | +2.40% |
大手医薬品株5銘柄の騰落率は−0.87%〜+0.94%の範囲に収まった。塩野義の下げ幅はその外にある。同じ日の相場全体の動きは10月5日の番付記事で扱った。同日に日本企業による海外事業の買収はほかにもあり、日本ペイントの案件はこちらの記事で取得倍率を計算している。
今後の日程
- 2026年10月29日:塩野義の4〜9月期決算発表の予定日(株探)。IntraBio買収の業績影響が示されるかどうか。
- 2026年11〜12月:IntraBio買収の取引実行の予定。各国の競争法の待機期間満了と当局承認が条件。
- 時期未定:欧州でのAQNEURSAのA-T適応追加の審査結果。
主な参照
- IntraBio買収の適時開示(取得価額、日程、IntraBioの財務数値、AQNEURSAの承認状況)/塩野義製薬(TDnet)
- 英文の発表資料(CEOの発言、アドバイザー)/塩野義製薬
- 開示時刻(15時00分)/東京証券取引所 適時開示情報閲覧サービス
- エダラボン事業の買収(25億ドル、年間売上1,000億円以上)/塩野義製薬
- エダラボン事業の承継完了(2026年4月1日)/塩野義製薬
- ViiV Healthcareへの追加出資(21億2,500万ドル、21.7%)/塩野義製薬
- 2025年度決算説明資料(業績予想、ブリッジローン6,600億円、持分比率)/塩野義製薬
- 株価四本値、出来高、PTS、時価総額、決算発表予定日/株探、日足の時系列/株探
- 買収の第一報(発表内容の確認)/日本経済新聞
データ基準日:2026年10月5日の東京市場の終値。PTSの価格は同日22時23分時点の取引時間中の数値で、終値ではない。IntraBioの財務数値は米国会計基準で、会社の発表資料による。取得額÷売上などの倍率と円換算額は本誌計算で、為替レートは各発表時に会社が示したものを用いた。エダラボン事業の倍率は「年間売上1,000億円以上」という会社の表現を上限側に用いたもので、実際の倍率はこれより低い。株価の下落のうち、どこまでが買収発表によるものかは日足データからは特定できない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。アイキャッチ画像:“Pills” by Jamiesrabbits(CC BY 2.0)。













