ベトナムにあるローツェの工場で、倉庫だった区画がクリーンルームに作り替えられている。在庫の置き場は外のレンタル工場へ移し、空いた床に半導体ウエハーを運ぶロボットの組立ラインを広げる。8月には現地の従業員の賃金も引き上げた。10月8日の決算説明資料に並んだこの地味な現場の話が、翌9日の株価の理由を一番よく説明している。注文が、作れる量を追い越し始めたのである。
ローツェ(6323)は9日、制限値幅いっぱいの700円高(15.79%高)の5,134円でストップ高のまま取引を終えた。売買高は963万株と前日の4.4倍に膨らんだ。東京市場は12日がスポーツの日で休場のため、次に値段がつくのは13日の火曜日である。
工場の床を広げる理由——受注785億円
ローツェが作るのは、半導体工場の中でウエハーを装置から装置へ運ぶ搬送ロボットと、その周辺の装置だ。露光や成膜の主役ではない。だが、どの製造装置の前にもウエハーを出し入れする「玄関」が要る。この玄関にあたるEFEM(装置前面の搬送モジュール)や、ウエハーを仕分けるソーター、保管するストッカーが主力である。
その半導体関連装置の6〜8月期(同社の第2四半期)の受注高は785億900万円だった。3〜5月期の420億3,000万円から87%増え、1年前の同じ時期の3.2倍、3四半期続けての過去最高である。会社は理由を2つ挙げている。北米のメモリーメーカーからソーターとストッカーの注文が急に増えたこと、そして中国の装置メーカー向けにEFEMの注文が増えたことだ。
半導体関連装置の四半期受注高(億円)
読み方:受注高は1年で3.2倍、直近の四半期だけで87%増えた。売上高(最下段)との差が受注残高として積み上がり、8月末で1,038億6,300万円になった。出所:ローツェ「2027年2月期 第2四半期 決算説明資料」(2026年10月8日)。四半期は同社の会計期間(2月決算)。
注目すべきは売上高との差である。同じ6〜8月期の半導体関連装置の売上高は368億9,800万円で、受注はその2.1倍入った。出荷が追いつかない分は受注残高として積み上がり、8月末で1,038億6,300万円と1年前の2.3倍になった。ベトナムの倉庫をクリーンルームに変え、中国・上海臨港の工場を2交代勤務に切り替え、近くに建屋を借り足すのは、この残高を製品に変えるためである。ベトナムの新工場の稼働も、2028年第1四半期の予定から2027年第4四半期へ前倒しした(いずれも会社資料の表記)。
誰が注文しているのか——川上から川下へ
搬送ロボットの注文は、たどると生成AIのデータセンターに行き着く。会社は今後の見通しとして、HBM(AI向けの高速メモリー)の需要を背景に先端メモリーと先端ロジックへの投資が増えると書いている。メモリーの増産投資が先に動いたことは、同業の数字とも合う。サムスン電子の7〜9月期の業績はメモリー価格の上昇が利益を押し上げたことを示していた。
注文がローツェの工場に届くまで(川上→川下)
読み方:ローツェの注文は、AI向けメモリーへの投資が装置メーカーを経由して届く。2と3の具体的な注文元は会社が説明資料で挙げたもの。出所:ローツェ「2027年2月期 第2四半期 決算説明資料」(2026年10月8日)、株価は株探。
上期(3〜8月)の売上高を顧客の本社所在地で分けると、米国が239億100万円で全体の30%、中国が209億200万円で26%、台湾が194億600万円で24%だった。上位3地域で8割を占め、日本は6%にとどまる。日本の上場企業でありながら、稼ぎのほとんどは海外の半導体工場から来ている。だからこそ為替の効き方も大きい。会社は通期の想定為替レートを1ドル158円に置いている。9日のニューヨーク終盤(米東部時間16時59分)のドル円は158円24銭前後で、ほぼ想定どおりの水準にある。
上方修正の中身——下期の8割強は受注残で埋まっている
会社は2027年2月期の業績予想を引き上げた。売上高は1,590億円から1,800億円へ13.2%、営業利益は381億円から530億円へ39.3%の上方修正だ。1株利益の予想は159円62銭から217円84銭になり、期末配当は20円から28円へ8円増やす。
| 項目(2027年2月期) | 期初予想 | 修正後 | 上期実績 | 下期に残る分 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,590億2,100万円 | 1,800億700万円 | 797億3,300万円 | 1,002億7,300万円 |
| うち半導体関連装置 | 1,324億8,000万円 | 1,529億7,000万円 | 671億3,800万円 | 858億3,200万円 |
| 営業利益 | 381億1,200万円 | 530億7,800万円 | 230億9,600万円 | 299億8,100万円 |
| 1株利益 | 159円62銭 | 217円84銭 | 91円33銭 | — |
| 期末配当 | 20円 | 28円 | — | — |
この表から読み取れるのは、修正後の数字が「これから取ってくる注文」に頼っていない点だ。下期に残る半導体関連装置の売上高は858億円で、8月末の受注残高1,038億円の83%にあたる。残高のすべてが下期中に出荷されるわけではないが、少なくとも数字の大半はすでに注文書がある。期初予想は下期の売上高を上期より小さく置いていた。それが上期比26%増の1,003億円に変わったことが、今回の修正の本質である。
ただし、利益の伸びには為替の追い風も入っている。上期の経常利益は68.4%増と営業利益の42.4%増を大きく上回り、会社は円安による為替損益の改善を理由に挙げた。同じ日に決算を出した安川電機も受注は過去最高だったが、増収分の多くは円安によるものだった。ローツェの場合、営業利益の伸びを支えたのは半導体関連装置の出荷増で、3〜5月期から6〜8月期にかけて営業利益は102億円から128億円へ26%増えた。
100株の持ち主にとっての数字
ローツェは100株単位で売買される。9日の終値で100株を買うと51万3,400円で、新NISAの成長投資枠(年240万円)の2割強にあたる。9日の1日で100株あたりの値上がりは7万円だった。一方、増配後の配当は100株で年2,800円、利回りは0.55%にすぎない。この銘柄を持つ理由は配当ではなく、受注の伸びにある。
| 100株で換算すると | 金額・水準 | 計算の根拠 |
|---|---|---|
| 買い付け代金(9日終値) | 51万3,400円 | 5,134円×100株 |
| 9日の値上がり | +7万円 | 700円×100株 |
| 年間配当(修正後) | 2,800円 | 28円×100株、利回り0.55% |
| 13日の値幅(上下) | ±10万円 | 基準値段5,134円の制限値幅1,000円×100株 |
| 予想PER(修正後) | 23.6倍 | 5,134円÷217円84銭 |
| 参考:8日終値で見たPER | 27.8倍(旧予想)→20.4倍(新予想) | 4,434円÷159円62銭、4,434円÷217円84銭 |
最後の行が、ストップ高の「割高感」を測る物差しになる。8日の終値4,434円は、旧予想で見ればPER27.8倍だった。新予想に置き換えると20.4倍まで下がる。9日のストップ高は、その差を半分ほど埋めた動きと読める。予想PERは修正後でも23.6倍で、旧予想ベースの8日時点より低い。上昇の大部分は利益予想の引き上げで説明できる、というのが現時点での計算である。
連休明けの13日、どこを見るか
ストップ高で引けた銘柄は、翌営業日に買い注文が持ち越されやすい。ただし今回は3連休をはさむ。9日夜の私設取引システム(PTS)では5,198円の値がついた(株探、23時57分時点)。PTSは参加者が少なく、翌朝の始値をそのまま示すものではない。それでも5,198円という水準は、7月1日につけた52週高値5,199円のわずか1円下である。13日はまず、この5,199円を抜けるかどうかが最初の関門になる。
13日に意識される株価の水準(円)
読み方:9日のPTSでは5,198円と、52週高値5,199円の1円下まで買われた。13日の制限値幅は基準値段が5,000円以上になったため上下1,000円に広がる。出所:株探(株価・PTS・52週高値)、日本取引所グループ(制限値幅)。
筆者の見立ては3つに分かれる。確率は本誌の主観である。
| シナリオ | 確率(主観) | 13日以降の値動きの目安 | 引き金 |
|---|---|---|---|
| 高値更新が続く | 40% | 5,199円を終値で上抜け | 連休中の米半導体株が落ち着き、受注残の厚さが評価される |
| 高値圏でもみ合う | 40% | 4,800〜5,200円の往来 | ストップ高で買えなかった注文と、利益確定の売りがぶつかる |
| 窓を埋めにいく | 20% | 4,634円(9日始値)を割り込む | 米半導体株の下落が続く、信用買いの手じまいが重なる |
上振れを抑えかねない材料も2つある。1つは需給だ。株探の表示では信用倍率が30.32倍で、信用で買った人が売った人の30倍いる。値上がり局面で利益を確定したい売りが出やすい構図である。もう1つは米国の半導体株だ。フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は7日の終値1万3,066から、9日の終値は1万2,572まで3.8%下げた。米国株の主要指数が上げた9日も、SOXは0.4%安だった。8日のハイテク株売りの流れが連休中に強まれば、13日の寄り付きの重しになる。
この見立てが崩れるのは、4,634円を終値で割り込んだときだ。9日に買いが殺到する前の始値であり、ここを下回れば「受注の数字は織り込んだ」と市場が判断したことになる。
工場の外にあるリスク
会社自身が資料で挙げたリスクは調達である。メモリー価格の高止まりや部品の長納期化で、調達コストの上昇や部材の確保が遅れるおそれがあると書き、各社が部材を先に押さえる競争が「過熱化し始めている」とまで記した。上期末の棚卸資産は前期末から59億円増えた。受注増に備えた原材料と仕掛品の積み増しだが、需要が鈍れば重荷にもなる。
子会社のNanoverseも見ておきたい。顧客に納めた評価装置の評価が続いており、会社は今期中の売上計上を目指して交渉中としている。上期には人件費やのれん償却などで合計31億円あまりの費用が営業利益に乗っている。逆に、片づいた懸案もある。川崎重工業が米国で起こしていた特許訴訟は8月3日に和解した。和解の中身は非公開だが、会社は今後の事業への影響はないとしている。
次に現場から届く数字
- 10月13日(火):連休明けの東京市場。ローツェの制限値幅は上下1,000円(4,134〜6,134円)に広がる。
- 10月14日(水):半期報告書の提出予定日。受注や地域別売上高の詳しい内訳を確認できる。
- 次の四半期決算:9〜11月期の受注高が785億円を保てるか。受注が売上高を上回り続ける限り、工場の床を広げる話は続く。
ベトナムの倉庫がクリーンルームに変わるのは、注文が来たからだ。逆に言えば、次にこの工場の拡張が止まる話が出たときが、受注の勢いが鈍ったときの合図になる。数字の発表を待つより先に、工場の話が変化を教えてくれるかもしれない。ほかの日本の半導体関連株の決算は、ディスコの出荷額の記事でも点検している。
主な参照
- 2027年2月期 第2四半期(中間期)決算短信(受注実績、地域別売上高、財政状態)/ローツェ(TDnet)
- 通期連結業績予想の修正及び配当予想の修正に関するお知らせ/ローツェ(TDnet)
- 2027年2月期 第2四半期 決算説明資料(受注高・受注残高の推移、生産能力の拡大施策、想定為替レート、特許訴訟の和解)/ローツェ(TDnet)
- 株価の時系列、PTS、信用倍率、52週高値/株探
- 制限値幅/日本取引所グループ、休業日/日本取引所グループ
- フィラデルフィア半導体株指数とドル円/Yahoo Finance
データ基準日:2026年10月9日の東京市場の終値。PTSの値段は同日23時57分時点の株探の表示で、取引所の終値ではない。SOXは10月7日・9日の米国市場の終値、ドル円は10月9日の米東部時間16時59分時点の気配値で、取引時間中の数値であり終値ではない。信用倍率は株探の表示値で、集計基準日により変わる。受注高・受注残高は半導体関連装置の値で、四半期の値は会社資料の数値を用いた。「下期に残る分」「PER」「100株換算」は本誌の計算である。シナリオの確率は本誌の主観であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















