軽自動車の電気自動車が1台214万5,000円。中国BYDが7月28日に日本で発売した「ラッコ」の最も安いグレードの値段である。日本の軽規格に合わせ、両側に電動スライドドアを付けた日本専用車だ。この1台の背後に、どれほどの台数が控えているのか。中国汽車工業協会が10月12日に公表した9月の数字は、輸出105万3,000台、前年同月比61.4%増だった。
30日で割ると、およそ2.5秒に1台の車が中国の外へ出ていった計算になる。一方、中国国内での販売は190万4,000台と26%減った。国内で売れなくなった分が、そのまま海の向こうへ流れている。東京市場は12日がスポーツの日で休場で、日本の自動車株がこの数字を織り込むのは13日の取引からになる。
店頭の1台を分解する——補助金の差は43万円
ラッコの価格は「200」が214万5,000円、「300Plus」が239万8,000円、「300Premium」が249万7,000円である(レスポンス)。国のクリーンエネルギー自動車(CEV)補助金15万円を使えば、最安グレードは実質199万5,000円になる。
ただ、店頭で私たちが払う額を左右するのは補助金の差でもある。日本経済新聞は、ラッコの補助金が15万円にとどまるのに対し、日産の軽EV「サクラ」は最大58万円と報じた。差は43万円。補助金の面では日本車が有利な形で、BYDは装備の充実でそれを埋めにきている。
つまり日本の店頭は、まだ制度という塀に守られている。中国車の波が本当に当たっているのは、塀のない場所、日本車がこれまで稼いできた第三国の市場の方である。
上流をたどる——国内で売れない車が外へ出る
中国汽車工業協会の9月分を、IT之家と新華社の配信で突き合わせると、構図ははっきりしている。販売の総数は295万6,000台で8.4%減。内訳は国内が190万4,000台(26%減)、輸出が105万3,000台(61.4%増)である。売れた車のおよそ3台に1台が輸出だった計算だ。
国内で売れない車が海を渡るまで
読み方:1〜3は中国汽車工業協会などの数字、4は報道、5は本誌の見立てである。米国は高関税で中国のEVをほぼ締め出しており、この流れの外にある。
国内が冷えた理由の一つは税金である。財新によると、新エネルギー車(EVとプラグインハイブリッド車)の購入税は2026年1月から免除が半分になり、買い手は5%を払うようになった。買い替え補助も仕組みが改められ、安い車ほど不利になったという。9月のガソリン車の国内販売は65万2,000台で45.3%減と、ほぼ半分になった。
行き場を失った車は海を渡る。9月の輸出のうち新エネルギー車は57万1,000台で前年同月の2.6倍、全体の54%を占めた。ガソリン車も48万2,000台と12%増えている。CnEVPostによれば、新エネルギー車の輸出は1〜9月で400万6,000台に達した。
日本の輸出と並べる——9カ月で2倍
この規模を日本の物差しで測るとどうなるか。日本自動車工業会の集計では、2025年の日本の四輪車輸出は年間417万2,815台で、2年続けて減った(日本自動車会議所)。中国は2026年1〜9月だけで820万5,000台を輸出しており、日本の1年分のほぼ2倍にあたる。
中国と日本の自動車輸出(万台)
読み方:中国は9カ月で日本の1年分のほぼ2倍を輸出した。単月でも中国の9月は日本の月平均の約3倍である。出所:中国汽車工業協会(IT之家・新華社経由)、日本自動車工業会(日本自動車会議所経由)。
月単位で比べると差はさらに目に見える。日本の2025年の月平均はおよそ34万8,000台で、中国の9月はその約3倍だ。日本側の直近の数字では、乗用車メーカー各社の8月の輸出が27万5,132台と1.8%減った(マークラインズ)。7月下旬の熊本地震で部品の供給が滞り、ホンダなどが生産を止めた影響も重なっている。中国が積み増す一方で、日本は横ばいから小幅減という対照になっている。
行き先も重なる。AP通信は、中国勢が欧州、中南米、東南アジア、アフリカを伸ばす先に挙げていると伝えた。東南アジアは日本車が長く強みを持ってきた市場である。米国は高い関税で中国のEVをほぼ締め出しており、日本の輸出の3割強を占める米国向け(2025年は134万5,817台)は、いまのところ直接の競争からは外れている。
株価の現場——休場前の1カ月
では東京の株価はこの流れをどこまで映しているか。9月9日から休場前の10月9日までの1カ月で、日経平均は5.97%上げた。自動車株はそれに届かず、6社のうち5社が下げている。
日本の自動車株と日経平均の騰落率(9月9日→10月9日の終値)
読み方:日経平均が5.97%上げた1カ月で、自動車6社のうち5社が下げた。日産は307.3円から284.0円へ。値動きには米金利や為替など中国以外の要因も含まれる。出所:Yahoo Financeの日足終値(東京市場)。
日産自動車は307.3円から284.0円へ7.58%安と最も弱い。同社は中国での販売の落ち込みが続いてきた銘柄で、本誌は8月に中国販売58.7%減でも株価が上げた日を取り上げた。トヨタ自動車は2.04%安の2,910.5円。円安の追い風とEV競争の綱引きは、トヨタ株の中期評価で整理した通りである。ホンダだけが6.57%上げた。ただし、この1カ月の値動きの理由を中国の輸出だけに求めることはできない。米金利や為替、各社の個別材料も効いている。
家計と投資の接点——どこで影響を受けるか
私たちの生活に引き寄せると、影響の通り道は三つある。三つのどれを重く見るかは、持っている資産と、これから車を買うかどうかで変わる。
| 立場 | 関係する数字 | 見ておく点 |
|---|---|---|
| 車を買う人 | ラッコ214万5,000円、補助金の差43万円 | 中国車は値段で迫るが、補助金の差で実質価格の差は縮む。比べるのは補助金を引いた後の金額 |
| 自動車株を持つ人 | 中国の輸出は月105万3,000台、日本は月平均34万8,000台 | 東南アジアなど第三国での販売台数と利益率。決算では地域別の数字を見る |
| 日本株の投資信託を持つ人 | 日経平均は1カ月で5.97%高、自動車株は6社中5社が下落 | 指数が上げても自動車株は出遅れている。中身を見ずに「日本株は好調」とは言えない |
反対の見方にも触れておく。中国の輸出の急増は、相手国の関税で止まりうる。APによると、EUのシェフチョビッチ欧州委員(通商担当)は、中国とEUの暫定的な合意で中国のハイブリッド車の輸出がおよそ半分に減りうると述べた。BYDはタイやインドネシア、ブラジル、ハンガリーで現地生産を広げており、輸出の数字がそのまま日本車の取り分を削るとは限らない。各国で関税が上がれば、中国勢は現地に工場を建てる方向へ動くからだ。
次に店頭と株価へ届く変化の日付
- 10月13日(火):東京市場が連休明けで再開。自動車株が中国の9月の数字にどう反応するかを見る最初の日になる。
- 11月上旬:日本の自動車大手の4〜9月期決算。トヨタは前年、11月5日に発表した。今年の日付は同社の公表を待ちたい。地域別の販売台数と、東南アジアの利益が注目点になる。
- 11月中旬:中国汽車工業協会の10月分。2026年の輸出が年間1,000万台を超えるかどうかが、次の節目である。
- 時期未定:中国とEUの暫定合意の中身。ハイブリッド車の輸出が本当に半分になるのか、条件次第で中国勢の矛先が東南アジアへさらに向かう可能性もある。
中国の輸出の勢いを止める材料は、いまのところ関税しか見当たらない。国内の販売が戻らない限り、中国の工場は輸出に頼り続ける。日本の店頭に並ぶラッコはその一端にすぎず、日本の自動車株にとって大きいのは第三国の市場の方である。中国経済の「外需頼み」の構図は、4〜6月期のGDPの分析でも見た流れの延長にある。
主な参照
- 中国の9月の自動車生産・販売・輸出(中国汽車工業協会、10月12日公表)/IT之家、新華社(新浪経由)
- 新エネルギー車の輸出の内訳と1〜9月累計/CnEVPost
- 中国勢の輸出先、EUとの暫定合意、BYDの現地生産/AP通信(ABCニュース経由)
- 中国の新エネルギー車購入税の変更/財新
- 日本の2025年の四輪車輸出(日本自動車工業会)/日本自動車会議所
- 日本の乗用車メーカーの8月の生産・輸出/マークラインズ
- BYDラッコの価格/レスポンス、補助金の比較/日本経済新聞
- トヨタの前年の決算発表日/トヨタ自動車
- 株価と日経平均の日足終値/Yahoo Finance
データ基準日:中国の自動車統計は2026年9月分(10月12日公表)。株価と日経平均は2026年9月9日と10月9日の東京市場の終値。東京市場は10月12日が祝日で休場のため、中国の9月の統計を受けた株価の反応は本稿に含まれていない。中国汽車工業協会の公式サイトには本稿執筆時点で9月分の詳細が掲載されておらず、数字は同協会の発表を伝えた新華社などの報道にもとづく。日本の8月の輸出は乗用車メーカー各社の発表を集計した数字で、日本自動車工業会の統計とは範囲が異なる。中国の輸出が日本車の販売を押し下げているという因果関係は、地域別の販売データで確認できたものではなく、輸出先が重なることにもとづく本誌の見立てである。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















